──さびれた写真館を営む無口なカメラマン・鮫島。彼の写真に心を奪われた気鋭カメラマン・太一は華々しいキャリアを捨て、弟子入りを志願する。
公開中の映画『明日を綴る写真館』は、あるた梨沙さんによる同名漫画を原作にもち、『20歳のソウル』の秋山純監督が実写化を手掛けました。
本作の主演となるのは、名優・平泉成さん。なんと芸能人生60年にして映画初主演となります。
平泉さんが演じるのは町の写真館の主(あるじ)であり、ベテランカメラマンの鮫島。寡黙な鮫島が撮影した1枚の写真に心を奪われ、思わず弟子入りを決めてしまう新進気鋭の若手カメラマンの太一役には「Aぇ! group」の佐野晶哉さんが抜擢されています。
年齢的にも好対照となるふたりが繰り広げる、演技の妙にも注目したいところです。
今回のインタビューでは、平泉さんにこれまでの芸能人生や初主演の感想を伺ってみたいと思います。
主演に必要なもの
──ガジェット通信と申します。よろしくお願いいたします。
平泉成さん:いきなり横文字だね。ガジェット!
──ガジェットって、主にデジタルの小道具のことなんですけど、今は色々なことを取材していまして、もうウェブにあるエンタメは全部やりましょうということで
平泉:「ガジェット」「デジタル」で「ウェブ」にある「エンタメ」! 僕も80になるとガジェット? デジタル? エンタメ? web?ってなってしまう。
──いきなりすみません(笑)、確かにカタカナばかりですね。でも、平泉さんスマホもカメラもお好きで自在に使われてると伺いました。カメラも立派なガジェットなんです。
平泉:確かにスマホも使うし、カメラも使うね。デジカメ──あれもガジェットか、なるほど。
──今回で初主演って、意外です。
平泉:みんなにそう言われるんだよね。
──脚本をお読みになっていかがでしたか。
平泉:主演でのオファーでしたので僕にできるかどうか本(脚本)を読ませていただき、「これならできそうだ。オッケー」と思い、ふたつ返事で喜んでお引き受けしました。
──今の平泉さんであれば、どんな役でもできそうだと僕らは思ってしまうのですが。
平泉:いやいや。無理してやれるように頑張ってるんだよ。これが主役やるとなると、全体の流れでの芝居が要求されるわけですから、いつものお芝居だけじゃダメなんです。
ひさびさのフィルム
──実際に演じ終えて、作品の印象などはいかがでしたか。
平泉:さっきの横文字の話じゃないけど、今の時代で僕はデジタルとアナログを行ったり来たりしています。まだ多少の抵抗感がありますね。そういう意味でも『明日を綴る写真館』はちょうどいいぐらいの作品になったかな。年代に関係なく観てもらえる作品に仕上がっていると思います。
──作中で平泉さんは写真館のオヤジ、カメラマンとしてフィルムのカメラを使っておられます。フィルムのカメラはまだプライベートで使われます?
平泉:もうほとんど使ってませんよ。今はデジカメが便利ですからね。
──久しぶりにフィルムカメラ、NikonのFM2お使いになっていかがでしたか?
平泉:やっぱりね、「ズシッ」と感がね、なんとも!
「ズシッ」「うわ!」「これだよなあ」「……めんどくせえ」「これだよなあ……(しみじみと)」
──(笑)現場はいかがでしたか。
平泉:監督の指示が行き渡っているのか、「なんだこれは!?」って驚くぐらいみんなの動きが良くてね。役者もスタッフもいいものを作ろうと同じ方向に動いていたと思いました。
──いい現場だったんですね!
平泉:みんなの頑張りで、まるで夢のような現場でした。僕のキャリアでもこんな経験は初めてです。
──平泉さんをして、こんな経験が初めて、っていうのはすごいことですね。
「素人のおじさん」へのこだわり
──我慢を強いられる時代を実際に経験してこられて、役者のキャリアとしても多くの経験をされてこられたかと思います。今回拝見して、平泉さんのお芝居は、誰かに与える側のお芝居だな、っていう印象をとくに強く受けました。セリフをすごくたくさん喋るわけじゃなく、背中で見せる感じだったりとか。表情で見せる感じがものすごく伝わってきました。
平泉:そう思って観ていただけたら嬉しいですね。僕もそう思ってやってたんですよ(笑)。そういう風にやれればいいなと思って。
──印象に残っているシーンはありますか?
