テレビ東京系で放送中の『ガールズ×戦士シリーズ』第4作目『ポリス×戦士 ラブパトリーナ!』の映画版である『劇場版 ポリス×戦士 ラブパトリーナ! ~怪盗からの挑戦! ラブでパパッとタイホせよ!~』が公開中だ。「アイドル」「魔法」「怪盗」など多様なテーマを冠し、悪と戦う『ガールズ×戦士』たちの活躍を描いてきた『ガールズ×戦士シリーズ』。『ポリス×戦士 ラブパトリーナ!』では“ラブパトリーナ”たちが、ワルピョコ団によりラブを奪われた人々をラブタイホし、みんなのラブを守る姿を描いている。
『ラブパトリーナ!』劇場版でメガホンをとったのは、テレビシリーズで総監督をつとめてきた三池崇史監督だ。『十三人の刺客』『初恋 FIRST LOVE』など、様々なテイストの作品を世に送り出し、世界各国で評価される三池監督は、女の子たちから愛される特撮作品をどう作り上げていったのか? 4年にわたって続いてきたプロジェクトの変化や、テレビシリーズと映画の在り方、そして今後の展望までをインタビューで語ってもらった。
「映画を作る現場で、ジャンルの意識はないです」
――そもそも、なぜ三池監督が『ガールズ×戦士シリーズ』を手がけることになったのでしょうか? 三池監督が女の子から人気の特撮番組を作っているのは意外でした。
それは、ぼくもまったく同感ですよ(笑)。おそらくですが、ひとつはぼくが思うに、女の子から人気の実写ヒロインものは、しばらくはなかったわけです。かつては確かにあったんですが、消滅していた。でも、『美少女戦士セーラームーン』を好きな子たちも、当時からいっぱいいたわけですよね。その中で、「何か実写でできないか?」と最初に投げかけた人がいると思います。検討していく中で、一部の人が「三池が監督やるとイケるんじゃない?」と。女の子たちから愛される特撮作品を復活させるにあたって、何か起爆剤、普段とは違うエネルギーがいるだろうというところで、色んな選択肢があったんだろうと思います。その一つに、ぼくが挙がった。
――三池監督の『ケータイ捜査官7』や『ウルトラマン・マックス』などは、子ども向け作品ではありますね。
そうですね。NHKで『プチプチアニメ ころがし屋のプン』という子ども向けの作品をシリーズで3本やっていたりもするので、自分の中ではあんまり違和感はなかったです。ぼくは、ヨーロッパに行けば相変わらず「バイオレンスの監督」だし、中国では『クローズ』で「青春バイオレンスの監督」だったり、それぞれの国で何を観てきたかによって、ジャンル分けされてはいます。あるいは、(作品が)配信されるときには、情報を伝えるためのわかりやすい記号として、「ホラー」「バイオレンス」「ヤクザ・ホラー」「ヤクザ・バイオレンス」「ファンタジー」だよ、とか。そういうものは、たぶん、まだ見ぬ観客たちへのアピールとして生まれたんですよね。でも、それは作られた分け方であって、自分自身や、映画を作る現場で、ジャンルの意識はないです。
――すでに4年も続いていて、大成功と言っていいのでは。
若手ではないけど、ぼくの現場の助監督だった人たちがスタッフとしてやってくれているので。自分が撮る回以外では、彼らが撮る場所を作ることができる、ということもあります。努めてそうしているわけではないんだけど、色んな出会いがあって、ぼくは少しだけ後押しをしている。昔からそうなんですが、Vシネマの頃から助監督で、セカンドにもなって、2年以上色々と経験を積んできた人たちは、100%自分の力で監督としての活躍の場を掴んでいる。ただ、監督になること自体は比較的簡単なんだけど、仕事を継続して、職業として成立させていくのが難しい。さすがにそこまでは立ち入れないですよ。むしろ、そこからは同業者というか、ライバルなので。ただ、本人たちがどういうものをやりたいか、どういう場所でやりたいかという理想はともかく、楽しんで作れる場所にはなっている。要は、作品を作りながら、自分たちの居場所を作っていくということを、みんな同時にやっているわけですよね。フリーランスでやっている以上、やらざるを得ないわけですが、不思議とみんなすごく楽しめている。
――「監督が楽しんでいる」というのは、観ていて感じました。シリーズを通して、特にダンスシーンが素晴らしいと思ったのですが、どこまで監督側の意図で撮られているのでしょうか?
