世には様々な料理本が出ていますが、皆さんが料理本を選ぶときのポイントってどこですか?
とにかく簡単さを重視したもの、あるいは手間は度外視で本格的な美味しさを追求したものなど、その方向性はさまざまです。
今回ご紹介する本『伝説の家政夫たけとさんが教える 修業いらずの料理人ごはん』は、少ない手間でプロ料理人の味わいに近づけるコツが盛り込まれた、まさにいいトコ取りな内容。
この本の著者であるたけとさんは、家事代行マッチングサービス『タスカジ』に登録し、出張料理人として活躍する“板前家政夫”。懐石料理、割烹などで積んだ20年以上のキャリアを元に多くのリピーターを獲得しています。
ナンバーワン家政夫が着目する、料理のポイントを紹介していきたいと思います。
プロが見た「料理で押さえるべきポイント」が記された本
たけとさんの人気の秘密は、3時間で10品作られる本格的な和食。この本にはたけとさんの調理経験をふまえたレシピが、5つのチャプターで紹介されています。
1. 好評ごはんベスト10
2. 主役級おかず
3. 野菜のおかず
4. 魚のおかず
5. 汁物とごはん
好評ごはんベスト10だけでも、「塩麹漬け鶏の唐揚げ」「ごま風味筑前煮」「かれいの煮つけ」「牛肉のしぐれ煮」などといった、本格的なレシピがずらり。でも、手順はどれも実にシンプル。
登場レシピに共通しているのは
・10~15分の手間
・少ない手間で、味、おいしさ、ありがたみが“料理人風レベル”
・洗い物が少ない
といった点。
「だしは倍量」
その中で具体的なポイントのひとつが“だしの量”。
この『修行いらずの料理人ごはん』ではレシピのまえがきとして、こんなことが書かれています。
本書の「だし」は、市販の「だしパック」(昆布、かつおなど)を使い、表示の2倍の濃さで抽出したものです。たとえば、「1袋につき400mlの水で」と表示されているだしパックなら、「2袋使って400mlの水で」とります。調理を始める前に、鍋にまとめてだしをとり、それをすくって使いましょう。
※「この本のレシピについて」より引用
しっかりした「だし」をとることで、料理全体のパフォーマンスが劇的に変わるのが和食。
たけとさんによると「和食はかけると確実に味が変わる手間と、そうでない手間がはっきりとある」そうです。
たけとさんインタビュー
今回は、多忙なたけとさんにインタビューのお時間を頂くことができましたので、本の内容について色々と聞いてみたいと思います。
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―今日はよろしくお願いします!
たけとさん:よろしくおねがいします!
―たけとさんが料理人を志したきっかけを教えてください
たけとさん:僕の家は両親が共働きだったんです。それもあって、自分から台所に立つ事が多かったですね。
―もう、幼少のころから料理人になりたい、と?
たけとさん:いえ(笑)、志すようになったのはもう少し後ですね。昔、テレビで『料理の鉄人(※)』って番組があったじゃないですか。あれとか見てて「料理人かっこいいな」って思ったのはきっかけのひとつですね。高校生くらいかなぁ、うん。
あの頃から、料理人、職人の世界への憧れがより強くなりました。
※料理の鉄人:1993年に始まった料理ショー番組。挑戦者が鉄人に挑むというスタイルで構成されている。坂井宏行、陳建一、道場六三郎といった料理人たちが全国区となるきっかけでもあった
―ありましたね、なつかしいです!
たけとさん:腕(技術)一本で生きていく、みたいな。そういう憧れが強かったです。
―和食の世界に長くいらっしゃった中でも、重要な経験の一つとして「段取り」があると思います
たけとさん:段取り、そうですね、大事です!
