アメリカのハリウッド映画 、インドのボリウッド映画に続く、新たな映画ジャンル。アフリカ・ウガンダ発の “ワカリウッド”を皆さんご存知ですか? ワカリウッドとは、 ウガンダの首都カンパラのスラム街ワカリガ に由来し、1作品あたりの製作費はなんと約200ドル(約2万円)という驚きの低予算ながら、想像を超える世界観で構成された映像はYouTubeなどで話題に。
ワカリウッド映画は主に、同地に拠点を置くウガンダ初のアクション映画製作会社「ラモン・フィルム・プロダクション」で製作されていて、ワカリウッド映画の創造主である、アイザック・ナブワナIGG監督の代表作 『クレイジー・ワールド』(2019)『バッド・ブラック』(2016)『誰がキャプテン・アレックスを殺したか』(2010)が日本上陸! 特集上映「エクストリーム!アフリカン・ムービー・フェスティバル」と題し 、新宿ピカデリー・なんば パークスシネマにて9/3(金)から2週間限定で一挙上映されます。
今回、この特集上映を記念して、ワカリウッド映画が好きすぎてNYからウガンダへ渡り、映画『バッド・ブラック』へ出演したアメリカ人 アラン・サリ・ホフマニスさんにZoomインタビューを敢行。色々とお話を伺いました!
【プロフィール】
ニューヨーク出身。映画祭のプログラム・ディレクターをしていたアランは、2011年にYouTube上で、『誰がキャプテン・アレックスを殺したか』の予告編を観て、わずか90秒あまりのその映像に夢中になり、直ぐに ウガンダ行きの飛行機のチケットを購入。映画を製作したラモン・フィルム・プロダクションを訪ねる。現地の人々と意気投合して以来、所持品をすべて売ってウガンダのスラム街ワカリガへ移住。現在はナブワナIGG監督と共にワカリウッド映画の製作、翻訳、そして世界に向けて映画の宣伝をしている。「サリ」という名は、ウガンダの原住民ニキママンキー族から授かったもの。これまでに少なくとも8本の映画に出演、ほとんどの映画で殺されたり食べられたりし てきた。
ーー今日はよろしくお願いいたします!
アラン:背景写真にしているヘリは実際に映画の撮影で使っているものなんだけど、ワカリガの人たちには「本物だよね?」「どうやって軍から借りれたの?」って聞かれたよ。他にも監督が木で出来たおもちゃの銃を飛ばしたりすることを「呪術」だと本当に思っている人もたくさんいて、「ちょっと背中の調子が悪いので診てくれない?」とか言われちゃうんだよね。
ーー改めて、実際にワカリガに移住してしまうほど、ワカリウッド映画に魅せられた部分を教えてください!
アラン:僕はずっと映画の仕事をしてきて、20代ではサウンドミキシングや編集、30代では配給の業務をしていたので、映画がどうやって作られるのかは大体分かっていたし、現場も知っていたんだ。5年くらい交際していた女性に振られて、超落ち込んでいた時に、友達が『誰がキャプテン・アレックスを殺したか』のトレーラーを見せてくれたんだよね、友達は笑わせて元気づけようとしたんだけど、僕は笑うんじゃなくて真剣に見てしまったんだ。
お金が無かったら、アメリカなどではシンプル小さな映画を作りますよね。200人を登場させてヘリを使う戦争物なんて作らないと思うんです。でも、そのトレーラーの中にはアクションや、忍者などアジア系の映画が好きなんだろうなというエッセンスが詰め込まれていた。実際にどうやって作っているんだろう?と思って、理解したいという想いからウガンダに行こうと思ったんだ。「ここには絶対に天才がいる」と思ったんだ。
これまでたくさんの映画を観てきた、キュレーター的な目でいうと、作品の作りはとても荒いし、まだまだ学びの途中だと思う。でも間違い無く面白くて、クレイジーで野心的でアイデアにあふれている。独学で映画作りに挑んでいる様は、まるでバスター・キートン(アメリカの喜劇王)の作品の様でもあると思ったんだ。機材も無いので、三脚に至っても周りから金属片とかパーツを集めて作ったりしているんだよね。
ーーアランさんが出演している『バッド・ブラック』を観させていただいて、牛が佇んでいるシーンが個人的に好きでした。
アラン:鋭いね!製作費が少ないので、ロケハンをして場所を決めておくということが出来ないんですね。翌日にその場所があるかどうかも分からないし。牛が出てくるシーンは、子供の“師匠”が僕をコマンドー化する為に指導する所だけれど、たまたま牛がいて、アイザック(監督)がカメラをむけたんだ。そこがアイザックが天才である所以だと思うのだけど、彼はそこに何かコメディを生み出したんですよね。常に何か面白いものが無いかと探している、牛をどけることも出来たのにそれをしない、どこかドキュメンタリーに近い撮り方だと思うんだよね。
ーーアランさんも映画のプロとして監督にアイデアを出すこともあるのですか?
