新型コロナにより、日常の変化をまさに体感している私たち。この変化の一部は新しい日常となり、全くの元通りになることはないだろうと、多くの人が思っているのではないでしょうか。国際化により、遠くの国で起きたできごとが、日本の一企業に影響を及ぼすようになった近年。感染症だけでなく、技術革新、災害など、これからもあらゆる変化が我々を取り巻くでしょう。変動するニューノーマル時代を生き抜く組織となるために、どうすればいいのか。今回は心理的安全性を取り上げます。
心理的安全性とは
注目度が高まっている「心理的安全性」ですが、説明しろと言われると戸惑ってしまうものです。
アットホームや仲のいいチームとは違う、《心理的》な安全性とはどのような考えなのでしょうか。
ストレス影響の方程式
心理的安全性の解説の前に、なぜ今、心理的安全性が重要になるのか確認しましょう。
ストレスとは、外部からの刺激(ストレス要因)を受けた時に生じる、心や体の緊張状態のことです。そしてストレスの影響度合は下のように決まります。
≪ストレスの影響=そのストレスの強度×持続時間×頻度×変化の大きさ≫
変化がストレスの影響に大きく関わっていることがわかります。また、ストレス影響の一因子となる「変化」は、希望する部署への配属、昇格、結婚といった良い変化であってもストレスの因子になる点がポイントです。悪いこと、良いことを含めて「変化の重なり」があるときはメンタルダウンのリスクが高まるのです。新型コロナの影響で日々の生活、家族との過ごし方、働き方、たくさんの変化が重なっている状況は、強いストレスを受けていると言えます。
googleの再発見で認知度を上げた心理的安全性
Googleのピープルアナリティクスチームが社内で効果的なチームの特徴を明らかにするためにおこなった「プロジェクト・アリストテレス」で、チームを成功に導く5つの要素を定義しています。この中で1番重要であり基礎とされているのが心理的安全性です。
また、Googleは以下のように心理的安全性を説明しています。
「心理的安全性とは、対人関係においてリスクある行動を取ったときの結果に対する個人の認知の仕方、つまり、「無知、無能、ネガティブ、邪魔だと思われる可能性のある行動をしても、このチームなら大丈夫だ」と信じられるかどうかを意味します。心理的安全性の高いチームのメンバーは、他のメンバーに対してリスクを取ることに不安を感じていません。自分の過ちを認めたり、質問をしたり、新しいアイデアを披露したりしても、誰も自分を馬鹿にしたり罰したりしないと信じられる余地があります」(Google re:workより)
エドモンドソンの定義
心理的安全性という言葉を最初に提唱したのは、リーダーシップ・組織学習の研究者エイミー・C・エドモンドソンです。エドモンドソンは、論文「心理的安全とアカウンタビリティは両立する 「恐怖」は学習意欲を阻害する」(DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー 2008年10月号)で心理的安全性を「だれかに助けを求めたり、ミスを認めたりしたからといって、罰が科されることはないと保証することである」としています。「これを言ったら裏で非難されそうだ」「もし失敗したら仕事ができないやつと思われそうだからやめておこう」そんなふうに他者の反応におびえたり、羞恥心を感じたりしていては、発言や行動が制限されてしまいます。誰もが安心して振る舞うことができる環境こそ、心理的安全性のある環境と言えるでしょう
業務責任と心理的安全性
また、心理的安全性というと、アットホームな雰囲気で風通しの良い環境と誤解されている人もいますが、これだけでは心理的安全性がある環境とは言えません。エドモンドソンは研究で、「心理的安全性が高いと、仕事に責任を持たせるのが難しいのではないか?」という意見を完全に否定しています。心理的安全性と業務の責任は対局にあるものではなく、両立できるものと定義しているのです。つまり心理的安全性と業務責任は異なる特性であるため、トレードオフの関係ではなく、両立することもどちらも成り立たないこともあるのです。
生産性低下や離職率増加をくい止める心理的安全性
変化に耐えうる強固な組織をつくるのに、絶対的に必要なのが「心理的安全性」です。変化がストレスになるのは個人に限ったことではありません。組織にとっても社会情勢の変化やビジネススピードの加速は、ストレスとなります。変化が発生しストレスがかかると、生産性低下や働きやすさの低下(離職率の増加)を引き起こします。ここで重要なポイントとなるのが組織のココロの動きを理解することです。ここからは変化発生時の組織のココロの動きをみていきましょう。
業務責任と心理的安全性の二軸で組織のココロを見る
先述したエドモンドソンは、「心理的安全性だけで成り立っている組織はなく、業務の責任という要素もふまえたうえで、その組織の傾向を知ることができる」としています。それを心理的安全性と責任の二軸を用いて表したのが以下の図です。(著者アレンジ)
- 冷淡ゾーン(思考放棄状態)
業務難易度も低く、精神的に安全とも思えない組織の状態。
- 不安ゾーン(プレッシャー状態)
