近年、世界で急速に成長するデータセンター市場。現在、業界ではどのようなトレンドがあり、今後、どのような方面で伸長していくのでしょうか。
日本において同市場を牽引する一社である株式会社ブロックバリューは、2022年に設立され、最新の技術による高い処理能力を生かしたデータセンターを提供している企業です。特にグラフィックスや機械学習などの高度な分析や処理が可能なプロセッサーであるGPU(Graphics Processing Unit) に強みを持ちます。
今回は、代表取締役CEOの大西基文さんに、昨今のデータセンター市場の伸長の背景やトレンド、同社の強みやビジョン、今後の戦略についてお話を伺いました。
■データセンター市場の成長要因
株式会社ブロックバリューのデータセンター
ーー近年、国内外のデータセンター業界は急速に成長していますが、どのような背景があるのでしょうか?
日本のデータセンターサービスの市場規模は2022年に2兆257億円(前年比15.3%増)と初めての2兆円超えとなり、今後も成長が見込まれています。パンデミック初期には顧客による投資の先送りなどが部分的に発生しましたが、リモートワークの浸透やインターネット上のサービスの利用拡大に後押しされ、データセンターの利用は順調に拡大を続けています。
データセンター市場が成長している主な要因は、クラウドサービスの利用拡大です。AWSやMicrosoft Azure(※1)のようなパブリッククラウドサービスに加え、クラウドサービスプロバイダーへの大規模データセンター設備のレンタルサービス、いわゆるホールセールやコロケーション(※2)データセンターといった形態のレンタルサービスの高成長が主な背景です。
※1 AWS:アマゾンが提供するクラウドサービス「Amazon Web Service」
Microsoft Azure:Microsoft社が提供するクラウドサービス。
※2ホールセールデータセンター:建物のみのレンタル形態の施設
コロケーションデータセンター:建物と設備のレンタル形態の施設
■ブロックバリューのデータセンターの特長とビジョン
データセンターの内部イメージ
――貴社が提供するデータセンターサービスの特長や競争優位性についてお聞かせください。
私たちのデータセンターの強みは、AIソフトウェアやディープラーニングソフトウェアにおいて必要とされるGPUの計算力に特化している点にあります。
GPUでは膨大な量の情報を迅速に処理する必要がありますが、情報の処理速度を上げるためには、コンピュータの計算力を上げる必要があります。当社では提携先である米カリフォルニアの技術チームが作った部品を使い、日本のエンジニアが組み立てを行い、そこに高度なソフトウェアを搭載しています。この連携により、当社では計算力供給に特化した処理速度の速いGPUマシンを作ることができています。
しかし単純にGPUだけを集めてそれをお客様に提供するだけでは、大手のデータセンター業者には太刀打ちできません。そのため、私たちは「計算力」の供給のみに特化したビジネスモデルを形成することで独自のポジションを取っています。
GPUイメージ
――貴社のビジョンやミッションを教えてください。特に、データセンターサービスを通じて貴社が提供しようとする価値や社会的な影響についてお聞かせください。
当社は「コンピュータに手足と笑顔を与え、世界中の計算力を底上げする」をビジョンに掲げています。当社に関連の深いAI(人工知能)に創業メンバーが興味を持ったのは、メキシコやルワンダでの体験がきっかけです。
靴すら履いていない子どもたちを見て、どうすればこの子たちの将来を明るくできるだろうと考えたとき、必要なのは「知識」を身につけることだと思いました。彼らにAIを使って「知識」をスマートフォンで届ければ、能力が上がる。そう感じたことから、人工知能を有効に活用すべきだと考えました。
そのために必要となるのが計算力です。そのインフラが整わない限りはAIを使って知識を貧困国に届けることもむずかしいと考えています。世界中の計算力の底上げに寄与したいとの思いで事業を行っています。
■生成AI技術の国産増強に寄与するべく規模拡大を検討
データセンターの内部イメージ
――データセンター市場における新たなビジネス機会の創出のために、どのような戦略を立てていますか?
AIの中でも、これからの時代でより一層の普及が見込まれる技術が「生成AI」です。開発技術は米欧が先行していますが、いずれ日本にもその波は来ると考えています。日本政府も、海外依存を減らすことが経済安保につながるとみて、国産化を推進することを打ち出し始めています。
AI関連の開発には基盤となる大規模言語モデルに膨大なデータを学習させる必要があるため、インフラとなるコンピューターがどれだけ大量のデータを処理できるかが開発能力を左右します。そのため私たちも今後の計算力の爆発的な需要に備えて規模を拡大していく予定です。
■データセンターのセキュリティやコンプライアンスへの取り組み
――近年はデータセンター業界におけるセキュリティやコンプライアンスの重要性が高まっています。貴社はどのようにセキュリティやコンプライアンスに対応していますか?
データセンターでは建物内で保持しているサーバーに対し、災害を含む想定し得るすべての状況下での安全性維持が強く求められます。その中には、大地震のような自然災害だけでなくテロ行為や業務妨害となるような故意的な不正行為も含まれており、強固なセキュリティ対策が求められています。特にサーバーを保管するサーバー室のセキュリティは、厳重な対策が不可欠です。入退室管理システムや監視カメラシステムなどを日々強化し、安定運営に取り組んでいます。
■今後の展望
――最後に、今後のデータセンター業界の展望や貴社の成長戦略についてお聞かせください。
世の中には、解析すべきデータが膨大に存在します。 例えば、街を歩いていると至る所で見かける防犯カメラ。もし事件が起きたら、警察はその証拠を見つけ出すために防犯カメラに蓄積された画像データを解析します。
そのような画像データの解析に必要なのが、先にお話しした当社の強みでもあるGPUです。中国では、1日に送信されるデータの数は人口の約4倍にも相当するといわれており、その解析に必要なGPUサーバーは、東京ドーム7つ分にもなります。 私たちは、これから世界中で必要とされていく大規模な計算力を提供すべく、継続して高精度なGPUサーバーの製造・販売を行っていきます。
また今後もこの需要の拡大に備えて、AI活用を含めた技術革新を進めていきます。
株式会社ブロックバリュー 代表取締役CEO 大西 基文
伊藤忠商事にて海外プラント事業に従事後、デルオンライン、Amazonジャパンの立ち上げを牽引し、その後トレンドマイクロ、クロックス、ジョンソン・エンド・ジョンソンのトップを歴任。現在はスタートアップ支援会社のネクストチャプターを経営する傍ら、多くの企業の顧問に就いており、グロービスエグゼクティブスクールにてマーケティング非常勤講師も務める。2022年に株式会社ブロックバリュー代表取締役に就任。米国シカゴ大学MBA。MITにてBlockchain及びUC BerkeleyにてAI のExecutive program修了。
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