総務省の調べで、2020年には個人のインターネット利用率が約83%と、日本国民の大半の方がインターネットを利用するようになった日本。インターネットを利用する中で、「Webサイト」などを開くのが遅くイライラしてしまうことはないだろうか。
今回、Webサイトやアプリといったコンテンツの速度をレポートとして提供するなど、表示速度改善に貢献されている、株式会社Spelldata代表取締役の竹洞陽一郎(たけほら よういちろう)氏に、その原因や改善方法についてインタビューを行った。
Webサイト・アプリの表示速度が遅い原因は企業にある!?
株式会社SpelldataはWebサイトなどの表示速度を24時間・365日計測し、レポートを提出するという業務をメインにサービスを展開する企業。代表取締役の竹洞氏は、「日本はWebの表示速度の改善が海外に比べて遅れているのです」と話す。
日本は島国で国土も海外に比べて狭く、回線の質も高いことから一定の速度が出る環境。しかしアメリカなどは国土も広大で、ケーブルテレビが独自の回線を敷くという都合上、回線の質も日本よりは良くなかったそう。
そこで問題になってくるのが、「コンテンツの表示速度」なのだとか。
実際にアメリカでは、この表示速度の改善を行なっていない企業は評価が低くなってしまうそう。
「2014年にニューヨークのとある企業から、”日本の大手ディベロッパーのWebサイトが、ニューヨークでは何秒で開くか知っている?”と言われたことがありますが、なんと30秒経っても開かなかったそうなのです。そんな遅いWebサイトの会社は信用できないから、ビルのフロアを借りて欲しいと言われても借りない、と話していたのです」ということがあったと、竹洞氏は話してくれた。
それだけ表示速度が、海外では重要になっているのだ。
一般的にこの表示速度が遅延してしまう原因は、マンションの建設にそっくりで「工場からの部材の配送と建設現場での組み立て」のようなものだと語る竹洞氏。
・マンションの建設現場…「Webブラウザ」
・工場から建設現場までの道路…「インターネット回線」
・建材を生産する工場…「Webサーバ」
リクエスト、つまり「私たちのWebサイトへのアクセス」などの”要求”は、工場に対して組み立てに必要な部材を要求するのと同じ。その処理が工場から部材の配送が追いつかなくなると”待機”する時間が発生する。それが積み重なっていくことで長時間待機することになってしまい、それが遅延となる。また部材が工事現場であるWebブラウザに届いても、その組み立てに時間が掛かると表示速度が遅くなってしまう。
「インターネット回線のCMで、スループット※1を大々的に謳っていますが、回線のスループットは、車でいうと”車線数”です。今だと最速〇〇Gbpsといったネット回線業者の謳い文句で知られていますよね。だけど、ネットの本当のスピードはレイテンシ※2と呼ばれ、”時速〇〇km”のようなもの。どれだけ車線があったとしても、全ての車線が渋滞して時速が遅かったら意味ないじゃないですか。現在のインターネット回線は、光回線も携帯回線もスループットは十分なのです。Zoomのようなオンライン会議では、数Mbpsもあれば十分。それでも映像が固まってしまうのは、レイテンシが遅いのと、パケットロスと呼ばれるネット上の“事故”によるデータ損失です」と語られ、筆者は納得してしまった。
※1:一定時間内に処理されるデータ量、またこれを用いてデータ転送速度、通信速度を指す
※2:通信の遅延時間のこと
竹洞氏は、回線速度よりも”表示速度”を改善することが重要だと続けて話した。
表示速度を改善する方法
竹洞氏は、現代のネット回線の速度は「十分」であると説明していた。
つまり、遅延を起こさないためには、「車線数(スループット)」ではなく「時速(レイテンシ)」を改善することが一番の対策だと語ったのだが、私たち一般消費者ができることはあるのだろうか。
「ネット回線の接続方式を変更することで、大きく改善される場合があるのです」と竹洞氏は語ってくれた。
インターネットへの接続の仕組みは、プロバイダと呼ばれる「インターネットと私たちを繋いでくれる業者」を通し、ネット回線を通って広大なインターネットへ接続をしている。つまり、ネット回線を利用するための契約とプロバイダとの契約、それぞれを行う必要があるわけだ。この時、インターネットへ接続するための方式が実は2種類ある。
一般的に殆どの方が使用しているのは「PPPoE方式」と呼ばれる方式だ。この方式は、電話回線を使用している私たちの一般的なネット回線を一度ひと纏めにし、そこから分配する方式をとっている。
