クエンティン・タランティーノ監督最新作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』が8月30日より公開となります。レオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットが初共演を果たし、2人の友情と絆を軸に、1969年のハリウッド黄金期の光と闇を描きます。
全米ではすでに大ヒットを記録中で、タランティーノ作品最大のヒット作となってるこの映画。今回はなんと、映画のPRの為に来日したタランティーノ監督と、『カメラを止めるな!』の大ヒットが記憶に新しい上田慎一郎監督の対談が実現! タランティーノ作品の大ファンである上田さんからの質問や、同じ監督としてのタランティーノさんからのメッセージなど、ここでしか読めない日米”映画愛”炸裂トークをたっぷりご紹介します!
大のタランティーノファンである上田監督、夢の対談が実現!
上田:今日はよろしくお願いします。こ、こちらをもらっていただけますか? 英語字幕がついている海外版の『カメラを止めるな!』DVDと、タランティーノ監督が記者会見欲しいと言っていた『栄光への5000キロ』(1969)のDVDを持ってきました。
タランティーノ:わあ、ありがとう!! とても嬉しいよ!(『カメラを止めるな!』を見て)これはゾンビ映画かな?
上田:そうです、冒頭は37分長回しノーカットで撮影しています。
タランティーノ:Amazing! すっごい楽しみだよ。今すぐ観たいね! なんとなく『ショーン・オブ・ザ・デッド』っぽい雰囲気? エドガー・ライト監督とは友達なので今日のことは伝えなくちゃ。
上田:ありがとうございます!! 実はエドガー・ライト監督がこの映画のことをTwitterでつぶやいてくれた事があるんです!嬉しいです!
――本日は上田監督がタランティーノ監督の大ファンという事で、この夢の対談が実現しました!
上田:そうなんです。今日は、とてつもなく緊張していて……。
タランティーノ:大丈夫だよ、噛まないから! あ、ちょっとだけ噛むかも? でもゾンビ作っている人だから平気だよね(笑)。
上田:中学生の頃に初めてタランティーノ監督の映画を観て。それは『パルプフィクション』だったんですが。僕らの世代の多くが監督に影響を受けていると思います。中学の頃はタランティーノ作品とスコセッシ作品を観すぎて、映画監督を目指すか、マフィアを目指すか迷っていた時期もありました。なので本当に光栄です!
“夢のような映画”という言葉は、この映画のためにある
――まずは上田監督に本作ご覧になった感想をお伺いします。
上田:まだ2回しか観ていないんですけど。
タランティーノ:もう2回も観たの?!かなりイケてるよ、それ。
上田:まだまだ観ます! 実はタランティーノ作品を観る時は毎回、1回目は落ち着いて観れないんです。2回目から素直に楽しめるんですが。
タランティーノ:僕も好きな映画監督の作品はそうなんだよね。20代、30代前半の時はデ・パルマ作品を観る時とかそうだったよ。事前にレビュー読みまくって、期待値上げまくって、『スカーフェイス』まであと4日、3日、2日……ってカウントダウンして、公開日の一回目に一人で観ていって、自分の中で一度受け止めてから、その日の夜中にもう一度観に行くんだ。1回観てストーリーが分かっているから、2回目は「これどうやって撮ったんだろう」って考えられるんだよね。2回目以降はやっと友達とも行けるんだ。
上田:ドキドキしすぎて1回目はフラットに楽しめないんですよね!本作も何度も観たいと思います。”夢のような映画”という言葉は、この映画のためにあると思いました。舞台は1969年のハリウッド。そこにはシャロン・テート、ブルース・リー、スティーブ・マックイーン等錚々たるスターがいる。僕らは夢のハリウッドの中をリック(レオナルド・ディカプリオ)とクリフ(ブラッド・ピット)に道案内されながら歩きまわる。映るもの、聴こえるもの、全てが美味しい!画面の隅々まで愛がこもっていました!
タランティーノ:どうもありがとう!(日本語で)
上田:改めて、”映画は夢”なんだと思いました。それは、作られた夢なんだけど、その夢が現実を動かす力を持っている。
タランティーノ:僕も同意します。本作と『キル・ビル』が一番寓話的な資質があるのかもしれない。目を開いたまま夢を見ている様な、そういう感覚なんじゃないかな。そして本作は、夢の様な時間が悪夢に変わる瞬間が来るかもしれない、そんなお話なんだよね。
上田:これまでの作品ってクライムムービーだったり、アクション、戦争劇、西部劇、戦争劇、ミステリーだったり、明確なジャンルの下地があったと思うんですが、この映画にはそれが見当たらない。で、思ったんです。そうか!これはタイムスリップものだ!って。タランティーノ製のタイムマシーンに乗ったリックとクリフが1969年にタイムスリップ!歴史に名を残すスター達と交わりながら日々を過ごしていくという。
タランティーノ:うんうん、千葉(真一)さんの映画みたいにね! 編集部注:『戦国自衛隊』(1979)
上田:それで、実際に起こった”あの悲劇”が近づいてくるんだけど、この2人(リック&クリフ)が何とかしてくれるんじゃないか? と期待している自分がいる。
タランティーノ:そうだよね。全てのシーンがその瞬間に近づいていっているわけで。避けがたき悲劇に近づかざるを得ないわけです。この作品にはもうちょっと、リック、クリフ、シャロンのメロドラマなシーンがあっても良かったかもしれないのだけど、でも、それは止めようと決めたんです。キャラクターはしっかりたっているし、「人生の数日」を描いただけで映画に足りると思ったんですよね。日々の暮らしが悲劇に向かっていっている恐ろしらを感じられれば、それがこの映画のドラマティックな”モーター”になると思ったんだ。
「映画館シーンのある映画」で盛り上がるタランティーノ監督&上田監督
――特に好きなシーンはどこですか?