アラン:僕はアメリカ人で、多くのアメリカ人と同じ様な考え方を持っているのだけど、アイザックにとっては新しい考え方なんですよね。だから僕にも色々とアイデアを聞いてくれるし、カンフーキックなんかはそれで登場したり。実は役者に対しては厳しい監督なんです。パーフェクトを求めてる。技術的なことではなくて、おもちゃの銃だったとしても「その一瞬だけは本物だと思ってね」と。そういうあたりは非常に厳しい監督なんです。
ーー本当に子供たちが生き生きと映画で活躍していますよね!
アラン:子供がカンフーをしているシーンがあるけれど、あれは監督自身なんですよね。1983年の内戦の後にアーノルド・シュワルツェネッガーとかチャック・ノリスが出ている作品を観て、どの子供も「コマンドーと遊びたい」と思っていた時期なんだ。
ーーなるほど、内戦の後に。エンタメとして作品を楽しみながらも、国のことを知れるのは映画の素晴らしいところですよね。
アラン:そうだね。アイザックの映画を観ると、子供たちのことをすごく大切にしているのが分かると思うし、一方で子供たちがどんな危険にさらされているのかも分かると思う。そういう意味で映画を通してウガンダのことも知ることが出来るんじゃないかな。
ーーワカリウッドが今度どの様に発展していってほしいか、アランさんに展望はございますか?
アラン:ワカリウッドはこれからたくさんの人が好きになってくれると思うのだけど、何を一番のレガシーとして残していきたいかというと、アイザック監督(1992)は『エル・マリアッチ』が一番好きな作品だそうだけど、ロバート・ロドリゲス監督が無名時代に低予算で撮った作品だから、少し共通点はありますよね。ロバート・ロドリゲス監督はアメリカの大学生だったわけだけれども、アイザック監督はスラム街に住んでいて、電気や水道が通っていない場所もある。だから、このワカリウッド作品を観て、先進国では無い場所の子供達は映画がどうやって作られているのか肌で感じでくれるのではないかと思うんだよね。そこから新たな才能を発揮してくれるんじゃないかなと。
ーー最後に、これから「アフリカン・ムービー・フェスティバル」をご覧になる皆さんにメッセージをお願いいたします!
アラン:ワカリウッドを観たら「自分もやろうと思ったら出来るんだ。言い訳は出来ないんだ」ということを知って欲しい。そして、僕たちは同じ人間で何も変わらないんだよ、ということ。そしてウガンダに遊びに来てよ!ということを伝えたいね。ウガンダに来てくれたら、アイザック監督は大歓迎だから映画にも出演出来るよ!
ワカリウッド映画は、最初は本当にこの街とか村の狭い地域でしか見せないつもりで、「友達を笑わせられればいい」くらいのスタートで。でも、こうして東京や大阪で上映をしてもらえるんだから、彼らは映画を撮れていたということなんだよね。映画自体はサーカスとトリュフォー(フランスの映画監督)をミックスした様な、チャーミングで知己に富んだ作品でありながら、エボラハンターというキャラクターとかスティーブン・セネガルというキャラクターが登場する世界だから面白いです。ぜひ楽しんでくださいね!
「エクストリーム!アメリカン・ムービーフェスティバル」公式サイト
https://wakaliwood.jp/
9月3日(金)新宿ピカデリー、なんばパークスシネマにて2週間限定ロードショー