ダンスシーンに関しては、撮るのはもちろんこちらでやります。カット割りから、具体的な演出まで。ただ、振付は振付の先生にやってもらいます。打ち合わせもあって、「今回は子どもでも真似できるフリを入れてほしい」という大人の事情みたいなものもあるわけですが、基本的にはそこを崩していく体制ですね。(振付師には)「普通の子どもが観ても絶対に踊れない振付にしてほしい」「でも、可愛くしてくれ」とか、「次の流れでは、めちゃくちゃカッコいいものにしてほしい」といった、オーダーを出します。「子どもだからこれだと喜ばれない」という考え方は、ぼくには子どもを甘く見ているように感じられるんです。だから「遠慮なくやってほしい」と。でも、そう言うと、必ず(振付師は)子どもたちが可愛く、カッコよく見えるものだったり、何かしらを考えてくれる。そういう形でダンスを作っているので、みんなの力というか、合わせ技ですよ。
「アイドル×戦士 ミラクルちゅーんず!」第一話(YouTube)https://youtu.be/CmYXhyRKoe4
――ガールズ戦士を観ていると、同じようになりたい、憧れることができるような作り方をしているのではないかと思ったのですが。
そうですね。小さい子どもたちに、この4人に憧れてもらうように。歌って、踊って、楽しそうで、それが人の助けになる。それは、エンターテインメントの本来の役割です。暴力でねじ伏せるのではなくて、歌で人の心を癒すとか、言葉の壁を越えて、「何か、いいよね」と思える。共通言語として繋がるための道具になる。この番組自体が、その役割を担っているのかな、と。
――『ラブパトリーナ』の制作が始まった頃には、インタビューで「これまでのシリーズより、幅広い層に楽しんでもらいたい」という意図のことをおっしゃっていました。これは、年齢層を広げたいということでしょうか?
「幅広い」というのは、もう少し小さい子どもたちが観ても楽しめるという意図もあります。ただ、ぼくのイメージでは、(メインで観ているのは)5,6,7歳。3,4歳の子たちは、もっとほんわかとテレビを観ているんじゃないかな、と。ただ、女の子は比較的ゆるいかもしれないですけど、3,4歳の子が本当に熱狂するようなものって、小学1年生くらいになると、あんまり共鳴しないですよね。それほど興味を持たない。だから、対象の年齢を少し下げながらも、楽しんでくれる絶対数を増やせればいいな、ということです。
――作品自体の間口を広げる、と。感情移入のしやすさという点では、山口莉愛さん演じる紫原サライの存在が興味深いと思いました。前シリーズの『ファントミラージュ』で敵役として登場したサライが、『ラブパトリーナ』では主人公のひとりになる。この方針は、オーディション前から決まっていたのでしょうか?
いや、出会いからの彼女の運命ですね。それを直感的に、我々が大人の事情を飛び越えて、ルールを変えて作ったんです。もともとは、(山口は)我々が探していた子とは年齢が違っていて、ある程度大きな子たちの中で、ひとりだけ飛びぬけて小さかった(※山口はオーディション当時9歳/小学4年生)。それが、すごく可愛く見えて、みんな「いいよね」と。でも、戦士にするには小さすぎるし、他のメンバーとバランスが取れない。であれば、いっそのこと敵のボス、悪(ワル)キャラとして登場させればいいんじゃないかということになって。そうして、「もともとは人形だった」あのサライという役が生まれたんです。そこからは彼女が頑張って、「戦士じゃないけど、サライちゃんがいい!」という(視聴者の)子たちも増えてきました。彼女の頑張りで、(制作側も)「やっぱり、次は戦士になるべきじゃない?」という風になって。そうして、サライは初めて二つのシリーズを通して登場するキャラクターになったわけですね。
【ポリス×戦士 ラブパトリーナ!】変身ダンスレクチャーサライver.(YouTube)https://youtu.be/nOOYvu0nXII
――山口さんが運と努力でつかんだ、と。
そうですね。彼女も、もともと「戦士になりたい!」という気持ちがとても強い子だったので。我々も、彼女をメインキャラのひとりにすることができて、うれしかったですよ。
――ラブジー長官との関係も親子っぽくて、ほほえましかったです。演じられた黒木啓司さんについては、どんな印象を持たれましたか?
