2019年7月4日(木)、渋谷『東京カルチャーカルチャーカルチャー』にはおっさんたち(そしてわずかな若者と女性)が集まっていました。
この日行われたのは『~おっさん7つの大罪~Pato初の著書「おっさんは二度死ぬ」刊行記念トークライブ&サイン会』 というイベント。
『おっさんは二度死ぬ』というのは、異色人気ライターPato氏による『日刊SPA!』のコラムタイトルであり、同名の書籍タイトルでもあります。
コラムでは、社会的弱さしか見えないおっさんの悲哀あふれるエピソードを堪能できるのですが、今回発売された著書は、それらを元に再構築された作品となっています。
このコラムのファンである筆者(48歳)は、一(いち)おっさんとして、迷うことなく参加してみました。
「本の話はしません」
入場すると既に多くの人がドリンクを楽しんでいました。おっさんが9割、若者と女性あわせて1割ずつ、といったところでしょうか。
BGMは『T-BOLAN』『プリンセス プリンセス』、初期の『浜崎あゆみ』などなど90年代楽曲ばかり。
入り口ではもちろん新刊『おっさんは二度死ぬ』が販売されています。会場購入特典は“ロゴ入り特製ライター”。作品ロゴの裏にある「デリヘル Mirage」のプリントが、実は「最高過ぎる」ということに筆者はこの時点で気づいていませんでした。
イベントスタートすると、壇上にひとりのおっさんが登場。おっさん第二形態目前の筆者からすると、まだまだ「新しいおっさん」と言わざるを得ないこのおっさんは、筆者のPatoさんでした。
Patoさん開口するや「今日は本の話はしません」「壇上におっさんばかり集まります」と言い出しました。
続けて「今日は僕の好きなおっさんたちと話すイベントです」と説明。
※Patoさんは「インターネットに顔が出ると死ぬ」ため、人命尊重として記事中のPatoさんの素顔には全てボカシをかけてあります。
Patoさんの登場以後、軽妙なトークは連綿と続き、会場の空気がどんどんと温まっていくのを感じます。更にここからPatoさんの呼び込みを受けて、他の“おっさん”たちも続々と入場し始めました。
おっさん大集合
この日の出演者はこちら。
<出演>
・Pato(「おっさんは二度死ぬ」著者、テキストサイト「Numeri」管理人)<ゲスト>
・ヨッピー(ライター)
・DJ急行(司会者、ミュージシャン)
・仙頭正教(裏モノJAPAN)
・マミヤ狂四郎/GO羽鳥(ライター、イラストレーター)
・ゴトウさん(「一流ホームページ」管理人)
・特別ゲスト
どの“おっさん”もインターネットを騒がすほどクセが強く、面白い“おっさん”ばかりです。
そして「特別ゲスト」として登場したのは、“ここみん”ことセクシー女優の成瀬心美さん。
Patoさんのファンであれば周知の事実らしいのですが、ここみんは彼の超お気に入りの女優さんです。
特別ゲストの成瀬さんが登場したことで壇上のコントラストは「ただただ光り輝く1点の華々しさ」と「漆黒の闇のような6人のおっさんたち」により、異常な状態におちいりました。
ただひたすらに「おっさん」について話す
ここまで、そしてこの後もずっとおっさんの話でした。手元にメモがあるので、印象的な部分を書き連ねてみます。
・おっさんって何で気持ち悪いんだろうね
・おっさんとは
- 35歳以上
- 人の名前が出てこない
・徹夜できなくなった
・寝る体力がない
・肉が食べられない
・肉は暴力
・ハンバーグにパイナップルを載せたい
・おっさん的な行動とは
- タンを吐くときの「カーッ ペッ」
- 電車の窓についたおっさんの頭皮の脂
「バターを塗りたくったような」
- 変なこだわりが増える
- Twitterでみられる変な言葉遣いはおっさん
「旧仮名遣い」「拙者」「辛口御免」
・最近知らないおっさんの臭いが自分の枕から
・お好み焼きの鉄板の臭いがする
以上はほんの一部です。
新刊の話はせず、話す内容はひたすらに「おっさん」。徹底しておっさんでした。本のタイトルにも「おっさん」があるから間違ってはいないのですが、すがすがしいほどの徹底ぷりでした。
「引きで見た画がまるで“最後の晩餐”」「ここみんキリスト」と揶揄されたフォーメーションで進められたイベント第一部でしたが、最終的には「この中だったら、ここみんはどのおっさんを選ぶか」という、有史以来キャバクラか合コンで、延々と繰り広げられた話題で終了しました。(ちなみに第1位として選ばれたのはゴトウさんでした。満面の笑みでした)
「おっさんは二度死ぬ」の「二度」とは?
