去る6月25日、作編曲家の寺田創一氏によるプロジェクト・Omodakaの無料配信ライブ第2弾『Synthetic Nature Live 2』が配信された。(※以下、本稿では一部を除き寺田氏をOmodakaとする)
同配信は、映像合成装置を使い、仮想空間で行なわれた約75分の公演。4月リリースの新譜『Dodarebachi』収録の4曲を含めた、全36曲のライブパフォーマンスが繰り広げられた。配信は2021年8月現在もアーカイブ視聴が可能。
https://www.youtube.com/watch?v=FcYVhYw-pM8
今回はOmodakaにオンラインでインタビューを行ない、仮想空間でのライブ配信第2弾をやることになった経緯や、細かすぎて伝わらない(!?)マニアックなウラ話まで、『Synthetic Nature Live 2』を、こってり深堀りしてみた。
開催決定は前回ライブ後に
―― 2020年12月に開催された配信ライブ第1弾『Synthetic Nature Live』から半年後の開催となりましたが、第2弾をやろうという話は、いつ頃から決まっていたのでしょうか?
Omodaka:第1弾が予想よりも好評だったので、第2弾をやろうという話は、前回の直後くらいから出ていました。実際に、VRデザイナーの岸本圭司(nanographica)さんなど、制作スタッフに動いてもらったのは、それから1~2か月くらい経ってからでした。
―― 6月25日は寺田さんが以前在籍していたバンド・TAX FLEEのデビュー日でしたが、この日に決めたのはそういう「記念日」的な意味合いもあったのでしょうか?
Omodaka:6月18日か25日の金曜日にしようと考えていたので、それは偶然ですね。デビュー日であることも、指摘されるまで忘れていました(笑)。
―― セットリスト(曲順)はどのように決めたのでしょうか?
Omodaka:セットリストは基本的に前回と同じにして、今回は平面合成(※Omodakaの両サイドにあるディスプレイに映し出される動画が背景になる)ステージとVRステージの組み合わせを入れ替えた構成にして、やってみたいと思っていましたが、各ブロック内の順番をどうするかは直前まで悩みました。
―― 1曲目は最新EP収録の「郡上節(静かな調べ)」でしたね。
Omodaka:4月に新しく配信された「郡上節(静かな調べ)」「尾鷲節」「お江戸日本橋(2021 mix)」「ドダレバチ(津軽甚句)」は全部やるつもりでした。
―― 今回は曲と曲の繋ぎも前回以上にキレッキレだったように思えました。大体どのくらいの期間で制作したのでしょうか?
Omodaka:前回と同じだと面白くないと思って、曲の繋ぎ方も今までと変えてみました。製作期間は2~3か月くらいだったかな。でも2か月間ずっと作業していたんじゃなくて、ちょっと変えて、放っておいてまた聴いてみて、ちょっと変えて……みたいな感じで作業していました。
―― 新たな試みとして、Omodakaさんが各SNSで事前に告知されていた通り、“2番”まで演奏した楽曲もいくつかありました。
Omodaka:曲を並べて聴いてみたときに、前回と同じ感じがしたので、2番を入れてみました。これは5~6月になってから、けっこうギリギリのタイミングで決まりました。
―― えっ、ということは、液晶ディスプレイに映る金沢明子さんの映像って、いつもフル尺で撮っているんですか!?
Omodaka:そうです。フル尺で撮っていますが、結局“1番”しか使っていない楽曲が大半で、そういえば2番とか3番とか、ライブでやっていない曲ばかりということに、遅まきながら気が付いて……。
―― 金沢さんの動画がフル尺収録だったのは意外でした。でも、さすがに「淡海節」MV内の歌詞が流れるところまでは変えられませんでしたね(笑)。
Omodaka:あのMVも歌詞が変わっていたら完璧でしたね(笑)。
―― 現在公開されているOmodakaのMVで、アルバム『Gujoh Bushi』収録の3曲(「淡海節」「ちゃっきり節」「桑名の殿様」)は、どれもフル尺じゃないんですよね。
https://www.youtube.com/watch?v=YZA5363iOTg
Omodaka:3曲とも、歌詞の文字を動かすアイデアで4分近く持たせるとなると、演出にかなりの変化が必要になってきますから。“フル尺のMV”と“ライブで使用する動画”との違いというハードルがひとつあるんですよ。
また、人の動画の見方というか、人が1本の動画を集中して見ている時間がだんだん短くなってきていることもあります。例えば4分あるMVを、平均何分見ているかという統計なども見ることができますが、それが年々短くなる傾向にあるので、“4分間集中して動画を見る”という習慣がだんだん薄まってきているんですね。
たぶん1分か1分半くらい集中して見たあとに、飛ばしちゃうのかもしれません。例えば映画みたいに、その動画の中に長時間引き付けていられる物語があれば別として。恐らく、ネット環境と脳の反応で、そのように人間の傾向が変わっているのでしょう。
そのうち、未来の人間はそう感じる長さが今よりもさらに短くなっているかもしれません。5秒も動画を見たら「長い!」って(笑)。
―― 動画を実際に「見る」のではなく、その動画の「情報」だけを脳に直接流し込む技術も登場するかもしれません(笑)。
Omodaka:確かに、見た「記憶を入れる」という可能性もありえますね。未来では、若者は見た記憶だけを入れるのが主流になっているけども、実時間で動画を見ると「リアルに見るってすごく楽しい!」って(笑)。そういう未来になっていたらびっくりです。
超巨大建造物とOmodaka分身!? VRだからできる“ありえない世界観”
―― 前回のVRステージでは、鳥居と大仏が共存した”東洋の神殿”的建造物は、岡山県の「最上稲荷」がモチーフになっているとのことでしたが、今回のVRステージでは、モデルとなった建造物などはあるのでしょうか?
