図1. LX含有錠剤の賦形剤による崩壊時間への影響
図2. LX含有錠剤の製造方法による崩壊時間への影響
図3.ハイドロフラッシュ製法によるLX含有錠剤の崩壊時間短縮メカニズム
大正製薬株式会社[本社:東京都豊島区 社長:上原 茂](以下、当社)は、「ロキソプロフェンナトリウム水和物含有錠剤の速崩壊を実現するハイドロフラッシュ製法に関する知見」について、日本薬剤学会第37年会にて発表いたしました(題名:ロキソプロフェンナトリウム水和物含有錠剤の速崩壊技術の開発)。
『ハイドロフラッシュ製法』は錠剤が速く崩壊することにこだわった当社独自の製剤技術です。今回、同学会において、『ハイドロフラッシュ製法』の鍵となる賦形剤の組み合わせや製造方法、メカニズムを明らかにいたしました
<研究の背景>
一般用解熱鎮痛薬ユーザーに対するインターネット調査*より、解熱鎮痛薬の商品を選択する理由として多くの方が“効き目の速さ”を重視していることが分かりました。
*調査内容
調査方法:インターネットでの調査
調査期間:2021年9月17日~2021年9月30日
調査機関:株式会社野村総合研究所
調査対象:16-69歳 男女3,176名
●購入している解熱鎮痛薬を選んだ理由をお知らせください。(複数回答)
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錠剤は服用すると、①錠剤が崩壊し、②有効成分が溶出し、③体内に吸収されることで効き目(効果)を発現します。従って、「①錠剤が崩壊」する時間を短縮できれば、素早く体内に吸収されるようになり、解熱鎮痛効果発現までの時間を短縮できると考えられます。
そこで我々は高い解熱鎮痛効果が認められているロキソプロフェンナトリウム水和物(以下、LX)をモデル有効成分として用い、錠剤のより速い崩壊を実現する『ハイドロフラッシュ製法』について研究を進めてまいりました。
<研究の成果>
1.LX含有錠剤の崩壊時間短縮に効果的な賦形剤の組合せの発見
錠剤を形作るために有効成分と共に添加する賦形剤の物性は、錠剤の崩壊時間に大きく影響します。そこで、LXに物性の異なる種々の賦形剤を約70%添加してLX含有錠剤を調製(造粒せずに粉末を混合して打錠)し、賦形剤による崩壊時間への影響を検討しました。その結果、乳糖を使用したLX含有錠剤と比較し、水なじみのよい無機粒子である無水リン酸水素カルシウムを賦形剤に使用したLX含有錠剤では崩壊時間が約3分、水への溶解度が高いマンニトールを使用したLX含有錠剤では崩壊時間が約2分まで短縮することを見出しました。
そこで、それぞれの特性を持つ賦形剤を組合せ、さらなる崩壊時間の短縮検討を行った結果、水への溶解度が高いマンニトールと水なじみのよい無機粒子である軽質無水ケイ酸(以下、LASA)を組み合わせることで、崩壊時間を約1分に短縮することができました(図1)。
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図1. LX含有錠剤の賦形剤による崩壊時間への影響
2.LX含有錠剤の崩壊時間短縮に効果的な製造方法を確立
これまでの検討でLX含有錠剤の崩壊時間を約1分まで短縮することができましたが、更なる崩壊時間の短縮のため、錠剤の崩壊時間に大きく影響する要因の1つである製造方法に着目し、製造方法による崩壊時間への影響を検討しました。その結果、撹拌造粒法※1を用い、かつLASAを水に分散させたLASA分散水溶液を造粒溶媒に用いて製造した錠剤は、崩壊時間が約1分であり崩壊時間を短縮することができませんでした。一方、流動層造粒法※2を用い、かつLASA分散水溶液を造粒溶媒に用い噴霧したハイドロフラッシュ製法で製造した錠剤は、崩壊時間が約30秒となり、速い崩壊を達成することができました(図2)。
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図2. LX含有錠剤の製造方法による崩壊時間への影響
3.LX含有錠剤の崩壊時間短縮のメカニズムについて
製造方法により崩壊時間の短縮効果に違いが生じた要因を解析しました。LX含有造粒顆粒表面を観察したところ、撹拌造粒法(LASA分散水溶液で撹拌造粒)で製造した造粒顆粒は、LASA分散水溶液を用いているにもかかわらず、LX含有造粒顆粒表面にLASAを確認することができませんでした。
一方、ハイドロフラッシュ製法(LASA分散水溶液で流動層造粒)で製造した顆粒では、LX含有造粒顆粒表面にLASAが均一に点在していることが観察されました。
LXは水に溶解すると粘性を生じる性質があります。そのため、LX含有錠剤が水と接触すると、錠剤表面に存在するLXが水に溶解し粘性を生じてしまい、錠剤内部への水の浸透が阻害され、錠剤の崩壊時間が遅延してしまうと考えられます。撹拌造粒法で製造したLX含有造粒顆粒表面には、水なじみのよいLASAが確認されなかったことから、錠剤内部への水の浸透が阻害されたままとなっていると思われます。一方、ハイドロフラッシュ製法では、水なじみのよいLASAをLX含有造粒顆粒表面に均一に点在させることができていることから、水の浸透が錠剤表面で阻害されず、水が錠剤内部に素早く行きわたり、速い崩壊時間が実現できたものと考えられます(図3)。
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図3.ハイドロフラッシュ製法によるLX含有錠剤の崩壊時間短縮メカニズム
当社は、ハイドロフラッシュ製法を活用した、速く崩壊する錠剤の解熱鎮痛薬「ナロンLoxy」を発売しています。
また、本知見は、一般的な設備である流動層造粒機で製造可能なため、ロキソプロフェンナトリウム水和物に限らず、崩壊時間に難がある成分の速崩壊錠剤の設計や、口の中で素早く溶ける服用性の良い微粒剤の設計にも活用できます。
当社は今後も、ハイドロフラッシュ製法の最適な活用法について研究を進めるとともに、研究で得られた知見を活かし、健康を願う生活者の皆さまのQOL向上に役立つ製品開発につなげてまいります。
※1 撹拌造粒法:粉体を撹拌しながら造粒溶媒を滴下し、粉体粒子同士を凝集させる造粒方法。空隙が少なく密度の高い重質な造粒物が得られる。
※2 流動層造粒法:粉体を熱風で流動させながら造粒溶媒を噴霧し、粉体粒子同士を付着させて粒状物に成長させる造粒方法。空隙がある軽質な多孔質の造粒物が得られる。
◆「ナロンLoxy」ブランドサイト
URL:https://brand.taisho.co.jp/naron/naron_loxy/
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【PR】ハイドロフラッシュ製法に関する知見について.pdf
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