
『パラサイト 半地下の家族』(19)で第72回カンヌ国際映画祭では韓国映画初となるパルム・ドールを受賞、第92回アカデミー賞では作品賞を含む6部門にノミネートされ、作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞の最多4部門を受賞し、歴史を塗り替えた稀代の映像作家ポン・ジュノの最新作『ミッキー17』が大ヒット上映中です。
一発逆転の夢の仕事!のはずが…ブラック企業の使い捨てワーカーに!人生失敗だらけ、どん底主人公・ミッキーと超絶強欲な権力者たちが対峙する逆襲エンターテイメントとなっている本作。先日来日したポン・ジュノ監督に作品へのこだわりについてお話を伺いました。

――本作とても楽しく拝見させていただきました。劇中に登場する巨大生物のクリーパーの描き方が畏怖と優しさが共存しているものだったと感じていて、『オクジャ/okja』(2017)もそうですが、生物への優しい眼差しというものはどういう所から培われたのでしょうか。
主題とも関わってくることで、クリーチャーや動物を通じてのストーリーは、我々人間がいかに愚かなものなのかということを映す鏡のような存在でもあると思います。個人的なことで言いますと、私は今も犬を飼っていまして魂のパートナーであると言えます。子供の時からずっと犬を飼っていたんですが、多分1978年のことだったと思いますけれど、私が大好きだった犬とお別れをしなければならない状況に置かれたんですね。私は元々テグという都市に住んでいたんですが、そこからソウルに引っ越しをすることになり、犬と離れなくてはいけなくなった…複雑な事情があったので、話長くなってしまうので省略しますけれども。犬と別れてしまったことによる寂しさはとてつもないものでした。子供の時から基本的な動物に対する感情というのが私の中にあるんだと思います。Love&Peaceです。
――おっしゃる通り、人間の愚かさが際立っている演出でしたよね。その一方で、監督の作品には主人公ミッキーの様に弱い立場にいる人々への優しさも感じられます。
能力が卓越しているとか、または金や権力を持っている、そういう人物を描いたことはこれまでほとんどなかったように思います。ヒーローですとか権力者は体質的に合わないというのもあるかもしれませんし、あまりそういう人物を描写することに対して気持ちが乗らないんですね。ヒーローが出てきてミッションを容易くこなしてクリアしていくというストーリーよりも、善良なんだけれどもどこか足りないような、どこか抜けているような人々が、自分には到底抗えないような大変なミッションをもがきながらそれをクリアしていく、そういう後者のストーリーに真の人間ドラマというのがやはり現れるのではないか、そこに真の感情が込められるのではないかと思っているんです。


――宇宙船のセットがとても凝っていましたが、監督がお気にいりの場所はありますか?
全体的にその宇宙船は汚い空間として、汚い工場または汚い貨物船のように描かれています。主人公であるミッキーが労働者階級だということもありますし、映画の全体的な雰囲気が人間の愚かさに焦点を当てているということもあるのですが、2つ例外の場所があるんですけども、ラボ実験室と、マーク・ラファロが演じるケネス・マーシャルの部屋です。ラボはSF的な空間ルックや雰囲気を他の場所とは違うものにしたいと思いました。マーシャルの部屋は非常に奇妙で、グロテスティックな派手な部屋となっています。ペルシャの高級カーペットもしかれていて、それは彼らの複雑な虚栄心、虚勢、人間に対する礼儀を失っているその姿、精神世界が表現されていると思います。
――ミッキーがプリントされていく時にこう、ギッギッギ…て途中で止まったり、行ったり来たりしますよね。私たちも紙のプリンターでよく体験することだなあと思って笑ってしまったのですが、こういったユーモアは監督は普段からメモしていたりするのでしょうか?脚本を書く時に思い出すのですか?
両方あると思います。そういったアイデアを使う時に何よりも大事なことは“ふてぶてしさ”だと思うんですね。人によってはユーモアを演出することが気恥ずかしくなることもあると思うんですけれども、私は大胆にふてぶてしく使ってしまいます。このヒューマンプリンティングというのは、このストーリーの革新的でSF的な要素であると思うのですが、ギッギッギ…て途中で詰まってしまう感じこそがプリンターらしさだと思ったので、大胆に取り込んで表現しました。
それはある意味では人間性が完全にもう底をついている、人間性が完全に損なわれているということを表しているものでもあると思うんですね。とても可哀想にも思えますし、ロバート・パティンソンが持っている元々の不憫な雰囲気と相まって、悲しい瞬間でもありで、かつ少し面白おかしくもある。
とても重要なシーンだったからこそ、(出力が詰まっている描写を作る)エフェクターをやっている方にお願いをして、私自身が直接それをコントロールして操作していました。また、プリンターのすぐ脇でラボの研究者たちがコインでサッカーゲームをしていますよね。これはあまりSF映画ではなかなか登場し得ないようなシーンだと思うんですが、だからこそそんなシーンが出てきたら面白いだろうなとテンションが上がりました。そういう少し天邪鬼的な気質もあるせいか、こういうアイデアを使うことにためらいが全くないんです。あのコインサッカーゲームは僕が小学生の時によく遊んでいた遊びです。