すごく生真面目な人だな、と。物語の中ではリーダーというか、父親代わり、あるいはちょっと歳の離れた兄貴のような立場でシリーズを支えてもらえれば、と。本当に真面目なので、その真面目さが滲み出ていますよね。徹底してくれて、一生懸命「ラブジー長官です!」と、ちゃんとやってくれる。それで一つのキャラクターとして成立していると思います。あんまり無理をしないで、キャラクターを作ろうとしないで、自然体でいて、というところはありました。
変化し、生まれる『ガールズ×戦士』の展望
――「映画ならではのことをやりたい」といったことを考えられたりするのでしょうか?
いや、基本的にそれはやめようと思いました。「あえて映画だから」という方法もあるとは思いますが、それは作り手側の蛮行だと思います。「映画らしさとは、テレビよりも予算があって、時間をかけていて、扱うテーマも壮大で、画も派手で……」とよく言われますが、「画を派手にしても、それで映画的になるのか?」と。大人の言う「映画的なモノ」、テレビから映画になるから「こうだ!」とか、そういう我々だけが満足するものは、子どもに「『ラブパト』を観に来たのに、何か似てるけど違う」と感じさせてしまうかもしれない。どっちを優先するかと言えば、子どもたちを裏切らないことです。いつもテレビで観ているものが、映画館でやってるんだけど、より「『ラブパト』らしくて、楽しい!」となるのが理想だと思います。映画人のプライドみたいなもの、何をもって「映画らしい」というのか? そこには疑いを持っています。それは自分たちにとって価値のあることであって、お客さんには関係ないよね、と。
――なるほど。
今回で劇場版は2本目なんですが、1本目(『劇場版 ひみつ×戦士 ファントミラージュ! 〜映画になってちょーだいします〜』)から、「そこは外しちゃダメなんじゃない?」と、個人的に思っています。映画は少し話が長くなる、というところはありますが、それは色んなことを積み重ねてそうなるわけではなくて、普段の1話完結のドラマが、そこに収めるためにすごくダイジェストにやっているということなんです。それを普通のテンポで描くと、映画版の長さになる。映画版をギューッと合理的に縮めたのが、テレビシリーズなんです。そこで、縮めることは編集でもできるんですけど、伸ばしていくのは脚本家の力です。伸ばし方によっては、全然違う方向にいってしまうこともあります。説教臭かったり、もっともらしく立派な映画にしようとしたりとか、そういうものは表面的にはいらないな、と。非暴力で、歌とダンスで人の心を癒す。自分の優しさに気づけば、誰でも元の自分に戻れる。そういう、すごいテーマを持っているので、それ以上のメッセージはいらない。それを活字にして、声にして、セリフにして言う必要は全くない。子どもには通用しないですから。
(C)TOMY・OLM/劇場版ラブパトリーナ製作委員会
――脚本と言えば、一つひとつのエピソードが非常に興味深かったです。『鬼滅の刃』のような、時事ネタもありますよね。
前回(『ファントミラージュ』)は、『半沢直樹』と『家政夫のナギサさん』を入れました。だから、(『ラブパトリーナ』にも)もう一個あってもよかったんですけどね。今どきは『鬼滅』が圧倒的じゃないですか。だから『鬼滅』だけにしておこうぜ、みたいな。完全にうらやましがって、あやかろうとしていることを隠さない。もう、正直に認めている。その正直さを感じてくれればと思います(笑)。
――時事ネタは、三池監督が取り入れられたのでしょうか?
あれはどちらかと言うと、脚本の加藤(陽一)さんですよ。ちょっと、屈折していて面白いんです。普通は「違うだろ」というようなことを、素直にやっちゃう。確かに、あの子たち(ラブパトリーナ)がリアルに生きているとすると、彼女たちのお兄さん、お姉さんが(『鬼滅の刃』を)観に行っていて、「観に行こうよ」と4人で観に行っているということもあるかもしれない。世代的にも、十分観ているだろうし。脚本家じゃなくて、(話の中の)彼女たちが『鬼滅』の影響を受けている。あれだけヒットすると、そう捉えられるところがある。
――「生まれる」シーンも気になったのですが、なぜ、ああいう表現を入れたのでしょう?
基本的に、ぼくは体から出るものは嫌いではないんです(笑)。なんだか、好きなんですよ。これはかなり前向きな感覚で、意外なものだったり、信じられないほど美しいものを生み出すことができるとか……出産だけじゃなくて、何かを作り出したり、変わることができるとか、そういう「生まれる」のが好きなんです。
――三池監督のアイデアなんですか?
