【レビュー】多くを語らない少女が向き合う現実の世界―『17歳の瞳に映る世界』

望まない妊娠をした17歳の女子高生が、親に内緒で中絶手術を受けるために従姉妹と一緒にニューヨークへ旅立つ。

感情を大きく取り乱す場面や驚くような大事件は描かれず、淡々と目的に向かって進んでいく物語はまるでドキュメンタリーのようにリアルだ。

観客は2人の行動の一部始終を目撃することになるが、いつしか深い感動に包まれていくだろう。それはカタルシスとは異なる類の、リアルな生活に根づいたさりげなくも本物の感動だ。

この映画が心を揺さぶる理由の一つに「全てを描かないこと」が挙げられるかもしれない。

彼女が誰との間でどんな経緯で妊娠するに至ったのか、本人の口から具体的な説明はなく、親友である従妹も深く尋ねない。

無口なタイプの主人公は歌に想いを乗せることはできても、まるで周囲に理解や協力を求める言葉は持たないようだ。

ただ彼女の深い沈黙や表情の行間だけが背景にある闇の深さを想像させる。

そんな主人公を、主人公より明るいタイプの従妹も無理に元気づけようとはしない。

ただ当たり前のように旅に付き添い、彼女に全面的に協力するだけで、自身の思いの丈を吐露することもない。

この描かれない妊娠の事情と、必要以上に交わされない2人の間の会話こそが、彼女たちの何気ない仕草や表情、あるいはその涙の中に、観る者の想像力の矛先を向けさせる。

女性を被害者に変えてしまう歪んだ男性性、本作ではそれが本来どこに転がっていてもおさしくないと言わんばかりの描かれ方をしていて（むしろそのことにぞっとするのだが）、決してこれを過激に描いて断罪するわけではない。

これにより観客は主人公の被害や悲痛な思いについて深い想像力をもって追体験することが可能になる。

そして、その追体験で浮き彫りになるのは、彼女たちなりに現実と折り合いをつけようとする、そのたくましさと、2人の深い結びつきだ。

2人の旅を単に2人が決めたことだと片付けることはできない。

2人を旅させたのはこの世界そのものだ。

女性はもちろん、多くの男性にこそ観てほしい作品だ。

 

『17歳の瞳に映る世界』

■監督・脚本：エリザ・ヒットマン
■出演：シドニー・フラニガン　タリア・ライダー　セオドア・ペレリン　ライアン・エッゴールド　シャロン・ヴァン・エッテン
■プロデューサー：アデル・ロマンスキー、サラ・マーフィー
■配給：ビターズ・エンド、パルコ

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