原作・押切蓮介×監督・白石晃士による映画『サユリ』が8月23日(金)より全国公開中です。
累計20万部を突破し、異能・押切蓮介のホラー表現到達点と呼ばれるホラー漫画「サユリ」が実写映画化。とある家族が夢のマイホームへと引っ越した途端、次々と不可解な現象に襲われるというストーリー。監督は、大ヒットホラー『貞子vs 伽椰子』などを手がけ、幽霊、呪い、オカルト、モキュメンタリーなど様々なジャンルのホラー作品を数多く手掛けてきた白石晃士。
本作の魅力について、印象的なシーン、注目してほしいポイントについて白石監督と押切先生にお話を伺いました！
――本作とても楽しく拝見させていただきました！監督は情報解禁の際に「このマンガを映像化するのは私しかいない」というコメントをされていましたね。
白石監督：原作をプロデューサーから読ませてもらって、日本なら自分以外にはいないだろうと思いました。霊的な存在と生命力との戦いっていう価値観と、やられっぱなしだった人間がやり返すという構成に共感したので。
押切先生：“Jホラーあるある”ではあるのですが、霊に負けっぱなしなんですよね。映画を一緒に観ていた時に母親に「もうずっとこんな感じじゃん」と言われて、そうだよなとそこから意識するようになり、そろそろ人間が逆転してもいいんじゃねえのかなと思ってこの漫画を描いて。「こういう映画が観たいな」という願望がつまった作品でもあります。
――では今回映画化するというのは先生にとっても嬉しいニュースだったわけですね。
押切先生：白石監督だって聞いた時、もう超嬉しかったですよ。『コワすぎ!』（『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』）の大ファンだったので、クラスの気になっている女の子が自分のことを好きだった、というくらい嬉しかったです。
――それは最上級に嬉しすぎますね！ 監督は実際に映像化するにあたってどんなことを意識されましたか？
白石監督：漫画の構成が、おばあちゃんが覚醒前と覚醒後でバッサリ分かれていますが、映画の脚本でもちょうど真ん中にその転換がくる様に調整しました。
――漫画も拝読していますが、本当に面白い展開の変わり方ですよね。
押切先生：1巻と2巻で別ジャンルというくらい変わるんですよね。1巻はただただサユリが家族を呪った状態で終わるので、「怖い」という理由で読むのをやめてしまう人もいるし、「いつもの感じかな」と予想して切ってしまう人もいました。数字もいつもより悪かった、といったことを言われたこともあって…。でもそうじゃないんだ！と。とりあえず最後まで観て、読んでもらいたいんです。
白石監督：映画は座席についたら、基本的には最後まで観ますからそこは有利ですよね（笑）。
押切先生：そういう点でも本当にありがたいですね、映画化が。
――キャスティングも大変だったかと思うのですが、いかがでしたか。
白石監督：漫画を拝読して、おばあちゃんの顔がとにかく良いなと思ったんですよね。でもこれは漫画だから可能な表現であって、映画にする上では考え直す必要がありました。どうやって表現しようかなと考えていたのですが、本当に根岸（季衣）さんに演じていただけて良かったなと思います。根岸さんが醸し出すちょっとハードボイルな雰囲気が、強いおばあちゃんにリアリティを与えてくれて。根岸さんのお顔やスタイルから醸し出される空気がカッコ良くて。
――覚醒する前と後では全く違う人物というくらい、メリハリがカッコ良かったです。
白石監督：私はほとんど何も言っていなくて。髪を下ろしたら髪飾りをつけているのですが、根岸さんがお会いした時から「ジャニス・ジョプリンのイメージでいきたい」とおっしゃっていて、すごく面白いアイデアだなと。
押切先生：あのおばあちゃんの姿を見て、なんで漫画でそういう表現が出来なかったんだろう、もっと豹柄とか着させりゃよかったなあって思いました。僕自身が服装に全くこだわりの無い人間なので、髪型や服装が変化していくという気のまわし方が出来ていなくて。なので映画を観て感動しました。
――そもそも、おばあちゃんが覚醒するという発想はどの様なところから思い付かれたのですか？
押切先生：家族の中で一番弱々しい存在だった人が、いきなりヒーロー的立ち位置になったら素敵だなと思って。僕はおじいちゃんもおばあちゃんも一緒に過ごしたことが無いので、おばあちゃんに支えられるということにずっと憧れを持っていました。いざ、霊的なことに悩まされてもおばあちゃんなら助言をくれるんじゃないか？という頼もしさっていいなと。憧れもあってこの発想が出てきたんです。
――「命をぶつけろ！」と生きている人間の力を見せつける所が本当に素晴らしくて、ご飯をモリモリ食べるところも最高ですが、下ネタを言うところもすごかったです。ネット上でも「霊的なピンチがあったけれど、エロ本を持っていたら助かった」という書き込みを見たことがあって、食べること、性的なこと、確かに生命力だよなと感じました。
