歌と絵本で、子どもの頃から正しい歯磨きの習慣を身に付けさせたい

 

東京都台東区雷門でヒグチデンタルクリニックの院長として、日々歯科診療を行っている三枝遵子氏。その診療の傍ら同氏が作った歌『ハミガキろっく』『にらめっこ』や、絵本『なんではをみがくの？』が注目されている。診療で特に力を入れている予防歯科と、そこから派生して生まれた歌や絵本にかける思いについて、三枝氏に話を聞いた。

クリニックと大学病院での診療で歯磨きの重要性を再認識

三枝氏は、日本大学歯学部を卒業、同大学歯周病学講座に在籍後、1995年に樋口歯科（現・ヒグチデンタルクリニック）を開院。大学病院と同じような診療をしてきた経験が、現在に生きているという。

「通常、治療が難しい症例の患者さんが大学病院に来られます。しかし結局、クリニックでも大学病院でもやるべきことは同じで、行きつくところは予防。歯磨き、ブラッシングの指導なのですね。歯磨きは、大人になってからだと長年の癖が染みついてしまい、そこから間違った歯磨きの方法を直すことは難しいのです。そのため、大人になってからではなく、子どもの頃に正しい歯磨きの指導を始めなければと思い、良い方法はないかと模索しました」

そうしたなか、「子どもの時に聴いた歌は忘れないだろう」という考えに至り、三枝氏が着目したのは歌で歯への意識を高めてもらうこと。作詞を手掛けるのみならず、三枝氏自ら歌ったのが『ハミガキろっく』である。2011年にはアニメDVDも作り、アニメに登場する歯のキャラクターの「ろく」も同氏が原案をデザインした。

歌『ハミガキろっく』『にらめっこ』と絵本『なんではをみがくの？』の誕生

「歯磨きは毎日のことなので、苦に感じている人が多いかもしれません。そのため、子どもの頃から楽しく歯磨きをしてもらうためにはどうしたらいいかと考え、『ハミガキろっく』の歌を作りました。お子さんたちには、この歌を楽しく歌いながら歯磨きをすることで、歯磨きへのモチベーションを上げてもらい、歯磨きを習慣化させてほしいと思います」

さらに、2021年には『なんではをみがくの？』という絵本を作成したという。「お子さんの成長に伴い、歯を磨く必要性を理解しながら歯磨きをしてほしいという思いで絵本を作りました」と語る三枝氏。同氏がストーリーを考案し、「歯磨きがなぜ必要なのか」と今更聞けない大人のためにもよくわかる内容になるようこだわった。

2023年には、新しく『にらめっこ』という歌を作った。この歌は、歯科医院の「みらいクリニック」院長である今井一彰氏が考案した「あいうべ体操」を楽しく行ってもらうために作ったという。

「コロナ禍でマスク生活が長くなり、大人も子どもも口腔機能の低下が目立ってきています。そうした背景から、以前より推奨されている『あいうべ体操』を楽しみながらできないかと思い、『にらめっこ』の歌を作りました。コロナ禍における感染症対策の一環である黙食や大きな声で話さないといった行為が日々積み重なり、お子さんたちの口腔機能を低下させています。お孫さんの影響を受けて、高齢者の方々にもこの歌をラジオ体操のように毎日歌って『あいうべ体操』を習慣化していただきたいです」

世界も視野に入れて予防歯科についてポジティブな情報発信を目指す

『ハミガキろっく』や『にらめっこ』の歌は、海外に向けても発信するために、『ハミガキろっく』は英語バージョン『Brushing Rock』も作った。現在『にらめっこ』は中国語バージョンに出来ないか思案中である。そこには、世界に向けた三枝氏の思いがある。

「SDGsの目標の中には、『すべての人に健康と福祉を』という項目があります。日本人は健康に気をつけ、長寿であることを可能にしていますよね。しかし日本人にとって当たり前のことが、世界ではそうではありません。私は日本人こそ、健康という分野において世界のリーダーになれると信じています。私たち歯科医も予防歯科を推進することで、日本人ひいては世界中の人々の健康に寄与できればと思っています」

「私が行っている予防歯科に関する取り組みは、日本の歯科医ならみんなが取り組んでいることです。しかしながら、その取り組みが国民の皆さんにうまく届いていないような気がします」ともどかしい思いを語る。浅草の町で、長年信頼をおく歯科衛生士とともに日々診療を行いながら、歌や絵本を通して正しい歯磨きや歯の健康に関する知識をポジティブに情報発信し続ける三枝氏。今後も、世界も視野に入れたその活動が注目されるだろう。