株式会社大地コーポレーション 代表取締役社長 林暁明
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スリープテックは、いま最もホットで勢いのある分野である。睡眠の質を分析してくれるものからデジタル療法の機能を備えたものまで、各種のスマートベッドが次々と世に現れて枚挙に遑がない。つまり、真に安眠を手に入れようと思うなら、消費者も頭を冴え渡らせて学び、見分ける必要がある。とはいえ、もっとシンプルかつ本質的に優れた製品はないものだろうか……
その答えは、先だって東京ビッグサイトで開かれたAsia Furnishing fair 2022の展示会場にあった。後日、われわれは疑問と期待を胸に、株式会社大地コーポレーション 代表取締役社長にして、Fine Revo技術の所有者――林暁明氏にインタビューをおこなった。
画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/336337/LL_img_336337_1.jpg
株式会社大地コーポレーション 代表取締役社長 林暁明
■日本の大地に根を下ろす
1993年、中国は改革開放の新段階へと入り、生産力は増加の一途をたどる。そんななか、先進技術とマネジメントを学びたいという思いを胸に、林暁明は国内での安定した生活を捨てて日本へと渡り、九州産業大学の修士課程を修了後、日本の大手家具会社に就職した。勤勉な彼はわずか三年で店長、課長へと昇進し、さらには事業部の部長にまで出世した。
こうして林暁明は、マーケットの最前線から営業企画、経営体制、つまりミクロからマクロ、実践から理論までを身をもって体験し、さらに日本企業の内部の体制、顧客のニーズ、家具製造の知識、およびアジア市場の発展状況に対する理解も深めることができた。そして2003年、林暁明はみずから一旗揚げて長旅に出る決意をした。大地コーポレーションの船出である。
中国の家具業界はいよいよ本格的に台頭し、活力にあふれていること、いままさに世界の家具工場へと成長していることに、創業当初から林暁明は気づいていた。この利点に着目し、林暁明は会社の業務を貿易に特化するとともに、供給と販売の面で堅実な顧客基盤を築いて、安定的な収益モデルを形成していったのである。そうして2009年、大地コーポレーション初の自社生産工場が完成した。
また、当初からスマート睡眠や健康睡眠に関心を持っていた林暁明は、トヨタグループのアイシン精機が立ち上げた「トヨタベッド」というブランドの製品に着目し、特殊な樹脂素材Fine Revoがベッド業界にもたらした革新と進歩に感銘を受けた。それと同時に、かくも高等な「ブラックテクノロジー」が日本国内でのみ販売され、グローバルな消費者に行き渡らないことをきわめて残念に感じていた。
■トヨタの嫡子を迎える
1966年に誕生した「トヨタベッド」は、トヨタグループのアイシンが開発したまったく新しい製品である。優れた技術によって市場を席巻し、瞬く間に日本国産ブランドとして国内第2位のベッドブランドへと成長した。
1995年、「トヨタベッド」は液体によって体圧を分散する「ジェルマットレス」を世に問うと、これがまた業界で新たな旋風を巻き起こした。2003年には、樹脂弾性体(Fine Revo)技術を開発して全世界を驚きの渦に巻き込み、そして2006年、Fine Revoを用いた寝室空間のトータルプロデュースブランド「ASLEEP」をスタートさせた。これは消費者に質の高い眠りという新たな生活体験を届けようとするものである。だが、2016年、トヨタは電気自動車市場の拡大を見越して、ここに企業の力を注ぐ必要性を感じ、「トヨタベッド」と「トヨタミシン」の事業売却を選択する。
長い歴史を持つトヨタという巨大な車輪は、様々な分野を牽引してきた。しかし、数多くある麾下のブランドにおいて、商品名に「トヨタ」を冠するのはトヨタ自動車、トヨタベッド、そしてトヨタミシンの三つだけであり、これらが「トヨタの嫡子」と形容されるのも故無しとしない。そのため事業売却のニュースは瞬く間に広まり、グループ企業をも含む多くの大企業が買収に興味を示した。そして最後には、家具業界において豊かな経験を有する林暁明の大地コーポレーションが、トヨタグループのアイシン精機から高い評価を得て、事業を引き継ぐこととなったのである。
