ドラマ「小さな巨人」でも展開された警視庁と所轄の啀み合い。刑事ドラマは内部の確執が描かれるケースが多いです。そこで疑問。警察組織内部はそんなに仲が悪いのでしょうか?
数年前に、事件関連に詳しい記者の方に雑談の中で聞いたことがあります。「あれはドラマですよ(笑)。基本的に捜査は、部署が違っても一致団結が基本です。もちろん個人的な好き嫌いはあるでしょうけど、上の人間が下の部署を邪険に扱うようなことはしません。それは人間性を疑いますし、誰も付いていきませんよ」とのことでした。
「所轄は上の指示だけ聞いていればいい。余計なことはするな」みたいな言い方、扱いはないのでしょう。
刑事ドラマだろうが医療ドラマだろうが、「あんなの実際はありえない」「ウソばっかり」と、リアルな現場に携わる人からの声がウェブ上に出ますよね? それでドラマが酷いみたいに取り沙汰されることもあります。
でも、あえていいますけど、そんなの当たりまえなんですよ。だって、基本的にはフィクションのドラマなんです。作り話なんですから「あんなドラマインチキだ! デタラメだ!」と叩くのはナンセンスです。ドラマは、視聴者に”面白い“と思わせれば勝ち。もちろん、放送倫理を超えない範疇でリアリティは遵守しなければダメでしょうけどね。
ホントのところは?
そこで、「小さな巨人」で気になった捜査一課と所轄の関係について、ホントのところを調べてみました。ざっくりと説明します。
捜査一課とは?
最近の刑事ドラマで、とかく偉そうなのが本庁の捜査一課ですよね。
東京を総括する警視庁(これが本庁)には9つの部が存在し、捜査一課は「刑事部」の中にあるひとつの課です。(※他の都道府県はトップが警察庁で図式は凡そ同じ)。
刑事部は刑法犯罪を担当しますが、中でも捜査一課は、殺人、強盗、誘拐、性犯罪、放火など、特に重篤な犯罪を担当する課です。捜査一課がドラマでよく登場するのは、そういう事件を扱うからなんです。警視庁の捜査一課の人員は約400人、これを統括するのが、あの「捜査一課長」になるんです。
実際の捜査一課は地味
ドラマで犯人探しに奔走する印象が強いですが、あれは緊急な時や重篤な案件を抱えている時くらいで、通常はかなり地味らしいです。朝8時前後に出勤し、捜査状況を確認する捜査会議が行われます。その後、必要とあれば聞き込みや張り込みのため外回りへ。
また、午後になると緊急な案件がなくとも外回りが主となり、管轄地域の有識者のもとを訪ねて、治安に関する情報などを得ているそうです。
で、これ以外の時間は何をしているのかというと、事件に関する報告などの書類を作成しています。これがかなり時間のかかる作業とか。警察も役所なので報告や申請などはすべて書類にしなければならないそうです。
ドラマの役として
つまりドラマでは・・・警視庁といえば日本のトップなんだから、その刑事部の捜査一課はエリート集団として偉そうで嫌味な感じにする…という演出になりがちなんですね。捜査一課の方々が刑事ドラマを見ていたら、「俺たち、そんなに威張り散らしてないよ」って憤っているかもしれません。
所轄とは?
