トラストテック Research Memo(5):新中期経営計画を発表。営業利益100億円の早期達成を目指す
1. 新中期経営計画の概要
トラスト・テック<2154>は2018年6月期決算の発表に際して、新たに2019年6月期−2021年6月期の新3ヶ年中期経営計画(ローリング中期経営計画)を発表した。
今回の中期経営計画の特徴は、中期的な業績計画値として「営業利益100億円」という数値を明示した点だ。従来は売上高、営業利益の目標とする成長スピード(増収率・増益率)を掲げるにとどまっていた。
具体的成長戦略はこれまでの中期経営計画と基本的には同じだ。すなわち、地域と領域の2つの軸により、それぞれの軸で拡大を図って同社の独自ポジションを確立し、高成長を継続するというものだ。新中期経営計画は、一見すると目新しさがないように見えるが、数値目標がより具体的かつ詳細に掲げられていることと、その実現に向けて様々なところでブラッシュアップされ、また、布石が打たれている点で、新中期経営計画は前中期経営計画の正常進化バージョンということができるだろう。
詳細は事業領域別に後述するが、国内では特に技術者派遣の領域の拡大が大きなポイントとなる。言うまでもなくIT・ソフトの領域での事業拡大だ。海外のうち成熟国市場では、英国で製造者派遣の事業基盤を確立したことを受けて“次”の展開が注目点だが、M&Aの活用がベースにあるため、具体的なことを予測するのは難しい。海外未成熟市場であるアジアについては、現地子会社については人材紹介業に留める一方中国では合弁企業によって派遣事業に進出するなど、リスク低減に心を砕きつつ“種まき”を行ってきたが、今後は刈り取りに向けて一段ステージアップとなる。
今回同社が明らかにした業績目標は、営業利益100億円というものだ。同社はこれまでどおり、目標とする成長スピードも示しており、そこでは「営業利益は年率20%以上の増加」が掲げられている。2019年6月期の予想営業利益60億円を起点に計算すると、2022年6月期には100億円を突破する(60億円×(1.2)の3乗=103億円)計算だ。同社はこれを前倒しで実現することを目指している。
なお、売上高については明示されていないが、2019年6月期予想の営業利益率7.3%を当てはめると、営業利益100億円の時点では約1,370億円となる。別なアプローチとして、2019年6月期予想の820億円をベースに、同社が目標と掲げる年率20%の成長が3年間続くと約1,417億円となる。これらから察するに、1,400億円前後が売上高のターゲットと言えそうだ。技術系領域、海外領域での利益率改善を織り込めば営業利益100億円の所要売上高は1,200億円程度に減少する可能性もある。
技術者数の拡大が最大の成長ドライバー。単価アップとIT領域の拡大を推進力に、技術者数10,000人体制と営業利益率15%を目指す
2. 技術系領域の中期成長戦略
技術系領域の成長戦略について同社は、同社グループの成長の主軸という位置付けのもと、経営資源を集中投資し、高成長率の維持と利益率の向上を目指すとしている。
その上で、具体的戦術として、投資という点では1)新卒・中途・海外と全領域における採用拡大と、2)エンジニア価値・業務高度化に向けたAI・RPAの活用、3)新規M&A、の3点を挙げている。数値的には、稼働エンジニア数10,000名、営業利益率15%を計数目標として掲げている。
(1) 技術者数からのアプローチ
同社の四半期毎の期末技術者数と売上高について、前四半期比伸び率を比較すると両者の間には明確な相関がみられる。すなわち、技術系領域の収益成長は、主として技術者の数によってドライブ(けん引)されているということだ。したがって、同社が技術系領域の成長戦略の具体策として採用拡大を掲げたことは、極めて説得力があると言える。
後述する人員の増加目標値からは、同社の年平均の人員増加率を20%前後に設定していると読み取れる。したがって、売上高についても20%~25%の平均成長率を想定しているものと弊社では推定している。
