ガス料金は、ガス会社の違いや、都市ガスかプロパンガス(以下「LPガス」と略します)かの違いでも異なり、また、料金体系もさまざまです。
賃貸アパートの入居者が支払うガス料金の高さに不満を持っていることが多いことはご存じでしょうか。
ガス料金の差だけであればそんなに問題視はしませんが、仕組みのうえで、本来賃貸物件のオーナー(貸主)が負担するのが原則である費用まで入居者に払わせてしまうような実態があります。
これは、オーナーからすれば少し得した気分になるので、オーナー側からは異論を唱えるような声が上がりません。
しかし、現在では、法的な規制の必要性が議論されているので、今回はこの話題を取り上げようと思います。
どうしてアパートはLPガスが多いのか?
賃貸アパートの多くがLPガスを使用しています。
そもそも都市ガスが通っていないような郊外なら理解できますが、都市ガス配管を利用可能な場所でも、あえてLPガスが選択されているケースが多いのはなぜでしょう?
これにはこれからお話しするような、通称「プロパンガススキーム」があるからです。
プロパンガススキームとは
「プロパンガススキーム」とは、LPガス会社がアパートオーナーへのサービスとして、アパート設備の一部をガス会社が負担するというものです。リースのような形態でその設備の所有者はガス会社になり、そのリース料はLPガスの利用者である入居者がガス料金に上乗せして支払います。
もともと、LPガスは都市ガスと異なり運搬が可能なためどこでも設置できるので、自由競争市場でした。その中で、LPガスの供給会社が固定・安定的に長期契約を獲得するにはどうしたらよいかということを考えた結果、編み出された方式だと思います。
そのガス会社が負担する設備とは、以下の例のように、ガス管や給湯器などガスに直接関係するものから、関係のない設備まで含まれている場合があります。
<ガス会社が負担する設備の一例>
・ガス管
・給湯器
・エアコン
・インターホン
・キッチン
・ユニットバス など
アパートオーナーにとっては、設備費や工事費が軽減されるため、その代償に、ガス会社を切りかえることのできない長期契約を結ぶことになります。他社に切りかえられることを防ぎたいガス会社側にもメリットがある仕組みで、そのこと自体に一定の合理性はあります。
プロパンガススキームの問題点
このケースで問題なのは、上乗せ分のリース代を支払っているのが、設備投資費用を軽減できたアパートオーナーではなく、入居者だという点です。
仮に、その上乗せに相当する分の賃料を安くして募集するのであれば、実質の設備費用負担はオーナーになるので合理性はありますが、一部の良心的なオーナーを除いては相場賃料で募集します。
入居希望者は説明を受けることもなく、仕組みを知らないまま契約してしまい、入居後に初めてガス料金の高さに驚くというのが実情で、クレームも多くあります。
知らずのうちに割高で物件を買うことになることも
オーナーとしても、アパートを購入するときにはLPガスかどうかの注意が必要です。
知らないうちに割高な物件を購入してしまう可能性がありますので、その理由をシンプルなモデルを使って解説していきます。
相場賃料が5万円/月だと仮定して、建築に1,000万円かかる物件があったとしましょう。
年間の表面利回り60万円(5万円×12カ月)/1,000万円=6%となり、販売物件の利回りの相場も6%で妥当な市場であると仮定します。
加えて、この物件の建築にあたり設備費200万円をガス会社が負担し、ガス会社はガス料金にリース料として毎月1万円を上乗せして設備費の回収をしている仮定で考えます。(アパートの建築にあたっては実質800万円しか建築費がかかっていないことになり、実質の利回りは7.5%になります。)
この場合、入居者は、5万円/月の家賃に実質設備リース料1万円/月を加えた6万円/月を払うことになり、相場からすれば割高と感じるはずです。
そのため、入居の募集が難航するなどして、アパートオーナーは設備リース料を加味した4万円/月で募集せざるを得なくなり、経済原理でいえばそこに収束していくはずです。
アパートオーナーにとってみれば、月4万円×12カ月=48万円、この収入に対する分母が建築費800万円だとすれば、利回り6%に収束していくので合理性があります。
ところが、入居者にとってガス料金に上乗せされる1万円のリース料は、入居する時点でオープンになっている情報ではありません。
しかも、ガス料金にリース料が上乗せされている認識はなく、あくまでガス料金が異常に高いという感想を抱くだけなので、募集賃料5万円/月のままでも相場との乖離はないように見えてしまい、4万円に収束してゆく市場の経済原理が働かないのです。
リースを導入していない他の一般のアパートも市場にはたくさん出回っているので、本来そのガス料金が異なることが明示されるべきなのですが、それがないのであれば比較検討のしようもありません。