平泉:僕が好きなのは、夜中に車で走っていくシーン。何もしゃべらず運転しているところ。カーッと口を開けて僕が眠り込んでいたりね。目的地の空は曇っていたので、ちょっと寂しい情景……、でも監督は「それがいいんです!」っておっしゃっていた。
──今回に限らずですけど、平泉さんが演じられると、そのキャラクターが本当にもう何十年も前からそこにいた人のような気がします。
平泉:それはちょっと褒めすぎじゃない?(笑)でも嬉しいです。
──いえいえ。今回に関して言えば「手だれのカメラマンで、いい写真を撮る写真屋のおじさんの記録」というドキュメンタリーなのかな、という感じすら。
平泉:「俳優がキャメラマンを演じてますよ」のお芝居は今回やめました。自分でも「素人のおじさん」で出たいと思ったんです。「誰だ、このおじさん?」と思ってくれるのが理想ですから。
寄り添う芝居のルーツ
──冒頭の「素人のおじさん」ぽさ、そこからの存在感をにじませる演技はまさに平泉さんの真骨頂だと感じました。
平泉:今回、台本読んで思ったことは──先にも言いましたが、素人のおじさんでまずは出たいな、ということ。そして相手に気遣った芝居をするように心がけることですね。
──相手を気遣い寄り添っていくお芝居っていうのは、この60年のキャリアの中で、心がけてらしたことではあるんでしょうか。
平泉:そうですね。僕は普通の人間なので、自分が居るべき場所、押さえるべきところは間違えちゃいけない、と考えていました。僕、大映のニューフェイス(1964年・大映京都第4期フレッシュフェイス)に入った時、住まいが三畳一間だったんです。三畳一間って寝られますよ(笑)。寝るだけですけどね。とにかく安かったことは覚えてる。……2000円とかそのくらいだったんじゃないかな。トイレも水道も外だし、お風呂はもちろん銭湯です。
そういう自分の居場所は今でも間違えないようにって思います。
──名バイプレイヤーとして、もうずっといろんな作品にお出になられてた平泉さんの等身大の姿が、その三畳一間から今でも続いているわけですね。
平泉:多分そうだと思うね。名バイプレイヤーって言っていただけるのはありがたいけど、迷う方の「めい」だからね。迷うバイプレイヤー。 まぁ、迷いつつの人生だったんですけど、とにかくコツコツはやってきました。
──でも、迷うってことは、型にはめてないってことでもあります。
平泉:うん、そう言っていただけると嬉しい。迷い、失敗があとあとのことにいい結果を出してくれている。僕の今にすべてつながっていますね。
──平泉さんのこれまでが凝縮された作品になっていることを実感しました! 今日はありがとうございました!
平泉:いい記事書いてくださいね(笑)。
──ありがとうございます!
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スクリーンの中と全く変わることのない、まさしくスクリーンとリアルがボーダーレスだった平泉さん。
大映の撮影所時代、役が少なかったときの平泉さんは昼間に観た主演の動きやセリフを全て脳内で記憶し、終わった後の撮影所で一人、その動きをトレースしながら稽古していたそうです。
花の写真が好きで、5万枚のデジタルデータをMacBookとiCloudで管理しているという平泉さんの現在は、三畳一間だったあの頃とリアルに地続きのようです。だからこそ、飾らない“素人のおじさん”と“役者・平泉成”の緻密なグラデーションを描けたのだな、と今回のインタビューで強く感じました。
<ストーリー>
誰もが抱えている人生の“想い残し”。私たちに出来ることは、まだある。
さびれた写真館を営む無口なカメラマン・鮫島(平泉成)。彼の写真に心を奪われた気鋭カメラマン・太一(佐野晶哉)は華々しいキャリアを捨て、弟子入りを志願する。家族とのコミュニケーションすら避けてきた太一は、訪れる客と丁寧に対話を重ね、カメラマンと被写体という関係を超えてまで深く関わる鮫島の姿に驚きを隠せない。人々の抱える悩みや問題のために必死に奔走する鮫島に振り回されながらも、自分に足りないものに気付き始める太一。同時に、鮫島とその家族にも目を背けてきた“想い残し”があることを知る。変わりゆく太一が、悔いのない未来のために踏み出した一歩。その先に続く、思いもよらない奇跡に涙する――。『明日を綴る写真館』絶賛上映中
出演:
平泉 成
佐野晶哉(Aぇ! group)
嘉島 陸 咲貴 田中洸希 吉田 玲 林田岬優
佐藤浩市 吉瀬美智子 高橋克典 田中 健 美保 純 赤井英和
黒木 瞳 / 市毛良枝原作:あるた梨沙「明日を綴る写真館」(BRIDGE COMICS/KADOKAWA刊)
企画・監督・プロデュース:秋山純
脚本:中井由梨子
企画協力:PPM
製作:ジュン・秋山クリエイティブ
配給:アスミック・エース
▪公式サイト:https://ashita-shashinkan-movie.asmik-ace.co.jp/
▪公式X:@shashinkan_m(https://twitter.com/shashinkan_m) [リンク]©2024「明日を綴る写真館」製作委員会 ©あるた梨沙/KADOKAWA
(撮影:オサダコウジ)