安全を感じられない中で、業務難易度が高い状態。
- 安全ゾーン(一歩間違えるとぬるま湯状態)
安全を感じているが、業務難易度は低い。
- 熱心ゾーン(長期化するとしんどくなる状態)
安全を感じつつも業務難易度が高い。
一見すると④熱心ゾーンが理想のように感じますが、常にこの状態では精神的な疲労が蓄積してしまいます。心身コンディション的には③安心と④熱心を行き来できるのが理想的です。
変化発生時の組織のココロ
しかし、組織に何かしらの変化が生じた場合、組織のココロは右下の不安ゾーンに落ちてしまいます。変化=新しいことに取り組むことで、業務難易度が上がり、「やったことがない」「できるかわからない」という不安から心理的安全性もさがります。組織のココロに不安感が発生するのです。その後、時間の経過とともに新しい業務への適応がすすみ、熱心ゾーンへ移行。さらに業務に慣れ難易度が下がって安心ゾーンへ。組織が(良いものであれ)変化を体験するとき、このような「痛み」を伴うのです。
アジャイル環境の罠 過度な変化がもたらすもの
変動の激しい社会に順応できる柔軟な組織運営をしようと「アジャイル組織」がトレンドになっています。アジャイル(agile)は「素早い」「俊敏な」という意味の英単語で、小単位で開発を繰り返すソフトウェア開発手法から派生し、迅速且つ柔軟に対応することをアジャイル〇〇と呼んでいます。まさに今、そしてこれからの世に求められる環境ですが、変化が頻繁に訪れることで、業務に慣れ、難易度が下がる時間が不足し、安心ゾーンへの回帰が難しくなります。結果、緊張状態の継続で不安から抜け出せない状態になってしまうのです。
変化ストレスで発生する組織の不安をどう防ぐ?
組織が変化、成長するためには「痛みが伴う」ことがわかりました。変化や成長を避けられない以上、この痛みをどうやわらげるかが肝心です。不安ゾーンを遠ざける方法にはどのようなものがあるのでしょうか。
心理的安全性を底上げする
変化発生時に不安ゾーンに深く陥らないためには、精神エネルギーを上げる必要があります。そのためには基本となる心理的安全性が必要です。1on1、ラインケアなどの精神サポートをうまく活用していきましょう。管理職側はまず部下の感情に関心を持って関係性を構築してみてください。1on1では失敗も含め自然体の自分を見せられる環境をつくり、心理的安全性を育てていきます。管理者本人が安心して面談に臨むことも大切でしょう。
メンタルタフネスな組織を育てる
近年、あらゆる研究で、健康な体づくりがメンタルにも良い作用をすることが明らかになっています。健康的な生活と言えば、規則正しい生活リズム、運動、禁煙、健康的な食事など、「正解」は誰もがわかっています。しかし、実践となると話は別。健康的な生活ができていると自信を持って言える人は少ないでしょう。そこで、今多くの企業に採用されているのが健康経営です。社員の健康が変化にも強い組織づくりや生産性向上に欠かせないことから、健康投資を成長戦略のひとつとして取り入れているのです。健康経営はラインケアにもなり、ひとりひとりが健康向上により組織のメンタルタフネスにも貢献するでしょう。
健康経営について詳しく知りたい方はこちら↓
健康経営とは?メリットや導入ステップをわかりやすく解説!
マインドフルネス研修でストレス耐性&パフォーマンスUP
「プロジェクト・アリストテレス」 を行っているGoogleでは、社内の研修や会議前など日常的にマインドフルネスを取り入れているそうです。マインドフルネスはメンタルの安定や仕事パフォーマンスの向上に役立つ取り組みとして注目を集めており、Googleだけでなく、Facebookやintelなど世界的企業で採用されています。
疲労回復専門ジムGEROGYMを運営するビジネスライフではマインドフルネス研修を行っており、脱力を促す運動や誘導音声を取り入れたオリジナルプログラムが瞑想初心者にも取り組みやすいと、ご好評いただいています。判断力、集中力、記憶力などの低下をおこす脳疲労の改善にもマインドフルネスが期待できます。変化ストレスに強い組織づくりに、マインドフルネス研修をお役立てください。
また、ビジネスライフではオンラインライブレッスンなどGEROGYMのプログラムを生かしたコンテンツをはじめ、多様なニーズにお応えするソリューションをご用意しています。企業様のニーズに合ったサービスをご提案しておりますので、ぜひお気軽にお問合せください。
ニューノーマル対応の健康経営支援サービス Active Health for Office
まとめ~心理的安全性を武器に~
社会全体が不安定な今、企業や組織をどう変えていくべきか、何をすべきなのか、悩んでいる経営層は多いことでしょう。どんな判断をするにせよ、変化はつきものです。そしてそれはこれからも続いていきます。心理的安全性は組織風土であり、一朝一夕に成せるものでも、お金で買えるものでもありません。しかし、この文化はひとりひとりに活力を与え、自主性をもたらすものです。vucaな世界を生き抜き、会社や組織が発展していくうえで、欠かせない糧となるでしょう。
(参考)
組織の働き方を「変える・変えない・先延ばす」さてどうする?(amazon)