「Vision Pro」が2月2日に発売決定!
Meta社の創業者でCEOのマーク・ザッカーバーグ氏が、「メタバース」という概念を提唱して以来、仮想の3D空間に没入できるVR技術や、現実空間にCG映像を重ねるAR技術に大きな期待が集まっています。その期待に応えるかのように、複数の企業がVRやARを体験できるヘッドセットを開発しており、競争が激化しています。
そんな中、Apple社も新しいヘッドセットである「Vision Pro」を開発中であることを、2022年6月に発表しました。「Vision Pro」は、VR技術やハードウェアに関心を持つ人たちの間で話題になっています。
先日、「Vision Pro」の発売日が、2024年2月2日になるという発表があり、さらに注目が集まっています。ハードウェア開発のノウハウが高いApple社なので、「Vision Pro」の完成度には期待がかかります。「Vision Pro」は、「Meta Quest」や「Oculus」などの、他のVRヘッドセットへの対抗馬となりうるのでしょうか?
公式Newsroom(https://www.apple.com/jp/newsroom/2023/06/introducing-apple-vision-pro/)より引用
結論としては、「Vision Pro」は非常に高性能なデバイスですが、特徴や強みは独特で、単純に他のデバイスと優劣を比較することはできません。特に、VRやARでの活用については、未知数な部分が多いと言えます。実際にApple社は、VRやARという言葉を使わずに、「空間コンピューター」という言葉で「Vision Pro」を表しています。
海外のメディアでは「Vision Pro」を実際に体験したレポートが公開されていて、高い性能が賞賛されるとともに、既存のデバイスとは別の方向に力が入れられていることが強調されています。また、「Harvard Business Review」では、Apple社がVRやARとは別の方向を目指していることが言及されています。
「Vision Pro」に関して、Meta社CEOザッカーバーグ氏もコメントしています。ザッカーバーグ氏は「Vision Pro」が「私の目指しているものとは異なる」と言っており、Meta社とApple社のビジョンの違いについて述べています。
この記事では、それらのメディアやコメントを参照にしつつ、「Vision Pro」の特性と、その特徴から窺えるApple社の狙いに迫ります。
海外メディアの体験レポートから窺う特徴
公式Newsroom(https://www.apple.com/jp/newsroom/2023/06/introducing-apple-vision-pro/)より引用
「Vision Pro」の特性を知るためには、実際に体験した人が執筆した記事を見ることが一番です。国内外のいくつかのメディアが実際に「Vision Pro」を体験し、その詳細な体験レポートを掲載しています。
その中から「The Verge」と「CNET」の記事を参照に、「Vision Pro」の特性に迫ります。「空間コンピューター」としての性能の高さ
公式Newsroom(https://www.apple.com/jp/newsroom/2023/06/introducing-apple-vision-pro/)より引用
「Vision Pro」の空間コンピューターとしての性能の高さについては、「The Verge」と「CNET」の両方で賞賛されています。どちらの記事も、VR機器を体験した経験の多い記者によって書かれていますが、これまで体験してきたものよりも、さらに高い性能を持つと評価されています。
二つのメディアで主に評価されているのは、画質の良さと、操作の簡単さです。
公式Newsroom(https://www.apple.com/jp/newsroom/2023/06/introducing-apple-vision-pro/)より引用
「Vision Pro」は2,300万画素数の有機ELディスプレイを2つ搭載しており、これにより高解像度で仮想現実を体験することができます。
画質についての評価は高く、「The Verge」によると、ヘッドセットをつけたままスマホでメモを取り、他の人の表情を見ながら会話できたとのことです。また、「CNET」は「実際の視界と大差ない映像が再現されていた」とし、以下のように評価しています。
ヘッドセットを外したとき、私は感動した。私の日常的な視界は、Appleのパススルー・カメラが再現するものよりもそれほど鮮明ではなかったのだ。両者の差は予想以上に近く、それによってVRにおける複合現実感がうまく機能している。<br />
<span style="color:#a9a9a9;"><span style="font-size:10px;">筆者翻訳</span></span>
公式Newsroom(https://www.apple.com/jp/newsroom/2023/06/introducing-apple-vision-pro/)より引用
操作性についても高評価です。特に、12台のカメラを使って手の動きを感知するハンドトラッキングと、目の動きを捉えて操作に反映するアイトラッキングについては、両メディアともに賞賛しています。
ハンドトラッキングについては、特に操作の簡単さが注目されていました。「Vision Pro」は手の動きでアプリを操作できますが、その際に、手の動きができるだけ少なく済むように設計されています。両メディアとも、手を膝の上に置いたり、手を下げたりしても動きを検知できることを評価していました。
アイトラッキングについては、正確さとともに、使いやすさについてもコメントされていました。アイコンに注目するだけで少し大きく表示されたり、強調されたりするので、操作がしやすいとのことです。
体験レポートから、「Vision Pro」が高い性能と使いやすさを両立するデバイスであることがわかります。
VR体験の少なさ
一方で、どちらのレポートでも、今回の体験ではVRらしい体験がそれほど多くなかったことが指摘されています。
「CNET」は、フィットネス用途のアプリが体験できなかったとし、意外だったと述べました。また「The Verge」は、3Dビデオなどの新しい機能はあるものの、現在Apple社が「Vision Pro」で提供しているのは、ほとんどが既存のAppleのアプリであると指摘しています。
この点について「The Verge」は、「Vision Pro」は優れたデモ作品を公開したものの、開発者コミュニティが 「Vision Pro」向けの優れたアプリを開発できるかはまだわからない、と評価しました。
これらのレポートから、Apple社は高品質かつ使いやすいデバイスを作ることを追求したものの、現時点ではVRやARでの新しい体験を届けようとしているわけではないことがわかります。
公式Newsroom(https://www.apple.com/jp/newsroom/2023/06/introducing-apple-vision-pro/)より引用
また、「Vision Pro」独自の特徴として、没入度をコントロールできる機能があります。「Vision Pro」にはデジタルクラウンというツマミが搭載されていて、これを使って没入のレベルをコントロールできます。
例えば、「Vision Pro」では映画を見るときに仮想空間を背景にすることができますが、その際にデジタルクラウンを回すことで、仮想空間の範囲を変えることができます。「The Verge」の取材によると、Apple社は「人とのコミュニケーションが取れる中程度の没入度」が最適だと考えているようです。ここからも、VRに対する他社との姿勢の違いが見て取れます。
海外メディアの分析。Apple社の狙いは?