Omodaka:今回は最上稲荷のように特定のイメージなどはありませんが、大仏が異常な大きさだったり、対になっているはずの仁王像が片方だけ巨大化していたり、具体的な要望を岸本さんに伝えたところ、それを見事に再現してくれて、とんでもなくバランスのおかしい建造物ができました。
五重の塔が十重、二十重の塔になっていたり、その塔よりも仁王像の方が大きかったり、大仏が対になって立っていたり、「この丸いの何?」という謎の石の球が浮いていたり……全体的にありえないサイズ感でバランスが悪い、一目でまともな世界じゃないとわかるようなステージになりました。
―― その摩訶不思議な空間で、舞台装置ごと“瞬間移動”する仕掛けが今回とても印象的でした。全部で何か所くらい“移動”していたのでしょうか?
Omodaka:前回もそういう仕掛けはありましたが、その移動する箇所が増えて、わかりやすくなったのかもしれません。それぞれのVRステージで大体4か所くらい移動したと思います。
―― でも、場面によっては瞬間移動ではなく、画面内になぜか仮面巫女が2体以上いて、“分身”になっていることもありましたよね(笑)。
Omodaka:前回もOmodakaが1体いる場所に、もう1体紙みたいに薄くなったOmodakaが映り込んでいたり、それでも画面内には極力2体以上出さないように、VRデザイン担当の坂本茉奈美さんが美しく処理しようとしていたようですが、今回はもう明らかに「(2体以上)見えてるよ!」という映り込みで、気に入っています(笑)。
Omodakaが常に複数の場所にいて、カメラの動きによって1体だけが映ったり、2体3体が同時に映り込んだりとか、そういうことを前回よりも大胆にやる演出になりました。薄いOmodakaが見えているのは、“申し訳ないけど映っちゃった感”があるけど、今回はその申し訳なさは一切ないから、「当然複数のところにいますけど、どうしました? それが何か?」くらいのやり方でやってくれたんだと思います。
あの空間が現実じゃないから、ありえない巨大仏がいるような世界だから、同一のものが複数のところにあるのもOKなのでしょう。そういう解釈もひとつの見方なので、逆に「これは2つ同時に出てるいのがおかしい」って思ってもいいんです。「こういう風に見てほしい」というのはなくて、ここがおかしいとか、そういうところをくまなく探すという見方をするのもOKですよ。
“ありえない世界観”を楽しんでもいいし、「これ失敗じゃないか!」とダメ出ししてもいいんです。なかには、実際に失敗している部分もあるし、失敗したところと仕込んだところが平行に並んでいるので、本当に境界線がないんです。だから「それは無責任な演出なんじゃないか?」とか「演出の放棄なんじゃないか?」と思ってもらっても全然かまわない。
―― なるほど。
Omodaka:本当はちゃんとやる予定なんですが、いつもそうなってしまうんですよ。予期せぬエラーによって、何かが起きてしまう。当然最初から失敗しようとは一切思っていなくて、「これで完璧だ!」って毎回思っているんだけど、「ワシのシステムがぁぁ~! こんな不具合はありえないぃぃぃ〜!!」みたいなエラーが起きてしまうんです(笑)。
ウェアラブルカメラ、チャットで業務連絡……斬新すぎる実験的挑戦
―― 今回は前回になかった様々な新しい試みがありましたね。まず、平面合成ステージでは右手にカオシレーターやDS Liteを見せるウェアラブルカメラを着けていましたが、これはクロマキー側のステージが丸見えになるのも覚悟の上での決断だったのでしょうか? ちなみにどなたのアイデアですか?