上田:いっぱいあるんですけど。まずは、シャロン・テートが映画館で自分の出演している映画『サイレンサー第4弾/破壊部隊』を観ているシーン。自分の見せ場で笑うお客さん。それを見てニヤつくシャロン。あのシーンは本当に幸せな気持ちに包まれました。
タランティーノ:本当に幸せになるシーンだよね! マーゴット・ロビーは素晴らしい演技を見せてくれて、彼女にみんな惚れると思うんです。そしてスクリーンには実際のシャロンが映っていて、シャロンの演技も素晴らしいし、笑わせてくれますよね。私たちは本物のシャロンの姿もあのシーンで楽しむ事が出来て、素晴らしい女優さんだと改めて思える。
上田:さらにこの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のそのシーンを、実際のマーゴット・ロビーが観ている光景を想像したんです!
タランティーノ:その通りなんだよね! マーゴットがこの映画を初めて観たのはカンヌ映画だったのだけど、その姿を見たよ。マーゴットが『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』を観ていて、でも映画の中のマーゴットは実際のシャロンを見ているというね。
上田:僕は、映画の中にある”映画を観ているシーン”が大好きで、特に好きなのは『ニュー・シネマ・パラダイス』(1988)、『サリヴァンの旅』(1941)、『ビッグムービー』(1999)とか!
タランティーノ:僕もそう!大好きなんだ! 僕が初めて脚本を書いたのは『トゥルー・ロマンス』(1993)なのだけど、あの中でも千葉真一さんの映画を観ているシーンがあるんだけど、僕が映画を観ているシーンがある映画が大好きだからなんだ。
上田:日本に『ブラック・ジャック』という漫画があるんですが、その漫画の中で「いや、そうじゃない。この瞬間は永遠なんだ」というセリフが出てくるんです。このシャロンのシーンを見て、そのセリフを思い出しました。僕らは実際のシャロンに襲いかかった悲劇を知っている。でも「いや、そうじゃない。この瞬間は永遠なんだ」と!
タランティーノ:ありがとう、『ブラック・ジャック』あとでチェックしてみるね。映画の中のシャロンについて、いままでのタランティーノ映画のヒロインっぽいキャラクターにはしたくなかったんだ。シャロンはあそこにいるだけでいい、車を運転したり、本を買いに行ったり、通りを歩いたり、映画を観に行ったり、普通の日常の風景というのを、物語を進めるキャラクターとしてでは無く、描きたいと思ったんだ。彼女から奪われたのは、こういう普通の日常だったんだという事を感じて欲しかったんだ。
映画監督だからこそ感じる『ワンハリ』ワンショットシーンのすごさ
――同じ映画監督の上田さんから観て、ここはどう撮ったの? と撮影方法について聞きたいことはありますか?
上田:僕は長回しワンショットが好きで、クリフとブルース・リーの会話からのバトル、ここはウットリしてしまうような華麗な長いワンショットでした。監督はどこまで事前に計画して、どこまで現場で変えていくんですか?
タランティーノ:ブルース・リーの方は、アップから始まって、バトルで終わるんだけど、クレーンで撮影したんだよね。なので自然な動きを計算しないといけなかったんだ。もともとこういうシーンにしたいという構想はあったのだけど、加えて2人の役者と共に練習をする必要があって、クレーンがその動きを出来るか確認しないといけなかったから。プリプロ(プリプロダクション=撮影前の作業)で、俳優とスタントマン、スタッフ数人とクレーンを借りてシーンのブロッキングをしました。撮影に入る6週間くらい前の話かな。実際の撮影も確認しながら進めたけれど、「これで行けるね!」って見えたら、そこからは早かったよ。クレーンって先はいいけど、おしりがね、邪魔なんだよね。やっぱり実際に動かさないと分からない事が多かったよ。
上田:わ〜!生でお聞き出来て嬉しいです。僕はまだそんなに時間をかけて映画を作れる身分にないので。羨ましい。
タランティーノ:でも僕も、この10年だよ! クレーンが使える様になったのは。それまでも、高い所から俯瞰のシーンを撮りたくて使ったことはあったけど、こういう使い方をする様になったのは最近で。撮影監督とカメラマンをロバート・リチャードソンがやっているのだけど、ほとんどクレーンを使っています。グラスのアップでさえ、クレーンで撮っちゃうんだから!(笑)「クレーンにカメラが付いてるんだからそのままでいいよ!」ってね。
リックのセリフで不安やプレッシャーから立ち上がれた
上田:もう一つの僕の大好きなシーンなのですが、自信を失っていたリックが迫真の演技を見せた後、目に涙を浮かべながら「俺はリック・ダルトン様だ」と独り言を言う所が最高でした。僕は、前作『カメラを止めるな!』という映画がヒットして、もうすぐ次回作が公開になるんですが(『スペシャルアクターズ』10月18日公開)、やっぱり色んな不安とかプレッシャーがあって、少し自信を無くすようなこともあったんです。でも、あの言葉、「俺はリック・ダルトン様だ」という言葉を聞いて、僕もリックと一緒に立ち上がれました。
タランティーノ:本当!!嬉しいなあ!ありがとう!(超満面の笑顔で)
――上田監督もタランティーノ監督の様にこれから長い時間映画を作り続けていくと思います。監督の先輩としてアドバイスはありますか?