いいえ。なぜか、(脚本の加藤氏が)忖度してくれるんですよ。「この人、こういうのが好きなんじゃないか?」と(笑)。わりと波長が合うんですよ。おそらく、「他じゃ許されないだろうけど、この監督ならいけるんじゃないか?」と思われているのかもしれない。
――4年の間に『ガールズ×戦士シリーズ』も変化してきました。シリーズ第1作の『アイドル×戦士 ミラクルちゅーんず!』は“カッコいい”ガールズ戦士でしたが、『ポリス×戦士 ラブパトリーナ!』には可愛らしい要素も多い。今後は、どんなシリーズになっていくのでしょう?
常識的に考えると、一旦可愛くなったので、無茶苦茶にカッコよく戻すというのは、あるかもしれないです。ただ、そこはやっぱりキャスト次第ですね。いつも、偶然に“やるべき人たち”がいるんですよ。でも、これまで、(オーディションで)いいと思う子がたくさんいて、「この組み合わせも、この組み合わせもあるよね」と悩むようなことは、ほぼなかったです。4人なら4人、5人なら5人で、なぜかいつもガチガチにハマる。その子たちのキャラクターは、センターの子が親しみやすい顔をしているんです。ちょっとのんびりしていて、いい子という。いわゆるテレビ的な、昔のドラマの主役のような親しみやすいキャラクター。結果として、そうなってきました。でも、センターにもっと違うタイプ、「この子がやるとすごいんじゃないか」と思えるような子が生まれてくれば、ガッと変わってくるんじゃないかと思います。そこは、運命だと思うんです。「何本かやってきたから、そろそろ変えようか」とは思っていても、自分たちの意志じゃなく、ポンっと「これはイケるね」という子に出会えるかどうか。そこが、企画としての本当の強さを発揮できるかどうかです。
――これからの出会い次第、と。
一つひとつ、捻じ曲げて作っていくんじゃないんです。ダンスにしても、その子たちが持っている個性が反映されて、結果的にすごくカッコよくなる。曲を先に作りますから、そこは作曲家の遠藤(浩二)さんによるんですが、「今度はこんな感じなので、子どもたちをちょっと大人っぽく、突き放したような曲にしてくれ」とか、そういうオーダーを出して、それを振付師の方が聴いて、どういうタッチに持っていくかを考える。その曲からイメージする自分たちらしい表現、ダンスを作っていく。そういう意味では、キャラクターを作っていく上で色んな人たちが関わってくるところが、普通のドラマよりも多いと思います。だから、ダンスの先生の役の捉え方には、すごく興味があります。振付師の先生は、彼女たちの個性を一番よく知っているので。厳しく教えて、できないところを鍛えるんじゃなく、出来るところを伸ばしていく発想なんですね。本当だったらマイナスになりうるところを、「時間がないから、良いところを伸ばしていく」という、プラスに発想を変えて進めていく。その過程で、また色んな人の想いが入ってくるんです。ただ、節目としては、そろそろ変わっていく方向でいいのかな、とは思います。
『劇場版 ポリス×戦士 ラブパトリーナ! ~怪盗からの挑戦! ラブでパパッとタイホせよ!~』予告(60秒ver)(YouTube)https://youtu.be/YVV7l2X1M1k
『劇場版 ポリス×戦士 ラブパトリーナ! ~怪盗からの挑戦! ラブでパパッとタイホせよ!~』は公開中。
インタビュー・文・撮影=藤本 洋輔
映画『劇場版 ポリス×戦士 ラブパトリーナ! ~怪盗からの挑戦! ラブでパパッとタイホせよ!~』
キャスト:渡辺未優、山口莉愛、山下結衣、杉浦優來、
加藤清史郎、柳沢慎吾、菱田未渚美、山口綺羅、原田都愛、石井蘭、
やしろ優、BOB、田中穂先、川原瑛都、上條沙恵子(CV)、豊永利行(CV・ナレーター)、冨士原生、小田柚葉、隅谷百花、鶴屋美咲、小川桜花、増田來亜 (Girls²)、
黒木啓司(EXILE/ EXILE THE SECOND)
監督:三池崇史
脚本:加藤陽一
制作プロダクション:OLM
掲載:ぷっちぐみ 幼稚園 めばえ(小学館)
原作:タカラトミー・OLM
配給:KADOKAWA/イオンエンターテイメント
公式サイト:https://lovepatrina.jp/movie(C)TOMY・OLM/劇場版ラブパトリーナ製作委員会
(執筆者: 藤本 洋輔)