さらに問題なのは、その上乗せ1万円分については不動産がマーケットで流通する際には明示されないので、結局中古物件として流通させる際に設備リースの有無に関係なく同じ取り扱いをしてしまうことです。
このことから、本来800万円しか投下していない物件を1,000万円で売ることが、何の違和感もなく行われてしまっていました。
注文建築のアパートなど建築主として実質的に800万円の投資しかせずに済んでいる個人オーナーだったら、わかったうえでの投資判断ですからまだよいのです。
しかし、仮に不動産会社が800万円分の経費しかかけなかったものを1,000万円で売られていたとしても、相場賃料から見て表面利回り6%なら違和感ない市場では違和感なく買ってしまうことが起こります。
建て売りのアパートの場合、売主である開発業者は最初からガス会社の設備リースを導入し、その長期契約を承継する前提(解約する場合は多額の設備代を負担することになる)で作る商品も多くあります。
マーケット的には価格に違和感がないように見え、募集賃料も市場と乖離してないように見えてしまうので、割高と感じる不自然さもなく売りに出されていることがあります。
開発業者は設備分の費用を負担していないので、同質同等の物件と比較して相当に割安な原価のはずです。本来は割安な売値の設定をすべきですが、残念ながら実態はそうではありません。
割高な物件を購入してしまうと、売却処分する際の相場の目安となる市場利回りを確保する必要性から、やむなく相場並みの賃料設定をせざるを得なくなります。
そのため、上乗せガス代の分を考慮して賃料を下げることもなく、一般の投資家である皆さま自身が、結果的に入居者を欺くようなことに陥る可能性あること、そして、ガス会社に設備を持たせていない他の物件に比べて、長期的な賃料下落リスクが大きいことを、理解していただきたいと思います。
法改正の動き
こうした実態に対して、行政も問題意識を持って法改正を行っていて、2017年には、入居者に対してガス会社の領収証などで上乗せ費用を明確に区分して表記することが義務づけられました。
出典:経済産業省:「液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律施行規則の一部を改正する省令」等の制定について ※外部サイトに遷移します
しかし、この法改正は問題の解消に向けた一歩を踏み出したにすぎないものでした。
この法改正はガス会社の領収証などにおいて費用の内訳を示すことを義務化しているものでしかなく、賃貸募集の際の情報開示項目ということまでは踏み込んでいません。
このことから、入居者は入居前にこういった実態を知る術もなく、入居後に高額なガス料金の請求を受けてだまし討ちに遭うような状態と変わりませんでした。
この件は確かに現時点では違法ではありませんが、ついに法的に制限しようという動きが出てきました。
ガス会社の顧客となる不動産会社や建築主のオーナーのパワーバランスが強いために、ガス会社側が折れている(設備負担を強いられている)場合が多くなった可能性もあり、LPガス業界そのものが既にこの慣行に辟易しているようです。
そして、最近ではガス会社側を管轄する経済産業省の主導によって、法的な規制をかける方針が発表されました。
関係のない設備費のガス料金への上乗せが禁止へ
2023年7月24に開催された「第6回 総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 石油・天然ガス小委員会 液化石油ガス流通ワーキンググループ」では、ガスとは関係のない設備や本来家賃に含まれるべき設備(エアコン、インターホン、給湯器など)費用をガス料金に計上することを禁止する改正省令を、来春公布して2027年頃に施行することを目指しているそうで、この発表が各新聞社に大きく取り上げられました。
(出典:経済産業省「第6回 総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 石油・天然ガス小委員会 液化石油ガス流通ワーキンググループ」※外部サイトへ遷移します)
入居者が冷静に判断するための情報開示としての不動産会社側の規制(国交省管轄)ではないことが、まだまだ不十分ではあると思いますが、どうかオーナーの皆さまには、法律が変わることに関して、敏感に適切に反応していただければと思います。
前回記事はこちら 【第10話】健全な不動産投資の勧め |
シニアコンサルタント 真保雅人 (大学卒業後、鉄道会社約4年を経て1989年5月オリックス株式会社に入社し、投資用不動産ローン業務を約10年担当。その後、オリックス不動産株式会社にて約10年間の賃貸マンション用地仕入開発業務経験を経て、2010年11月オリックス銀行株式会社に出向。オリックス銀行では投資用不動産ローン業務に責任者として約10年従事し、現在に至る。) |
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