「ネスカフェ」や「キットカット」など使用後の紙資源や、未利用の間伐材を紙糸にアップサイクルするプロジェクト「TSUMUGI」が、日本伝統工芸とのコラボレーション第一弾として「毎田染画工芸」と共同で「アップサイクル加賀友禅手ぬぐい」を制作。12月8日から販売を開始している。
アップサイクルとは、捨ててしまうものを価値のある物に生まれ変わらせる取り組みのこと。もともとは、食品メーカー「ネスレ日本株式会社」と、精密機器や繊維の開発を行う日清紡グループ「ニッシントーア・岩尾株式会社」の2社が2022年にスタートさせたプロジェクト。当時は、古紙から紙糸を生み出した繊維に、廃棄予定のコーヒー残渣や紙パッケージを染料に利用することで「ネスカフェ 原宿」で勤務する従業員が着るTシャツやエプロン、つまりノベルティとして提供していた。
「このユニフォームはどこで買えるんですか?」と問い合わせも増えたことで手応えを感じ、もっと多くの人にこの取り組みを知ってほしい思いと、中長期的に取り組めるようなプロジェクトを作る意思を込めて、「ネスレ日本株式会社」や「日清紡グループ」、「TOPPAN株式会社」が中心となり、2023年2月に「一般社団法人アップサイクル」を設立。捨てられてしまうような資源や、森の手入れで発生する間伐材を活用してリサイクルしていくという理念に共感した会社から「自分たちのノウハウを持って何ができることはないですか」と声をかけられ、実に14もの会社・団体が参画したという。
そこから2023年10月からは、「キットカット」の紙パッケージ等をアップサイクルした、Tシャツやトートバッグの一般販売を開始。ついに消費者の手元に届く形で商品が届いた年である。実はこのタイミングで、全30社がこの取り組みに参入。伝統工芸を取り扱う会社や神社などの団体も増えたことで、さまざまなコラボレーションアイデアを思いついたという。
2023年11月には、兵庫県・神戸市内「神戸メリケンパークオリエンタルホテル」内のロビーに、アップサイクルしたクリスマスをイメージしたディスプレイを展示。飾ったあとは捨てられてしまうことも少なくないというディスプレイだからこそ、資源を再利用することで無駄をなくそうという発想である。反響も上々で、神戸の新聞社やテレビでも報道。足を止めてまで鑑賞する人も多かったという。
文字だけだと難しそうには感じないが、アップサイクルする技術を生み出すまでには非常に難航したという。まずは強度面。プロジェクト当初は紙糸がすぐに切れてしまう問題があったため、強度を増すために間伐材を入れたり、コットンを使用したりすることで、2年の歳月をかけて紙糸を流用できる段階まで仕上げた。また、製品の質感が全く変わってしまうためTPOや使い心地といった点を考慮して、それぞれ厚みや縫い目の密度を変えて制作しているのだとか。
そんな、様々な試行錯誤を経て「一般社団法人アップサイクル」が今回手掛けたのが、「アップサイクル加賀友禅手ぬぐい」である。着物の染色技法である友禅のひとつ「加賀友禅」を三代にわたって引き継いできた「毎田染画工芸」の作家・毎田仁嗣氏が監修のもと、京都精華大学の学生たちが手ぬぐいの原画デザインを制作した。
通常は絹の着物に「加賀友禅」の技法で柄付けするのが一般的だというが、学生たちによる自由な発想と「加賀友禅」の伝統的な絵柄を、紙糸で制作した手ぬぐいに踏襲した部分が魅力だと話すのは、「一般社団法人アップサイクル」で事務局長を務める瀧井さんだ。
伝統工芸品を制作するうえで、作家たちが抱えていた課題といえば、作品を発表する場の少なさと後継者問題である。
「加賀友禅といえば着物が有名ですよね。ただ着物自体を着る機会が減っていたり、工芸品を気軽に買う方も減少傾向。私たちの生活の中にあるかというと、そうではないことが多いんです。一方で、若い学生さんや作家さんが取り組む事例もあるので、布という素材をお題として出すことで、実際に商品としてデザインしてもらう場を提供することができました」
学生たちにデザインしてもらいつつも、「加賀友禅」の伝統はしっかりと残った手ぬぐい。当然、デザイン性も抜群である。
「お花の部分は伝統的な『加賀友禅』の絵柄なんですけど、化学記号のような模様があしらわれたデザインなど自由な柄のものが多いんです。例えば、自然との共生とジェンダーレス、そしてふたつのSDGsを合わせた先鋭的なデザインの手ぬぐいも販売されています。こちらは京都精華大学の外国人が作られたデザインで、ご自身の国のルーツからインスピレーションを受けた作品。既存の枠組みに囚われない概念で制作してもらいました」
洗えたり普段遣いとして使用できたりするのも魅力。
「シルクだと洗濯機や水洗いができないため、本来はクリーニングしか手段がありません。「加賀友禅」で染めた手ぬぐいは、水洗いすることも可能です。ハンカチに近いような形で、しかもハンカチより大きさがあるので、私は台所でふきんの代わりとして乾拭きに使用することも多いです。弁当包みや瓶を風呂敷のように包むケースや、首に巻くなどあらゆる用途で力を発揮してくれます」
石川県は金沢市に構えるショップと、後楽園内のショップ、そして通販サイトという3つの販売経路だったが、多くのお客さんから想像以上の反響があったそう。
「『アップサイクル加賀友禅手ぬぐい』の中でも、金魚が描かれたデザインの手ぬぐいはすぐに売り切れてしまい、次の入荷は年明けになるほど大人気だったんです。社内販売も行ったんですけど、こちらも非常に反響が多くて。特に、華やかなデザインで日常使いできるところがうれしいというお声を頂くことが多かったです。想定以上の反響で、女性社員を中心に多くの方に購入いただきました。」
「一般社団法人アップサイクル」が掲げる理念の基、参画した会社たちと協力し創り上げた今回のプロジェクト。一番の狙いは「世の中に問いかけること」という。
「プラスチックに比べて紙は燃やせばいいのではないかと思われる人も多いと思うんですけど、燃やせば燃やすだけ二酸化炭素が増えてしまうということもあります。そのため、アップサイクルしてお届けすること中で、様々な人にこの取り組み自体を知ってもらいたい。その結果、捨てられてしまう資源や間伐材の存在が間接的に知られて、我々が考えるべき課題を世の中に問いかけられたらと思います」
一般社団法人(※営利を目的としない非営利法人)であることから、利益を求めるという考えが根本にないために一連のプロジェクトを中立的に遂行できていると話す瀧井さん。参画している会社も営利とはまた違った目線でプロジェクトに臨めているのではないだろうか。2024年には新たなプロジェクトも控えているとのことで、さらに注目が集まりそうである。