早稲アカ Research Memo(8):中期経営計画は順調に進捗、LTVを最大化し、持続的成長を目指す
2. 中期経営計画
早稲田アカデミー<4718>は2024年3月期から3ヶ年の中期経営計画をスタートしている。初年度の2024年3月期は、売上高で若干未達となったものの、利益ベースでは計画を上回る順調な滑り出しとなった。2025年3月期は売上高、営業利益、経常利益ともに当初目標を上回り、経常利益に関しては2026年3月期の目標を1年前倒しで達成する計画となっている。塾生数の伸びが鈍化するなかでも、授業料の値上げを実施したことやDX投資の推進で業務効率の向上が進んでいることも利益ベースでの上振れ要因となっている。
中期経営計画では、少子化の進行やそれに伴う高校・大学受験の環境変化で競争激化が続くなかでも、「本来価値」と「本質価値(ワセ価値)」の提供し続けることで塾生数の増加とLTVの最大化を実現し、持続的な成長を目指す方針だ。主力部門である小学部については引き続き私立中学受験に対するニーズが旺盛なことに加えて、難関校での高い合格実績、「早稲田アカデミーOnline」による利便性の高いサービスを強みに、今後も着実な塾生数の増加が見込まれる。また、LTVの最大化に向けた取り組みとしては、主力の「早稲田アカデミー」を基盤として「個別進学館」や新たに開始した「東進衛星予備校」のサービスを提供することで塾生1人あたりのLTV向上につなげていくほか、幼児教育分野にも進出し就学前からの顧客囲い込みも進めていく戦略だ。
2023年3月期における早稲田アカデミー単体の売上構成比率を見ると、標準校舎(中高受験集団指導型)が86.6%と大半を占めており、大学受験部が3.0%、個別指導が8.4%とそれぞれ小さく、幼児教育事業も含めて今後の成長余地は大きいと見ている。LTVを向上させることができれば顧客獲得コストの低減により収益性の上昇にもつながることから、今後の動向が注目される。中期経営計画における主な取り組みは以下のとおり。
a) 標準校舎の着実な成長
標準校舎については年間1校程度の新規開校ペースにとどめるが、需要の旺盛な校舎については移転・増床リニューアルを行うことで、1校当たりの塾生数増加を図っていく。前期に移転・増床した2校(渋谷校、武蔵浦和校)の2024年3月末の塾生数は移転前(2022年3月末)と比較して16.6%増加するなど効果が確認されている。移転により校舎設備など学習環境面での改善が進んでいることも要因と見られる。同社では今後も、講師・事務スタッフの育成強化により授業サービスの品質向上や、ICTを活用した付加価値の高いサービスを拡充していくことで顧客満足度の向上を図り、塾生数の増加につなげていく戦略だ。
b) 大学受験部の新領域開拓
大学受験部では東進衛星予備校事業の開始により、塾生数並びに売上高の一段の増加を目指す。今までは東大や早慶大など難関大学志望の学生をターゲットにしていたため、早稲田アカデミー単体の塾生数は1,800人弱、売上高で9億円弱にとどまっていたが、1学年に1万人以上いる「卒塾生」へアプローチすることで塾生数を拡大していく余地はあると見ている。校舎展開としては、2025年3月期は3〜4校を開校する予定で、その後は各エリアの状況を見ながら展開していくことにしている。東進衛星予備校及び東進ハイスクールは首都圏ですでに200校を超えており、新規生徒の獲得競争も激しいことから、いかに卒塾生を取り込んでいくことができるかが成長の鍵を握るものと思われる。同社では東進衛星予備校も含めた大学受験部について、2027年3月期に塾生数で4,000人、売上高で約18億円と現在の2倍に拡大することを目指している。
c) 個別指導部門の展開加速
個別指導部門では2024年3月時点で、FC校も含めて71校と、2027年3月期の100校体制に向けて順調に拡大している。同社は首都圏における難関校受験対策の個別指導としてNo.1の地位確立を目指しており、今後はFCも含めて年間9~10校のペースで校舎を開設していくことになる。校舎については標準校舎の近隣に開設することで、他の個別指導塾と掛け持ち通塾している生徒あるいは卒塾生を個別進学館で取り込むなど、シナジーを高めていく戦略だ。売上高は2023年3月期実績の約25億円から2027年3月期に約35億円と1.4倍増を目指す。
d)幼児教育分野への進出
2024年1月に子会社化した幼児未来教育は、幼稚園・小学校受験のための幼児教室を都内で3校(恵比寿校、麻布十番校、小石川校)運営している。今回グループ化した目的は、未就学児向けの教育ノウハウの共有、並びにこれまで同社と接点が少なかった顧客層(未就学児童及び保護者)との接点を強化することで、「早稲田アカデミー」への導線を作り、LTVの最大化につなげていくことにある。両社の経営理念や事業の親和性も高いことから、グループ化することで女性の活躍の場を広げていく取り組みも含め、シナジー創出が期待される。
直近3期間の売上規模は1億円強と安定して推移しており、今後は校舎数を増やしていくほか、受験対策のカリキュラムを充実させることで売上単価の引き上げにも取り組んでいく。このため2026年3月期以降は人材採用・育成にも注力していく方針だ。短期的な連結業績への影響は軽微となるが、シナジー創出も含めて中長期的に貢献するものと期待される。
e) DX戦略で他社と圧倒的な差別化を図る
同社はコロナ禍以降、「早稲アカDUAL」や「早稲田アカデミーOnline」などICTを活用した様々なサービスを積極的に提供したことで顧客から高い評価を獲得し、塾生数の拡大につなげてきた。このため、今後もDX戦略を継続して推進していくことで差別化を図り、少子化が進む中でもシェアを拡大することで成長を目指していく。
2025年3月期に新たに、過去の模試データを活用した成績管理システム「G-Navi」の正式リリース。塾生の模擬試験の結果を、過去に実施してきた膨大な模試データをAI技術の活用により比較分析することで、進路指導や学習指導などに生かしていくものとなる。従来は過去の経験をもとに属人的に進路指導などを行っていたが、過去のビッグデータを分析・活用することで、効率的な学習指導や的確な進路指導が可能となり、志望校の合格率アップにもつながるものと期待される。塾生や保護者にとっても過去データと比較することで、従来よりも納得感が得やすく、顧客満足の向上につながるといった効果もある。
f) 人材育成・採用の取り組み強化
質の高い授業サービスの提供に向けて、教務力向上施策プロジェクトを始動している。具体的には、講師マニュアルについての動画研修や相互授業見学、各種研修を強化しているほか、模擬授業コンテストを行うことなどして教務力の向上に取り組んでいる。
採用に関しては、内部リクルートの強化(非常勤職員から正社員への登用、卒塾生の非常勤職員としての採用等)や採用手法の改善(募集広告の効率向上、本社と校舎が一体となった採用手順の強化)に加えて、2023年から新たに教育や教育業界に興味のある大学生・大学院生に向けた合同説明会イベント「教育×就活 EXPO」を開始した。学校・塾・出版・EdTechと教育に関わる4領域の学校や企業が集まり、セミナー形式で説明会を開催するほか個別相談ブースで就職相談に対応する。2024年も6月に開催する予定だ。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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