BSI ネットゼロ・バロメーターレポート 2023
BSIが発表した調査レポートによれば、英国の中小企業(SME)間で排出ガス削減の重要性とそれが事業拡大の機会となることへの認識が過去の調査データの3倍に上昇する一方で、コスト増やネットゼロ達成までの道筋の不明確さから、持続可能な世界の実現に向けた取り組みが抑制されているとしています。
画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/359240/LL_img_359240_1.jpg
BSI ネットゼロ・バロメーターレポート 2023
英国の国家規格協会であるBSIは2023年5月3日、3回目となる「ネットゼロ・バロメーター」年次調査レポート(以下、当調査)を発表しました。面談形式で実施される当調査は、英国中小企業の意思決定権を持つ経営幹部1,000名と英国内の消費者1,000名を対象に行われました。調査の結果、ネットゼロにおける目標達成の重要性を認識する回答者の割合は2年前の調査のおよそ3倍となり(*1)、企業や組織がサプライチェーン上にある企業と連携して取り組みを進めることのできる大きなチャンスがあることが示されました。
多くの中小企業がネットゼロを推進する大きな理由としてコストメリットを上げていることから、当調査ではネットゼロにおける目標達成を目的として協力する企業には競争上のアドバンテージが生まれることも示しています。
しかし実際には、ネットゼロ達成に向けた道筋について「非常に自信がある」と答えたのは中小企業幹部の3分の1に留まり(*2)、より明確な指針を提示する必要性が示されました。当調査では中小企業幹部ができる取り組みとして以下を提言しています。
・脱炭素化を商機と捉える企業文化への転換を図り、ネットゼロ・ガイドラインおよびその他の規格に基づいた取り組みの成果の測定と行動を重視する戦略を掲げましょう。
・取り組みの明確なロードマップを提示しましょう。現在、ネットゼロ達成に向けた取り組みの進捗度を何らかの標準化された手法で測定しているのは中小企業の20%に過ぎません。しかし短期的到達目標を掲げて共有することは消費者の信頼を獲得するうえで意義があると考えられます。
・他の企業や団体と連携してサステナブルなサプライチェーンを形成しましょう。中小企業幹部の3分の1は、サプライチェーンのサステナビリティの欠如が取り組みの大きな障壁になっていると回答しています。
・ネットゼロがより多くの契約を獲得するうえでの重要な要件となっているため、信頼されるサプライチェーンパートナーになりましょう。
多くの中小企業はすでにゴミ排出量の削減(44%)やLED電球への切替(38%)といった取り組みやすい目標をいくつか達成しているものの、当調査は、戦略的思考についてはもっとやるべきことがあると指摘しています。今回の調査対象者の52%が自社でネットゼロ方針を設定していると回答する一方で、全体の17%(英国全体では929,900社強に相当)(*3)の経営者は、自社のサステナビリティを高めるための主要な取り組みをまだ講じておらず、これらの企業はより踏み込んだ行動を起こさない限り目標達成できないおそれがあります。
中小企業は英国経済において2兆ポンド以上に貢献しており、ネットゼロへの転換において重要な役割を担っています。しかし世界的なパンデミックによる影響はやや落ち着いたとはいえ、現在の地政学的状況においては、コストが取り組みの重大な障壁となっています。今回の調査対象の3分の2近く(63%)が生活コストの危機が最も大きな抑制要因であると回答しており、エネルギー危機(50%)が続きます。また多くの回答者が追加の財政支援を求めており、過半数が、クリーンエネルギー補助制度(56%)や新規プロジェクト向け政府助成金(52%)が目標達成に有効だと回答しています。
進展を妨げるさまざまな障壁が指摘される一方で、消費者を対象とした調査では、4分の3(73%)が、環境保全の実績があり、ネットゼロ達成への現実的な取り組み姿勢を見せている企業から積極的に製品やサービスを購入したいと答えており、特にZ世代(*4)回答者の93%は気候変動問題に取り組んでいるブランドを支持したいと回答しています。価格に対して妥当な価値があるかどうかとインフレの影響が上位を占めるものの、回答者の48%が製品やサービスを購入するうえで環境面での配慮が選択要因の一つとなると答えています。
いま中小企業は、ネットゼロに向けた取り組みを進める経済的なメリットを強く認識するようになっています。今回の回答者の5分の2が取り組みの大きなメリットの一つとしてコスト削減を挙げており、また31%はネットゼロの推進は企業のイメージや評価を向上させるためプラスの効果があると考えています。同様に、自社の直接排出量削減だけでなくサプライチェーン企業を含めたスコープ3排出量削減も検討する企業が増えるなか、当調査は、他社に製品やサービスを供給するすべての企業にとって、「炭素会計」の透明性と明確性は契約獲得と利益向上のための有用な要素となりつつあることを示す結果となりました。
