毎日、深刻な暑さが続きますが、注意が必要なのが熱中症。特に熱中症につながる脱水症を避けるために、水分や塩分をしっかり摂ることが重要です。
「水分を摂っているから大丈夫」と油断していると、思わぬリスクにつながる恐れも。そこで今回は、脱水に詳しい医学博士である谷口英喜先生による、脱水症が疑われる症状と、すぐにできる脱水症の見つけ方をご紹介します。
■脱水症の影響を受けやすい3つの臓器とは?
熱中症の大きな要因の一つは脱水症といわれています。谷口先生によれば、脱水症の症状は3つの臓器に出現しやすいといいます。
「成人のからだは、体重の6割が水分で占められています。その中でも、『脳』『消化器(胃・腸)』『筋肉』の3つの臓器は水分含有量が8割近くに上るため、水をたくさん必要とすることから、脱水症の症状はこの3つの臓器に出現しやすいといえます。
また、1つの臓器症状ではなく、3つの臓器の異常が同時に出現することで、他の疾患の症状と脱水を見分けられることもあります。例えば、手足の麻痺、ろれつが回らないなどの症状が出たら脳梗塞を疑いますが、手足の脱力に意識レベル低下や食欲不振を併していたら、脱水症の可能性が高まります」
■こんな症状が出たら脱水症かも!?
3つの臓器に出現しやすいという脱水症の症状。どんな症状なのでしょうか? すぐにできる脱水症の見つけ方を教えていただきました。
「脱水症は、3つの臓器異常症状の同時出現が発見の目安となります。また、疲れや痛みも脱水症のサインといえます」
1.集中力・記憶力・認知機能の低下
脳に脱水症が起こると、中枢神経の異常が生じるといいます。若者は集中力の低下、高齢者はせん妄症状や記憶力、認知機能の低下を招くといいます。万が一、車を運転中に脱水症を生じると、集中力が低下して、交通事故につながる恐れもあります。十分注意しましょう。
2.膀胱炎、腎盂腎炎を繰り返す
膀胱炎や腎盂腎炎を繰り返す場合も注意が必要だといいます。実際にあったケースとして、介護者のおむつ交換の負担を軽減するために水分投与を控えたら、結果として尿路感染症を繰り返し発症するようになってしまったというもの。これは脱水症を起こしている可能性があるそうです。
3.運動時のパフォーマンス低下
運動しながら、何かパフォーマンスが落ちたかもと感じたなら要注意!
脱水症になると、脳の血流が減少して集中力が低下したり、筋肉の血流が減少して筋力の低下や動きが緩慢になったりするそうです。
炎天下での野球やサッカーの練習中に水分の補給を制限してしまうと、結果としてパフォーマンスが低下し、実力を十分に発揮できないといったことは十分起こり得ます。運動時には必ず水分補給を行いましょう。
4.原因不明の微熱や痛み
もし原因不明の微熱や痛みが出たら、脱水症のリスクがあるのだそう。脱水症による痛みであれば鎮痛剤を使用することなく、水分補給によって痛みの治療ができる可能性もあるそうです。
■経口補水液を飲んでチェックしてみよう!
もし、上記のような気になる症状が自覚されたら、経口補水液を飲んでみて、症状がおさまるか確認してみると良いと谷口先生はアドバイスします。
経口補水液とは、小腸からもっとも水分が吸収されやすい割合で水・塩分・糖分が配合されている飲料のことで、摂った水・塩分が素早く身体に吸収され、脱水症を改善してくれます。例え「OS-1(オーエスワン)」という商品が経口補水液として市販されている代表的なものです。
「経口補水液を試してみてほどなくして症状が改善したら、脱水症による体調不良であった可能性が非常に高いといえます。このように、病気の診断の検討をし、それに対する治療をしながら経過を観察し、その治療で効果がみ られたら、その診断が適切であったとする診断・治療の方法を『診断的治療』と言います。気温が上がり脱水しがちな盛夏は、熱中症対策としても有効な経口補水液を自宅に備えておくのが良いでしょう。一方、経口補水液を飲んでも体調不良が緩和されないときは、他の原因である可能性もあります。その場合は病院に行くようにしましょう」
■熱中症は後遺症も恐ろしい!
谷口先生によると、熱中症は死亡リスクだけでなく、重度の熱中症によって重い後遺症に苦しめられる人が多数存在するといいます。
「熱中症の後遺症には、中枢神経障害による高次機能障害で記憶力が悪くなったり、成長を妨げられたり、 身体の一部が動かなくなってしまうなどの症状があります。日本救急医学会の『熱中症診療ガイドライン 2015』にも、熱中症の後遺症は脳障害をはじめとした中枢神経障害だと明記されています」
先に紹介された脱水症の影響を受けやすい3つの臓器のうち、一度、障害を受けたらもとに戻らない臓器が「脳」、 いわゆる中枢神経だといいます。
「熱中症に伴う脱水症により脳血流が減少し、さらに異常高体温が加わると、脳神経に障害が生じます。その結果として、高次機能障害(記憶力低下や判断力低下)や麻痺、嚥下機能障害、歩行機能障害などの後遺症が残ることがあります。脱水や高体温による脳、神経へのダメージをいかに食い止めるか、時間との戦いです。高体温・脱水 状態をいかに早く回復させるかが、後遺症になるかの分かれ道でもあります。
重度の障害を負わずとも、倦怠感やめまい、頭痛などが長期間継続することもあり、これらが熱中症の後遺症だったというケースも。後遺症を残さないためにも、熱中症の可能性がある場合は、すぐに応急処置を行うことが重要です」
熱中症は恐ろしいものです。日頃から十分、水分と塩分をしっかりと摂取して、脱水症と熱中症リスクを少しでも減らすようにしたいですね。
【監修】
谷口 英喜先生
生会横浜市東部病院 患者支援センター長/周術期支援センター長/栄養部部長 医師
専門は麻酔・集中治療、経口補水療法、体液管理、臨床栄養、周術期体液・栄養管理など。日本麻酔 学会指導医、日本集中治療医学会専門医、日本救急医学会専門医、日本外科代謝栄養学会指導医、TNT- D メディカルアドバイザー。1991 年、福島県立医科大学医学部卒業。学位論文は「経口補水療法を 応用した術前体液管理に関する研究」。著書『いのちを守る水分補給~熱中症・脱水症はこうして防ぐ』(評言社)ほか多数。
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