不動産投資の契約の選択肢として「ノンリコースローン」という融資形態があります。しかし、日本では最近普及し始めてきたため、具体的にどんな融資形態なのか、メリットやデメリットは何なのかについてあまり理解されていません。
そこで本コラムでは、ノンリコースローンとは何か、リコースローンとどんな違いがあるのかなど、リコースローンの概要を解説するとともに、メリット・デメリットやノンリコースローンが向いているケース、利用する際に知っておくべき契約内容を紹介します。
ノンリコースローンとは?
ノンリコースローンは、借り手がローン返済不能となった場合に、担保となった不動産だけに責任が及ぶ融資形式です。リコースには「償還」や「遡及」という意味があり、何かが行き詰まったり問題が生じたりしたときに、その問題を解決するために遡って手を打つことを指します。
具体的には、金融機関(貸し手)が不動産を担保にして融資を行い、借り手が返済不能に陥った場合、金融機関は不動産の売却価格から返済を受け、他の資産や連帯保証人からの返済請求などは行いません。借り手側から見ると、担保物件を売却して、それでも賄いきれなかった分があったとしても、返済義務は生じないという仕組みになっています。
このようにノンリコースローンは、借り手にとってはリスクを限定するメリットがありますが、一方で貸し手は厳格な審査を行い、高い金利を設定することが一般的です。これは、貸し手が返済不能時のリスクを考慮して、十分な保護を確保するためです。
リコースローンとの違い
前述の通り、リコースローンとノンリコースローンの主な違いは、返済時の責任の範囲にあります。リコースローンでは、借り手が返済不能に陥った場合、貸し手は購入した不動産だけでなく、借り手の他の資産、連帯保証人などから返済を追求することができます。一般的に不動産投資ローンは、概ねこのリコースローンに該当します。
項目 | ノンリコースローン | リコースローン |
---|---|---|
返済の遡及性 | できない | できる |
担保設定対象となる権利 | 不動産の売却価格やキャッシュフローといった受益権 | 不動産の所有権 |
担保の種類 | 質権(停止条件付抵当権・停止条件付保険金請求質権などを設定する場合も) | 抵当権、又は根抵当権 |
資金の管理 | 資金の管理や使途は、貸し手が監督でき、ルールを定める | 借り手が自己管理し、支出することができる |
不動産の運用 | 不動産の収益が悪化した際に、一定の条件が満たされた場合、貸し手が不動産の運営に直接関与することができる | 貸し手が直接関与することはできない |
不動産等の売却 | 一定の条件が満たされた場合、貸し手主導で売却する | 不動産の売却は、原則として借り手が行う |
貸付利率 | 収益性や売却価格といった不動産の価格で決定する | 収益性や売却価格といった不動産の価格や借り手の債務弁済能力で決定する |
弁済の順序 | 優先的に弁済が受けられるシニアレンダーが優先される | 借り手が順序を決められる |
ノンリコースローンを活用するメリット2選
上記ではノンリコースローンの定義やリコースローンとの違いについて解説しましたが、具体的にノンリコースローンにはどのようなメリットがあるのでしょうか。ここではノンリコースローンを活用する以下のメリットをご紹介します。
- 責任範囲が限定されるため他資産への影響がない
- 財務状況に左右されることなく融資を受けられる
責任範囲が限定されるため他資産への影響がない
ノンリコースローンを活用すると、借り手が債務不履行に陥った場合に責任範囲が限定されるため、他資産への影響がありません。通常のローンでは、借り手が債務不履行に陥った場合、返済のために他の資産や収入源が差し押さえられることがありますが、ノンリコースローンではそのようなリスクが軽減されます。
また、基本的に連帯保証人も必要ないため、安心してローンを利用することができます。
財務状況に左右されることなく融資を受けられる
ノンリコースローンでは不動産そのものを重視して行われる融資であり、担保物件の収益性が良ければ、融資を受ける側の財務状況に不安があっても融資を受けられる可能性があります。通常の融資では、貸し手は借り手の財務状況を重要視し、信用度や返済能力を評価するため、財務状況が厳しければローンを借りられない場合もあります。
