2020年に日本で劇場公開されたホラー映画・スリラー映画・ゾンビ映画のなかから、注目作品やユニークな作品をセレクトして振り返っていきます。年間ベスト10に入れたい作品、冬休み中に観ておきたい作品、DVD発売や配信スタートを楽しみに待ちたい作品のチェックにお役立てください。
※カッコ内は公開月
※★印は映画祭・特集上映で公開
注目監督の新作映画
・『ミッドサマー』(2月)
・『スケアリーストーリーズ 怖い本』(2月)
・『ナイチンゲール』(3月)
『へレディタリー/継承』のアリ・アスター監督待望の新作、『ミッドサマー』。民俗学の研究をしていた学生たちが、スウェーデン奥地の村の祝祭に参加し、異文化の恐怖を味わいます。初来日した監督は、主人公カップルの関係性の変化を描いていることから「ホラーじゃなくて失恋映画です」と作品をアピール。ちなみに「ホラー通信」のインタビューではホラー映画として回答してくれています。どう捉えるかは観る人次第? あまりの反響から、23分の未公開シーンを加えた2時間50分ものディレクターズカット版の上映も行われ、更なる話題を呼びました。
『スケアリー・ストーリーズ 怖い本』は、アメリカ本国で物議を醸した残酷すぎる児童書を映画化した作品。『ジェーン・ドウの解剖』のアンドレ・ウーヴレダルが監督を務めています。『シェイプ・オブ・ウォーター』のギレルモ・デル・トロが原案・製作を務めていることでも話題に。不思議な本に書かれた“怖い話”の主人公になってしまう子供たちの恐怖と冒険を描きました。原作の怖すぎる挿絵を忠実に立体化したモンスターたちが魅惑的。
『ババドック 暗闇の魔物』ジェニファー・ケント監督の最新作がリベンジ・スリラー『ナイチンゲール』。英国植民地時代のオーストラリアを舞台に、夫と子供を残虐な将校らに殺された女囚と、彼女が道案内を依頼した先住民アボリジニの青年という、“奪われし者たち”の復讐の旅路を描きます。目を覆いたくなるような暴力と耐え難い哀しみの連鎖、その先にケント監督らしい人生哲学が感じられるはずです。
大ヒット! 邦画ホラー
・『犬鳴村』(2月)
・『事故物件 恐い間取り』(8月)
2020年は、Jホラーを代表する二人の監督のホラー映画が大ヒットを記録しました。
『呪怨』清水崇監督が実在の地にまつわる都市伝説を映画化した『犬鳴村』。心霊スポットとして知られる福岡県・旧犬鳴トンネルの、その先にあると噂される“犬鳴村”の謎を描きます。犬鳴トンネル関連でよく語られる噂を多数盛り込み、クラシックなJホラー描写にこだわって作られた一作。ご当地である福岡県では最速上映も行われました。本作に続く「恐怖の村」シリーズとして、2021年2月には新作『樹海村』が公開されます。
『リング』中田秀夫監督が、“事故物件住みます芸人”松原タニシの実体験を綴った著書を映画化した『事故物件 恐い間取り』。松原氏をモデルにした主人公を、亀梨和也が演じています。中田監督らしいゾッとする恐怖描写はもちろんのこと、ぶっ飛んだ演出と笑いの要素を盛り込んで、幅広い層が楽しめるエンタメホラーに仕上げています。しかし、公開後には“しないはずの声がする”という不気味な現象が噂になりました……。
シリアスもコメディも。ゾンビ映画
・『CURED キュアード』(3月)
・『デッド・ドント・ダイ』(6月)
・『処刑山 ナチゾンビVSソビエトゾンビ』(1月)★
エリオット・ペイジが主演と製作を兼任する『CURED キュアード』は、ゾンビ・パンデミックがもたらす影響をシリアスな目線で捉えた映画。ゾンビの治療法が確立され、パンデミックは終焉するも、元ゾンビたちへの激しい差別が起こるなど一向に平和の訪れない世界を描きます。
一方、『デッド・ドント・ダイ』は、ジム・ジャームッシュ監督によるオフビートなゾンビコメディ。のんびりした田舎町をじわじわと侵食するゾンビウイルス。ビル・マーレイ、アダム・ドライバー、クロエ・セヴィニー演じるおとぼけ警官たちはどう立ち向かうのか? ティルダ・スウィントンが演じる、日本刀使いの謎の葬儀屋も注目を集めました。
