いちご Research Memo(5):キャッシュ創出力を最大化する経営により成長投資と株主還元を推進
1. キャッシュ・フロー経営:徹底したキャッシュ創出により成長投資と株主還元の原資を確保
いちご<2337>は、キャッシュ・フローの創出にこだわった経営を行ってきた。2020年2月期末には、コロナ禍の影響で不動産業界を取り巻く環境が急変するなか、心築事業に関わる不動産(従来は販売用不動産)を固定資産化し、減価償却の税効果によりキャッシュを創出する施策を行った。販売用不動産は、一般的には早期に販売されるべきものとされており、会計処理上は減価償却を行わない。これを固定資産化すると、現金支出のない減価償却費を計上することになり税効果が発生する(キャッシュが創出できる)。固定資産比率は、2019年2月期末30.1%に対し2023年2月期末は84.3%となった。市場環境が悪化しているなかでは、売り急がずじっくり保有しつつキャッシュ創出力を最大化するという同社戦略の一環である。
キャッシュ(稼ぐ力)をより反映する指標としては、ALL-IN営業利益、キャッシュ当期純利益、キャッシュEPSなどを重視する。これらの指標すべてにおいて2023年2月期は前期を上回っており、さらに2024年2月期も増加を見込む。キャッシュの源泉はキャッシュ収益(売上総利益+固定資産売却益+ノンキャッシュ費用(減価償却費、のれん償却費等))と定義され、ストック収益とフロー収益に分けて管理する。ストック収益に関しては、コロナ禍のような外部環境の激変があった場合でも、売電収入や減価償却費等によって一定の収益を稼ぎ出せることが同社の強みである。ストック収益・固定費カバー率は192.9%と盤石である。2024年2月期はホテルの賃料収入の向上が期待でき、ストック収益がさらに向上する余地がある。2024年2月期のストック収益はコロナ禍前(2020年2月期)の92.1%まで回復する予想である。フロー収益は主に心築事業における不動産売却益である。前述のとおり、マルチアセット及びいちごオーナーズを取り巻く売買環境は足元良好であり、2024年2月期は前期と同水準あるいはそれ以上のフロー収益を見込む。2024年2月期のフロー収益はコロナ禍前(2020年2月期)の72.6%まで回復する予想である。
高いキャッシュ創出力を背景に様々な株主還元や将来の成長のための施策が実現可能となる。自社株買い(2023年2月期は例年の3倍の45億円実施)や増配(2023年2月期は1円増配)、不動産取得(2023年2月期は前期比63%増の507億円取得)、いちごオフィスの投資口取得(上限30億円で継続中)などはその一例である。なお、同社ではグループのREITと心築事業・アセットマネジメント事業がより緊密に連携する新戦略・新施策のロードマップを2024年2月期中に発表する予定である。
2. サステナブルインフラ企業:サステナブル経営の多様な施策が進捗
同社は、世界的な課題である「サステナブル(人類・社会・地球環境の持続的発展)社会の実現」への貢献を事業活動の目的としており、本業を通じた様々な活動に取り組んでいる。代表例はクリーンエネルギー事業であり、事業の発展によりさらなるCO2削減を進めていくほか、エネルギー自給率の向上を推進し、遊休地での発電事業を通じた限りある国土の有効活用を実現している。2024年1月には大型のいちごえびの末永ECO発電所(太陽光発電、13.9MW)の稼働開始を計画している。将来的には、地方自治体や地域と一体となった地域資源を利用する「グリーンバイオマス発電事業」を4県5ヶ所 6.8MW規模で計画する。また、企業の再生可能エネルギーニーズに対応した「非FIT太陽光発電事業」を5県9ヶ所 49.2MWで計画し、今後のさらなる成長に向けて準備を進めている。
また、同社は事業活動で消費する電力を2025年までに100%再生可能エネルギーとすることを宣言している(「RE100」での「脱炭素宣言」)。2023年2月期には同社発電所由来のトラッキング付非化石証書により電力消費量13%を積み増し、累計で70%の再生エネルギーへの切り替えを達成した。2024年2月期にはさらに取り組みを進め、85%とすることを目指している。同社のサステナブルな社会形成へのコミットメントは、金融機関から高く評価され、財務基盤の強化にも寄与している。2023年2月には、(株)三井住友銀行及び(株)関西みらい銀行より借入限度額92億円、(株)みずほ銀行から借入限度額130億円のポジティブ・インパクト・ファイナンス※の借入枠を獲得した。同社のESGローン比率(ESGローン借入残高、グリーンボンド、コミットメントライン未使用枠含む)は2023年2月期に529億円、全体の28%に達した。
※SDGsの達成に向け、「ポジティブ・インパクト金融原則」に則り、事業活動が与える社会的インパクトを包括的・定量的に評価、ポジティブなインパクトを生み出す意図を持つことを確認したうえで金融機関が継続的に支援、エンゲージメントを行うための融資。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 角田秀夫)
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