Omodaka:ウェアラブルカメラのアイデアは前回もあったのですが、準備が足りなくてできませんでした。その映像もVR合成されるのが理想だったけど、合成なしでとりあえずやってみることにしました。丸見えリスクも含めて自分から言い出しました。
―― 手首のウェアラブルカメラの映像もVR合成にするのであれば、360度クロマキー空間にする必要があるのでは?
Omodaka:今ではクロマキーを使わなくても合成できるようなものがあるらしいので、最近の技術を使えばできたのかもしれませんが、とりあえず「まずやってみよう」くらいのものでした。手首カメラもVR合成できたら面白いですね。カオシレーター越しにちょっと大仏が見えるとか。
―― 第3ブロック最後の「木曽節」と第4ブロック最初の「下津井節」の暗転が短めに感じましたが、あの2~3秒の間にウェアラブルカメラを装着していたのは驚きました。
Omodaka:すごく練習しましたから、装着するのを(笑)。あのハンドマウントはGoPro純正のアクセサリーでしたが、素晴らしく良くできていて、手袋くらいの感じですぐ装着できるんです。手を通して、マジックテープを1か所留めるだけでOK。でも手を揺らすと画面もブルブル。
―― 画面酔いしやすい人は気持ち悪くなるかもしれないので、酔い対策も必要ですね。
Omodaka:最新のGoProではそういうブレなどを補正できるものもあるらしいです。ブレをなくして映像を合成できるのが良いやり方かもしれませんね。
―― チャット欄に投稿されていた「業務連絡」について。プロダクトマネージャーのSakiko Osawaさんが、fareastrecordingアカウントで業務連絡を投稿し、舞台監督がフリップに書いて、ステージのOmodakaさんに指示を出していた……というのを、Omodakaさんがゲスト出演したとあるインターネットラジオで聞きました。ああいう業務連絡は普通表向きには見せない、裏方だけでやりとりするものじゃないですか。なぜ、あえて「“見えるところに”出そう」と思ったのでしょうか?
Omodaka:配信ライブならではのインタラクションの実験でした。普段のライブでは観客それぞれが感じたことを全員にリアルタイムで共有したりしないけど、ライブ配信ではチャット欄でそれができますよね。その感覚をさらに拡張してみようと思ったからです。
―― 最初の業務連絡の内容が「Omodaka もう少し動きましょう!」だったのは笑いました(笑)。
Omodaka:アーカイブを見ると、自分でももっと動いた方がいいなって思いました。業務連絡は貴重でした。
―― 「チェックリスト:C1」とか、絶対に視聴者にはわからないような業務連絡も気になりました。
Omodaka:テクニカルリハーサルのときに出た不具合が、どうやったら直ったかをまとめたチャートがあって、何か起こったときにパニックにならないように、ここをチェックするとか、ここをリセットするとか、何をすべきかが書いてあります。
―― 「提灯出ちゃってるよ」とか「DS 電源」とか、あれはわざと業務連絡のツッコミどころとして用意していたのでしょうか? 本当のアクシデントだったのでしょうか?
Omodaka:提灯に関しては、出ていないのが正解でしたが、出ていました。
―― どうして出ていたんですか(笑)。
Omodaka:たぶん私が置く場所を間違えた(笑)。出ていたんだけど、どかすとさらに不自然になるから、舞台監督の判断で、もう諦めて置いたままにしました。DSの電源も、実際あそこで電源が切れても、処置しようがない状態ではあったけど、マネージャーの機転で、いじってくれたみたいです。
―― 残りが「両津甚句」と「さのさ」の2曲だけで、しかもその2曲もDSを使わない曲でしたから、「なんか」の途中で電源が切れたところで、その後のパフォーマンスには影響なかったな……と、後からアーカイブを見直して思いました。
Omodaka:でも、携帯ゲーム機の電池が切れて、演奏ができなくなることも、Omodakaでは過去にも起きているんです。
PSPの電源が切れてパフォーマンスができなかったということもあって、そんな光景を見たことがある視聴者だと、「あっ、また電池切れとかやっちゃってるよ~」「全然懲りてないよ~」という風に見えたかもしれませんが、そうやって笑ってもらえたら嬉しいですね。
本当に稀なケースですが、「こきりこ節」のPSPの出番で、画面に電池切れマークが出ていて音が出せなかったとき、お客さんが電池を貸してくれたこともありました(笑)。でも、せっかく電池を貸してくれたのに交換が手際よくできなくて結局演奏できなかったり……ということもありました。そこで咄嗟にPSPの電池が出てくる会場もすごいですよね(笑)。
―― チャットといえば、今回は前回導入できなかったスーパーチャット(スパチャ)も導入できましたが、いかがでしたか?
