若者の活字離れ(※1)が叫ばれて久しい中、小学生に一番読まれている児童書(※2)が、現在58巻で累計3500万部を突破し、2017年に30周年を向かえる『かいけつゾロリ』(ポプラ社刊)シリーズだ。
しかも、この『ゾロリ』は、現役東大生100人のうち8割の人が読んだことがあり、9割の学生が「今の子どもたちに読ませたい」と、超オススメしている。(※3)
同書は、いたずら王者を目指すキツネの主人公ゾロリと、その子分で双子のイノシシ兄弟イシシとノシシが、修行の旅をしながら先々で活躍するというストーリー。1987年にシリーズ第一作が発売されて以来、累計3500万部以上の売り上げを誇る超ロングセラーとなっている。
1987年にシリーズ第一作『かいけつゾロリのドラゴンたいじ』が発表されてから、年2回の刊行ペースで現在に至る。その間、同書を原作としたOVA・アニメーション映画・テレビアニメ化されており、特に2000年代半ばから後半にかけて、当時の小学生の間で大人気となり、社会現象化したこともあったほど。
なぜ、「かいけつゾロリ」は、「活字離れ」「本嫌い」な子どもたちを夢中にさせるのか、それは、子どもがこうしたら喜ぶかなという大人目線ではなく、自身が子どもの頃に楽しかった物、事を子どもの気持ちのままに書いているからだ。
それは、作者自身が子供時代は本嫌いだったため、「本嫌い」な子どもの気持がわかるということ。原先生は、「子どもにとって、読書は勉強の一環と思ってしまいがちで、本を嫌いになってしまう。なので、子どもにとっても、マンガやゲームと同じ娯楽のひとつになる本を書きたい」と、考えているという。
次に、子どもが夢中でページをめくる工夫が随所に散りばめられている点が挙げられる。ストーリー的には、ハリウッド映画や海外ドラマのように、ひとつの事件が解決しても、直後にまた事件が起こるというように、1冊の本で事件がどんどん起こるため、読者は簡単に本を閉じることが出来ない。
ストーリーに応じて迷路やクイズを入れ込むことで物語に参加している気持ちにさせることで、「読んでいる」のではなく、「体験している」という感覚で引き込ませている。さらに、『かいけつゾロリの大きょうりゅう』では、ゾロリが恐竜を捕えて檻に入れ、「この おりを あけちゃ だめだぜ、わかったな」と、読者に決して開けないように言うが、次のページをめくると檻が開いてしまい、恐竜が逃げ出している。すると、そのページのフキダシには、「おいおい、きみきみ、あけちゃ だめだって、いま いったのに なぜ あけるんだよ」と、ゾロリが読者を責めるなど、想像を遥かに超えた展開が待っている。
また、子どものお小遣いの少なさも知っているから、見返しやソデに4コマを入れたり、カバーと表紙の絵を少し変えたりとすみずみまで工夫し、2度、3度と読んだときにふと見つかるびっくり仕掛けを用意している。
そして、『ゾロリ』のコンセプトを示すエピソードともいえるのが、12月1日発売の新刊『きえた!?かいけつゾロリ』のPRとして、11月19日よりウェブ限定で異例の予告編的ムービーを公開。これが、突如いなくなってしまったゾロリを出版社であるポプラ社が全社員総動員で探し出すというストーリー。
そこには社長をはじめ、役員、関連会社、そして現在新刊執筆中の原作者・原ゆたか先生も出演。街中に張り紙をはったり、ビラを配ったり、様々な手段を駆使して捜索劇が行われるもゾロリは見つからず、最終的にポプラ社の社長がある判断を下す……と、PR動画も味気なく創るのではなく、一工夫した(みんなPRとわかっているが、あえて騙されて、その虚構の世界を楽しむ)遊び心がある。
明治大学文学部教授で「『かいけつゾロリ』FACT BOOK」監修者の齋藤孝先生は、「普通の書籍とちょっと違い、色々な仕掛けが本の中に散りばめられています。各ページがアトラクションがたくさんある遊園地のようになっていると思います。ゾロリの本の世界に入り、本の中で遊んで、ページをめくって移動してみると、次の新しい遊びが用意されており、普通の絵や文章で構成されている本と異なっています。本が苦手な子どもにとって、絵が毎ページ入っているので紙芝居のように、本自体の敷居が低いです。『かいけつゾロリ』は本を読むという行為に馴染めるように、子どもに思い切り寄り添っている本だと思います。漫画も寄り添っているのですが、漫画だと漫画を読んでいるという感覚になるため、本を読んでるという感覚にはなりません。別分野として捉えて欲しいです」と、絵本やマンガではなく、あくまでも「児童(文学)書」という視点で捉えてほしいという。
著書の原先生は、『かいけつゾロリ』の創作の根底にあるものとして、「テレビの子ども向け番組は武器を持って戦うものが多いけど、ゾロリは武器を持たないヒーローにしたいという信念を持っています。武器や暴力にたよることなく、おならとおやじギャグ、知恵と勇気で果敢に冒険するゾロリの姿を子どもたちに見て欲しいと思っています」と、“力”ではなく“考える力”で物事をかいけつするという方法を提示している。
※1
■調査について:全国学校図書館協議会「第60回読書調査」の結果(2015年3月発行)
■URL: http://www.j-sla.or.jp/material/research/54-1.html
<小学生の読書量の現状>
全国学校図書館協議会は毎日新聞社と共同で、全国の小・中・高等学校の児童生徒の読書状況について毎年調査を実施。この調査を見てみると2014年度の1ヶ月間の小学生の読書量は、過去最高の平均11.4冊である事が分かりました。 (中学生は3.9冊 高校生は1.6冊)小学生は2010年度からは、毎月平均10冊以上読んでいることが分かります。また、中学生は小学生と同様で、高校生に関しては横ばいという結果となりました。過去に比べ、スマホ・TVゲーム等の娯楽が多く登場し、子どもの読書離れという言葉が叫ばれていながらも、実は読書量の多い子ども達が数多くいる事が読み取れます。
※2
朝の読書推進協議会調べ(調査期間 平成26年4月~平成27年3月末)
朝の読書推進協議会調べ(調査期間 平成25年4月~平成26年3月末)
<小学校の朝読で1番読まれている本>
朝の読書推進協議会が、「朝の読書」実践校を対象に調査した人気本の平成25年度、26年度のランキングで「かいけつゾロリ」は2年連続で、朝の読書で1番読まれている本になります。こちらは、本年5月1日現在で27,879校(小学校16,975校、中学校8,685校、高校2,219校)で、約970万人の児童・生徒の取り組みになっています。
※3
【東大生 100人に聞いた「かいけつゾロリ」のtopic】
■調査について:現役東大生100人に「かいけつゾロリ」に関する出口調査を実施
■調査期間:2015年10月7日(水)から8日(木)の2日間
■集計対象構成:男性 60人 女性 40人
■集計主体:株式会社ゲイン