実は日本随一の「純米酒の聖地」だという鳥取県。純米酒の生産比率約8割を誇り、2024年11月には純米酒の魅力をいちばん感じられる「燗酒」と料理を楽しむ「燗椀グランプリ」も開催されました。
純米酒の聖地「鳥取県」で話題!名店で楽しむ“実は相性抜群”な中華×熱燗のペアリング
今回はそんな鳥取県の日本酒ついて、そして燗酒の魅力について、県内にある3つの酒蔵へ伺いお話を聞いてきました。
「熱燗」と「燗酒」ってどう違うの?
日本酒を温めることを「燗をつける」といい、「燗酒」とは日本酒を温めて飲む飲み方の総称です。そして「燗酒」といっても温度によってさまざまな呼び名があります。なかでも一般的なのが50℃程度の「熱燗」。香りも味もシャープになりますが、味のバランスは保たれておいしくいただけます。
ちなみに、1番熱い温度帯の55℃程度は「飛び切り燗」と呼ばれていますが、鳥取県内ではさらに熱い65℃以上を推奨する蔵も多いんだとか。各温度帯に名前が付き、温度を変えながらそれぞれ違う味わいを楽しむ飲み方は日本酒ならではですよね。
55度以上 飛びきり燗(とびきりかん)
50度 熱燗(あつ燗)
45度 上燗(じょうかん)
40度 ぬる燗
35度 人肌燗(ひとはだかん)
30度 日向燗(ひなたかん)
20度 冷や
15度 涼冷え(すずひえ)
10度 花冷え(はなびえ)
5度 雪冷え(ゆきひえ)
0度 みぞれ酒
※お燗の度合いは、最高到達点の温度ではなく、お猪口に注いだときの温度のことを指しています。
太田酒造場、豚肉と相性が良い「辨天娘」
まずお話を伺ったのはこちらの記事でもご登場いただいた、太田酒造場5代目社長・太田章太郎さん。(Instagram:@bentenmusume.sake)
1909年創業の太田酒造場は、1992年に一度休蔵。2002年に酒造指導者、上原浩氏の教えのもと酒造りを再開しました。このときに「自分たちで自分たちのための日本酒を作りたい」という思いで造ったのが「辨天娘」なんだそう。
使うお米にかなりこだわっているという「辨天娘」、ここ何年かは契約栽培の農家さんと連携して、田んぼ全てに定期的に通い、葉の色味や穂の数など細かくログを録っているようです。柔らかくてタンパク質の低いお米を求め、熱量をもって日本酒を造られている様子が伺えました。造る過程では米をしっかりと溶かしているのがこだわりのポイント。「一粒たりとも無駄にしない」と語られているのが印象的でした。
ー「辨天娘」の特徴を教えてください
味わいの特徴としては、なんといっても甘みとうまみです。糖分はほぼゼロくらいにまで発酵させていますが、甘みがあるんです。炊き立てのご飯の甘さに近いイメージで、しっかりお米を感じられると思います。なので料理とも合わせやすく、和洋中なんでもいけるんですよね。
ー特にこれに合う!という食事やおつまみはありますか?
意外なところだと、脂を流してくれるので「とんかつ」との相性がいいです。動物の脂が得意で、生ハムチーズとかも合いますね。あとはスパイスが効いた食事も合いますし、料理を選ばずに飲めるのが強みでもあります。
―自宅でも気軽に楽しめそうなセットですね
お酒単体よりも、それと一緒に料理があるから完成する形というのもあるんです。辨天娘のお燗は酸味や渋みがあり、食事と一緒に飲んでいると、不思議とお腹が減ってくるような気もします。
自宅で楽しむなら、水を張った鍋などに日本酒を入れた徳利などを入れ、火を付けます。まわりのお湯が沸いてきたら火を消して、それで十分です。65℃~70℃くらいの熱々も美味しいので、ぜひ試してみていただきたいですね。
辨天娘ととんかつのペアリングが楽しめる「とんかつ新」
太田酒造場から徒歩圏内にある「とんかつ新」でも辨天娘は提供されています。ご家族が鳥取県八頭郡若桜町で育てている吉川豚を使用していて、ここでしか食べることのできないとんかつが楽しめます。ぜひ辨天娘とのペアリングを体験しに足を運んでみてはいかがでしょう?
