目次
本記事では、不動産投資をするサラリーマン向けに確定申告をするための事前準備や、確定申告をするときの流れを解説する。
確定申告をするための事前準備とは
確定申告をするための主な事前準備は、以下の2つだ。
- 不動産経営として認められる経費を明確に把握する
- 経費の領収書をきちんと保存する
不動産経営として認められる経費を明確に把握する
確定申告するためには、不動産経営として認められる経費を明確に把握しなければならない。確定申告では、売上から経費を差し引き利益や損失を計算する。売上については、手元に入ってくる金額のため、通帳などと照らし合わせれば比較的簡単に確認できるだろう。しかし経費は、どの費用が経費に該当するのかを知らなければ正しく計上することが難しい。
ここからは、不動産経営で経費として認められる項目について詳しく解説する。
・管理費・修繕積立金
マンションを所有していると毎月支払わなければならないのが管理費・修繕積立金だ。マンションの規模や部屋の大きさによって金額は異なるものの毎月数万円の支出になるだろう。不動産経営にあたり支払わなければならない支出であるため、経費として認められる。ただし、修繕積立金は本来、いったん資産として計上すべきものである。経費として計上するには一定条件を満たさなくてはならない点に注意しておきたい。
・火災保険・地震保険などの保険料
不動産の購入時に5年一括などで支払うことが多い火災保険や地震保険などの保険料も経費に該当する。いずれも、一括支払いした年に全額経費計上するのではない。保険期間の各年分に按分して経費として計上していく。
・固定資産税などの税金
「税金は経費に該当しないのではないか」と感じる人もいるかもしれない。しかし不動産を所有していることで毎年かかる固定資産税や都市計画税、購入時にかかる不動産取得税は経費として認められている。
・支払利息
不動産投資物件の購入で金融機関のローンを利用する人も多いだろう。毎月のローン返済の元金は、経費扱いできないが、金利は経費に組み込むことが可能だ。
・建物や室内の修繕費
不動産を賃貸に出していると修繕費や入居者退去のタイミングでのクリーニング費用がかかるが、これらも経費に計上することが可能だ。修繕したことで性能・耐久面で維持・回復以上となって価値が高まる「資本的支出」に当たるケースは、減価償却の対象となるので覚えておきたい。
・物件の減価償却費
物件の減価償却費とは、不動産の購入時にかかった費用や運用中の資本的支出となる修繕費などを一度に全て経費として計上するのではなく、耐用年数に応じて分割しながら計上する際の勘定科目である。つまり、毎年実際に支出している費用ではないが、耐用年数に応じて減価償却費という勘定科目で経費として計上することができる。
減価償却費は、購入時の建物価格や築年数、構造によって異なる。国税庁のホームページで「法定耐用年数」「償却率」などを確認することが可能だ。しかし初めての人は、税理士に確認したほうが安心だろう。
・税理士などへの報酬
不動産経営は、手間もかかることからプロに依頼する人も多いだろう。代表的なものが賃貸管理会社への管理委託や税理士への確定申告の依頼だ。このような場合、管理委託費や税理士への報酬も経費扱いができる。
・管理会社との打ち合わせなどの会議費、交際費
管理会社との打ち合わせなどの会議費、交際費も経費に該当する。不安になるのが「どこまでが経費に該当するか」といったことではないだろうか。明確な線引きはないが、「事業に直接必要であること」「客観的かつ合理的にそれを証明できること」でなければならない。
・セミナー、書籍などの勉強費用
セミナーや書籍などの勉強費用も経費に該当する。交際費同様に不動産経営の売上につながっている、運用する上で直接必要なことであれば経費として申告できる。もし不安があれば税理士に相談することも選択肢の一つだ。
・物件の現地調査をする際の交通費
インターネットが普及した現代でも、不動産購入の際には、実際の建物や周辺環境を見に行く人が大多数だろう。もちろんその際にかかる交通費も経費扱いにできる。ただし、大抵は往復1回程度が経費に算入できる限度となる。
経費の領収書をきちんと保存する
ここまで不動産経営として認められる経費について解説したが、経費として証明するには領収書を保存しておかなければならない。領収書は、7年間の保存が義務づけられている。実際の確定申告では、税務署の人に領収書を見せるようなことはないが、税務調査が入ったときのために経費を客観的に証明するものとして保存しておくことが必要だ。
また税務調査は、確定申告をしてすぐに来るものではないため、確定申告が終わったからといってうっかり領収書を捨ててしまうことがないよう注意しよう。
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サラリーマンが確定申告をするときの流れ
実際にサラリーマンが確定申告するときの流れは、以下の通りだ。
確定申告に必要な書類を準備する
確定申告では、必要な書類を準備しなければならない。特に1年目は、売買契約書などの書類が必要となるため、準備するべき書類が多くなりやすい。確定申告の準備書類が分からず不安な人は、これから解説する内容を参考にしてほしい。
必要書類 | 入手先 |
---|---|
