お笑いコンビ・キングコングの西野亮廣さん原作で、2016年の発売以降、ロングラン大ヒットを記録した話題の絵本「えんとつ町のプペル」。 その絵本を原作としたアニメーション『映画 えんとつ町のプペル』が昨年、12月25日(金)に公開され、興行収入24億円/観客動員数170万人を超える大ヒットを記録しました。
そんな『映画 えんとつ町のプペル』が、10月22日(金)~10月31日(日)の2週間、全国36劇場でのハロウィン限定で復活上映。今回の企画について、改めて作品への想いについて、西野さんにお話を伺いました。
ーー本作を再び劇場で見られるということで、楽しみにしているファンの方も多いと思います。すごく根本的な質問になってしまうのですが、西野さんはハロウィンがお好きなんですか?
僕はハロウィンが好きというか、人がはしゃいでいるのが好きなんです(笑)。ハロウィンに限らず、阿波踊りとか、なんかそういうものが好きですね。人がちょっとハメを外している、「ハレの日」が好きです。
ーー今回のハロウィン限定復活上映は、要望の声が多かったのでしょうか?
ずっと思っていたことなんですが、そもそも映画って、お肉とかお魚みたいに賞味期限があるものじゃないですよね。でも実際は「この期間内に結果を出してください」という事情があって。なんなら公開3日ぐらいで結果を出さないと、どんどん映画館からなくなってしまう。それはしょうがないといえば、しょうがないんですけど、それ以外の映画の届け方があってもいいんじゃないかと思っていました。
例えば、僕は12月になったら『ホームアローン』を観たくなるんです(笑)。なんかそういう、その季節になると観たくなる映画ってあるじゃないですか。だから、「えんとつ町のプペル」もハロウィンの時期になったら毎年観られるものにしたいなという気持ちがありました。毎年やってくる恒例イベントになるといいなぁと思って。
ずっとそんな事を考えていた矢先にコロナが来て、これはもう、そういうことなんだと思いましたね。つまり、昨年の上映期間に映画館で観られなかった人に届ける方法はこれなんだなと。
ーーなるほど、もともと西野さんが考えていたことが、今回の復活上映という形になったんですね。今年だけではなく来年以降も続いていくという感じですよね。
そうですね、それが出来るといいなと思っています。それを目的にしてずっとやっていますね。正直こんな話がよく通ったなと思います。これは本当に吉本興業のおかげです。辞めといてあれなんですけど(笑)。
僕はもう吉本は辞めているんですけど、今もなお吉本のスタッフさん、担当のスタッフさんが頑張って下さっています。チームとして早い段階から、「西野のやりたいことをやらせよう」と動いて下さっていました。例えば公開前に映画の台本を売っちゃったりとか、好き勝手やらせてもらえる環境をいただいていました。いい会社ですね(笑)。
ーー良いチームに恵まれたということですね。
そうですね。あと、映画を映画館で上映するとなったら、当然広告宣伝費というものが必要になります。今回の復活上映の広告宣伝費は、全部自分の会社で持つことにしたんです。だから、僕や僕の会社がリスクを背負っているっていうことも、復活上映の話が通った理由のひとつだと思います。
ーーそのリスクを背負ってまでイベントにしたいという想いがあったということですよね。この特別復活上映のニュースが出た際は反響も大きかったと思います。
特に子どもたちからの反響がむちゃくちゃありました。いろんなチビちゃんから喜びの声をいただいて、「えっ、そんなに愛されているんだ」ってびっくりしました。色々なファミリーに愛されている作品になったんだなぁってその時に思いましたね。
ーーちょうど最近BD/DVDのリリースが発表されて、子供たちのお絵かきをTwitterで見ました。可愛いですよね。
むちゃくちゃ可愛いです。こんな描きにくいゴミ人間なんてキャラクターを、よく描いてくれるなあって思います(笑)。
僕ももちろん嬉しいんですけど、スタッフがすごく喜んでます。自分たちが作った作品が子どもたちに届いているんだっていうのが。スタッフも同じ年ぐらいの子どもがいたりするので特にだと思います。みんな幸せになるんですよ、子どもたちの絵って。ありがたいです。
ーー西野さんも、そのチビちゃんくらいだった頃から絵を描くのがお好きなのですか?
