2017年7月24日、野良猫に噛まれた50代の女性が死亡した。厚生労働省によると、死因は野良猫がマダニに咬まれ「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」を発症していたためで、女性は猫を介してSFTSに感染して亡くなったと発表した。また、8月18日、広島市安佐動物公園では、チーター2匹がマダニによるSFTSを発症して死んだと発表し、ニュースとなった。
国立感染症研究所によると、7月26日までにマダニに咬まれた症例数が全国で280件。今年は少なくとも感染症で8人が亡くなっていて、実はここ5年で50人以上が死亡しているという。 そこでマダニの感染症について調べてみた。
昔から日本に生息するマダニ
マダニは日本に古くからいる在来生物だ。マダニ種は日本に47種類いるとされ、布団などにいるヒョウダニなどとは種類が違って、自然の草花などに生息していて、吸血できる動物を待っている。マダニは皮膚に咬み付くとセメントのような物質を出してガッチリと固定、長いときで一週間以上そのまま血を吸い続ける。吸血が終わると自分から離れる。
体長は3ミリから8ミリくらいなので発見もしやすいが、吸った血で身体がパンパンに膨らむと数センチにもなるので見つけた時は驚愕する場合もある。
マダニ媒介性感染症と呼ばれるものには、Q熱、ライム病、ダニ媒介性脳炎など、いくつか種類がある。 「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」とは?
ここではSFTSの感染症のことを中心に伝える。日本での発症、死亡例は2012年が最初とされているが、ウイルス自体は以前から日本にいたと考えられ、感染しても発症しない人が多いことが推察される。日本のマダニのウイルス保有率や、なぜ近年になって死亡例が増えたのかは調査中とのこと。
感染源は、マダニが咬み付いた動物に居ると考えられているので、動物の血を介してSFTSを持ったマダニが、次に咬んだ動物に感染させてしまう。蚊がマラリアを人に感染させるのと同じだ。
SFTSの症状
写真:ライム病
マダニに咬まれてから6日から2週間程の潜伏期間を経て、発熱,消化器症状(食欲低下,嘔気,嘔吐,下痢,腹痛)が出現。時に頭痛,筋肉痛,神経症状(意識障害,けいれん,昏睡),リンパ節腫脹,呼吸器症状(咳など),出血症状(紫斑,下血)を起こす。
実は特効薬はまだない。点滴などの対症療法で症状が改善される。致死率は10~30%程度なので恐れるほどではないにしろ、早めに医師の診察を受けるのが懸命。現在、マダニに咬まれただけで感染したかどうかの検査をすることはできないので、マダニに咬まれた後、発熱したときは皮膚科を受診すると良い。
急増の原因は野生動物
昔からいるマダニによる被害が、なぜ今になって増えてきたのだろう?
ある専門家は、野生生物が人里に頻繁に出没するようになったから、と言っている。実は近年、ハンターが高齢化などの理由で減少し害獣駆除が追いついていない地域も多いそうだ。
マダニが咬みついたまま、イノシシ、クマ、サル、そしてイタチ、タヌキ、キツネなどが人里まで降りてくる。そのマダニが散り、草木や民家の庭などにも生息。増殖している。
更に、温暖化も原因と言えそう。マダニが活発なのは4~11月とされるが、実は比較的寒い北欧でもマダニが増えている報告もある。日本でのマダニ感染症例数は、21府県で確認されていて、九州、四国、中国地方で多く、最も東は石川県になる。関東も時間の問題ではなかろうか。
TwitterなどのSNSでは、農作業をしていた時や、庭、草原に入ったあとに、マダニに咬まれたという報告が沢山寄せられている。マダニには羽がなく飛べないので、草木などに潜んでいて、人の足などに食いつくわけだ。
更に怖いのはペットへの感染。実は、この2年で犬の感染が200件以上、もちろんネコにも増えているが、実は、ネコに感染する事例は近年になってからというので、マダニの生態も変化しているのかもしれない。散歩などで草木の中を歩いたイヌにマガニが咬みつき、最悪の場合SFTSを発症させて死んでしまう。それだけならまだしも、イヌ、ネコから人へ感染してしまう場合もあるわけだから恐怖である。
咬みついているマダニを見つけたら
人の体、犬などのペットにマダニが咬みついているのを発見した場合、どう対処すればよいのか?
当然、取り除かなければいけないのだが、咬みついたマダニを強引に引き離すと、マダニの一部が皮膚内に残って化膿したり,マダニの体液を逆流させる恐れがある。人間なら医療機関(皮膚科)、ペットは獣医さんに診てもらい、適切な処置を。それでも、虫が食いついている状況を見ると早く取り除きたくなるのは心情。幾つかレクチャーするが、とにかく強引に引き離すのは一番ダメなので、それだけは守ること。
綿棒などに殺虫剤を吹き付けマダニに塗る。殺虫効果ではずれることがある。
咬み付いている部分にワセリンを塗る。窒息してはずれることがある。
など、いずれにせよ自然にポロリと剥がれるようにすることがポイント。
マダニ予防・対策
何度も言うが、マダニは主に草むらなどの茂みに生息している。そういう場所へ行く場合は、肌の露出を避け、長袖、長ズボンを着用。裾を内側に折り畳んで入れておくと服の中へ入り込むのを防げる。虫除けスプレーなども活用すると良い。
マダニは、身体に付着したらすぐに咬むのではなく、身体の比較的柔らかい部分を見つけて咬むそうだ。
家に帰ったらすぐにシャワーなどを浴びて体を洗うこと。小さな子供は、身体も髪の毛の中もチェックしておきたい。脱いだ衣服は放置せず、早めに洗濯するのがいい。もしマダニが紛れていたら大変。
ペットに関して
犬は、散歩させたりレジャーに出かけたりと外出する機会も多いはず。なるべく草木の茂った場所には入らせないこと。あぜ道などは、草が触れにくい道の真中を歩かせる。庭で遊ばせる場合、芝生などは短く刈り込む。雑草は駆除する。
ブラッシングの際は毛の根元まで気を配り、よくチェックすること。これは、イヌはもちろんだが、外に放しているネコは特に念入りに。なかなか屋外に出すことのないウサギやハムスターといった動物も時々はチェックしておきたい。
念を押すが、マダニに咬まれたからと言って必ず感染症にかかるわけではない。とにかくお医者さんに診てもらおう。ヒアリよりもマダニにご用心。