歯科とITの融合、若手歯科医の育成、スポーツ用マウスガードの普及など、革新的な取り組みで注目を集めている業界の革命児が話題を呼んでいます。
その話題の人物とは、大学卒業からわずか数年で独立してアール歯科クリニックを開院し、埼玉を拠点に分院展開している医療法人RDCの理事長・酒井亮さん。今回は酒井理事長にインタビューし、最新IT技術の導入や若手育成に懸ける情熱などについてお話を聴かせていただきました。
医療系一家に生まれた酒井理事長は、日本歯科大学を卒業後、神奈川歯科大学の附属病院で研修医として勤務。研修を終えると医療法人「港会」の港歯科診療所に入り、勤務医1年目という異例のスピードで同法人の分院長を勤め、驚異的な速さで独立開業も果たしました。
「研修医として行っていた大学病院でたくさん経験を積ませてもらえて。港会に入ったら1カ月くらいで『今、新しく病院を作っているから分院長になれ』と言われました。最初は無理ですとお断りしたんですけど、大丈夫だと言われて、誰よりも貪欲に学んでいったので成長が早かったですね。2009年に独立してアール歯科クリニックを開院し、2013年に医療法人RDCを設立しました。埼玉を拠点に分院展開をしていて、さいたま市に4医院目がオープンしています」
本院に当たるアール歯科セントラルクリニック南与野はとても雰囲気が柔らかいですね。
「セントラルクリニックの患者さんはお子さん連れも多いので、当院では保育士資格を持ったスタッフが常駐しています。キッズコーナーがあったり、治療ができたらメダルを上げたりとか、そういったことでお子さんたちに楽しんでもらっていますね。エレベーターがあって車いすでも入れるバリアフリー設計にしていますので、お年寄りの方にも優しい施設となっています」
酒井理事長は歯科医院とIT技術の融合にも積極的に取り組んでおられるそうですね。
「はい。クリニック内にAIを搭載したロボット(ペッパー君)を導入し、患者様の受付や次回予約、会計などに対応できるような状態などを目指しています。IT技術の導入は、ネット予約を歯科に導入しようというところから始めました。当時、歯科医院はネット予約が難しかったんですね。治療の内容が千差万別で、すぐに終わる治療もあれば1時間くらい必要な治療もある。ネット予約で1時間押さえても、30分で治療が終わったら残りの30分が無駄になってしまいますから。逆に、もっと時間が必要ということもある。そこが以前は上手くいかず、ネット予約が普及していませんでした」
どのように問題を解決されていったのでしょうか。
「AI技術を使って、個人個人に合わせた予約が取れるようにしていきました。たとえば、ほかの業者さんの予約システムだと、誰が閲覧しても一緒で「〇×」とかで空きが表示されるだけですが、当クリニックのシステムだとログインした患者さんごとの次の処置内容をAIが把握し、それぞれ空き時間の表示が変わります。そうすることで、ネット予約でも無駄なく適切に受付することができるんです」
ほかにも新たな試みをされていますでしょうか。
「最近はスポーツ歯科に力を入れています。スポーツ用のマウスガードや矯正ですね。きっかけとしては、川口にあるリベロ整骨院の先生やトレーナーの方から『子どものかみ合わせと運動能力』に相関関係について相談されたことがきっかけでした。たとえば、右ばっかりで噛んでいるような子はいくら体幹を鍛えさせてても踏ん張りが効かないそうなんですね。最近は子ども用のマウスガードが普及して、高校野球なんかでも使うようになりつつあって。もっと広めるために、リベロ整骨院とコラボレーションして、スポーツ用のマウスガードとかを専門的にやり始めています。
プロのスポーツ選手にも来ていただいて。子どもたちにも普及させていこうと考えています」
クリニック内に歯科技工士さんが常駐されているのも特徴的です。
「通常であれば、歯科技工士とドクターは同じ職場にいないので、書類だけで指示を丸投げしたりして終わってしまうんですよ。それだと患者さんの要望通りのものができ上ってこない可能性がある。ですが、当クリニックの場合は施設内に歯科技工士がいるので、直接話したりとか、実際に患者さんの口の中を見てもらったりとかするので、できる・できないも含めて意思の疎通が十分にできます」
なぜそのような体制にされたのでしょうか。
「歯科技工士自体がそもそも少なくなってきているんですよね。専門学校に通って国家試験を受けて資格を取得するんですけど、学校がもう定員割れとかになっているんですよ。なぜかというと給料が安いから。歯科技工士はどうしても医師の下請けのような立場になりやすく、立場が弱いので安く買いたたかれてしまいがちです。単価が安いとたくさん作らなくてはいけなくなり、そうすると作りが雑になっていくし、勤務時間も長くなって身体を壊してしまう場合もある。30歳までに8割の人が辞めてしまうという統計もあるようです。若い世代の腕のいい技工士たちが『割が合わないから辞める』と言わないようにするためには、十分な待遇で自分のところで雇うのが一番だと思いました。微力ですけど、それで少しでも業界が改善すればという思いもあります」
歯科技工士だけでなく、若い世代の歯科医の育成にも力を入れておられるようですね。
「若手のころにとても周りに良くしてもらったので、その恩を返すという意味でも、自分より若い世代の先生たちが一人前になるためのサポートをどんどんしていきたいなと。そのためには研修施設があって、ある程度の数の先生や患者さんがいて、さまざまな治療が見られて、最新の機材が置いてあって、技工士さんとも直接お話できるようなクリニックが必要。当それがひとつの建物ですべてそろっている施設として、当クリニックを造ったんです」
すでに巣立っていった若い先生もいらっしゃるんでしょうか。
「そうですね。当院で研修を積んでいった先生が、ウチの系列院で院長をやり、それから独立。地域に根付いやっていくという形ですね」
今後の新たな展開は考えれおられますでしょうか。
「海外にクリニックを造ってみたいという気持ちはありますね。患者さんの中に、海外転勤したり出張したりする方って結構いるんですが、なかなか知らない土地の歯科医療を受けるのは勇気が要るという話をよく聞くんですよ。国によっては、日本人の先生に診てもらいたいという患者さんも多いらしいんですよね。駐在している日本人が多い東南アジアなどに、そういう日本人の患者さんが駆け込むようなクリニックをつくれたらいいなとは考えています」
異例のスピードで独立を果たした酒井理事長は、その取り組みも異例づくめ。IT技術の導入や若手医師・歯科技工士の育成など、歯科医療の未来を見据えた酒井理事長の取り組みは今後も業界に大きなイノベーションを起こしそうです。