巴川紙 Research Memo(2):抄紙、塗工、粉体、粘・接着分野で新技術を生み出し成長
1. 会社沿革並びに事業概要
巴川製紙所<3878>は、初代社長井上源三郎氏が電気絶縁紙の国産化の志を抱き、ドイツ製見本を手掛かりに1900年初頭より研究開発に着手し国産化に初めて成功したことで、1914年6月に巴川製紙所を創設したことに始まる。電気絶縁紙、電気通信用紙の研究、開発を行い1917年に創業した。創業精神として「誠実」「社会貢献」「開拓者精神」を至上の行動規範とし、新技術を多数開発することで発展してきた。
現在は、トナー事業、電子材料事業、機能紙事業、セキュリティメディア事業、新規開発事業を主な事業分野として展開している。2022年3月期における売上高構成比はトナー事業37.5%、電子材料事業18.7%、機能紙事業31.1%、セキュリティメディア事業12.0%、新規開発事業0.3%、その他の事業0.4%となっている。一方、営業利益はトナー事業60.4%、電子材料事業48.9%となっており、トナー事業と電子材料事業が2本柱となっている。なお新規開発事業は、事業部に移管する前の開発活動と試作試験段階の製品の利益を計上するため営業損失となっており、同事業分野で大きな利益を獲得することは意図していない。
同社グループとして1,307名(2022年3月期末)の従業員を有するが、トナー事業が458名と全体の35%を占め、電子材料事業が243名、機能紙事業が330名、セキュリティメディア事業が129名、新規開発事業が37名という構成になっている。また製造拠点は、同社及び子会社が集中する静岡県が中心になっているほか、セキュリティメディア事業は昌栄印刷(株)の大阪及び川崎工場、反射防止フィルムは(株)トッパンTOMOEGAWAオプティカルフィルムの滋賀及び静岡工場で製造している。海外にも製造の拠点を持っており、中国2工場でトナー、インドで絶縁紙の製造を行う。
トナー事業と電子材料事業が収益の2本柱担う
2. 事業内容
現在、トナー事業、電子材料事業、機能紙事業、セキュリティメディア事業、新規開発事業の5事業を主な事業分野として活動している。
(1) トナー事業
トナー事業は、同社において最大の売上高、利益を稼ぎ出している。複合機・プリンター用トナー、粉体関連製品等の化成品を事務機器メーカー、複合機メーカー等へ販売している。
同社のトナー事業の歴史は古く、1963年から本格的な開発が行われ、1965年にはオフセットマスター用の乾式トナーとして上市した。その後1970年には湿式トナーの生産も開始、1972年には専用工場を建設、売上を急拡大させた。また同時期に旧 富士ゼロックスが開発したPPC(プレーンペーパーコピー:普通紙コピー機)については国内複写機メーカーも発売を始めたことから1973年にPPC用乾式トナーを開発、1974年には3M社に次いで2番目となるトナーも投入し、トナー事業は拡大した。1981年には米国でのトナー生産も開始した。また、コンピュータ普及とともにLBPの普及が本格化したためLBP用トナーも商品化し、デジタル化やカラー化など多機能な複合機普及の進展などで市場が拡大した。大手PPCメーカーやLBPメーカーがトナーの内製化も進めるなかで、同社は独立系トナーメーカーとして成長を続けた。2005年には中国広東省、2011年には江西省に製造拠点を設け、グローバルに事業展開してきた。
トナー事業の世界シェアでは事務機大手のキヤノン<7751>、リコー<7752>、コニカミノルタ<4902>、富士フイルムビジネスイノベーション(株)(旧 富士ゼロックス)などの内製メーカーが上位を占めるものの、同社は独立系としてトップのスケールを有し、世界シェアで6%程度を確保していると言う。
ただし近年は、中国企業などの台頭、世界的なペーパーレス化の進展によるプリンター・複合機などハードの成熟化などにより事業が成熟している。同社は、今後収益性を確保するために生産能力の適正化、適切な稼働率の確保を目指し、2020年9月にモノクロトナー事業を行う米国工場の閉鎖を行った。事業として高品質な製品を適正な価格で日中3工場からタイムリーに提供する体制を整え、一部でトナー事業から撤退する企業があるなかでシェアアップも目指し、安定的な収益を稼ぎ出す事業として運営する方向にある。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 岡本 弘)
<EY>
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