
23年3月28日に71歳で亡くなった音楽家の坂本龍一さんが、東日本大震災で被災した東北の復興支援を目的に13年に立ち上げ、音楽監督を務めた「東北ユースオーケストラ」が21日、東京・サントリーホールで演奏会を開いた。
8回目の開催となった「東北ユースオーケストラ演奏会」は、今回「坂本龍一の芸術世界『東北ユースオーケストラ演奏会2025』」と題した。演奏会には、坂本さんと生前、親交があったウクライナのバイオリニスト、イリア・ボンダレンコ(23)が来日し、坂本さんと共同制作した「Piece for lllia」を演奏した。
同曲は、22年2月にロシアのウクライナ侵攻が始まり、被害を受けた子供や家族の人道支援のため、寄付を募ったボンダレンコの活動を知った坂本さんが、SNSで連絡し、やりとりしながら制作。ボンダレンコが、ウクライナの防空壕(ごう)から演奏した映像をYouTubeで配信し、全世界で大きな反響を呼んだ。
坂本さんは、22年3月26日に同所で開催した東北ユースオーケストラ演奏会で、コロナ禍で中止された20年公演のために書き下ろした「いま時間が傾いて」の演奏後、ロシアのウクライナ侵攻について言及した。同曲が「鎮魂の音楽ですけども」と説明した上で「聴くと3・11とともに、どうしてもウクライナのことを思い浮かべちゃう。もちろん、自然災害と戦争とは違うものだけれど、鎮魂という意味では共通しているところがある」と続けた。さらに「失ったものに対する懐かしさ、残念な気持ち、郷愁、鎮魂は、音楽を作る人間の心の根っこにある気が、ずっとしている」と、反戦と平和への思いを語っていた。
ボンダレンコは「Piece for lllia」について「自分にとっても、ウクライナの人にとっても、意味があるメロディで、旋律の1つ、1つに意味がある」と評した。その上で「坂本さんから(『Piece for lllia』を)いただいた時、悲しみと同時に心の内側からの温かさを感じた」と感謝。東北ユースオーケストラ演奏会で演奏した思いを聞かれると「このような大きなステージで、すばらしいオーケストラと共演できるのはすばらしい。演奏することで、坂本さんが精神的な先生になっている気がした」と語った。
坂本さんと海外で朗読を行うなど親交が深く、16年から朗読で参加する吉永小百合(80)が、8回目の朗読を行った。終演後、日刊スポーツなどの取材に応じた吉永は、ボンダレンコとの共演について「今日の曲は素晴らしかった。聴いていて胸がいっぱいになりましたし、坂本さんも喜んでいると思う」と笑顔で振り返った。ウクライナの現状に関し直接、聞くことはしていないというが「音楽は、とても強いもの。(ボンダレンコが)来てくださったことで、とても伝わっていると思う。ウクライナをはじめ、いろいろなところで、つらい思いをしている人々に対して、できるだけの温かい気持ちを持っていくことが、とても大事だと思っています」と訴えた。