公式Newsroom(https://www.apple.com/jp/newsroom/2023/06/introducing-apple-vision-pro/)より引用
Apple社がVRやARを重視していないことは、「Harvard business Review」の評論記事でも指摘されています。この記事からも、「Vision Pro」が既存のヘッドセットとは異なる特徴を持っていることがわかります。
「Harvard Business Review」は、Apple社は「Vision Pro」を高性能なコンピューターの一種として宣伝している一方で、VRやARについては触れていないことに言及しています。またその理由について、VRやARといった分野は、他の企業や開発者のアプリ開発に任せていく方針だからではないか、と分析しています。
Apple社は「Vision Pro」を、開発者が集まるカンファレンスで発表しました。発表の場としてカンファレンスを選んだのも、参加した他の開発者にアプリを作ってほしいからではないかと分析しています。
記事では、Apple社がよく使う戦略として、既存のプラットフォームを改良し、実際の試用方法は他の開発者に任せるという方法があると指摘されており、次のように述べられていました。
iPodはいわばデジタル版のWalkmanだった。iPhoneはインターネットに接続されたiPod。iPadは大きなiPhone。Apple Watchはより優れたスマートウォッチ。そしてVision Proは、<strong>いわば制限のない3Dスクリーン</strong>だ。<br /><br /><strong>これまでのApple社の製品は、開発者に創意工夫の余地を与えることで、当初の用途を超え、それ以上の存在となった。</strong>「Vision Pro」は、コンピューター業界においてよく使われるこういった新しい試みの一つであり、歓迎すべきものだ。
<span style="color:#a9a9a9;"><span style="font-size:10px;">筆者翻訳</span></span>
公式Newsroom(https://www.apple.com/jp/newsroom/2023/06/introducing-apple-vision-pro/)より引用
Apple社はVRやARを積極的に推し進めるよりも、デバイスとプラットフォームを作り出すことに注力しています。「Vision Pro」は、空間にディスプレイを浮かべるなど、新しいコンピューターの使い方ができることが魅力です。
iPhoneが人とコンピューターの関係を変えたように、「Vision Pro」も新しいあり方を生み出すかも知れません。それができるだけの性能と使いやすさが窺えます。
一方、VRでどういった体験が可能になるのかは、これからのアプリ開発者の動向次第といったところでしょう。
ザッカーバーグ氏がコメント。Meta社とApple社の違いは?
Meta社ホームページ(https://about.meta.com/ja/media-gallery/executives/mark-zuckerberg/)から引用
Meta社創業者でCEOのマーク・ザッカーバーグ氏も、「Vision Pro」が「Meta Quest」とは違うことを強調しています。従業員との全社会議で、ザッカーバーグ氏は次のように述べました。
メタバースと存在についての私たちのビジョンは、<strong>基本的にソーシャル</strong>なものです。人々が新しい方法で交流し、新しい方法で親しくなることです。また、私たちのデバイスは、アクティブに行動するためのものでもあります。<br /><br />それに対して、彼らが見せたデモはどれも、人が一人でソファに座っているものでした。つまり、<strong>それはコンピューティングの未来像かもしれませんが、私が望む未来像ではありません</strong>。<br />
<span style="color:#a9a9a9;"><span style="font-size:10px;">筆者翻訳</span></span>
Meta社は、VRゴーグル「Quest」やソーシャルVRサービス「Horizon World」の制作、「Meta Avatars」のサービスなどを通して、統一した世界観での新しいコミュニケーションの可能性を模索しています。
それに対して、Apple社はハードウェアである「Vision Pro」の開発に注力しました。
VRやAR分野での「Vision Pro」の活用については、Apple社よりも、他の開発者がどういったソフトウェアを開発していくかにかかっています。
まとめ
公式Newsroom(https://www.apple.com/jp/newsroom/2023/06/introducing-apple-vision-pro/)より引用
Apple社の「Vision Pro」についてまとめました。
海外の体験レポートが語るように、「Vision Pro」は高い性能と使いやすさを両立したデバイスです。Apple社の提唱した空間コンピューターという概念から考えると、非常に優れたデバイスと言えます。
一方で、Apple社はプラットフォームの開発に注力しているので、VRで新しい体験をしたい人々の需要に応えられるかどうかは、これからのアプリ開発者の動き次第です。
ザッカーバーグ氏も、Meta社とApple社の目指す未来が異なることに言及しています。
今後、「Vision Pro」の用途がどのように広がっていくのか、期待がかかります。