『処刑山 ナチゾンビVSソビエトゾンビ』は、「海に行けばよかった……」の惹句でおなじみ、カルト的人気を誇るナチスゾンビコメディ映画『処刑山 デッドスノウ』の続編。前作で右腕を失ったマーティンが、誤ってゾンビの腕を移植されるというトンデモない展開に。殺しがしたくて疼く腕をなんとかコントロールしながら、ナチゾンビへの復讐に臨みます。2014年製作、日本上陸が長らく待ち望まれていましたが、待望の公開となりました。
シリーズ作&リメイク作品
・『スリー・フロム・ヘル』(10月)★
・『海底47m 古代マヤの死の迷宮』(7月)
ロブ・ゾンビ監督が殺人一家ファイアフライ家を描く『マーダー・ライド・ショー』シリーズ、第3弾にして完結編となるのが『スリー・フロム・ヘル』。殺された人数はシリーズ最大です。キャプテン・スポールディング役のシド・ヘイグは、本作のアメリカ公開後に永眠。撮影当時の健康状態のために出演時間はごくわずかになっていますが、観る者の脳裏に永遠に焼き付くような迫力の演技を見せています。
サメ映画『海底47m 古代マヤの死の迷宮』は、ヨハネス・ロバーツ監督による『海底47m』シリーズ第二弾。前作と物語のつながりはありませんが、登場人物をこれでもかと追い詰めまくる容赦ない展開はまさしく『海底47m』。今作では、海底の遺跡を探検するべくダイビングに興じた4人の高校生が、崩落した遺跡の内部で人喰いザメとともに閉じ込められてしまいます。ジェイミー・フォックスを父に持つコリーヌ・フォックス、シルベスター・スタローンを父に持つシスティーン・スタローンが今作で映画デビュー。
・『ペット・セメタリー』(1月)
・『ザ・グラッジ 死霊の棲む屋敷』(10月)
『ペット・セメタリー』は、1989年に映画化されたスティーブン・キングの小説の再映画化です。死んだ生き物を生き返らせる禁断の土地。その不思議な力を使い、事故で亡くした我が子を蘇らせてしまった父親の体験する恐怖と悲劇を描きます。1989年版とは蘇る子供の設定や結末を変更。蘇った少女の変わりようを、2007年生まれの新鋭ジェテ・ローレンスが怪演しています。
清水崇監督の『呪怨』をリブートした『ザ・グラッジ 死霊の棲む屋敷』。ハリウッドリメイク作は既にありますが、本作は仕切り直しの再映画化。『ピアッシング』のニコラス・ペッシェが監督を務め、サム・ライミがプロデューサーを務めています。呪いが日本からアメリカに渡っていく設定がなかなかニクい。原作への愛情をヒシヒシと感じるまさしく“ハリウッド版『呪怨』”な一作です。
間違いない面白さ。 “ブラムハウス”製作映画
・『透明人間』(7月)
・『ザ・ハント』(10月)
傑作・良作ホラーを次々生み出す製作会社、ブラムハウス・プロダクションズの作品はぜひともチェックしておきたいところ。
『透明人間』は、『ソウ』や『インシディアス』シリーズで脚本・出演を兼任し、SFスリラー『アップグレード』で監督としても人気を確実にしたリー・ワネルの監督最新作。DVと束縛の激しい元彼が自殺、でも毎日“誰か”の気配を感じる……。長らく描かれてきた“透明人間になった男性”側の映画ではなく、“透明人間に監視される女性”を主人公に据え、背筋も凍るホラー映画に仕上げました。精神が崩壊していく主人公を演じるエリザベス・モスの狂気的演技も見どころです。
『ザ・ハント』は、アメリカを二極化する“上流階級VS庶民階級”の構造、ネット上に蔓延する陰謀論に着想を得たという社会風刺スリラー。描かれるのは、富裕層による娯楽のための“人間狩り”。誘拐され、森の中で目覚めた12人の男女は、ネット上で噂される“人間狩り計画”に巻き込まれていると確信しますが……。思わず笑ってしまう軽妙なゴア描写や、誰が主人公なのかすら分からない予測不能な展開が見モノ。
インパクトがすごい映画
・『カラー・アウト・オブ・スペース -遭遇-』(7月)
・『屋根裏の殺人鬼 フリッツ・ホンカ』(2月)
ニコラス・ケイジ主演でH・P・ラヴクラフトの原作を映画化した『カラー・アウト・オブ・スペース -遭遇-』。田舎町に隕石が落下し、その隕石から漏れ出た“奇妙な色彩”によって狂っていく一家を描きます。ニコラス・ケイジの狂気演技はもちろんのこと、“色彩”によって巻き起こる異様な出来事は凄まじいインパクト。原作にはないアルパカの登場も妙に印象的?