例えば、過去に購入した不動産の運営コストが予想以上に高く、賃料収入や売却収入がそれをカバーできなかった場合、通常では、追加の融資を受けることが難しいかもしれません。しかし、ノンリコースローンでは投資家の財務状況をあまり厳しく評価しない傾向があるため、財務状況に左右されることなく融資を受けられる可能性が高まります。
ノンリコースローンのデメリット
ノンリコースローンには、責任範囲が限定されて他資産への影響がなく、財務状況に左右されることなく融資を受けられるというメリットがありますが、もちろんデメリットも存在します。ここでは、ノンリコースローンのデメリットとして以下の3つを紹介します。
- 金利が高くなる傾向にある
- 審査基準が厳しい
- 利用できる金融機関が少ない
金利が高くなる傾向にある
一般的に、ノンリコースローンの金利は他の種類のローンに比べて高い水準に設定されています。これは、貸し手が債務不履行時のリスクを負う可能性が通常より高いためです。
また、返済期間も短い傾向にあるため、ノンリコースローンを利用する際には高い金利と短い返済期間が財務上の負担となる可能性があります。そのため、この点を注意深く検討し、リスクとリターンをバランス良く見極める必要があります。
審査基準が厳しい
ノンリコースローンは金融機関にとってリスクのある融資形態であるため、審査基準として担保物件の収益性が慎重に評価されたり、融資条件としての返済期間が3〜5年と短かったり非常に厳しいです。
さらに、担保物件の価値が下がらないようにするため、一定の条件のもとで金融機関が物件の運営に介入することがあります。
利用できる金融機関が少ない
個人向けのノンリコースローンを提供している金融機関はほとんどありません。また、これらの金融機関が詳細な条件や情報を公開しているケースも限られています。そのため、ノンリコースローンを利用したい個人や企業は、情報収集や相談を行う際に注意が必要です。
ノンリコースローンが向いている方
ノンリコースローンは、複数の投資用物件を所有している方や不動産投資の経験がある方に向いています。不動産投資の経験がある方は、不動産投資の経験がない方に比べて、収益性が高い物件を見分ける知識やノウハウも持っているため、ノンリコースローンを利用できる可能性が高くなるからです。
ノンリコースローンを利用する際に知っておくべき契約内容
不動産投資でノンリコースローンの利用を検討する際は、以下の契約内容を知っておくことで不利な条件での契約締結を避けることができます。
- 制約条項(コベナンツ)
- 責任財産限定特約
制約条項(コベナンツ)
制約条項(コベナンツ)とは、融資を受ける際に金融機関から課される条件のことで、担保物件の他融資の利用制限や、担保物件の価値や収益性の一定水準の維持、収益に関する情報提出などが含まれています。
制約条項は、金融機関が資金を回収できなくなるリスクを減らすために定められ、ノンリコースローンの利用を検討する際は、無理のない内容になっているかどうか確認する必要があります。例えば、「2期連続で赤字を出さない」といった条約が盛り込まれることがあります。節税目的で不動産投資購入を検討している場合、利益圧縮のために赤字を出すことができなくなるので節税効果は見込めません。ご自身の状況に合っているかどうかを確認するためにも、制約条項はチェックをしておきましょう。
責任財産限定特約
ノンリコースローンの返済責任の具体的な範囲を定める契約で、特定の財産を返済の原資として限定し、その責任範囲外の資産には強制執行を行わないことを定めます。この特約が記載されていない場合、ノンリコースローンではないということになるため、契約書に特約が明記されているかを注意深く確認しましょう。
例えば、以下のような規定が設けられる場合が多いです。
- 債務の返済に関連する資金は特定の不動産にのみ制限する
- 債権者は、特約限定外の資産に対しては強制執行を行わないことを承諾する
- 債務の返済に必要な資金が全て処分された場合でも、未払いの債権が残る場合、債権者はそれを放棄したと見なす
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