確定申告書B、不動産所得用の青色申告決算書または白色申告収支内訳書 | 書類自体については国税庁の公式サイトからダウンロード可能。 決算書については、会計ソフトで作成したものを利用すると便利。 |
源泉徴収票 | 勤務先 |
不動産売買契約書 賃貸借契約書 家賃送金時の送金明細書 | 不動産売買契約書については不動産会社から入手。状況に応じて、不動産を売買した際の費用が分かるものや、マンションの土地と建物の按分割合が分かるものが必要。 賃貸借契約書や家賃送金時の送金明細書などは委託先の管理会社から入手できる。 |
ローン返済表 | ローンを借り入れている金融機関 |
修繕費や管理費など経費の領収書および明細書 | その都度保管 |
マイナンバーカード 納税通知書(控え) | 市区町村窓口 |
・売買に関連する「不動産売買契約書」
まず必要になるのが不動産を購入した際の不動産売買契約書である。購入した日付や契約金額などの内訳を証明するためにも準備しなければならない。
・賃貸に関連する「賃貸借契約書」
賃貸借契約書は、毎月の収入額や収入の発生時期を確認するために必要な書類だ。敷金や礼金の証明にもなるため、必ず準備しよう。
・家賃の送金に関連する「送金明細書」
賃貸管理会社に管理委託している場合、毎月10日や15日といった決まった日に管理会社から家賃が振り込まれる。実際に手元に入った収入の証明として必要となるため、まだ手元に届いていない場合は管理会社へ送金明細書を請求しておこう。
・固定資産税などの「納税通知書」
毎年支払っている固定資産税や都市計画税の証明になるのが納税通知書である。固定資産税など一部の税金も経費として計上できるため、証明として準備しよう。
・借り入れの「ローン返済表」
ローン返済表は、元金と金利の内訳が記載されているため、経費となる金利部分の確認ができる。ローン返済表を参考に当該年度の金利負担分を算出していこう。
・修繕をしたときの「請求書」
長期間、不動産経営を行っていると、修繕が必要な年度も出てくるだろう。修繕の際は、業者からの請求書をしっかりと残しておきたい。手元に残しておかないと確定申告の客観的な証明とならないため、紛失しないように保管しておこう。
・火災保険など保険の「控除証明書」
購入時に支払うことが多い火災保険、地震保険は、後日保険証券として保険会社から送られてくる。なお、保険料は一括払いでも控除は年ごとになり、毎年控除分の証明書が送られてくるので、そこに記載されている金額で確定申告をする必要がある。控除証明書は保管しておこう。
・給与金額が分かる「源泉徴収票」
不動産所得の赤字分と給与所得を損益通算するためには、確定申告をしなければならない。確定申告の際には、給与所得や社会保険料等の金額、扶養親族の数など様々な項目を正確に記入する必要があるため、必ず源泉徴収票を用意しよう。源泉徴収票は客観的に証明する書類としての役割もある。
・その他経費の領収書
上述した「不動産経営として認められる経費」の領収書を可能な範囲で準備する。確定申告で上手に節税するためには、経費になるものをしっかりと把握したうえで最大限に活用しなければならない。
税務署への事前の届出を行う
青色申告を行う場合は、事前に「青色申告承認申請書」を提出する必要がある。提出期限を守って提出するようにしよう。また、電子申告(e-Tax)を行う場合は、事前に「電子申告開始届」の提出が必要となる。
取引帳簿を作成する
不動産所得がある場合は、その年間の取引帳簿を作成しなければならない。会計ソフトやエクセルを活用することで簡単に作成できる。ちなみに青色申告で55万円もしくは65万円の青色申告特別控除を受けるためには、複式簿記での帳簿作成が必要な点を理解しておこう。
確定申告書に添付する書類をそろえる
住宅ローン控除の適用を受ける人や、ふるさと納税における寄付金控除を受ける人は、それぞれ「住宅ローン控除の借入金の年末残高証明書」や「寄付金の受領書」が必要になるため、忘れずに準備しておこう。
決算書(青色)および収支内訳書を作成する
取引帳簿の内容を基に、損益計算書や貸借対照表などを作成する。ちなみに青色申告なら青色決算書、白色申告なら収支内訳書となる。会計ソフトを利用して取引帳簿を作成しているなら。決算書や内訳書についても作成できるソフトが多いため、活用するとよい。
・青色決算書の作成方法
必要書類が揃ったら、青色決算書を作成する。具体的には、不動産事業の収入と費用から利益を計算し、決算書を作成する作業だ。作成については、国税庁のサイトを利用する方法がおすすめといえる。
・国税庁のサイトを利用する
国税庁のサイトには、「確定申告書作成コーナー」※この先は外部サイトに遷移します。が設けられており、ウェブページで案内される手順に沿って入力することで青色決算書が作成できる。
決算書の作成については、あらかじめ自分で不動産売買契約書や賃貸契約書などを用意しておくと入力しやすい。決算書作成に必要な数値については、システムが自動的に計算してくれる部分もあるが、その値が、自分で計算した額と相違ないかも確認しておこう。相違がある場合は入力した内容に事実と異なる可能性がある。自分であらかじめ計算しておくことで、金額の確認や入力内容の確認を行えるというメリットもあるため、要領よく入力していくことが大切だ。
・白色申告収支内訳書とは?