『屋根裏の殺人鬼 フリッツ・ホンカ』は、『女は二度決断する』のファティ・アキン監督が“地元の殺人鬼”を映画化した異色ホラー。老娼婦を殺して部屋に隠し、死体の腐臭の中で生活していた実在の連続殺人犯を描きます。酒浸りで怠惰なホンカの日常と犯行を、スクリーンから臭いがしそうなほど生々しく映像化し、観客をのけぞらせました。ホンカよりも20歳若いヨナス・ダスラーが特殊メイクと驚異的演技力でホンカになりきっています。
意外な監督の映画
・『シライサン』(1月)
・『ファナティック ハリウッドの狂愛者』(9月)
『シライサン』は、小説家・乙一が本名の安達寛高名義で脚本・監督を務める完全オリジナルホラー。「その名を知った者のもとに現れ、目をそらしたら殺される」と言われる“シライサン”の恐怖を描きます。極端に瞳の大きいシライサンの不気味なビジュアルが印象的。シライサンさんが現れる際に聞こえる鈴の音は、『ジェーン・ドウの解剖』がヒントになったとか。
『ファナティック ハリウッドの狂愛者』は、リンプ・ビズキットのヴォーカル、フレッド・ダーストが監督・脚本を務めるストーカースリラー。映画オタクの男が、大好きな俳優への愛をこじらせてストーカー化していく様を描きます。ストーカーとなる主人公を演じるのはなんとジョン・トラボルタ。パッと見ではトラボルタと気付かないそのルックスも話題となりました。
観るとキケン?な映画
・『アントラム 史上最も呪われた映画』(2月)
・『真・鮫島事件』(11月)
新型コロナウイルスの流行で、ただでさえ危険が溢れていた2020年の世の中ですが、なんと観ただけで命の危険がある(かもしれない)2本の映画が公開されました。
『アントラム 史上最も呪われた映画』は、鑑賞した観客や映画祭スタッフが次々と死亡したといういわく付きの映画『アントラム』をめぐるドキュメンタリー。関係者のインタビューや考察とともに、観ると死ぬ『アントラム』本編もドキュメンタリー内で観ることができてしまいます……。
『真・鮫島事件』は、“真相を知ると消される”ため、誰もその真相を知らないと言われるネット発祥の都市伝説「鮫島事件」を、「2ちゃんねるの呪い」の永江二朗監督が映画化。“リモート部活会”で交流する若者たちを中心に、「鮫島事件」の禁断の真相を描き……おっと、誰か来たようだ。
楽しいアトラクションだと思ったら“命がけ”でした
・『エスケープルーム』(2月)
・『ホーンテッド 世界一怖いお化け屋敷』(6月)
『エスケープルーム』は、高額賞金を賭けた脱出ゲームに招待された男女6人が、命がけの脱出ゲームに参加させられることとなるスリラー。“灼熱地獄”や“逆さま地獄”など、さまざまなテーマを持つ脱出部屋のバリエーションがユニークで、タイムリミットありの謎解きもスリリング。続編の製作も決定しています。監督は『インシディアス 最後の鍵』のアダム・ロビテル。
『ホーンテッド 世界一怖いお化け屋敷』は、お化けではなく“殺人鬼たち”が潜む最恐のお化け屋敷を描きます。そうとは知らずに訪れた若者たちは、果たしてそこから生き残れるのか? 監督・脚本は、『クワイエット・プレイス』の脚本家コンビ スコット・ベックとブライアン・ウッズ。ホラーの帝王イーライ・ロスがプロデューサーを務めています。
旧作がスゴい! リバイバル&初劇場公開
・『ポゼッション 40周年HDリマスター版』(1月)
・『アングスト/不安』(7月)
『ポゼッション』は、アンジェイ・ズラウスキー監督による1981年の映画。サム・ニール演じる夫が、イザベル・アジャーニ演じる妻の不倫を疑い近辺を調べるうちに、とんでもない不倫相手にたどり着きます。精神不安定な妻を演じるアジャーニの怪演が強烈。美しいHDリマスター版での上映となりました。
『アングスト/不安』は、実在する殺人犯の狂気的な身の振る舞いと恐るべき凶行を描き、各国で上映禁止となった1983年のオーストリア映画。『鮮血と絶叫のメロディー/引き裂かれた夜』のタイトルでも知られています。殺人鬼の動作と心理に、観る者を強引に同期させるようなカメラワークが恐ろしい。SNSでも大きな話題を呼び、コロナ禍での公開ながら満席続出の大ヒットとなりました。
・『プラン9・フロム・アウタースペース 総天然色版』(1月)
