映画『朽ちないサクラ』が大ヒット上映中です。
互いの正義が、事件の真相を窮地に追い込む。それは、触れてはいけない巨大な闇ーー。 主人公は杉咲花演じる、県警の広報職員・森口泉。泉のバディ的な存在の年下で同期の磯川俊一には萩原利久。一連の事件を捜査する県警捜査一課の梶山浩介には豊原功補。そして、泉の上司で元公安の富樫俊幸は安田顕。本来は捜査する立場にないヒロインが、親友の変死事件の謎を独自に調査し、待ち受けていた巨大な闇の真相に迫っていく。そして、その先に出す答えとはーー。
本作は柚月裕子の「サクラ」シリーズのはじまりとなる「朽ちないサクラ」の原作で、主人公は県警の広報職員という、本来は捜査する立場にないヒロインが、親友の変死事件の謎を独自に調査し、事件の真相と、次第に浮かび上がる“公安警察“の存在に迫っていく異色の警察小説です。発行部数は続編の「月下のサクラ」と合わせて累計45万部を刊行する人気シリーズとなります。
今回は柚月先生に映画をご覧になった感想や「サクラ」シリーズの創作の裏側など、お話を伺いました。
――本作大変楽しく拝見させていただきました。先生がご覧になった感想を教えてください。
すごく対比が際立つ映画だなと思って拝見しました。人間のずるさ、醜さがしっかりと描かれている一方で、桜の映像の美しさが際立っていて。富樫と梶山というひとクセもふたクセもある親父2人と、真っ直ぐに奮闘する主人公の泉と青臭さが残っている磯川の2人という、対比も効いていました。「光と影」というんでしょうか、コントラストが素晴らしい作品で、監督が丁寧にキャラクターを作り上げてくださったんだろうなと思います。
――映画化が決まった時のお気持ちはいかがでしたか?
驚きました。え!「朽ちないサクラ」が?って。すごく嬉しかったのと同時に、絶対に実現してほしいなという気持ちになりました。映画って完成に至るまでに越えなければいけないハードルがたくさんありますから。実際に動く泉と登場人物たちを観たいと。題材にしているのが警察と公安の関係などもありますし、新興宗教がらみの話も出てきますから、映像化するにはハードルが高い作品ではなかろうかと思っていたので、こうして素晴らしい映画にしていただいて嬉しいです。
監督をはじめとするスタッフの皆さん、キャストの皆さん、私の担当をしてくださっている鶴田さんなど、私の周りの方の頑張りとご縁で実現出来たので、本当に感謝ですね。
――私も素晴らしい作品に出会えて感謝です。先生はこのお話のどんなところから着想を得たのですか?
警察署にお勤めしていても警察官じゃない方がいるということを知って、そうなんだって思ったんですね。私の中では警察署勤務=警察官だったので。捜査権利が無い方が一緒に働いていらっしゃるのが、こういうと語弊がありますけど、面白いなと思って。そんな時に警察小説のご依頼をいただいたので、広報課をテーマにしようと考えました。
――確かに特殊な環境ではありますよね。操作権利はないけれど、第一線で事件の話に囲まれているという。俳優さんたちのお芝居も素晴らしいですが、先生からご覧になっていかがでしたか?
私はどの作品でも自分で明確なモデルを作らないんですね。「この俳優さんのイメージ」というものは決めていないというか。本作を拝見して泉を観た時に、「泉ってこうだよな」とハッキリ思えました。
――泉の事件に突き動かされていく様子と、杉咲さんの真っ直ぐな瞳が本当にピッタリでした。
嘘をつけない、真っ直ぐな人ですよね。私自身もそういう人がすごく愛しいなと思います。人ってどんなに上手に嘘をついても、誤魔化しても、それを自分自身が一番分かっているじゃないですか。
先ほども雑談でゴルフの話をしていたのですが、ゴルフって自己申告のスポーツなので、スコアを誤魔化そうと思えば出来るけれど、そういうズルをしたことって自分が一番分かっていて、あとから苦しくなると思うんですよね。人生においても、「あの時ズルをした」という記憶がずっと自分の中に残ってしまう。それを何回も重ねていると、結局一番苦しいと思うんです。誰にも言わなかったとしても、ズルをしないで、自分でその場で納得して次に進むというのは人生を生きていく上で大切なことの一つなのではないかと思っています。
――おっしゃるとおりですね。泉も最後には自分で納得出来たから前に進めたのだと思います。他に印象的だったキャラクターはいますか?
富樫と梶山のオヤジ2人がカッコ良かったですね。私がカッコ良いと思って描いているオヤジをそのまま俳優さんが素晴らしく演じてくださいました。磯川も、津村千佳も、自分の信念を持っているキャラクターで。とにかく全員カッコ良かったです。
――そして、先生が書かれたサスペンス要素も素晴らしく映像になっていて、謎が解けていく瞬間に鳥肌がたちました。
心霊とかホラーという怖さではなくて、人が何を考えているのか分からない、この先が見えない怖さがありますよね。人間の冷酷さと人間の熱さを同時に感じる作品でした。パズルのピースがぱちぱちとハマっていく、その心地良さと怖さを堪能しました。謎が解けていく過程と、その目線がすごく細やかで、 人物それぞれに色々な事情があるというところを丁寧にすくいとって描いてくれているのだなと感じます。もうこれは絶対に劇場でご覧になっていただきたいなと。
――映像も美しいですし、大スクリーンで観ていただきたいですよね。
モチーフになっている桜が本当に美しかったですね。最初は桜がツボミですけれど、事件の真相に迫っていくに従って開花して、最後は満開の桜では終わるという。桜が満開に咲き誇っているのと対比して、事件の結末は非常につらいものであるというのも見せますよね。桜は一気に開花するので生命力の強さも感じます。今回作品の中で、何人かの命が奪われてしまいますから、その命の儚さと、信じた道を歩んでいく泉の力強さと、そういったものを感じながら拝見していました。
自分がどの正義に共感するかは観た方それぞれ違うと思いますが、心に残るシーン、言葉はきっと見つかるはずです。事件と聞くと、自分とは遠いところにあると感じる方が多いと思うのですが、謎を紐解いていくと、すごく身近な感情や人間らしさがつまっています。ぜひたくさんの方に楽しんでいただきたいです。
――もともと原作は拝読していたのですが、この映画を観た後にすぐ続編の「月下のサクラ」を今読んでいます。
それは鶴田さん(担当さん)の戦略にハマっていますね(笑)。「月下のサクラ」では、映画で描かれた後の泉の活躍を読むことが出来ますので、興味をもってくださったらぜひこちらも楽しんでください。
※ネタバレ注意※この後、映画の詳細な描写について書いています。まだ映画をご覧になっていない方はお気をつけください。
――今のお言葉を聞いて、また映画を観たくなりました。小説家である先生から見て、このセリフ素敵だなあと感じたシーンはありますか?
印象に残ったセリフはたくさんありますが、磯川の「警察官になったら思いっきり笑ってください」という言葉が特に印象に残っています。こんな真っすぐなセリフって、書くことがなかなか難しいセリフだと思うんです。監督が書いたのか脚本家の方が書いたのか、映画の作り手の方の気持ちを表してる一言だろうなって感じました。たくさんの出来事があって、そこで成長もしたし、たくさん傷ついた泉のひたむきさに対する言葉として素晴らしいなと。自分が小説で書こうと思っても、なかなか勇気もある一言だろうなと思います。
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