Omodaka:スパチャは大変ありがたい仕組みですね。思ったよりも皆さんがスパチャしてくれたので、とても嬉しかったです。
特に高額のスパチャがきたとき、その瞬間に皆さんの驚きなどがチャットに表れて“沸く”というか、華やかな感じになるから、それがまたライブ感があって、あとから見たときに「あぁ、この雰囲気は現実のライブにもあるかもしれないけど、それとは違ったライブ感だなぁ」とは思いました。
最近のライブって、物販を買ってくれるというのはありますが、ギターソロを弾いたあと、ネックに万札挟むとか、おひねりをそのまま演者に出したりしませんよね。昔だとおひねりのお札を、これ見よがしに役者の帯とかに挟んだりして、そういう大衆芸能に近いノリを感じて、そういう驚きはあったし、それがすごく見ていて楽しかったです。
同じ人が、「ここが盛り上がる!」っていうタイミングで何度もちょくちょく入れてくれたのも嬉しかったです。歌舞伎でいうところの、見え切ったら「○○屋!」って言うとか、「澤瀉(おもだか)屋!」みたいな掛け声の役割も果たしているように思えました。
あの“衝撃の演出”の真相
―― 前回は画面を4分割にして、VRステージと撮影風景を一緒に映しているシーンがあり、「まさかVRの“裏側”を見せるとは!」と非常にびっくりしましたが、今回もオープニングに仮想空間ステージの準備風景が流れたり、終盤にも撮影風景をチラ見せしたり、パフォーマンス中にアンリアルエンジン(UE)の画面を映したりしていましたよね。私は「このステージはUEで作られていたのか!」と大興奮でした。
※アンリアルエンジン(UE):Epic Gamesが開発したゲームエンジン
Omodaka:あのシーンが見えたのは事故でした。正面のカメラが突然落ちました(笑)。
―― ええ、あれ事故だったんですか!? 前出のインターネットラジオで言っていた「カメラが落ちた」って、こういうことでしたか! YouTubeチャットやTwitter実況勢も、誰も事故だって気付いていませんよ、ログを見る限りでは(笑)。
Omodaka:あまりにも神懸ったタイミングで起きましたからね(笑)。
―― 正直、VRスタッフは生きた心地しなかったんじゃないでしょうか。
Omodaka:私はそのときにはわかりませんでしたが、一番血の気が引いていたのは坂本さんなんじゃないかと思います。
―― 個人的に、今回はエンディングがかなり衝撃的だと思いました。壊れた「安里屋ユンタ」のようなBGMと、3色に発光する仮面巫女……まるで走馬灯のようでした。
Omodaka:オープニングや、第2ブロックと第3ブロックの間のように、ひらのりょう君(※「ひえつき節」MVを制作した映像作家)の映像が続けば美しかったのですが、それが間に合わなくて、テクニカルリハーサルのときにマネージャーが撮影していた、高速撮影スローモーションの画像を使うことにしました。
―― なんと、予定では前回同様、ひらのさんの映像作品がエンディングに使われるはずだったんですね!
Omodaka:オープニングの漫画の続きがくるかと思いきや、ああいうものを見せられたら笑っちゃいますよね。Omodakaの“本体”をあそこまで見せるのはなかなかない機会だし、期せずして、面白いと思って見てくれた人もけっこういたので、良かったです。
配信ライブにネタ切れの危機!?
―― 最後にお聞きしたいのですが、「ネタは出尽くした感がある」と、先ほどとはまた別のインターネットラジオにゲスト出演したときに言っていましたが、それはVRのネタですか? それとも曲のバリエーションですか?
Omodaka:主に楽曲のバリエーションですが、これからもまたライブでやる曲は少しずつ増やしていきたいと思います。
前回と今回の配信ライブでは、この10~12年にライブで披露した曲を一通りやってみたので、これからまた新しい曲をライブでやるとなると、金沢さんが歌っている映像を撮影したりと、けっこう準備に時間がかかって……。
―― すでにリリースされている曲のなかでも、金沢さんの歌っている映像が用意されていない楽曲もあるんですね。
Omodaka:歌う金沢さんの映像やライブ用動画も、一からフル尺で作るのは大変ですが、ほんの一部だけ変えたり、新しくした箇所だけライブで披露したりとか、そういうのもアリかもしれません。
―― ちなみに今回の配信アーカイブは、いつ頃まで残す予定ですか?
Omodaka:いつまで残すかは全くの未定ですね。いつかは消すと思いますが……気が向いたときに突然消します(笑)。
取材・文/浦和武蔵
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https://getnews.jp/archives/3043914[リンク]
YouTubeチャンネル「fareastrecording」:
http://www.youtube.com/fareastrecording
(執筆者: ガジェット通信ゲーム班)