ウォール街を知るハッチの独り言 ペルシャ式のおもてなし?イランの銀行でお金をもらった話(岡元 兵八郎)
そのなかから今回は、同証券のチーフ・外国株コンサルタント、『ハッチ』こと岡元兵八郎氏のコラム「ウォール街を知るハッチの独り言」の内容をご紹介いたします。
私はこれまで世界80ヵ国を訪れたことがあるのですが、この話になるとどこの国が一番良かったかとよく聞かれます。全ての国にはそれぞれ特徴があり、私は皆良かったと答えるのですが、そんな曖昧な答えでは満足してくれず、許してくれない人の場合には「イラン」と答えています。
イランは特に行ってみたいと思っていた国の一つでした。他の中東のアラブ諸国は何度も訪れたことがあるのですが、ペルシャ文化の発生地であるイランは米国との関係が良くないこともあり、訪れるのは躊躇していたのでした。一方で、自分は日本人なのだから関係ないだろうと思い行ってみることにしました。2013年のことです。
イランへの入り口であるテヘランの空港に着くと、別に悪いことをしていた訳ではないのですが、入国管理の手続きの際不必要に緊張したことを覚えています。スパイ映画の見過ぎかもしれません。2週間をかけて、テヘランから地方都市を観光しながら回ったのですが、このコラムで観光の話だけをするわけにもいきませんので、少しお金に絡む話をします。
私の場合、職業柄、新しい国へ行くと証券取引所を訪れるのを恒例としています。
イランにも株式市場があり、テヘラン証券取引所が存在するのです。イランの経済規模はそもそも決して小さくはなく、株式市場も中東地域ではそれなりの大きさです。
イラン人のガイドに頼み連れて行ってもらったのですが、彼女も普段は世界遺産に連れて行ってくれという外国人を相手にしているなか、証券取引所に行きたいという観光客は初めてだったようで、苦労して証券取引所を探し出してくれました。
今や世界的な流れなのですが、当時すでにイランの証券取引所は電子取引に移行しており、取引所で人の姿をみることはできませんでした。いるのは、訪問者向けのエリアにて、ボードの株価を眺めながらノートPCで株式の取引をしているイラン人の個人投資家達でした。今や新興国であっても大抵の国では、ネットでの株式投資ができるようになっています。
趣味というと聞こえが悪いのですが、実は私はお金を集めるのが趣味の一つです。正確に言いますと、集めるのは外国の通貨です。切手収集と同じ感覚です。初めて訪ねる国に行った際にはその国で使われている紙幣を記念に集めるようになりました。ただ、せっかくなので市中に出回っている使い古されたお札でなく、ピン札を探すのです。どこで手に入れるかというと、当たり前ですが銀行です。 大きな支店であれば、大抵の場合、ピン札がおいてあります。しかもデノミネーションの関係で、1枚当たりのお札の値段は安いので、入手できるのであれば私は100枚単位で買い求めるのです。新しく発行される記念切手を郵便局で1シート買い求めるのと同じ感覚です。別に将来的に両替商をやろうと思っている訳ではありません。
テヘランでもイランのピン札紙幣を探すべく通訳ガイドにその旨を説明し、近くの銀行の支店に連れて行ってもらいました。通訳の彼女も、両替をしたいという依頼は普通にうけるものの、「新札を買いたい」というリクエストは今までなかったそうです。訪れた銀行では、「うちでは置いてないが、別の銀行の大きな支店が近くにあるからそちらに行ってみてはどうか」と言われました。
言われた通り次の銀行に行ってみると担当のカウンターに連れて行かれまして、通訳を通じて新札が欲しい旨を説明すると、その担当者の男性は同僚にペルシャ語でやり取りをした後のこと、引き出しからイランのコイン1枚を取り出して私に渡してくれたのです。お前の欲しい新札紙幣の束はないが、このコインをお土産にあげるから持っていけというのです。 その引き出しから取り出したお金は、銀行からのものなのか、彼のポケットマネーなのか不明なのですが(日本の銀行であれば、個人のお金は職場の引き出しの中には入れてない為)、銀行で「お金をもらう」という初めての体験でした。そのイラン人の銀行員の好意に感謝しながら銀行を後にしました。
その後私が探していたイランのピン札紙幣100枚の束はと言いますと、古びた骨とう品を扱っているお店の店頭で探し出し購入することができました。
些細な話のように思えるかもしれません。ただ、金額の問題ではなく気持ちの問題として、いまだに私の記憶に鮮明に残っている貴重な体験の一つとなっています。
マネックス証券 チーフ・外国株コンサルタント 岡元 兵八郎
(出所:10/11配信のマネックス証券「メールマガジン新潮流」より、抜粋)
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