どうも特殊犯罪アナリストの丸野裕行です。
今まで、刑務所の内情について元受刑者とのご縁をつくり、いろいろな情報に基づいて執筆を繰り返してきました。交通刑務所に収監されたという元受刑者、少年刑務所でいじめを受けてきた受刑者、薬物依存で何度も逮捕される受刑者などなど、様々な経験談を訊ねれば訊ねるほどに、刑務所待遇の奥深さや矛盾しているポイントがわかってくるわけです。
【実録! 刑務所シリーズ】
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さて、今回は刑務官からの《いじめや暴行》についてです。「えっ、そんなことって実際にあるの?」とおっしゃる方もいるとは思いますが、これは実際にあるそうなんですね。テーマは《刑務官からの暴行の証拠を残すには?》について。
お話をお聞きしたのは、傷害容疑で容疑で某刑務所に収監されていたJ氏(39歳)。
さて、受刑者は刑務官からどのような暴行を受けてしまうのか、そんなときにどうすればよいのか? 今日も掘り下げていきたいなと考えております。
刑務職員から暴行を受けることは日常茶飯事
丸野(以下、丸)「そんなことって本当にあるんですか?」
J氏「そりゃあるよ。日常茶飯事だと思うよ。オレが幼少期にあった『塀の中の懲りない面々』て映画、あったでしょ? あれで、山城新伍が鬼のような刑務官をやってたと思うけど、ありゃ普通にいるよ」
丸「でも、刑務所内には《刑事被収容者処遇法》という旧監獄法とは違う法律があるじゃないですか? 受刑者の人権を守るために……」
J氏「刑務職員から暴行を受けたときには《事実の申告》ができると認められているやつね。でも、房内でいじめやケンカが起こってもドラマとか映画みたいに、すぐに止めに入ったりはしないよ。自分たちも危ないからね。ネチネチと陰湿に受刑者をいじめたりする刑務官もいるし、外で美味しい思いをしようとしてヤクザ幹部にすり寄る刑務官もいる。反抗的な態度のヤツや威勢のいい若い受刑者を徹底的にいたぶる刑務官もいるしね」
丸「そ、そんな……」
J氏「ヒマなときに読む物がないから、六法全書を読んでたから説明できるんだけどさ、刑事被収容者処遇法163で定められている《事実の申告》は、次の場合に許される。1.暴行を加えられたとき、2.不当に手錠や拘束衣を使用されたとき、3.不当に保護室に入れられたとき、という3つになる」
丸「はぁ、そうなんですね」
そんなときの対処法とは?
J氏「《事実の申告》というのは、原則として暴行事実があった日の翌日から30日以内に管轄している矯正管区長に対して書面で申告する。矯正管区の長は、刑務官などを呼び出して調査をし、結果を通知するわけですよ。その通知に納得できない場合については、さらに法務大臣宛てに事実申告をすることもできる、と。これも矯正管区長の通知を受けた日の翌日から30日以内に書面で出さないといけない」
丸「面倒なものですね」
J氏「こういうことを知らないから、刑務官の好きなようにされるわけ。で、《事実の申告》以外の対処の仕方としては、1.法務局へ人権救済の申立てをする、2.弁護士会への人権救済の申立てをする、3.国家賠償請求訴訟(国賠訴訟)の提起なんかが考えられるんだよね。でも、よくよく考えてみるとさ、人権救済の申立てをする場合は法務局や最寄りの弁護士会には、強制調査の権限なんかないわけ。だから、暴行したという認定が困難だと考えられる。そこが問題点だよ。それに、弁護士会に対する人権救済の申立てについては、結論結果が出るまでにタイムロスが発生する弱点がある」
丸「なぜですか?」
J氏「人権救済の申立書が弁護士会に届いたら、正式調査をスタートするかどうかの予備調査というのを行うわけ。あきらかな人権の侵害と認められないケースが多い。ただの不平不満とか無罪を主張するもの、弁護士会が持つ権限を越えているものなんかは一切除外。予備の調査結果であきらかな人権侵害の可能性が認められた場合には、関係する機関や申立人、刑務所の職員なんかに聞き取り調査や事実関係照会なんかをやることになる。そのあいだ、その申し立てをした受刑者はどうなると思う?」
さらにひどくなる受刑者待遇も……
丸「もっといじめを受けるとか?」
J氏「目の仇にされるよ、そりゃ。でも、まぁ結果的に人権侵害の事実がちゃんと認められた場合は、次みたいな措置がとられる。《警告》というのは、刑務官や監督機関に対して委員会が通告して反省を求める。《勧告》というのは、刑務官や監督機関に対して受刑者への救済とこれからの身の安全を要請する。《要望》は、刑務官と監督機関等に委員会の意見を伝えて申立てた内容の実現を期待する。ってわけわからんじゃない。それってなんだよって話で……。まあ被害内容によってはマスコミに公表することもあってね。でも、根本的な解決にはならないってわかるでしょ?」
丸「なるほど。人権擁護委員会がやる措置って、具体的にその受刑者を移送して別の刑務所へ入れるとか病院へ連れていくとかそんなものではないんですね」
J氏「例えば、刑務官がその措置に従わないとしてもなんのペナルティーもないわけ。国家賠償請求訴訟っていうのは、勝訴がすごく難しいし、昼夜のあいだ単独房の処遇にされるっていうマイナス面もある」
では解決法がないのでは?
丸「じゃあ、やられ損ですよね……」
J氏「面倒だけど、ちょっとした解決策はある。個別的な人権侵害救済機関ではないけど、《刑事施設視察委員会》というのがあって、刑務職員に違法行為を受けたことを伝えて、状況を打破することができる可能性もある。例えば、刑務官から受けた暴行でケガをしたとすると、その生々しい傷を見せるために、素早く医務の診察を申し出る。症状を事細かに訴えて、しつこく診察を求めること。診察してもらえば、その傷の原因と状態をカルテに正しく記載してもらうこと。医務によっては傷の画像を残してくれるという人もいる。だから、申し出ること」
丸「そんな医師もいるんですね」
J氏「必要最低限の検査を行ってもらえるようにいえば、やってやれないことはない。それにその傷が消えてしまわないうちに自分自身で状態を記録。塀の外の人にその詳細をつづった手紙を出した方がいいと思う。それで、面会に来てもらって、直接傷を確認してもらう。面会の様子を記録してもらって記録に確定した日付をとってもらい、あとは弁護士依頼。弁護士に証拠保全手続をしてもらうのも有効。まぁ事細かなことが必要になるね」
その後は、訴訟提起。弁護士から隠蔽したり、廃棄されるかもしれない証拠を保全しておく手続きを裁判所が率先して行うわけです。ただ、これらの手続きには時間がかかって、傷跡がなくなってしまう可能性があるので、医務に診察を強く求めることが大切だとJ氏は締めくくりました。
私たちが知らない塀の中は、未だこのようなことが起こっているという事実にあなたはどう思いますか?
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(執筆者: 丸野裕行)