――『パラサイト 半地下の住人』がアカデミー賞での数々の受賞をし、その後に発表する初の作品となりましたね。作品作りで意識の変化などはありましたか?
『ミッキー17』はハリウッド映画であることは間違いないんですけれども、いわゆる英語圏の映画というと、本作は3作目となりますし、ハリウッドの俳優さんともティルダ・スウィントンやジェイク・ギレンホールなどの皆さんとご一緒していますなので『パラサイト』があったからこの今のハリウッド映画に繋がっているということではないんです。
ミッキーという人物と置かれている状況は違いますけれども、私も映画を撮り続けている労働者であるという意味では同じです。1本1本を取るたびに、私は映画に自分自身の肉体と精神を全て注ぎ込んで映画を作ります。本作は私にとっては“ポン8”になります。『パラサイト』は“ポン7”でした。1本取り終えるたびに1度死んで、もう1度生き返るような感覚で映画を撮っているんです。映画を撮るたびに、自分の人格や性格やその状態が、少しずつ作品によってまた変化していくということも感じます。
――本作のオフィシャルインタビューで「『ミッキー17』は優しい作品と言っていただくことがあって、僕も丸くなったのかもしれない」といったことをおっしゃっていました。監督の作品はどれも大好きなのですが、『グエムル-漢江の怪物-』の様なモンスターパニック作品などをまた撮られる可能性はありますか?
その“丸くなっている”というのは、もしかしたら年齢のせいだけではなくて体重のことかもしれませんが(笑)。
本作では、あくまでも私にとっては、この不憫なミッキーが破壊されてほしくないという気持ちが強くありました。そしてこの作品はラブストーリーでもあると思います。ミッキーとナーシャの愛の物語ですよね。ミッキーが破壊されなかった理由は、その愛があったからだと思っています。ラブストーリーをしっかりと描いているという意味でも丸くなっているかもしれませんが、それは本作限定だと思っています。次回作として今アニメを準備していますけれども、その後の作品として実写で2,3構想しているものがあるんですね、そのうちの1本はホラー映画ですし、血の海が広がる作品になると思います。(日本語で)プシャー!です。
――“ポン9”、“ポン10”、“ポン11”と拝見出来ることを楽しみにしていますね!
No.いくつまで映画を作って死ぬのか、何個まで出来るのか、自分でも楽しみです。
――“ポン17”までぜひ作っていただけたら嬉しいです。

この日取材した記者たちにクリーパーのぬいぐるみをプレゼントしてくれました。監督、すてきなお話をありがとうございました!
■タイトル:『ミッキー17』
■公開:3月28日(金)公開 4D/Dolby Cinema/ScreenX/IMAX 同時公開
■監督・脚本:ポン・ジュノ 『パラサイト 半地下の家族』
■出演:ロバート・パティンソン『TENET テネット』『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』、ナオミ・アッキー『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』、スティーブン・ユァン『NOPE/ノープ』、
トニ・コレット『ヘレディタリー/継承』『シックス・センス』(アカデミー賞Ⓡ助演女優賞ノミネート)、マーク・ラファロ『アベンジャーズ/エンドゲーム』
■製作年:2025年■製作国:アメリカ ■映倫区分:G
■コピーライト表記:© 2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
■配給:ワーナー・ブラザース映画 オフィシャルサイト:mickey17.jp ハッシュタグ:#映画ミッキー17
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