青色申告を行わない場合でも、不動産所得があるならば「収支内訳書」の作成が必要だ。利用するのは収支内訳書(不動産所得用)だ。収支内訳書は2ページで構成されており、1ページでは収入金額および必要経費を記入して、2ページに1ページで記載した内容の内訳を記入する。売上金額の明細や、減価償却費の記載が求められるため、減価償却費の計算方法について理解しておくことはもちろん、先に2ページの内容を記載し、その合計額を1ページに転記するやり方をとる方が効率よく作成できるだろう。
減価償却費の計算は一見難しそうに見えるが、定額法を使用した償却方法なら、毎年の償却額は同じになるため、昨年提出した収支内訳書を参考に記入していくと簡単だ。
確定申告書Bを使って確定申告書の作成をする
確定申告書には、以下のように「確定申告書A」「確定申告書B」の2種類がある。
- 確定申告書A:給与所得や公的年金、雑所得、総合課税の配当所得、一時所得のみの人
確定申告書B:誰でも利用可能(主に事業所得や不動産所得を申告する人向け)
不動産投資に伴う確定申告の場合は、給与所得と不動産所得の複数の所得を記載する必要があるため、確定申告書Bを使用する。さらに確定申告書Bには、第一表と第二表がある。
第一表:収入金額、所得金額、税金の計算など各項目の集計金額を記入する
- 第二表:所得の内訳や社会保険料控除、生命保険料控除などの詳細情報を記入する
難しく感じるかもしれないが、これまでに解説した準備書類がそろっていれば問題なく作成できるだろう。
ちなみに2023(令和5)年1月より確定申告書Aは廃止され、確定申告書Bに統一されることも覚えておこう。
確定申告の期限を守って提出する
確定申告には提出期限が設けられている。例年は2月16日から3月15日までとなっているため、年明けから確定申告に必要な書類をそろえはじめ、そろった時点で確定申告書の作成に着手するようにしよう。
所得税の納付もしくは還付を受ける
確定申告により所得税の納税が必要になる場合は、確定申告の提出期限と同様、3月15日までに納付しなければならない。納付忘れを防ぐためには振替納税の利用がおすすめだ。
逆に還付金が発生する場合は、確定申告書に記載した口座に還付金額が振り込まれることになる。
確定申告の種類:青色申告と白色申告
青色申告と白色申告には、控除額や事前申請の有無、さらには記帳方法などによる違いがある。白色申告は事前申請も不要で記帳も簡易な方法でよいとされている。それに対し、青色申告を行う場合は事前申請が必要となっており、記帳方法に応じた青色申告特別控除額が設定されている。
白色申告 | 青色申告 | |||
控除額 | 0円 | 10万円 | 55万円 | 65万円 |
事前申請 | 不要 | 「青色申告承認申請書」の提出が必要 | ||
記帳方法 | 簡易な方法 | 簡易簿記 | 複式簿記 |
ちなみに65万円の控除を受けるためには、記帳方法が複式簿記である以外に、以下のいずれかを満たす必要があるため、注意が必要だ。
- e-Taxを使用して申告を行うこと
その年の事業に仕訳帳や総勘定元帳について、電子帳簿保存を行っていること。
青色申告とは
青色申告を行うにあたっては、事前に管轄の税務署へ届け出が必要だ。また複式簿記での帳簿付けも求められるため、ある程度の簿記の知識が必要となる。しかし近年は、サポートしてくれる会計ソフトがさまざまあるため、そこまで簿記の知識が高くなくても利用できるだろう。
また青色申告では、申告方法によって「10万円」「55万円」「65万円」と青色申告特別控除額が異なることも特徴の一つとなっている。
不動産投資で青色申告を行うには控除額ごとの要件を満たすことが必要
不動産投資の確定申告を青色申告で行い、55万円または65万円の控除を受ける場合、一定の要件を満たす必要がある。その要件とは、行っている不動産投資が「事業規模であること」だ。事業規模かどうかについては、以下の基準を用いて判断する。
基準1:貸間およびアパートなどについては、貸し出すことのできる独立した室数がおおむね10室以上。