当調査は、環境に対する主張を検証することの重要性を強調しています。94%の消費者が、適切な検証を重視すると回答しています。そのうち3分の2が、環境成果の実証を重視する理由として企業が単に「グリーンウォッシング」(見せかけの環境配慮)をしていないことが確認できると答えており、また32%はベストプラクティス標準に基づく検証によって、企業同士を公正に比較する基準が得られると答えています。
当調査では以下のことも明らかになりました。
・回答した中小企業幹部のうち、ネットゼロ達成に向けた道筋について「自信がある」もしくは「非常に自信がある」と答えたのは全体の47%に留まりました。
・ネットゼロの意義を十分に認識し、気候変動法を真に理解していると答えた中小企業幹部の割合は、2年前の21%から倍増して43%となりました。
・ネットゼロにおける目標達成に向けた取り組みの一環として規格を購入した企業はそうでない企業に比べて達成の道筋について自信を持っており、規格を購入した企業の36%が「非常に自信がある」と回答しました。
・相当数の回答者が、顧客(29%)、従業員(25%)、クライアント(20%)、もしくは投資家(17%)からネットゼロ達成へのコミットメントを明確に示すようプレッシャーを受けたことがあると答えています。
BSI標準開発部門の最高責任者であるスコット・スティードマンは次のように述べています。
「本年のネットゼロ・バロメーターレポートは、将来に向けて希望の持てる結果を示すものだと思います。調査対象の企業幹部の82%が、サステナビリティとネットゼロの達成が事業経営において重要であると答えており、2050年までの脱炭素化実現に向けて企業のコミットメントが強化されています。またこれは長期的目標の達成に向けて、いま行動を起こすことの意義が明確に認識されつつある証だと考えます。」
「多くの中小企業経営者の関心事が経済的圧力で占められる中、それでも彼らは信頼でき、現実的な取り組みの道筋を描こうと努力しています。中小企業は、自らが現在取り組みのどの段階にあるのか、またこうした方針の転換が自社およびそのステークホルダーにとってどのような意義を持つのかを把握したいと願っています。これらの企業にとって、取り組みの明確なロードマップを設定することは、組織内のオペレーションだけでなくサプライチェーン全体でのネットゼロ達成に向けた活動を前進させる効果があります。今回のレポートは、標準規格の活用を含めた正しい指針を示すことで、中小企業はより意義のあるアクションを取ることができることを示したと言えるでしょう。」
「英国の中小企業は英国経済に2兆ポンド以上を貢献する重要な存在であり、国内の中小企業が一致団結してネットゼロ達成に向けて連携し、サステナブルな世界の実現に向けた取り組みを加速すれば、その影響は極めて大きなものとなるでしょう。」
BSIネットゼロ・バロメーターレポート2023年の全文はこちらからダウンロードいただけます。
https://www.bsigroup.com/en-GB/topics/sustainable-resilience/net-zero/NetZeroBarometer/
- 注記 -
※1:企業経営者の82%が、サステナビリティとネットゼロは「重要だと思う」と答えており、2021年の調査で「会社には直接炭素排出量を排除もしくは抑制する責任があると思う」と答えたのが10人中3人だったのに比べると大幅な改善が見られます。
※2:リーダーに自信があるか、非常に自信があるかを質問した。
※3:英国政府「イギリスと地方のビジネス人口推計2022年版」より
※4:1990年代後半から2010年代後半までに生まれた世代を指す
■報道関係者の皆様へ
英国の中小企業がネットゼロへの移行をどのように管理しているかを分析するために、BSIは代表的なデータサンプルを得ることを目的とした独立調査をPerspectus Globalに依頼しました。今回が3回目の年次レポートとなります。
昨年版である「ネットゼロ・バロメーターレポート2022」はこちらからダウンロードいただけます。
https://www.bsigroup.com/globalassets/localfiles/en-gb/nsb/world-days/bsi_nzb_report_2022-final.pdf?utm_medium=website&utm_campaign=SM-NSB-LAU-NET-ZERO-BAROMETER-2204
■BSI(英国規格協会)とBSIグループジャパンについて
BSI(British Standards Institution:英国規格協会)は、1901年の設立以来、世界初の国家規格協会として、また、ISOの設立メンバーとして活動する規格策定のプロフェッショナルです。現在、193カ国で84,000組織以上のお客様の活動に貢献しています。BSIグループジャパンは、1999年に設立されたBSIの日本法人です。マネジメントシステム、情報セキュリティサービス、医療機器の認証サービス、製品試験・製品認証サービス及びトレーニングコースの提供をメインとし、規格開発のサポートを含め規格に関する幅広いサービスを提供しています。
URL: https://www.bsigroup.com/ja-JP/