写真1 プラント外観
写真2 プラント内部
写真3 プラント内部
図1 プラント設計模式図
改質リグニンは森林総合研究所で開発された木材由来の新素材で、耐熱性などの高い性能に加え、石油化学製品では達成できない環境適合性を併せ持つこれまでにない工業材料として注目されています。
実証プラントは、改質リグニンの安定生産を実証する世界初のプラントで、林野庁の補助事業「林業分野における新技術推進対策のうち木質新素材による新産業創出事業(地域資源を活用した改質リグニン製造産業のモデル開発)」で建設され、令和3年6月30日に竣工します。
実証プラントでは、生産技術の効率化を進めると共に、改質リグニンの試験生産を開始します。
■ポイント
・木材由来の新素材「改質リグニン」を製造する実証プラントが竣工します。
・改質リグニンの製造を本格化する世界初の試みです。
・全国の中山間地域への展開が期待されるモデル工場です。
■背景
「リグニン」は植物の強さ、しなやかさに関与する、植物細胞壁中でベンゼン環を持つ高分子の総称で、樹木には比較的多く(約20~35%)含まれます。材料としての高い機能を持つものの、植物種により性質が異なり、バラツキも大きく、変質もしやすいため、高機能な工業材料化は困難とされてきました。
森林総合研究所ではリグニンの高度利用法の開発に向けて挑戦を続け、このバラツキの問題を、比較的均一なリグニンを持つ日本固有の樹木「スギ」を用いることで解消し、さらに抽出と同時に改質も行うという新しい製造技術の開発に成功しました。誕生した新素材が「改質リグニン」です。
改質リグニンは森林資源由来の新素材で、熱に強い、加工しやすい、環境にやさしいという理想的な性質をもち、様々な製品の素材として利用できます。様々な先端材料の素材として改質リグニンを用いる技術開発が広く進んでおり、これまでに、改質リグニンを樹脂として利用した繊維強化材(FRP)が開発され、自動車の外装材に導入されたほか、ハイレゾスピーカーのウーファーの素材として採用されています。
また、改質リグニンを用いた電子基板や、3Dプリンター基材などの製造技術も開発されるなど、産業界においてその需要は高まっています。
一方、改質リグニンを供給する技術においては森林総合研究所内に設置したベンチプラントで生産システムの開発を進めてきましたが、工業化にむけて、パイロットプラント試験への移行が課題となっていました。加えて、森林総合研究所のベンチプラントが世界唯一の改質リグニン生産装置であり、その生産量が限られたものであることから、産業界へ向けた材料開発用の試験サンプルの供給も不足していました。
■内容
改質リグニンの地域での生産を産業化するためには、森林総合研究所のベンチプラントで開発された基本プロセスをスケールアップしたシステムを設置すると共に、連続生産を実証することが求められていました。そのため、株式会社リグノマテリアを中心とする共同事業体が結成され、林野庁の補助事業により生産実証用のプラント建設が開始されました。
プラントの立地については、木質資源が集積される既存林業・木材産業に隣接した地域が望ましいことから、木質バイオマス発電所への併設タイプとして、茨城県宮の郷工業団地内で日立造船株式会社が操業する「宮の郷木質バイオマス発電所(茨城県常陸太田市宮の郷町)」へ隣接した設置スタイルが採用されました。木質バイオマス発電所へ併設することで、将来的には発電所からの廃熱利用の可能性などの利点が想定されています。
本実証プラントのシステムは、森林総合研究所のベンチプラントで得られた効率化研究の成果を活用して設計されました。
主工程は大気圧下でのポリエチレングリコール(PEG)中の酸分解反応で、圧力反応容器を用いない安全性に配慮されたリアクターシステムとなっています。
破砕されたスギ木材は少量の硫酸触媒を含むPEGと共にリアクターへ導入し、撹拌しながら140℃に加熱することで分解されます。これは「酸加溶媒分解」と呼ばれる反応で、スギ材中のリグニンは、分解されると同時にPEGと結合した形で抽出可能な状態に変化します。反応の後、薄いアルカリ水溶液を投入することで、PEGと結合したリグニン分解物が「PEG改質リグニン(改質リグニン)」の状態でアルカリに溶解した溶液として抽出されます。その後、改質リグニンの、アルカリには溶けるが酸には溶けないという性質を利用し、酸に溶けない部分として沈殿させて、固形分として濾別します。得られたペースト状固体の改質リグニンは、乾燥した後、出荷されます。
このプラントの改質リグニンの生産能力は、年産100トンであり、連続運転試験を進めると共に、産業界へのサンプル供給を行うことで、改質リグニンを用いる製品開発を大きく促進することができます。
なお、改質リグニンを除去した水溶液は濃縮器で水分を除去することでPEGを回収して再び反応薬剤として利用することができます。
また、この工程では、パルプ分がアルカリに溶けない残渣として副産しますが、副産パルプはセルロース繊維として、コンポジット材料などの素材として利用することができるなど、木材成分の総合利用が可能です。
画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/264375/LL_img_264375_1.jpg
写真1 プラント外観
画像2: https://www.atpress.ne.jp/releases/264375/LL_img_264375_2.jpg
写真2 プラント内部
画像3: https://www.atpress.ne.jp/releases/264375/LL_img_264375_3.jpg
写真3 プラント内部
画像4: https://www.atpress.ne.jp/releases/264375/LL_img_264375_4.jpg
図1 プラント設計模式図
画像5: https://www.atpress.ne.jp/releases/264375/LL_img_264375_5.jpg
写真4 リアクター上部
画像6: https://www.atpress.ne.jp/releases/264375/LL_img_264375_6.jpg
写真5 プラント内部
■今後の展開
改質リグニンの製造技術は日本独自のもので、日本の自前の資源を利用する自給型の産業を創出します。様々な高付加価値製品への展開が可能で、関連する産業は数兆円規模と言われており、国内の中山間地域を資源供給ステーションとし、地域経済を豊かにする新産業として期待されています。