基準2:独立した家屋を貸し出すにあたっては、その数がおおむね5棟以上。上の基準を満たす場合は55万円または65万円の控除を受けることが可能だが、基準に満たないならば10万円の控除を受けることになる。
確定申告して所得税の還付、住民税の節税が受けられるケース
不動産投資の確定申告で所得税の還付や住民税の節税ができるのは、不動産所得が赤字だった場合の話だ。一般的なサラリーマンの場合、会社が年末調整を行うので、払いすぎた所得税の還付などの手続きを自分で行う必要はない。しかし不動産投資を始めた場合は、事業主となるため、年末調整とは別に確定申告が必要になる。
ここで注目するべきは、不動産投資で得た赤字を確定申告することで給与所得と損益通算できることだ。特に不動産投資を始めた初年度は、仲介手数料や登記費用などまとまった費用がかかるため、赤字となるケースが多い。不動産投資で赤字が出ている場合は、確定申告することで給与所得と合算(損益通算)することができる。
合算することで所得が下がるため、結果的に払いすぎた所得税の還付を受けられ翌年の住民税も抑えられるのだ。
確定申告をきちんと行わなかった場合はペナルティが課される
確定申告を行う際には、正しい金額を申告する必要がある。仮に所得金額を少なく申告したり、申告自体を行わなかったりした場合には、その内容に応じたペナルティが課される。これらのペナルティは高額になりがちなため、内容をしっかりと理解し、ペナルティの対象となることがないように、正しく申告することが大切だ。
確定申告の期間内に確定申告を行わなかった場合:無申告加算税
確定申告の期間内に確定申告を行わなかった場合、「無申告加算税」の課税対象となる。無申告加算税の税率は、納税すべき税額に対して50万円までについては15%、50万円を超える部分については20%だ。
金額を間違えた場合:過少申告加算税
確定申告の期間内に申告したが、金額を間違えており、「納付税額が少ない」もしくは「還付金額が多い」状態であれば、過少申告加算税の適用対象になる。適用される税率は新たに納めることになった税金の10%、ただし、新たに納める税金が当初の申告納税額と50万円とのいずれか多い金額を超えている場合、その超えている部分については15%だ。
申告内容に虚偽の事実がある場合:重加算税
申告内容に虚偽の事実がある、もしくは所得を少なく申告しているなど、意図的な脱税行為だと判断された場合、重加算税が課税されることになる。重加算税の税率は、過少申告の場合は不足分の税額に対して35%、無申告の場合は本来納付すべき税額の40%と高く設定されている。
納付すべき税金を期限までに払わなかった場合:延滞税
納付すべき税金を期限までに払わなかった場合は、延滞税が発生する。
出典:国税庁※この先は外部サイトに遷移します。「延滞税の計算方法」より株式会社ZUU作成
延滞税の税率は毎年異なるため、注意しておきたい。
悪質な場合は刑事罰の対象となる可能性も
確定申告をしなかった行為そのものが悪質だと判断された場合、刑事罰の対象となる可能性がある。そもそも悪意を持った脱税行為は絶対行うべきではない。もし仮に、悪意はなく、うっかり忘れていたなどの場合は、気づいた時点で早めに申告するようにしよう。
「FPの私ならここを見る」 プロが語る不動産投資とは?
なぜ、今不動産投資なのか?
人生100年時代の資産形成の考え方や、不動産投資の「勝ち組」と「負け組」の紙一重の違いをFP歴20年以上、個別相談実績5,000件以上の経験豊富なFPの視点からわかりやすく解説します。
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宮路 幸人
会計事務所での長い勤務経験で培った豊富な実務知識により、会計処理・税務処理および経営や税務に関する相談など、さまざまな問題に対応。宅地建物取引士、マンション管理士等の資格を保有し、不動産と相続関連に強みを発揮する。特に相続関連では、税務面だけでなく、家族の幸せを重視したトータルでの提案を行っており、軽いフットワークでお客さまのニーズに応えることをモットーとする。離島支援活動にも積極的。
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