昔から相続対策の一つとして、私設の資産管理会社を作る方法があります。
ただし、従来の資産管理会社は実際に物件を管理する立場のものがほとんどであったのに対し、近年の資産管理会社は物件を所有する立場であることが増えてきました。
保有型の資産管理会社には、どのようなメリットがあるのでしょうか。
この記事では保有型の資産管理会社を中心に、資産管理会社を使った相続対策のメリットについてご紹介します。
保有型の資産管理会社のメリットとは : https://100years-company.jp/articles/inheritance/040016
所得税と法人税の違いとは
所得税と法人税でよく注目される違いは、課税される税率です。
所得税は累進課税制度で、最高税率は所得が4,000万円超で住民税も含めると55%となります。
それに対して法人税は、資本金が1億円以下の企業の場合、利益が800万円超の企業で実効税率は約30%です。
そのため、個人よりも法人のほうが税率は安いということが常に話題となります。
しかしながら、所得税と法人税の違いにはもっと深い意味があります。
それは、法人税率は国際競争にさらされており、日本だけ高くすることはできないという点です。
企業を国外に流出させたくないため、法人税は今後も下がっていく傾向にあります。
一方で、国全体の税収は上げざるを得ず、補塡のターゲットとされているのが個人富裕層の所得税です。
そのため、個人の所得税は上がることはあっても、下がることはないと予想されています。
将来的に、所得税は厳しくなり、法人税は緩くなるという方向性に大きな違いがあるのです。
資産管理会社を設立するメリット・デメリット
資産管理会社を設立するメリットは、主に以下の3つがあります。
・経費で認められる範囲が広い
・相続人に役員報酬を支払うことができる
・相続対象を不動産から株に換えることができる
1つ目として、法人は個人よりも経費で認められる範囲が広いという点です。
法人は、利益を追求するために存在する組織であることから、無駄な経費は使わないであろうという考え方が根本にあります。
それに対して、個人は生活と一体となってしまっていることから、浪費となる無駄なお金を支出する可能性があると考えられています。
そのため、個人で認められる経費は範囲を厳しく制限されているのです。
個人の不動産事業で得られる所得は、不動産所得になります。
不動産所得では、例えば通信費も経費項目としてありますが、それは管理会社への電話などのように不動産賃貸業に関連するものに限られます。
それに対して法人であれば、法人で契約している電話の料金は全て費用で落とせます。
通信費一つとっても、費用で認められる範囲は法人の方が広いのです。
2つ目として、相続人に役員報酬を支払うことができるという点です。
相続税は、現金納付が原則であるため、相続人が相続税用の現金を確保しておく必要があります。
このような対策を「納税対策」と呼びます。
個人で不動産賃貸業を行ってしまうと、被相続人にしか現金が届かないため、相続人には納税資金が貯まりません。
一方で、法人にすると相続人を役員にすることができるため、生前中に相続人へ現金を移すことができます。
役員報酬は贈与ではないため、金額も自由に設定することが可能です。
3つ目のメリットは、法人化すると、相続の対象は不動産から株式へと換わるという点です。
株であれば、相続人に対して、平等に分割することができます。
個人で不動産を持つと、遺産分割の際、どうしても財産を多くもらう相続人と少なくなる相続人が発生してしまいます。
株であれば、簡単に好きな割合に分割することができますので、均等に相続を行えます。
資産管理会社を設立するデメリットは主に以下の2つがあります。
・法人税と所得税が二重に発生する
・土地を購入するには資金力が必要となる
1つ目として、法人税と所得税が二重に発生するという点が挙げられます。
役員報酬を増やすと法人税は減りますが、受け取った側の個人の所得税は上がります。
一方で、役員報酬を減らすと所得税は減りますが、支払う会社の法人税が上がります。
法人税と所得税の2つが発生するジレンマがあり、配分には十分な検討を要します。
2つ目としては、資産管理会社が土地を購入するには資金力が必要となるという点です。
土地代も含めて全額借入をするというのは難しく、土地を買えるだけの出資金があることが望ましいといえます。
ただし、すでに個人で土地を持っている場合には、資産管理会社で借地するスキームも考えられます。
資産状況に合わせて、ベストな方法を考えることが必要です。
資産管理会社は運営・管理型より保有型がおすすめ
資産管理会社は運営・管理型より保有型がおすすめです。
運営・管理型とは、個人が所有している不動産から管理料を徴収する会社のことを指します。
それに対して保有型は家賃収入を直接得る会社です。
以前は、運営・管理型の資産管理会社が、個人の不動産から管理料を数十パーセントも取るような事例がありました。
しかしながら、管理の実態がないにも関わらず、法外な管理料を得ている資産管理会社が多かったため、税務署が厳しく税務調査をするようになりました。
今では、運営・管理型の資産管理会社は、管理の実態はもちろんのこと、料率も一般的な管理料から大きく乖離させるようなことはできません。
そのため、現在では運営・管理型の資産管理会社は、税金対策としては流行らなくなりました。
運営・管理型だと、資産管理会社の売上が小さく、役員報酬が少なくなってしまうからです。
法人化のメリットには、役員報酬によって相続人に所得移転を進めるという点がありました。
役員報酬を大きくするには、資産管理会社の売上を増やす必要があり、それには資産管理会社が直接不動産を持って家賃収入を得るのが一番効果的になります。
従って、現在では相続対策としての資産管理会社は、資産を直接保有する保有型の資産管理会社が増えてきています。
相続対策に、運営・管理型の資産管理会社を利用する選択は古くなりつつありますので、今から検討するのであれば、保有型の資産管理会社がおすすめです。
資産管理会社を設立する最適なタイミング
資産管理会社を設立するタイミングは、1日でも早く設立して賃貸事業を開始するのが最適となります。
理由は、不動産賃貸業で現金を相続人に移転していくには時間がかかるからです。
法人化すると、役員報酬によって相続人に所得を移転することができます。
相続人に現金が貯まれば、納税資金が確保できるため、相続が発生したときも納税した後も資産を守ることができます。
資産管理会社を設立しておくことは、相続時点よりも前であれば前であるほど、相続人に現金が移転しているため、納税が楽になります。
そのため、資産管理会社を設立するタイミングは早ければ早いほど良いのです。
法人化で事業継承もスムーズに
資産管理会社の設立をしておくことで、本業の事業継承もスムーズになっていきます。
2018年4月からの事業承継税制の改正により、子どもが会社を継ぐ親族内承継のケースでは、株の相続問題が大幅に改善されました。
しかしながら、例えば会社によっては、株式がすでに他人に分散化していることもあります。
会社の株式を後継者に集約させるには、後継者が分散化している株式を買い取る資金力が必要です。
そこで、資産管理会社の役員に会社の後継者も入れておくことで、後継者の資金力を強化することができます。
分散している株の集約も進むため、事業継承もスムーズに進めることができるのです。
まとめ
以上、保有型の資産管理会社のメリットについて見てきました。
法人化によって、相続人への所得移転など、個人ではできないことが可能になります。
資産管理会社を使った、相続対策をぜひ検討してみてください。
著者
1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する
調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。