タランティーノ:今日お会いして、(上田監督は)大丈夫な感じがするけどなあ! そんな必要も無いかもしれないけど、一つ言うならば、3本目、4本目……と映画を作り続けて行く時は、作る理由が自分にとって良い事でないといけない。上田監督が作りたいものでなくてはいけない。情熱がある作品を作って欲しい。お金の為とか、この役者さんとお仕事出来るからとか、そういう理由も良いかもしれない。でも、やっぱり自分の中のコンパスが常に北極星を向いている様に、それを指針にして欲しい。僕も自分のキャリアを誇らしく思えるのは、これまで手がけた9本の長編全てが、僕にとって正しい理由で撮られた映画だからなんだ。アーティストとして、次の自分のステップの為に撮ってきたと心から言えるからなんだ。正直、色々なオファーはいただいてきました。それも良い作品が作れたかもしれない、でも自分の心の底から生まれた映画とは違うんだ。そういったオファーを受けていたらこんな9本の映画を作れなかったかもしれないし。
上田:それなんです。タランティーノ監督の作品からは毎作「作りたいものを作っている」という気持ちを強く感じる。それがすごいなと思います。タランティーノ監督が何かのインタビューで「テレビをつけて自分の映画がやっていたら最後まで観ちゃう」とおっしゃっていて、本当に自分の映画を愛してらっしゃるんだなあって!
タランティーノ:ああ〜、そうだね! 『地獄の黙示録』を10分だけ観ようとして、20分、30分と続けて結局最後まで観ちゃうってことを毎日やっているんだけど、今映画何やってるかな?ってテレビのラインナップを調べて自分の作品があると、観てみよう!ってすぐなるんだ。「『キル・ビル』今つけたらどんなシーンだろう? ワオ! マイケル・マドセンのシーンだ! そうしたらブライドを撃つ所まで観よう」って感じでね、最後まで観ちゃったり。
タランティーノ監督が1969年にタイムスリップしたら何をする?
――好きが溢れているからこそ、多くの人がタランティーノさんの作品に魅了されるのでしょうね。楽しいお時間はあっという間で、そろそろ終了となりますが……。
上田:本当にあっという間で名残惜しいです。最後に一つお聞きしたいのですが、監督は1969年のハリウッドにタイムスリップ出来たとしたら、まず初めに何をしますか?
タランティーノ:1日しかその時代に滞在出来ないとしたら、そうだなあ。一日中、もう今は無きバーにいるよ。ディーン・マーティンがサンセット通りに「Dino’s」っていうクラブを持っていたんです。もう閉鎖して長いんだけれども、50年代初期や60年代の映画には登場していて、すっげーイケてるなあ!っていつも思っていて。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の中で、プッシー・キャット達がヒッチハイクをしている場所があるけど、そのシーンの光景も「Dino’s」であったり、その時代のバーやクラブにインスパイアされているんだ。
――これから映画をご覧になる方も、何度目かを観る方も、そんな監督のこだわりをシーンの一つ一つに感じていただきたいと思います。今日は本当に貴重なお時間をありがとうございました!
▲「ポスターの中の2人と同じ様に写ろう!」とタランティーノ監督。
▲その場でポスターにサインをして上田監督にプレゼントしてくださいました!
撮影:周二郎
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
http://www.onceinhollywood.jp
合成ではありません。世界一の「憧れ」に会って、映画の話をしてきました。
タランティーノがブラピを、僕がディカプリオを気取って撮ったんだけど、僕は緊張で顔の向き間違えちゃてるし、映ってない足は震えています。ここ35年で一番緊張した30分。
映画が好きでよかった。 pic.twitter.com/QLtlhSub5A
—上田慎一郎 (@shin0407) August 27, 2019
上田慎一郎監督『スペシャルアクターズ』10月18日公開!
http://special-actors.jp
(C)松竹ブロードキャスティング
―― やわらかニュースサイト 『ガジェット通信(GetNews)』