ポストコロナ時代の社会や暮らしの変化が順位に影響
~今年は新たに「金融」分野も評価し、国際金融都市としての東京の立ち位置を分析~
東京--(BUSINESS WIRE)--(ビジネスワイヤ) --一般財団法人森記念財団 都市戦略研究所(所長:竹中平蔵)が2008年より調査・発表している、「世界の都市総合力ランキング(Global Power City Index)」の2023年版(以下、GPCI-2023)がまとまり、パンデミックや為替変動など、社会経済情勢の変化が著しかったポストコロナ時代に影響を特に受けた社会や暮らしの指標(航空ネットワーク・生活コスト・賃金・働き方など)が、都市の総合力を構成する6分野(経済、研究・開発、文化・交流、居住、環境、交通アクセス)のランキング結果に色濃く反映される結果となった。さらに、今年初の試みである「世界の都市総合力ランキング 金融センター(GPCI-Financial Centers)」では、世界の都市の国際金融センターとしての競争力を複眼的に評価し、それぞれの特徴や強み・弱みが明らかにされた。
GPCI-2023:トップ5都市の順位に変動は無し 3位東京は総合スコアを落とす
1位 ロンドン、2位 ニューヨーク、3位 東京、4位 パリ、5位 シンガポールというトップ5都市の順位に変化はなく、特にスコアが僅差である東京(#3)とパリ(#4)は共にスコアを落としたことで逆転は起きなかった。今年初めてトップ10都市に加わったドバイは、国際博覧会や早急な渡航規制解除などが後押しし、GPCI-2019から毎年着実にその力を高めている。一方、昨年10位だった上海は、コロナの水際対策が長引いたことが影響し、トップ10から外れた。
東京(#3)は「経済」、パリ(#4)は「交通・アクセス」で順位を落とし、両都市ともに停滞
東京は、「居住」で大きく順位を伸ばした一方、「経済」では過去最低となる10位に下落した(次項参照)。 パリは、「交通・アクセス」における「自動車の移動速度」、すなわち都市内の渋滞状況の評価を落とした。人が都市部に戻り始めてきたことが要因と推測される。
躍進したロンドン(#1)、シンガポール(#5)、ドバイ(#8)の共通点は「文化・交流」と「交通・アクセス」の成長
上記3都市の特徴は、「外国人訪問者」「国内・国際線旅客数」の伸びに加えて、3都市ともに「文化交流」の「ハイクラスホテル客室数」の順位が特に高く、国内外観光客、特に富裕層の受入れ体制が整っていると推測される。「交通・アクセス」では「国際直行便就航都市数」も順位が高く、直行便でのアクセスの良さがうかがえる。
勢いを落としたニューヨーク(#2)、ベルリン(#10)、上海(#15)
ニューヨークは「居住」「環境」でスコアを落とした。特にスコアを落としたのが「小売店舗の多さ」、「飲食店の多さ」、「都市空間の清潔さ」など、生活利便性や街路の清掃状況に関わる指標である。ベルリンは「経済」で順位を落とし、特に「優秀な人材確保の容易性」「ワークプレイス充実度」などのビジネス環境面での競争力が低下した。上海は、昨年トップの「交通・アクセス」で大きく順位が落ちた。特に、中国の長期化した感染症への水際対策が影響し「国内・国際線旅客数」で大きくスコアを落とした。
GPCI-2023:6分野別でみる東京のスコア変動の要因
「経済」: 「優秀な人材確保の容易性」「GDP成長率」など、例年の課題が改善されず、10位に順位を落とす
GPCI-2016時点では1位だった東京の「経済」が10位に下がった要因の一つは、「GDP」(2位)「世界トップ500企業」(2位)が強い一方、「GDP成長率」(47位)、「優秀な人材確保の容易性」(40位)、「法人税率の低さ」(43位)など、例年の課題が改善されない点である。さらに今年は「賃金水準の高さ」(29位)や、コワーキングスペース数やインターネット速度で測る「ワークプレイス充実度」(22位)でも順位を落としたことが要因となった。
「研究・開発」: 「スタートアップ数」「世界トップ大学」など、新たなビジネス創出に繋がる環境整備・人材育成が急務
「研究・開発」では4位を維持したが、ニューヨークやロンドンとの差は埋まらなかった。指標別では東京の特徴は例年変わらず、「特許登録件数」(1位)が強い一方、「世界トップ大学」(22位)、「留学生数」(34位)が弱点である。さらに「スタートアップ数」(9位)では、ニューヨーク、ロンドンとの差が広がった。
「文化・交流」: 「観光地の充実度」や「ハイクラスホテル客室」の低評価が影響し、トップ都市と差が開く
「文化・交流」では、「ホテル客室数」(1位)や「食事の魅力」(1位)が強いものの、「観光地の充実度」(17位)、「ナイトライフ充実度」(30位)、「ハイクラスホテル客室数」(20位)が弱い点が、ロンドン、ニューヨーク、パリに追いつけない要因となっている。
「居住」: 「物価水準の低さ」「飲食店の多さ」など、生活コストが安く利便性の高い都市として、過去最高順位に
3位に上がった「居住」では、為替変動の影響を受け、生活コストが安い都市として「住宅賃料水準の低さ」(20位)、「物価水準の低さ」(24位)の順位の上昇に加え、「小売店舗の多さ」(4位)、「飲食店の多さ」(5位)など生活利便施設の多さが強みとなった。さらなる向上のためには、「ICT環境の充実度」(28位)や「社会の自由度・平等さ」(29位)など、社会的側面の指標の改善が必要。
「環境」: 「環境への取り組み」をはじめとした、環境問題に対する目標の高さが影響し、順位を落とす