だいたいわかると思いますけど、企業で言うなら支店です。
例えば、東京千代田区なら、丸の内署、万世橋署、神田署などが所轄署です。「本庁の人間より所轄の我々がこの辺りのことをよく知っている」といったセリフをよく聞きますが、当たりまえですね。そこが所轄の強みです。
ドラマで、本庁VS.所轄という図式がよく描かれますが、所轄も警視庁の一部ですから酷い扱いはしないはずです。
一課と所轄がタッグ
では、実際に捜査一課と所轄が一体となって捜査する場合は、どんなカンジなのでしょう?これも、ざっくりですけど流れを説明します。ケースバイケースなので、あくまでも一例です。
_______都内で凶悪な殺人事件が発生しました。犯人は逃亡しています。
まず、発生した地域の所轄署が捜査を始めます。また、本庁から鑑識課員と機動捜査隊員がやってきます。鑑識課員とは、遺留品が落ちていないかなど現場の証拠を集める仕事です。機動捜査隊員は、近くに犯人が潜伏していないか調べたり、目撃者に事件発覚時の様子の聞き込みなどを行います。
この初期段階で犯人の目星がつくなどすれば良いのですが、重大事件だと判断されれば、本庁から捜査一課の登場です。機動捜査隊から状況報告を受け、捜査が引継がれます。この一連の動きを「初動捜査(臨場)」と言います。
所轄署に特別捜査本部が設けられ、本格的な犯人探しがスタートします。捜査活動は4つの班に分かれて行われることが多いそうです。
「地取り(じどり)」― 事件現場周辺での聞き取り調査
「鑑取り(かんどり)」― 容疑者や被害者の関係筋をたどって聞き込み調査
「特命」― 遺留品や証拠品に関する調査
「情報」― 集まった情報の裏付けを行う調査
陣頭指揮を取るのは捜査一課から来た人間です。
では所轄は?
どんな事件でも聞き込み捜査は行われます。そこで、捜査一課と所轄がタッグを組んで行うのが普通だそうです。ここがドラマではあまり描かれない所。
これには理由があって、捜査一課は管轄内で起こる様々な事件に携わるため経験量が豊富。所轄はいわば地元密着型なので付近の細かい情報を持っています。そんな2人が一緒に聞き込み捜査を行うことで相乗効果が生まれる、というわけです。ぶっちゃけ、捜査一課のほうが所轄署に「お邪魔します」という感じがするのですが、そのあたりの気持ち部分までは調べられませんでした(笑)。
とにかく、ドラマとは違って捜査一課と所轄の仲は思ったほど悪くはないことが伺えます。伺えますが、どんなドラマでも、本店のほうが偉くて支店はその下というイメージなのは自然でしょうね。
余談ですが、「小さな巨人」では、所轄から捜査一課に戻ることがステイタスみたいになっていましたが、実際は、捜査一課に在籍していても上の階級に昇進したら所轄へ行くのが普通なんだとか。しかも、所轄に2~5年程勤めたら移動の話がきて、捜査一課に戻るか? 別の所轄に行くか? 居残るか? といった選択ができる場合もあるそうです。
本当に仲が悪そうなのは?
捜査一課と所轄の関係について調べていたら、もう一つ「公安」というワードがよく飛び込んできました。刑事ドラマでよく登場し、刑事と対立しますよね、「相棒」「踊る大捜査線」なんかがそうです。これもざっくり説明します。
公安は「公安警察」といって、超エリート集団なんだそうです。
国家を脅かす恐れのある組織(共産党、右翼派、左翼派、カルト教団、テロリスト集団、など)から、犯罪を未然に防ぐ事を目的としているため、シークレットな資料を抱えて外部に漏らしません。機密事項がやたら多いそうです。
「刑事警察」は事件が起こってから捜査するので、公安が持っている犯罪者集団とターゲットがかぶるケースもあります。刑事部は、捜査の手がかりになりそうな公安の情報が欲しいけれどもガードが硬い。だから互いに情報を出したがらない、といった感じのようです。
ただ、公安が偉そうで感じ悪い集団みたいに思われそうですが、公安も刑事部側が勝手に動いたせいで痛い目に遭う、なんてこともあるとか。古くは、「オウム事件」で、公安が追いかけていた人物を捜査一課が抑えようとしゃしゃり出てきて捕り逃がした、ということもあったといいます。
職務の違いで軋轢が生じるのは仕方がないことかもしれませんが、庶民のために最善を尽くして欲しいと切に願います。