この方法では時間帯によってはアクセスが集中するため、特に夜の時間帯などネット回線が混雑する際はこの回線を一度集めている集積装置で渋滞が起きているのだとか。
一方、新しい方式として登場した「IPoE」方式というものは、ルーターや集積装置を介さず、”直接インターネットに繋げることができる”、「電話回線ではなく、ネットワーク接続を前提に考え生み出された接続方式」だ。
PPPoEは、必ずIDとパスワードがデータ送信にくっついて送り出されて確認されるため、国と国を跨いで移動する際にパスポートが必要なのに似ている。入国審査で時間を取られるのは、海外に旅行した事がある人なら経験があるだろう。
それに対してIPoEは、この認証が必要ない。EU圏内はパスポートが要らず、自由に行き来できるのに似ている。入国審査はEU圏内では必要ないので、車、飛行機、電車などで国を跨いで移動しても、国内線と同じ扱いで移動できるため速い。
では、どのようにしてこのIPoE方式に変えることができるのかというと、「契約中のプロバイダに問い合わせる」だけ。
この「IPoE」方式を開通していることが条件となるが、ルータがIPoEに対応していれば設定変更を行うだけでこの方式にすることができる場合もある。そこは自身の契約内容や、住居の状況などをプロバイダに確認してもらおう。
当然別途料金は発生してしまうが、ゲームや動画のように、スループットより反応速度を求めてネット回線を乗り換える方もいるはず。表示速度が遅すぎて困っている方や、オンラインゲームをプレイすることが目的の方などは、この接続方式を変えることで、表示速度を改善する可能性が高くなるだろう。
表示遅延を改善する究極の方法
ここまでは個人での表示速度改善の方法を紹介してきた。その道のプロである竹洞氏の話は、多少詳しい程度の筆者も知らないことが多く、驚きの連続だった。
しかし、基本的には企業のコンテンツが表示速度の改善を行わない限り解決とはならないのだという。では、その根本的な表示速度を改善する方法はないのだろうか。
竹洞氏は冒頭で語った通り、日本企業の表示速度に対する改善が進んでいない現状を例に、このように解説してくれた。
「一般の方が表示速度を根本的に改善する方法として、企業にクレームを入れるというのが一番効果的なのです。というのも、これまで多くの企業の方に聞いた話で一番多かったのが、”お客様からそんなクレームは貰ったことがありません”という言葉だったのです」
つまり、国内でWebサイトの表示速度の改善を行なっていない企業の多くが、クレームが来ないことから不満の声は出ていない、つまり「問題がない」と考えてしまっているのだ。
昨今はちょっとしたクレームもクレーマー問題となってしまうことが多く、更にわざわざ時間を割いてまで企業に連絡する方も少ない。だからこそ、その行動に意味があるのだと竹洞氏は語る。
「自分がユーザー側だと、表示が遅いと不満が出ます。でも、自分が作ったWebサイトなどだと、どうしても贔屓というフィルターが掛かってしまうものなのです。昨今は、企業に対する不満はSNSへ投稿されるのが一般的で、アメリカではSNSモニタリングで、企業への不満を拾って改善するという事が行われていますが、日本ではSNSでの露出だけしかやっていなくて、顧客の声を拾うためのSNSモニタリングまで手が回っていません。ですから、直接企業に改善要望を出すことが、企業側の気づきやきっかけになるのです」
竹洞氏が代表取締役を務める、表示速度のレポートサービス等を提供する株式会社Spelldataでは、これまで中古車販売のガリバーを運営する「IDOM」やバイクで有名な「ヤマハ発動機」、自動車保険サービスの保険代理店「NTTイフ」、ふるさと納税の「さとふる」、「福島民友新聞社」などのWebサイトにサービスを提供。
これらの全ての企業で、表示速度の改善により業績の向上があったと説明した。
竹洞氏は今後の目標として、「現在まだカバー出来ていない地域(四国、中部、山陰地方など)に計測センターを設置し、日本全国のインターネットの接続状態を日本道路交通情報センターが高速道路の混雑状況を伝えているように可視化していきたい」とコメント。
私たちにとっても身近で重要な「コンテンツの表示速度」や「モバイルアプリの反応速度」を、より多くの企業にレポートとして可視化することで、首都圏だけなく、地方でも高速に表示されるようにする事で企業の売上向上に貢献したいと語っていた。
まとめ
企業の意識が変わらない限り、根本的な解決にはならないのだろう。
もしもWebやアプリ、ゲームなどに「遅い」と不満を持っているのならば、ネット回線ではなく「表示速度」を見直してみることで大きな変化が訪れる。こういった知識を一般に広めることが、表示速度環境の改善に大きな影響を及ぼすのかもしれない。