順位を落とした「環境」の要因は、都市の気候変動イニシアティブへの参画数や、CO2排出目標率の高さで競争力が低下したことで、「環境への取り組み」(15位)や、「都市空間の清潔さ」(10位)で順位が低下した点である。
「交通・アクセス」: 「公共交通機関利用率」で高順位を維持する一方、直行便など空路の利便性に課題が残る
「国内・国際線旅客数」や「タクシー・自転車での移動のしやすさ」でスコアを上げたことや、東京の強みである「駅密度」(5位)や、「公共交通機関利用率」(1位)の高順位を維持し、順位が高まった。一方、「国際線直行便就航都市数」(27位)や「空港アクセス時間の短さ」(29位)など、海外から訪れる際の交通利便性は、改善余地がある。
GPCI-2023:東京が都市力を高める鍵は、新たなビジネスや価値の創造を支える環境整備と人材育成
東京は既存の経済規模の大きさや経済集積は強い一方、大学機関や留学生、スタートアップの弱みなど、新たなビジネスや価値の創造につながる産官学連携、スタートアップ支援、人材育成・誘致が課題である。
加えて、優秀な人材が集まるような環境を整備するためには、ワークプレイスやICTなど労働環境の整備にとどまらず、ダイバーシティ社会の推進や、外国からの交通利便性の向上、観光地の魅力向上やナイトライフエコノミーの成長といった文化的側面など、GPCIの6分野すべてを包括したアプローチを行うことが重要となる。
GPCI-2023:ポストコロナ時代におけるトップ都市の変化
パンデミック、為替変動など、社会経済情勢がこの数年で大きく変化したが、一個人や一企業に留まらず、都市にも多大なる影響を及ぼしている。その一例として、GPCI全70指標およびアンケートで取得しているデータのうち、2019と直近のデータで比較可能な指標を選定し、総合ランキングのトップ5都市におけるデータの変化を表した。
「国内・国際線旅客数」: 航空ネットワークは、トップ5都市ともにパンデミック以前の水準まで戻らず
2022年時点での「国内・国際線旅客数」は、トップ5都市ともに2019年の水準まで達しておらず、特に東京の国際線旅客数の回復率は低い。GPCI全都市でこの傾向がみられ、2019年時点より旅客数が増えたのは48都市中カイロのみである。国際的な紛争、燃料高に加え、働き手不足、脱炭素などの社会背景を受け、都市間の航空人流は未だに停滞している。
「物価水準の低さ」「賃金水準の高さ」: 為替変動により、生活コストや賃金水準の増減が、都市によって分かれる
「物価水準の低さ」では、東京やパリはGPCI-2019時より物価が相対的に下がった。一方で、ニューヨークやシンガポールのように物価の上昇が著しい都市では、居住分野における順位を下げる要因となっている。
一方、「賃金水準の高さ」では、ニューヨーク、シンガポール、ロンドンが上昇した中で、東京は相対的に下落し、トップ5都市の中で最も低い賃金水準にまで落ちてしまった。
「通勤・通学時間の短さ」: 東京は通学・通勤時間が増加 通勤頻度はトップ5都市ともにパンデミック前より少ない
「通勤・通学時間の短さ」では2019年から大半の都市において減少する中、東京は増加した。
「通勤頻度」では、トップ5都市いずれも減少がみられた。東京は未だにパンデミック前の水準まで達しておらず、9割程度の通勤頻度にとどまっている。
世界の都市総合力ランキング - 金融センター(GPCI-Financial Centers)
金融業界の急速な拡大と国際化に伴い、都市間の競争が激化し、国際的な金融センターとしての地位を維持または向上させるための施策の重要性がますます高まっている。そこで、世界の都市総合力ランキング(GPCI)の70指標で構成される6分野(経済、研究・開発、文化・交流、居住、環境、交通・アクセス)に、4指標グループ14指標で構成される「金融」分野を加えた合計7分野で、国際金融センターとしての競争力を複眼的に評価し、順位を付けた。
金融分野ランキングを含めた「総合+金融ランキング」では1位ニューヨーク、2位ロンドン、3位東京
「金融」分野はニューヨークとロンドンが突出して高く、次いで東京、北京、上海といったアジア都市がトップ5にランクインする結果となった。上位3都市の金融センターとしての特徴は以下の通りである。
ニューヨークは金融商品市場、金融仲介機能、外国為替・金利市場、高度専門人材の全ての指標グループにおいて高評価を得ており、「上場株式時価総額」、「株式市場売買代金」、「世界トップアセットマネージャー」、「国際弁護士事務所」の4指標で1位を獲得している。
ロンドンは、外国為替・金利市場の「外国為替取引高」および「金利デリバティブ取引高」の両指標で1位を獲得しており、際立った強みを有していることが分かる。また、高度専門人材でも2位を獲得したことで、金融分野ではニューヨークに次ぐ評価を得た。
金融センターとしての東京の強み・弱み
金融分野でニューヨーク、ロンドンに次ぐ3位の東京は、金融仲介機能が強みであり、特に「大手保険会社本店」、「世界トップ年金ファンド」の2指標でトップを獲得した。また、1位のニューヨークとは大きなスコア差があるものの、「上場株式時価総額」、「株式市場売買代金」もそれぞれ3位および4位と高順位に位置している。
一方で、金融分野のトップ2都市との差を縮めるためには、金融仲介機能以外、とりわけ高度専門人材の評価を高めることが求められる。
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