中国人の実業家が「トヨタの嫡子」を買収したというニュースは、あっという間に日本全土に知れ渡った。これは中国のテクノロジーとパワーが日本最大の企業に認められたというに留まらず、全世界の全企業からも認められたことを意味するといえよう。
2019年11月、大地コーポレーションとアイシン精機は「ASLEEP」事業の引き渡しにサインし、2020年4月からは、三本ある「トヨタベッド」の生産ラインのうち一つを中国へと移して、大地コーポレーションが正式に製造販売を開始した。こうして林暁明は、ついにFine Revo技術を中国、そして世界へと広める機会を得たのである。
ところが、ここで予期せぬ事態が起こった。全世界に甚大な影響を及ぼした新型コロナウィルスの流行である。これにより、サプライチェーンが真っ先に矢面に立たされた。当初の計画では、2020年2月にアイシン精機の日本人技術者が中国に渡ってラインの試運転をおこなうはずであったが、結局はテレビ会議などを通じての力添えとなり、中国国内の生産ラインが正式に稼働したのはそれから半年も後のことであった。
これは世界経済史の一ページに刻まれてよい画期的な出来事である。林暁明はそのときのことを振り返り、「買収は目的ではありません。この技術の伝承と発展、それこそが目的なのです」と力強く言った。「トヨタベッド」を礎に、大地コーポレーションはさらなる研究開発を進めて製品をシリーズ化している。それでこそ、トヨタグループから「嫡子」を託された信頼と、同業他社からの評価に応えることができるというものである。
■より良いものを求めて
「トヨタベッド」の品質と技術を受け継いだ「ASLEEP」のベッドは、日本列島全体に広まっていった。そして中国では、樹脂弾性体を採用した高級ベッド「De RUCCI 慕思」が一年で一万台超を売り上げるという業績を記録し、中国女子バレーボール訓練センターの指定ベッドにも選ばれた。
人は一生の三分の一を眠って過ごす。それなのに、実際はせわしなく張りつめた生活のせいで、睡眠に問題を抱える人がますます増えてきた。人々は健康的な睡眠をいよいよ強く意識するようになり、国際精神衛生・神経科学基金会は、毎年3月21日を「世界睡眠デー」とすることを定めた。
睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠の二種類があり、ノンレム睡眠の状態にあるとき、大脳皮質の細胞は十分な休息を取ることができている。したがって、ノンレム睡眠は情緒の安定やストレスの回復といった面で大きな働きをしている。Fine Revoの技術を用いた寝具「ASLEEP」は、スプリングの弾力性とラテックスのゆるやかな復元力を併せ持ち、従来の材料がかかってくる重さに対して一方向にしか変形しないという欠点を克服した。人が寝返りを打つときには、弾力を持つ球体の樹脂が3次元的にあらゆる角度で変形してくれる。これにより、ノンレム睡眠を妨げないだけでなく、隣で眠っている人の睡眠に影響を与えることもない。
さらに、このFine Revoは、JIS規格を超える48万回の荷重耐久テストをクリアし、30年間の使用想定で驚くべき耐久性を発揮している。
Fine Revoの原料は、食品保存容器や人工透析のチューブなどに使用される特殊な樹脂と、口紅や乳液といった皮膚を保護する製品などにも使われる安全な油脂の複合体で、100%無毒無害な物質である。そのため、廃棄物の処理に対して細かな分別が求められる日本においても、Fine Revoは家庭ゴミとしてそのまま捨てることができる。焼却処理をしても自然環境に害を与えることはない。2021年9月、Fine Revoは中国科学者フォーラムから「科学技術の革新における優秀な発明成果」という賞を授与された。
■技術による貢献と人類への配慮
大地コーポレーションはその名が示すように、大地にしっかりと根ざし、優れたリソースによって社会の発展に貢献している。寝具を中心としつつ、Fine Revoを義肢に応用する技術を研究開発し、これまでは冷たく硬質であった義手や義足を、本物の人肌のような触感を持つものへとデザインし直した。これは義肢の使用を余儀なくされる人々にとって、豊かな暮らしを営む自信と命の尊厳を保つための一助となるであろう。