描いていましたね。僕は田舎出身の人間で、娯楽が何もなかったので、虫採りか、魚釣りか、家に帰ってからは絵を描くぐらいしかなかったんです。僕は4人兄弟で、そんなお小遣いもなかったし、欲しいものを買ってもらえたことがなかったので、欲しいものがあると絵に描いていました。ロボットとか。ついにはレゴとか描いていましたね。レゴを描くやつ、います?(笑)
ーーそうやって自分が好きなもの、憧れのものを絵に描く気持ちってとても素敵ですよね。改めてになってしまうのですが、昨年末に映画が劇場公開されて、どんな感想や言葉が一番嬉しかったですか?
家族とか、ご夫婦とか、カップルのコミュニケーションツールというか、会話のきっかけになっているのはすごく嬉しかったですね。 もちろん、1人で観に来てくださる方もたくさんいらっしゃって、本当に有難かったです。
僕は色んな発信をする時に、これはこの層の方へという風にターゲットを考えることは多かったのですが、「ファミリーエンターテイメント」に、ここまで真正面から挑んだのは初めてでした。『映画 えんとつ町のプペル』は、お子さんからおじいちゃんおばあちゃんまで届いて欲しかったので、インスタとかに父ちゃんが息子を連れて「プペル観に行くぞ!」みたいな写真をあげて下さっていたりして、そういう反響は本当に嬉しかったですね。
ーー西野さんの作品の中でも、すごく幅広い年齢に向けた作品だったという?
正直、そこまで考えて作っていなかったです(笑)。自叙伝って言ったらあれですけど、自分の話を書いたのがプペルなんです。僕があれやこれやと挑戦する度に、色々な批判を浴びることが多かったんですよ。なんというかそういう変な人生だったので、そんな人生をもうそのまま書こうと思って書きました。それが、結果的にたくさんの人に届いたというのは面白いなと思いましたね。
日本中、世界中に自分と同じような人がいるっていうことですよね。だから、自分を仮想のお客さんにするみたいなことも良いのかなと。自分に刺さるものかどうか、そこに従って作りました。
ーーまずは自分が観たいものを作るというのは素敵ですよね。
「映画 えんとつ町のプペル」は、恋愛シーンもなければ、グルメシーンもない、目がキラキラしたキャラクターが出てくるわけでもない。えんとつ町のゴミ人間と煙突掃除屋の物語って、「それ、誰が共感すんねん」っていう話なんです(笑)。普通は、たぶん企画が通らないはずなんですよ。よくそんな映画を作らせてもらえたなぁっていうのと、よくこんなに多くの方々に届いたなぁとは思いますね。
ーー今回初めて劇場でご覧になる方はもちろん、再び劇場で観る事を楽しみにしている方もいると思うのですが、大きなスクリーンで観るからこその魅力はどんな所にあると思いますか?
