俳優の菜 葉 菜さんが4人の女性たちを演じるオムニバス映画、『ワタシの中の彼女』が全国公開になります。菜 葉 菜さんは、
人生の選択について見つめ直す40代の主婦
リモートワークの孤独をフードデリバリーで癒そうとする30代の独身OL
女優を目指していたが、行き先を見失った20代の風俗嬢
盲目になり、見えていた頃の記憶をたどる40代の実家暮らしの女
というコロナ禍を生きる世代も生き方も違う女性たちの孤独と希望を、それぞれ丁寧なアプローチで演じ分けています。菜 葉 菜自身も受け取るものが多かったという本作について、ご本人にお話をうかがいました。
■公式サイト:https://watakano4.com/#story [リンク]
●4作品すべての主人公を菜 葉 菜さんが演じるという前代未聞の企画だと思いましたが、最初ご自身ではどのように受け止めを?
わたし自身も全部のうちの一作品だけが主演でほかの方たちがいると思っていたのですが、企画の段階で「菜 葉 菜さんが全部演じたら面白いのではないか」という話になったそうで、それがスタートでした。
4作品すべてに共通していることは、コロナ禍で悩みを抱えている女性たちなんですよね。全部ひとつになった時、統一性はある程度生まれるなと思いました。今だからこそ描きたいものは、中村真夕監督が考えているだろうなと。わたしもそこに乗っかりたいなと思いました。
●シリアスなものからファンタジックなものまで、設定が独特ですよね。
不思議ですよね。中村監督ワールドが炸裂していて、観る人によって感じ方が全然違う作品だと思うんです。観ても分からないという人もいるだろうし、その分からなさが良いという人もいると思うんです。分からないなりに、自分の世界に落とし込みながら何かを感じる人もいるでしょう。そういう意味では、観た人に感じていただける映画なのかなと思います。
●4つに共通するテーマについて、菜 葉 菜さん自身が思うことは?
コロナ禍によってなくなってしまったテーマを扱っていると思うんです。人と人との関わりができなくなったりしている中では、自分で抱え込むことが多くなりますよね。そんな中でもみんなそれぞれ、人それぞれ悩みを抱えて生きていると思うのですが、ちょっと誰かと話す、人と会うことで解消されていたストレスなどが、できなくなってしまった。だから余計に思いついたり、ちょっとマイナス方向に行きがちだと思うんです。
●第一話「4人のあいだで」は、普通の主婦の物語でした。
彼女は普通の主婦ですが、女優を夢見ていた過去があります。話としては、サスペンスに発展していく意外性も面白いと思います。昔の記憶が蘇って人の素性がわかるくだりでは、皆さん共感できると思います。
●第二話「ワタシを見ている誰か」は、コロナ禍ならではの設定です。
拒食症になってしまった女の人が、フードデリバリーの配達員と出会い、その人を部屋にあげちゃうんですけど(笑)、何かしら感じるものがあると思いました。後半は中村ワールドが炸裂していると思います(笑)。
●第三話と四話は、現代性のみならず、社会派の側面もありました。
第三話と第四話は、役柄としても難しかったですね。第三話はもともとバス停での実際の事件があり、わたしの役柄が風俗をしているの女性なので、いろいろと監督と取材もしました。
第四話は目が見えない女性の役だったので、役作りを丁寧にしました。話を聞いたり、実際に体験したりして普段使わない感覚が研ぎ澄まされたり、そういう体験はとても大きかったですかね。
この主人公たちはみんなそれぞれ違う悩みを抱えていて、でも出会った人、近くにいた人、まったく知らない他人だったけれど一晩だけ会って話した人、それぞれ出会い方・関係性は違うにしても、人との関わりの中で主人公たちが一歩踏み出したりするんです。やっぱり大切なことは、人との関わり。何か言われたり、何か話したり、そういうことで人は救われたりすることがある、それを描いている作品だと思っています。
●改めてこれから作品を観る方にメッセージをお願いいたします。
人って、人によって救われたりするんですよね。そこにはマイナスももちろんあるのでしょうけれど、自分の中で何かが生まれる、何かが変わる瞬間は一人で思い詰めるのではなく、誰かの力によってなされることが多いだろうなあということが、この4作品のすべてに共通すると思うんです。コロナ禍だからこそ、よりそのことを感じられる気がするんです。
なのでこの作品を観た方、そういう人とのつながり・関わりがいいな、大切だなと思っていただけたらうれしいです。自分も誰かにとってそういう存在かも知れない、自分の存在を認めてあげられることができればいいなと思います。
■ストーリー
第一話
「4人のあいだで」
20年ぶりに連絡を取り合った大学時代の同級生で、元演劇サークルの40 代の男女。専業主婦となり、コロナ禍で自宅に入り浸っている夫と息子を持て余しているナナエ(菜葉菜)。事務職をしながらパートナーと暮らすフサエ(占部房子)。貧しいながらも役者を続けている男・コウジ(草野康太)。彼らの人生に影を落とす不在の女優・サヨコ。不在の女性の存在が、見えないコロナのように広がり、3人の中に秘められた思いを呼び覚ます。
第二話
「ワタシを見ている誰か」
フードデリバリーのバイトをしている写真家のカズヤ(好井まさお)。ある晩、マンションに食事の配達に行くと、リモートワーク中の30代後半のOL・メイ(菜葉菜)が出てくる。自分は食べられないから、カズヤに注文した食事を食べてくれと泣きながら言うメイ。仕方なく玄関先で食べるカズヤ。何度かそのような注文が繰り返され、ある晩、カズヤはメイのマンションの部屋に招かれる…。コロナ禍という状況だからこそ出会った二人の男女の物語。
第三話
「ゴーストさん」
20代後半の風俗嬢のサチ(菜葉菜)。毎晩、帰宅する帰り道のバス停にいる60代のホームレスの女性・カヨコ(浅田美代子)を、密かに「ゴーストさん」と呼んでいる。ある晩、ふとしたきっかけからカヨコと話すことになるサチ。かつて同じ夢を持っていた二人の女たちは、お互いの中に一時の救いを見出す。しかしそれは無残に打ち砕かれる。実話を元に、コロナ禍で経済的にも精神的にも追い詰められた女たちの姿を描く。
第四話
「だましてください、やさしいことばで」
40代前半の盲目の女性・トモコ(菜葉菜)。足の悪い母と暮らす彼女の元に、弟の同僚だという青年・タケオ(上村侑)が現れる。弟が急に体調が悪くなり、入院することになったから、トモコにお金を工面してくれと訪ねてくるタケオ。金を騙し取ろうとしたタケオは、トモコから思いがけない贈り物をもらう事になる…。
『ワタシの中の彼女』
11月26日(土)より、ユーロスペースほか全国順次ロードショー
(C) T-Artist
各作品のタイトル・出演者
『4人のあいだで』菜葉菜 占部房子 草野康太
『ワタシを見ている誰か』菜葉菜 好井まさお
『ゴーストさん』菜葉菜 浅田美代子
『だましてください、やさしいことばで』菜葉菜 上村侑
製作/配給:ティー・アーティスト
2022年/日本/カラー/ステレオ/1:1.78/DCP/69分
レイティング G
(執筆者: ときたたかし)