技術者の具体的人数については10,000人の中期目標を掲げているが、当面は2019年6月末の6,600人という計画の達成が注目される。これは2018年6月末の5,209名から約1,400名の増加ということだ。これに向けて同社は、新卒と中途採用双方の拡大で臨む方針だ。中途採用については2019年6月期の上半期から採用拡大に向けて取り組みをスタートさせており、これまでの採用ペースから20%~30%程度、ペースを引き上げて中途採用活動をおこなっている。それを実行するための採用担当者等の陣容も拡大済みだ。新卒については、同社本体と技術系領域の2つのグループ会社(トラスト・ネクストソリューションズ、トラスト・アイパワーズ)合計で700名の新卒を採用する計画だ。ただし新卒者は入社時期が2019年4月となるため、収益貢献は期末からとなり、実質的には来期からということになる。
(2) 単価面からのアプローチ
収益性に関しては営業利益率15%を目標に掲げている※。これに向けては、派遣単価の上昇が大きなカギを握るが、これについて同社は2つの面からアプローチする方針だ。1つは需給バランスに基づく単価上昇で、現在起きているのはこれだ。顧客によってコストプッシュ型とディマンドプル型とタイプが分かれるが、共通していることは技術者のニーズが非常に強いということだ。この状況が今後も継続するとは断言できないが、そうした状況を長持ちさせる工夫は可能だ。それが後述する領域の拡大だ。
※これは同社本体を含む技術系領域3社の単独ベース営業利益率の平均値。事業セグメントの営業利益率とは必ずしも一致しない。
もう1つは、同社が従来から進めている、技術者一人ひとりの保有スキルと市場価値の把握と評価を進め、顧客のニーズ及び単価とのベストマッチングの取り組みだ。需給タイトの技術者派遣といえども、単価上昇は派遣先の異動の際など、場面が限られる。その際に、単価上昇効果を最大化するための取り組みがこれだ。これには一定の時間がかかることもあり、改善余地はまだまだ大きい状況だ。
一方で同社は、単価上昇を社員の処遇改善にも反映させていく方針だ。前述のように技術者数の拡大が成長戦略の要であり、そこを着実に実現するためにも同社と社員とがWin-Winの関係となる状況を創出することにも意を注ぐということだ。社員に対して、待遇も含めたより良い環境を提供することは今中期経営計画の大きなテーマとなっている。
(3) 事業領域面からのアプローチ
事業領域については、IT・ソフト領域での事業拡大が引き続き大きなカギを握るとみられる。IT・ソフト領域での拡大は前中期経営計画でも取り組んだテーマで、その結果、同領域の売上高は2019年6月期予想ベースで100億円規模(IT・ソフト領域での事業を担うトラスト・ネクストソリューションズとトラスト・アイパワーズの売上高の合計)にまで拡大してきている。同社本体は自動車産業を中心にモノづくり系の企業を顧客としているが、その自動車業界にあっても、自動運転やコネクティッドカーに象徴されるように、内容的にはIT・ソフト領域にかかる業務が最も伸びている。同社では子会社2社と同社本体も合わせたIT・ソフト領域の売上規模を早期に倍増させることを目指している。
この実現に向けた体制整備は2018年6月期中に完了させている。2017年3月に子会社化したフュージョンアイは、SI、ソフト開発、システムの保守・運用に強みを持っていたため、2018年1月には同社グループのSI系事業をフュージョンアイに統合するとともに、社名をトラスト・アイパワーズに変更した。また、2015年7月に子会社化したフリーダムは、制御系ソフトウェア(いわゆる組込みソフト)の開発、設計支援に強みを有しているが、これも2018年4月に、その子会社群を統合した上で社名をトラスト・ネクストソリューションズへと変更した。技術系領域において、同社本体を含めた3つの企業が、それぞれの特長・強みを生かして独自の業容拡大とグループとしての協業を適宜使い分けながら、グループとしての成長目標の実現を目指していく方針だ。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川裕之)
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