色々ありますが、シンプルに音がでかいって良いですよね。僕は、昨年の12月25日に映画を公開してから、映画館を100館以上回りました。それぐらいしかお客さんに来てもらう方法が思いつかなかったので。それで、その時気づいたのは、大きいスクリーンって、要するに、首が動くんですよね。テレビやスマホと違って、画面を隅々まで見るために首が動く。それによって一気に体験感が出るんです。映像を見ているっていうより、体験しているっていう感じがするので、すごくいいなと思いました。
ーー特に本作は広がりのあるアニメーションですものね。
そうなんです。広がりがある絵なので、「首、めっちゃ動いてるな」っていう感覚になるんです。あとは、その場にいるみんなで同じものを共有しているっていう、ライブに近い感覚は、やっぱりいいですよね。
ーーたくさん映画館を回られて、印象に残っている劇場とかはありますか? いっぱいあるとは思うんですけど。
すべての劇場が印象に残っていますね。劇場に行くと、コロナ禍だから、まずお客さんとコミュニケーションが取れないんですね。握手もできない、サインもできない、おしゃべりもできない。ただ遠くから会釈するだけなんですけど、だからこそその時間は、すごく尊く感じました(笑)。コロナが終わったら今度はまたちゃんとイベントをやりたいなと思いました。
あと、劇場で働いてくださっている人がいるからみんなに届くんだなと思いました。会議室で行われることって、たいてい数字のチェックなんです。興行収入がいくらだとか、観客動員数がどれくらいだとか。でも、やっぱりちゃんと現地に足を運ぶと感じることがたくさんありました。
宮古島には旦那さんを亡くされたお母さんが1人でやっている映画館がありました。そのお母さんがまわりの人たちと協力して、なんとか映画館を切り盛りしていたり。
他にも色々な映画館の館長さんや、オーナーさん、スタッフさんが、「音量大丈夫でした?」とか細かな調整をしてくださいました。例えば、僕が「もうちょっと音を大きくすることって可能ですか?」って言ったら、「すぐやります」みたいな感じで、次に行ったら本当に大きくなっていたりして。映画上映も人が動いてくださって成り立っているんだということを実感できたのは、すごく良い経験でした。自分が直接行ってみないととたぶんそこまで想像できなかったと思うので。実際に行って、動いてくださっている人たちを見られたことは僕にとって大きかったです。
ーー劇場さんによっては関連記事をロビーに貼ったり、映画を盛り上げてくれている所もありますよね。
ありますね! ポップを作ってくれている。あれ、キュンキュンしますね。宮古島の映画館の入り口にはゴミ人間の手作り人形がありました。たぶん宮古島の砂浜に流れ着いたゴミで作ったんですかね。それも本当にキュンキュンしましたね。上映がはじまる合図もブザーとかではなくて、お母さんがね「もうそろそろ始まりますよ〜」とか言って。それで、始まる前にお母さんの挨拶があるんですよ(笑)。「こんな想いでこの映画を届けております」みたいな。「西野さんからも一言言ってやってください」みたいに、僕も急遽挨拶させられましたもん(笑)。
ーーすごく素敵なシチュエーションで、きっとまたその映画館を訪れることもありそうですね。来年以降は、出来るならコロナが落ち着いていて、もっとふれあいみたいなイベントもあるかもしれないですか?
そうですね。ハロウィンなんで、仮装して観に来るみたいなイベントはやりたいなと思います。コロナがなかったら渋谷のどこかをジャックして、ワーッと派手なことしたいみたいな気持ちはあります。映画の冒頭にもあるダンスの様なこととか。
ーー西野さんは日々お忙しい中でも、色々なエンターテイメントに触れられていますよね。本も読まれていて。エンターテイメントには時間を惜しまずに触れるという感じなのでしょうか。
願わくば「お客さんでありたい」っていうのはあるんですよ。許されるならば、毎日劇場に行って、サーカスを見て、落語を見て、ライブを見て、映画を見て、「あぁ、楽しかった」っていって飲みに行くだけの人生がいいです(笑)。毎日それしたいです。やっぱり客席が一番好きなので。
ですが、すごく楽しませてくれるやつもあれば、「いや、もっとこういうのを作って」っていうことをお客さん目線で感じることもあります。だから、自分が見たいものを作ってます。えんとつ町は僕が見たかったんです。煙だらけの町で、縦移動があって、冒険ファンタジーを真正面からやる映画が見たかったんですよね。でも基本的にはずっとお客さんがいいですね。ショーの街とか、ラスベガス、ブロードウェイも大好きです。
ーー色々な作品をご覧になって、その中で楽しいっていう気持ちと、こうしたいっていうのが両方あって、創作意欲になっていくんですかね。
色々と見れば見るほど、ど真ん中のどストレート……どストレート・ど真ん中・どメジャー作品が色っぽく見えてきますね。自分が作る時は、もう絶対ストレート。ど真ん中のファンタジーのハッピーエンドを作ります(笑)。たぶん中学生の時とかは、もうちょっと斜に構えていた気がするんですけどね。でも今はやっぱり真ん中を背負ってる作品はすごいなって思います。
ーー西野さんが最近ご覧になって感激したエンターテイメントってどんなものですか?