店舗概要
とんかつ新〒680-0701 鳥取県八頭郡若桜町若桜298
※定休日:月曜日、第3日曜日
https://tabelog.com/tottori/A3101/A310102/31003374/
梅津酒造、まるでお味噌汁のような「冨玲」
次にお話を伺ったのは、梅津酒造6代目社長・梅津史雅さん。(Instagram:@umetsu_sake)
創業160年の歴史があり、代表銘柄である「冨玲」がはじめに完成したのは3代目のタイミングだったのだそう。名前の由来は、アメリカへ留学していた3代目蔵元が留学先で耳にした「フレー!フレー!」という言葉。今ではそんな「冨玲」以外にも、焼酎や梅酒、梨を使ったワインなども製造しています。
製造する日本酒は全て純米酒、そして生酛造りを取り入れるようになったのは5代目からで、味に個性が生まれたのはこの時期だったといいます。まるで出汁のような濃いうまみが特徴の味わいで、「飲んでいて飽きがこないので、もう一杯もう一杯、と飲んでいるとだんだん飲んでいること自体を忘れる」と笑顔で話してくださいました。
―「冨玲」の特徴を教えてください
ポスターにもしているのですが、味噌汁のようなうまみがあるのが特徴です。それだけじゃなく、「食卓の名脇役」であるという点も、「冨玲」と「味噌汁」の共通点であるように感じています。
肉でも魚でも、食卓にはご飯と一緒に味噌汁が一緒に並ぶじゃないですか。主役ではないけど欠かせないポジションで、いないとなんとなく物足りなくて寂しい。相手を選ばず、誰が来ても必ず横にいる存在。こう考えた時に、食べ物のうまみとお酒のうまみをうまく掛け算できるのが「冨玲」なんじゃないかと。
―純米酒の燗酒、「冨玲」の燗酒ならではの表現方法ですね
繊細な料理はもちろんなんですが、味の濃いものとも相性がかなり良いので、これも食事に合わせやすい理由だと思います。モツ味噌煮込みとかも合いますし、意外にもエスニック料理やスパイスが効いた料理、あとはカレーやジビエとも合います。どんな料理でも受け止めてくれるので、我が家では夏にバーベキューをやる時に、横で「冨玲」も温めて、焼肉と一緒に楽しんだりもしています。今の時期はキムチ鍋なんかもおすすめです!
―おすすめの温度帯はありますか?
個人的には60℃~70℃くらいが好みですが、自分で探してみるのが面白いと思います。味をみながら付けていって、自分好みの温度帯を探すのもかなり楽しいです。熱々で花開くようなお酒というのは少ないと思うので、ぜひ構えずに気軽に楽しんでもらいたいですね。Instagramでも燗酒の楽しみ方やうんちくなど載せているのでぜひご覧ください!
藤井酒造、世界が認めた長期熟成酒
続いては三朝温泉の温泉街に酒蔵を構える藤井酒造へ。創業は1669年、350年以上の歴史がある酒蔵です。試飲して購入ができる店舗も併設されていて、自分好みのお酒をお土産として買うことも可能です。
代表銘柄は地酒として愛されている「三朝正宗」。すっきりとした口当たりで、魚介系はもちろんお肉との相性も良さそうです。そして世界からも注目されている「白狼古酒原酒1996年醸造」は、毎年ロンドンで開催される世界規模のワインコンテスト「IWC」でゴールドメダルを受賞した実績があり、世界からもトップクラスの評価がされている長期熟成の日本酒です。
―「白狼古酒1996 年醸造」の特徴を教えてください
1996 年に醸造された原酒を長期間熟成させたことで生まれた、他に類を見ない複雑な香味を持つ特別な一本です。紹興酒やシェリー酒、ブランデーなどを思わせる芳醇な香りが特徴で、凝縮された旨味と深みのある味わいが広がり、長い余韻が楽しめます。
―「燗椀グランプリ2024in とっとり」での金賞受賞は「白狼古酒1996 年醸造」とのペアリングでしたが、温めて飲んだ感想はいかがでしょう?
冷やして飲むことで繊細な香りやキレのある味わいをより一層楽しめる、と考えていたので、私たちにとっても大変嬉しい驚きでした。実際に温めて飲んでみると、香りが開き、まろやかな口当たりと深みのある味わいが際立ちます。冷やした時とはまた違った魅力が引き出されることが分かりました。
燗で飲む場合は、アルコール度数が19%を超える原酒ですので、2 割程度加水していただくことでアルコールの刺激が和らぎ、よりまろやかな香味をお楽しみいただけます。お好みに合わせて加水量を調整することで、様々な表情をお楽しみいただけるのも、原酒ならではの魅力だと思います。
―自宅で楽しむ際のおつまみとしては、何がおすすめですか?
冷やして飲む場合は、フォアグラのテリーヌやドライフルーツ、チーズなど、凝縮された旨味を持つものと相性が良いです。和食であれば、熟成したチーズのような風味を持つカラスミや、塩辛などの珍味とも良く合います。
温めて飲む場合は、じっくりと煮込んだ肉料理や、中華料理など、濃いめの味付けの料理と合わせることで、お互いの味わいを引き立て合います。和食ですと鴨肉のロースト、あん肝などと合わせるのもおすすめです。
時を超えて熟成されたことによって生まれる、この複雑な香味と奥深い味わい。日本酒ファンだけではなく、ワインやウイスキー、ブランデーが好きな方にも、新しい発見と感動を体験していただきたいですね。
日本酒好きならもっと楽しめる!鳥取の純米酒で燗酒を
「燗酒」と聞くと、合わせる食事や温度帯など、色々と考えてしまい、ついつい構えてしまいがち。ですが実はもっと気軽に楽しめるものなんじゃないでしょうか?でぜひこの冬は居酒屋や自宅で、鳥取のお酒の燗酒を楽しんでみてはいかがでしょうか?