―たけとさんのように10品とは言わずとも、読者が家庭の限られたスペースで、複数の料理を段取り良く調理するポイントなどがあれば、教えてください
たけとさん:茹でる物、切る物、合わせだしなどそれぞれの工程で、一緒に出来る事はまとめて行うように心がけてますね。
あとは作業しやすいように、洗い物はその都度行いシンクは常に空いているようにしています。作業台は常に広く空けておくとか、かなり重要だと思うんです。
―たけとさんの場合は知らないお宅に伺うわけじゃないですか。場所とかの制約はその都度ありますよね
たけとさん:場所もそうですし、ボウルとかざるといった調理用品も限られてるじゃないですか。そういう時、たとえばお皿を使ったりして茹でたものをまとめて置いておいたりとか、タッパーに途中経過の料理を入れたりとか、そういう工夫はしますね。
―これを作ろう、と思った時に別々に考えちゃいがちなんですよね
たけとさん:そうですね。でも、10品とかの場合はやっぱり同時進行でやらないと厳しいですね。一つずつやっつけていくのはキツいものがあるかなあ。
まずは2品、3品から同時進行していくところを心掛けると良いと思います。
あとガスコンロが3つあったとしたら、たとえば1つは大根とか長時間茹でていくものをかけておいて、もうひとつは炒めるもの、あとは煮物で使うとか、とにかく3台あったら3台フルで使うことを考えながら進めることが大事ですね。
―たけとさんの『修行いらずの料理人ごはん』では「確実に味が変わる手間」として「ダシの量(濃さ)を倍量で使う」というのがありました。それ以外に「美味しい料理を作るうえで欠かせないポイント」があったら教えてください
たけとさん:だしの濃さは料理内容にもよりますが確実に味は変わりますね! ぜひ試してみてください。
あと、魚でしたら沸騰したお湯に潜らせウロコ、血合い、ヌメリをしっかり取り除く、といったことはポイントになるかな。スーパーで売ってる切り身とかは、そこまできちんと処理されているわけではないことが多いんで
臭みとかぬめりを取るっていうのは魚料理やる上では大事な所です。結構やらない人がいるようなんですが、きちんとやると違ってきますよ。
お肉でしたら、下味とか―例えば焼く前の塩コショウですね。炒め物なんかでは(塩コショウを)やらなかったりする人もいるかもしれないんですが、その辺も結構大事です。全然、仕上がり変わってくると思いますよ。
野菜でしたら下茹でする、均等な大きさに切るといった、基本的な下処理は実は重要です。
―なるほど
たけとさん:実はこれでも結構、手間をはしょってるんです(笑)。
たとえば(野菜の)面取りとか、―そういう手間をかけなくてもいいというわけではないけど、小さい手間を重ねることが、料亭とかの味につながっていますね。
本書の中では、(コスパが良い)最低限できることをまとめてみたつもりです。
―本書のなかでも、たけとさんのお気に入りのレシピはありますか?
たけとさん:うーん、そうですね。カレイの煮付けとかどうでしょう。
簡単な上、他の魚にも応用がききますよ。さっきお話した下処理ですね。面倒かもしれないですが、……とは言っても、ただ(沸騰した)お湯にくぐらせてから(ぬめりや血合いやウロコを)洗って落とすだけなんで。
そこまでやったらあとは調味料合わせて、もう煮立てるだけです。ポイントポイントわかっていれば、もう全然簡単だと思うんですね。時間も早いし。(※カレイの煮付けの調理時間は約10分!)
―やるべきことをやると、実は早いし簡単だ、と
たけとさん:あと、慣れるまでは調味料の量も目分量ではなく、きちんと測ることをおすすめします。そのほうが味も決まります。しょっちゅうやってわかって来れば目分量でも大丈夫だと思いますよ。
―忙しい人向けのレシピってありますか?
たけとさん:牛肉しぐれ煮なんかいかがでしょうか。
こちらも簡単に作れて、冷蔵で4~5日は日持ちします。また、冷凍保存にも向いていますから、忙しい人にはいいんじゃないでしょうか。おかずのひとつでもいいですし、牛丼にしてしまうこともできますよ。
上達のために
―おいしい料理をつくるため、上達するために「心掛けておくと良いこと」ってありますか?
たけとさん:料理で大事な事は、「なぜこの工程が必要なのか」という事を理解する事かな。たとえば焼く、煮る、又は調味料を加えるなどの手間がありますよね。それを考えたりすることが、美味しく作る事に繋がるかと思います。
手間を省くことを重視した調理方法もありますが、ひと手間ひと手間にはきちんと意味があります。「しておくべきことはちゃんとやった方がいい」と思います!
省いてる手間、省きたい手間が、やってみるとそこまでの手間じゃないんですよ、実は。
―この本に興味のある皆さんに、たけとさんからメッセージをいただけますか?
たけとさん:普段、料理をしない方が、本書をきっかけに料理に興味を持って頂ければ。また、奥の深い和食の世界ですが、あくまで入門編として活用して頂ければ幸いです!
―『修行いらずの料理人ごはん』、今回は“入門編”ということですが、応用編も読んでみたいです
たけとさん:(笑) まだ(応用編は)無いんですが、お話があれば是非やってみたいですね。お願いします!(笑)
―楽しみにしております。今日はありがとうございました!
■
今回この記事を書くにあたり、たけとさんの本を見ながらいくつかのレシピを忠実に試してみました。
手順や手間、分量などを厳密にレシピをなぞってみたところ、見事に味が決まり、誰より作った本人がビックリしていました。
わかっているようでなかなか押えられていないのが、料理の基本。
この機会に「合理的で本格的な料理」をきちんと覚えてみたい人、この本は必携ですよ。
『伝説の家政夫たけとさんが教える 修業いらずの料理人ごはん』たけと著 KADOKAWA刊
https://www.amazon.co.jp/dp/4046045221/
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