最近ラスベガスに行っていたので、ショーをたくさん観たんです。シルク・ド・ソレイユも観たし、あと、デビッド・カッパーフィールドのショーは本当に最高でした。なんかUFOが飛んでたし。UFOが飛んでて、宇宙人が出てきて、恐竜が出てきたんで、もう死ぬかと思いました(笑)。もう、「好きなやつ何個乗せんの?」っていう。客席の中を5メートル、6メートルぐらいのUFOが客席の中をブォーンって飛ぶんですけど。あんな規模でやられると、ちょっとやばいと思いましたね。
あと、AKB48の『根も葉もRumor』最高ですね。
ーー私も大好きです!
改めてAKB48っていいグループだなって思いました。音楽でいうとAdoの『踊』も。
あと、今読んでいる本もおもしろいです。『創造の狂気ウォルト・ディズニー』という、700ページくらいある、辞書みたいに分厚い本です。ウォルト・ディズニーの人生を幼少期からずっと追いかけている本で。やっぱり、ディズニーは最高ですね(笑)。こんなことを取材で改めて言うのもあれですけど。もうみんな知ってるよっていう話ですよね(笑)。でも、本当にディズニー最高ですね。
ーーそうやって、色々なことをインプットしているからこそ、創作が出来るというか、アウトプット出来るのですかね。
そうですね。見終わったあとはずっと興奮しているので、いいのを見た時はもう本当にうれしくて、そのまま部屋に戻って仕事してとか。興奮がひどい時は手紙を書いて、クリエイターさんにファンレターを送ったりします(笑)。 立川志の輔師匠がそうですね。「映画 えんとつ町のプペル」でお仕事をご一緒させていただく以前に、志の輔師匠へ感動しすぎてお手紙を出したことがあります。
ーー感激してお手紙を書かれた方と、自分の作品でご一緒するというのが素敵ですね。ちょっと気が早いかもしれないんですけど、またこういう映画を作ったりする構想はありますか?
そうですね。映画も作るし、ミュージカルも。「えんとつ町のプペル」は映画だけじゃなくて、町も作る計画があります。あとは、誰かが作っているやつも見たいですね。自分が作っている「えんとつ町のプペル」じゃなくて、誰か違う作家さんが作っていたらどういうものになるんだろう、という。
それって、怖い勝負だと思うのですが、『スター・ウォーズ』とかはやっぱりすごいですね。自分以外の作家さんに自分の作品を託すって、すごく勇気がいるじゃないですか。でもやっぱり、『クレヨンしんちゃん』も、『サザエさん』でもなんでも、その世代その世代のクリエイターさんに渡してますもんね。やっぱりすごいなぁと思います。
ーー確かにそうですよね、大元となる作品があって、そこから色々なクリエイターさんに発展させていて…。
「えんとつ町のプペル」も、ちょっとどこかで渡します、何かの時に(笑)。
ーー今後の展開を楽しみにしています。今日は貴重なお話を本当にありがとうございました!
『えんとつ町のプペル』
10月22日(金)~10月31(日) ハロウィン限定復活上映!!
撮影:オサダコウジ
(C)西野亮廣/「映画えんとつ町のプペル」製作委員会