このほか、知的障がいを持つ人々は、胸中に生じたネガティブな感情に対してタイムリーかつ正確に対処することが難しいときがあり、往々にして自らを傷つけることでそれらを発散する傾向にある。たとえば髪を引っ張ったり衣服を引きちぎったり、ひどいときには命に危険を及ぼす場合もある。そのため、大地コーポレーションはFine Revoを使ったストレスリリーサーという製品を開発し、これを福利施設に寄付することで社会貢献を果たしてきた。その結果、大地コーポレーションには知的障がい者を持つ家庭から数え切れないほどの感謝の手紙が届けられている。
また2019年、大地コーポレーションは介護用品や福祉用具などのリーディングカンパニーであるフランスベッド株式会社と戦略的パートナーシップ契約を結び、以降、病院や老人ホーム、産後ケアセンターといった施設の特殊なニーズに応える商品作りにも尽力している。
どうすれば人々の暮らしをより良いものにできるか、林暁明は常にそのことを考え、自問し続けてきた。ユーザーのニーズを知ることからはじめ、スマートテクノロジーや環境に優しい素材の利用など、安全かつ安心、そして人々が人間らしくより良い暮らしを送ることができる製品を開発すること、大地コーポレーションはそうした志向を持って倦まずたゆまず努力しているのである。
パーム油はマレーシアやインドネシアといった産業種別の少ない国にとって、非常に重要な経済資源である。しかし、圧搾して油分を抽出したあとの残渣をどのように処理するかは、かえって長期にわたる政府の悩みの種であった。長く野ざらしにしておけば虫がわき、焼却処理すれば自然環境の汚染につながってしまう。
近ごろ、大地コーポレーションはパーム油の残渣を再利用するためパナソニックと打ち合わせをおこない、それらを特殊な工程でプレスして繊維ボードとし、ベッドフレームに応用するための開発をおこなっている。「家具の製造が最終目標ではありません。空をより青く、空気をよりきれいにする。それこそが家具製造業者の担うべき責任です」。一般社団法人アジア家具フォーラムの常務理事をも務める林暁明は、力強くそう語ってくれた。
■「弾力性」ある持続可能な社会
20年足らずのうちに、大地コーポレーションは日本では福岡や広島、中国では香港や東莞など、九つの地域に会社や工場を構えるに至った。そしてまたいまでは、日本、中国、ヨーロッパをはじめとする全世界で178もの特許や商標といった知的財産権を所有し、三井や松下などの業界大手と確かな信頼関係を結ぶ、総合的な企業へと成長した。
豊かなリソースを手に、業界のリーダーたちと安定的なパートナーシップを築けるというのは、日本で起業する多くの中国人や中国企業も羨む大地コーポレーションの強みである。ビジネスの創業と守成、そしてさらなる拡大について、林暁明は惜しみなく語ってくれた。
日本へ留学する前、彼は「まったくビジネスの経験もない」一介の公務員で、「誠実な気持ちだけを頼りに」今日までやって来たという。異なる国にはそれぞれの国家体制や経済構造、消費の習慣や発展の方向性があるため、業界の大企業とコンタクトを取る前には多くの不安があったと、林暁明自身が認めている。しかし、誠実さという経営理念を失わない限り、いつか必ず理想は実現できる。「誠実さこそは世界に通じる真理ですから!」
また、彼は次のように話してくれた。「たとえば、三井グループの子会社は世界各地の高級ホテルや公共施設の設計と施行を担い、その高い水準と卓越した品質で業界に知られています。大地コーポレーションはそうした子会社のサプライヤーとして高品質と高効率を旨に、先方の時間と品質における厳格な要求に応えつつ、同時にプロジェクトの進捗を把握して、あらゆる時点での質と量において着実に歩調を合わせていくことが求められているのです」
インタビューを通じて、終始、林暁明は大地コーポレーションを「小型」企業であると謙遜していた。そこで今後の目標を問いかけると、彼は次の二点を繰り返し強調した。良質な睡眠による健康な人生と住みよい社会の建設、そして、自然を保護して美しい世界と澄んだ空気を守り、持続可能な社会の発展に貢献することの二つである。
大地コーポレーションはまさにその名の通り、大地にしっかりと根を下ろし、自社を育ててくれた社会への恩に報い、そして新たな社会の発展に取り組んでいる。みずからの行動を通して、人と自然が共存共栄できる未来を共創していく。