・『ブラックシープ』(1月)★
『プラン9・フロム・アウタースペース』は“史上最低の映画監督”としてカルト的な人気を誇るエド・ウッド監督の1959年のSFホラー映画。ジャンル分けは一応ホラーにあたりますが、まったく怖くはありません。笑えます。地球に警告にやってきた賢い宇宙人たちが、地球人のバカさ加減に呆れて死者を蘇らせます。“最低さ”を楽しむ最低映画の金字塔が美麗な総天然色版(フルカラー)となって上映され、モノ好きな映画ファンをほっこりさせました。
『ブラックシープ』は、遺伝子工学によって生み出された“殺人羊”の大群が人々を襲う、ニュージーランド発のモフモフアニマルホラー。2006年の映画ですが、映画祭「未体験ゾーンの映画たち2020」で待望の日本初上陸。羊たちのナチュラルな演技(?)と、『ロード・オブ・ザ・リング』のWETAが手掛けるクオリティの高いクリーチャー造形が見モノ。
こんな映画もあるよ
・『リトル・ジョー』(6月)
・『ベター・ウォッチ・アウト クリスマスの侵略者』(12月)
「幸せになる香り」を放つ新種の植物の匂いを嗅いだことで、人々がおかしくなっていく新感覚のスリラー『リトル・ジョー』。ミヒャエル・ハネケの助手を務めていたジェシカ・ハウスナーの監督作です。自分が開発した植物のせいで疑心暗鬼に呑み込まれていく主人公を演じたエミリー・ビーチャムは、本作でカンヌ映画祭の女優賞を受賞しました。
ネタバレ厳禁のホラー映画『ベター・ウォッチ・アウト クリスマスの侵略者』は数年前にNetflixで配信されましたが、クリスマスシーズンに待望の劇場公開! 留守番中の12歳の少年とベビーシッターの女の子が、“思わぬ訪問者”によって大変な目に? ぜひともこれ以上の予備知識なしでご覧ください。
・『ラ・ヨローナ~彷徨う女~』(7月)
・『カウントダウン』(9月)
『ラ・ヨローナ~彷徨う女~』は、2019年公開の『ラ・ヨローナ ~泣く女~』と間違えそうなタイトルですがまったくの別作品。同じく中南米の怪談“ラ・ヨローナ(=泣く女)”を題材としていますが、こちらはグアテマラの軍事政権による大虐殺の歴史をミックスしたシリアスな現代ホラーです。虐殺を指揮したとされながら無罪放免となった元将軍は、不思議な泣き声を聞くようになり……?
『カウントダウン』は、“自分の余命が分かるスマホアプリ”をダウンロードした若者たちを襲う恐怖を描いたホラー。ごくわずかな余命が表示されたからと言って、死に抗おうとすると“利用規約違反”で恐ろしい目に……。アレクサンドル・アジャ監督作品など数々のホラー映画で撮影を担当してきたマキシム・アレクサンドルが撮影監督を務めています。
・『超擬態人間』(10月)
・『キラーソファ』(6月)★
『狂覗』の藤井秀剛監督作『超擬態人間』は、“幼児虐待”と“擬態”という一風変わったテーマを持ち、幽霊画に着想を得たという異色ホラー。自分がされた虐待を我が子にもしてしまう父とその息子、そして結婚を控えたカップルらが森の中で出会うとき、予測不可能な展開が待ち受けています。森にはナマハゲの格好をした不気味な人間たちが……。果たして“虐待”と“擬態”の思わぬつながりとは?
『キラーソファ』は、“殺人ソファ”の脅威を描いたニュージーランド発のB級ホラー映画。男を魅了するヒロインに恋したソファが、驚くべき機動性で彼女に近付く男たちを殺害していきます。ボタンでできたくりくりお目々、少しむくれたような口元がキュートな殺人ソファのビジュアルが話題となりました。
以上!
あなたが観たor観たい作品はいくつありましたか?
2021年も期待の作品が目白押し。元日から、ゾンビアクション映画『新感染 ファイナル・ステージ』、“異物を呑み込む”という危険な欲望を描くスリラー『Swallow/スワロウ』が公開。女子高生と殺人鬼の身体が入れ替わる『ザ・スイッチ』、コロナ禍にこそ観たいZoom制作のホラー『ズーム/見えない参加者』、イマジナリーフレンドをめぐるスリラー『ダニエル』、ダニエル・ラドクリフが両手に拳銃を固定されデスゲームに参加する『ガンズ・アキンボ』なんて作品もございますよ。
2021年も、どうぞお楽しみに。
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