講演する淺間先生
起立動作の解析
遠隔操作ロボット
今回のセミナーでは、IEEEフェローを務める淺間一 東京大学大学院工学系研究科 精密工学専攻 教授に、同技術の実装を幅広く踏まえながら、研究成果を解説していただきました。具体例として挙げられたのは、2つの研究成果です。1つ目は、人間の起立動作の解析とその応用方法で、2つ目は、福島第一原子力発電所におけるロボット技術の活用方法でした。それぞれの研究成果ごとに、デモンストレーションを交えながら、視覚的にわかりやすい解説をしていただきました。
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講演する淺間先生
(1) 【サービスロボット技術の実装】
淺間先生は、研究成果の解説の前に、幅広い視点からサービスロボット技術の実装を語っていただきました。まずは、サービスロボット技術という言葉を構成する2つの単語「サービス」と「ロボット技術」の定義についてです。
「サービス」には、「パーソナル」と「パブリック」の2種類の分野があり、サービスロボット技術と言った場合、この両方が共に対象となるようです。「パーソナル」は医療・介護・教育・娯楽等の分野など個人に提供されるもので、「パブリック」は建設・農業・災害対応・社会インフラの点検など、社会的な公共サービスとして提供されるものとのことでした。
「ロボット技術」とは、単純に動く機械を指すだけのものではなく、感知・制御等の技術を組み合わせた、ミッションの解決方法を導出する技術です。今後、「ロボット技術」はIoT(モノのインターネット)等の最先端の情報通信技術と連動しながら、大きく発展していくと考えられています。
その中でも特に期待されているのが、今回のセミナーのテーマである、「サービス」の分野だと言います。現在、ロボット産業は1兆円に満たない程度の市場規模ですが、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、2035年には約9.7兆円に拡大し、その内の半分以上が「サービス」の分野で占められるだろう、と試算しています。安倍首相は2014年5月のOECD閣僚理事会の首相基調演説で、ロボット産業を日本の成長戦略の軸に据える意向を示しました。その後、政府は2015年1月に「ロボット革命実現会議」を立ち上げ、「ロボット新戦略」を発表しました。
まさに今、この戦略に基づいて「ワールドロボットサミット」のような競技会の開催、阻害要因を取り除くための法整備、国際標準規格の作成および獲得等、様々な「ロボット技術」の利活用が進められている、とのことでした。
(2) 【人間の起立動作の解析とその応用方法】
サービスロボット技術においては、それを使う人間とのインターフェイスをどのように設計していくのかが難しい、と言われています。まずは人間を理解することが重要で、淺間先生の研究室ではそのための基礎的な研究を行っている、とのことです。具体例として挙げられたのは、人間の起立動作の解析でした。
きっかけは、起立動作が困難な被介護者を補助するシステムの開発をした際、上手くいかなかったことだったと言います。被介護者が自力で起立できるように、可動式の補助棒とベッドの組み合わせを開発しましたが、安全面を考慮すると、どうしても可動の速度が遅くなってしまったそうです。淺間先生は「可動の速度が遅くなったことで、被介護者は無理に立たされているような感じがしてしまい、リハビリの効果が得られなかった」と述べました。
そこで、起立動作の補助システムを開発するためには、そもそも、人間がどのように立ち上がっているのかを解析する必要がある、と考えるようになったそうです。そのために、淺間先生らが基本的な考え方として採用したのは「筋シナジー仮説」です。脳は1つひとつの筋肉を制御しているのではなく、複数の筋肉を同時発揮させるユニット、いわゆるシナジーを制御しているのだ、という理論です。「筋シナジー仮説」に基づけば、運動は複数のシナジーの組み合わせによって起こるので、その構造をつぶさに調べていけば、人間の動作が解析できることになります。
デモンストレーションでは、被験者に筋電計を付けて無線で筋肉の動きのデータを飛ばし、ディスプレイ上で各シナジーが時間の経過と共にどのように使われているのか可視化できるシステムを披露しました。今後、このシステムを使って人間の動作に関する情報をデータベース化していくことで、技能の抽出・教育・学習が可能になると考えられます。それは、スポーツ、製造業、介護等の分野で、人間がどのように身体を動かしているのか、科学的に形式知化し、可視化されるということです。淺間先生は、「従来は暗黙知として、教えるのも教わるのも難しかった身体の動かし方ですが、もっと効率的に上達できるシステムを作っていきたい」と述べました。
起立動作の解析
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(3) 【福島第一原子力発電所におけるロボット技術の活用方法】
今回のセミナーでは、どのように福島第一原子力発電所でロボットが活用されたのか、全体を網羅するのではなく、遠隔操作に絞って淺間先生らの研究成果を解説していただきました。現在、廃炉作業が進められているなかで、ロボットにはガレキの除去、建屋内の映像撮影、地図の作成、ダストや汚染水のサンプルの採取等、様々なミッションが求められますが、これらに共通して必要なのは遠隔操作のシステムです。
そこで、淺間先生らが研究を行ってきたのが、俯瞰(ふかん)映像を作成する技術です。仕組みは、ロボットに搭載された4つの魚眼カメラの映像をつなぎ合わせて、上手に処理を施して歪みをなくし、あたかもテレビゲームのように真上から俯瞰した映像に作り変える、というものです。これによって、障害物を容易に把握できるので、遠隔操作がスムーズになったと言います。デモンストレーションでは、淺間先生らが企業と開発した水陸両用ロボットに、この俯瞰映像による遠隔操作のシステムを搭載して、実際に会場内で動かしていただきました。現在、俯瞰映像だけではなく、他の任意の視点からも見ているようにできる技術が、すでに開発されており、今後は建設機械等も含めた様々な分野への応用が期待されています。
遠隔操作ロボット
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