押切先生：そう言いますよね。エロはパワーの集まる場所というか。
白石監督：そうなんですね。
――本作でも効果的でしたので、私ももし霊に出くわしたら、下ネタで撃退したいと思います。
白石監督：南出（凌嘉）君に何度も“あのセリフ”を言わせるのは心苦しかったですけどね（笑）。今度新しい映画で、耳なし芳一が全身に呪文を書く描写を、全部エロ本とかエロワードに変えてみようかな。ちょっと相原コージ先生っぽい世界観ですけれど、面白そう。
――ぜひいつか実現していただきたいです（笑）。こんなに元気がみなぎるホラー映画は初めてでしたので、怖いものが苦手な方にも挑戦してほしいです。ただ、怖いシーンは本当に怖いですが…。
白石監督：自分が映画の中で1番好きなカットが、トイレから出てきた則雄のことを住田がタタタタって追いかけていく所なんですね。あの会話の仕方や、表情の雰囲気もすごく良くて。ホラーではあるのですが、同時に青春映画としても成立しているなと。僕はいつも青春映画として映画を作っているので、ぜひその気持ちでご覧いただきたいです。
押切先生：おばあちゃんが覚醒してから急に空気が変わるのですが、「安心出来る領域に来た」安心感がものすごいんです。ホラー映画が苦手な人も本作で目覚めるかもしれない。霊に負けっぱなしの人間がやり返す、負け戦を返上する作品なので、『サユリ』を味わったら他のホラー映画が物足りなくなるかもしれないな、なんて思っています。
ここから、微ネタバレありの内容があります。映画の核心的な部分には触れていませんが、気になる方はお気をつけください
――サユリの過去については、原作よりも映画の方がより辛い内容となっていますね。
白石監督：漫画では読者の想像に任せる形になっていますよね。実写にする上では、そこが見えないと気になってその後の展開が頭に入らないかも、と思いました。実写の方が、“絵の外側”を考えながら観ていく部分があるので、ある程度背景を描かないと、サユリを都合良く悪者にした様な感じになるかもしれないな、と。そう見えちゃうとちょっと違うから、やらなきゃいけないことは、過去を掘り下げることだろうと。「何があったの？」と、心の中でサユリにお伺いを立てながら書いていきました。
押切先生：これもまた僕の詰めの甘いところではあるんですけど、引きこもっていてなんか めんどくさい女の子だったんだろうな的な感じでしか考えなかったんです。映画だと背景をしっかり描いてくれていて、そこもまた良かったです。
白石監督：漫画だとその想像をさせるのが良かったりしますよね。
押切：想像させることも良いですし、しっかり描いても良い。両方の楽しみ方があるなと思いました。
――監督が本作の絵作りで一番こだわったことや苦労した点はどんな所ですか？
白石監督：サユリが住田に向かって歩いていく時に、だんだん大きくなっていくのですが、撮影的には結構大変で。サユリ役の子は別撮りでだんだん大きくなっていくようにして、あとはカメラの位置と女の子の位置を、合成する時に合うように計算して撮っていて。色々計画的に撮影しているのですが、その甲斐があって怖いシーンが撮れたなと思っています。
押切先生：あの大きくなっていく所はどうやって撮ったんだろうと思いましたし、相当苦労されたのだろうなと思いました。僕も大好きなシーンです。怖いんですよね。怖い所はとことん怖く、でも笑えるし、元気も出るし、最高の映画でした。
『サユリ』2024年8月23日(金)、全国公開
■配給：ショウゲート
■監督：白石晃士
■原作：押切蓮介「サユリ 完全版」（幻冬舎コミックス刊）
■脚本：安里麻里、白石晃士
■出演：南出凌嘉、根岸季衣、近藤華、梶原 善、占部房子、きたろう、森田 想、猪股怜生ほか
■製作プロダクション：東北新社
2024年／日本／カラー／アメリカンビスタ／5.1ch／108分／R15+
(C)2024「サユリ」製作委員会／押切蓮介／幻冬舎コミックス
【ストーリー】
夢の一戸建てマイホームに引っ越してきた神木家。しかし、家族7人の幸せな時間も束の間。どこかから聞こえる奇怪な笑い声とともに、一人ずつ死んでいく家族―。中学3年生の則雄は、同級生の住田に突然話しかけられ、「気をつけて」と言われる始末。そんな神木家を恐怖のどん底に突き落とす呪いの根源は、この家に棲みつく少女の霊“サユリ”だった……。次々と起こる不可解な現象の中、遂に則雄にも少女の影が近づいてくる。その時、パニック状態に陥る則雄の前に現れたのは、認知症が進んでいるはずの“ばあちゃん”だった。「いいか。ワシら二人でさっきのアレを、地獄送りにしてやるんじゃ！復讐じゃ！！」 こうして、残された則雄とばあちゃんによる壮絶な復讐劇が始まるー！