第二部もおっさんの話題です。
最終的には「おっさん七つの大罪」という不可解すぎるテーマにまでおっさん談議が続きますが、倫理上ここでは書くことのできないような話題も連なります。
しかし、ここではじめて「おっさんは二度死ぬ」の元となるエピソードがPatoさんから披露されました。
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「ラウンドワン ダブルデート」っていうすごい深刻な事件が僕の中でありまして。ちょっとその話させてもらっていいですかね。これはですね、僕の知り合いのおっさんである徳さんという方がですね、「スポッチャに行ってみたい」とある日、急に言い出したんですよ。
スポッチャってご存知ですよね? 皆さん。若者がワイワイして、ダーツとかやったりとか、ローラースケートやったり。CM観た事ありますよね? で、徳さんもそのCM観て「俺もスポッチャ行ってみたい」。「じゃ俺が連れてってやるよ」ってレンタカーで郊外の環八沿いのね、ラウンドワンに行ったんですよ。
行って、徳さんが「これがスポッチャかー」って見てたら真ん中にローラースケートのがあるんですよ。高校生が、女の子2人と男の子2人がダブルデートしてるんですよ。女の子が滑れなくて怖がってるのを、男の子が、――好きなんでしょうね、それぞれ男の子が女の子について、肩を持つか持たないか、みたいなこういう感じとか、ちょっとおっぱい触ってみたりとか(笑)。で、それ、徳さんと見ながら「絶対、高校生、今、めっちゃボッキしてんだろうなあ」って言いながら見てて。
で、思ったんですよ、そこで二人とも。
「もう、俺たちにはああいうの無いんだ」
無いんですよ。お金払ってそういう女の子とスポッチャ行っても、もう平気でべんべんべんべん触るじゃないですか。触るか触らないかとか、触って「うわ、めっちゃ柔らか!」とか、「めっちゃいいニオイする」とか、もう無いんですよ!
で俺、徳さんと二人で3時間セットで入ったんですけど、2時間45分くらいずっとそれ見てて。
徳さんと「俺たち、死んだんだな」って。
「死んだんだな、もう俺たち。この先の人生はもう、何も無いんだな」って。
それがこの「おっさんは二度死ぬ」というタイトルに繋がってるんですね。
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『日刊SPA!』のコラムのタイトルは、このエピソードが元となっています。そして、同名の新刊の中にも「二度死ぬ」について書かれている箇所があります。
これが徳さんのエピソードと同じものなのか、異なるものなのか、意味するものは何なのか、――是非とも読んで確かめていただきたいところです。
あとがきにかえて
残り時間に比例して、披露される「おっさんエピソード」の倫理基準も危うくなっていくイベントでしたが、最後の最後にPatoさんから「本の話」が出ました。
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最後にちょっとは本の話しないと怒られる気がするんで。あとがきが無いんですよ、この本。あとがきがわりに何かちょっとまじめな事言って良いですか?今回出させていただいた本なんですけれども基本的に連載作の書籍化というのと常識が大きく逸脱した造りになっております。
言いたかったことは色々あるんですが、一番言いたかったことは、途中で「紙のパンツをはいて濡らされたい」という阿部さんというおじさんが出てくるんですよ。
阿部さんのセリフの中にあるんですけれども、阿部さんは「これが女だ、これが男だ、って決まっているのはおかしい」って言うんですね。みんなの心の中に「これは女である」「これは男である」っていうのは実は脳裏にあるんですね。実はそういう作りになってます、このお話も。「これは女である」「これは男である」。そういったみんなの思い込みがある限り、完全な男女平等っていうのは難しいよね、というお話です。
本当は男女平等って実はお互いが、男と女の違いを理解して尊重し合わないといけないよね、というメッセージが込められています。
つまり、おじさんはみんなに好かれなきゃいけないし、おじさんは若者をバカにしてはいけない、と。
そういうメッセージを込めさせていただきました、この本には。この本はですね、信じられないくらい伏線がたくさん入ってます。死ぬほど読み返したら、そのたびに気づくと思います。
これ、(表紙の)絵とかも全部、僕が意図したわけじゃないですけど全部伏線です。
最後に読んだ人だけ「おぉっ」っていう“お得伏線”を一個だけ教えます。これ、出てくる主人公「カエデ」という名前なんですが、楓というのには花言葉があります。花言葉ふたつあるんですが「大切な思い出」と「美しい変化」です。
ということで、今日はありがとうございました。
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このイベント、ひたすらに“おっさん”たちが「おっさんの話」をして、本の話を最後にしたように見えました。
しかし、イベント自体がこの本――『おっさんは二度死ぬ』の伏線になっていたのではないか、と今更ながら思いました。
もともとのコラムは「愚かだけど何とも愛嬌のあるおっさんたちの単発エピソード」でした。
コラムのファンとしてこの本を読み始めた場合、途中でなにかしらの“違和感”を覚える人が多いのではないかと思います。しかし読み終えたときには大きな「納得」に包まれるとも思います。
そして、この記事冒頭で紹介した「デリヘル Mirage」の特製ライターが、きっと欲しくてたまらなくなるはずです。
コラムを読んだことが無い人であれば、おっさんエピソードも含めてまっさらな楽しみ方ができるのがうらやましいところ。『おっさんは二度死ぬ』、その妙を是非味わってみてください。
おっさんは二度死ぬ
著者:Pato
定価:1200円+税
出版社: 扶桑社内容紹介:
“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ”――「デリヘル ミラージュ」で働く”カエデ”を毎度指名し、
プレイはせずに意味深な言葉を残して帰っていく謎の客。
カエデは煩わしく思いつつも、いつしか男の話に惹きつけられていく。
カエデの心はなぜ乱れるのか。男の正体は一体何なのか。
場末のデリヘルに、おっさんの生と死が交錯する――伝説のテキストサイト「Numeri」管理人・patoが、日刊SPA! 連載「おっさんは二度死ぬ」のエッセンスをもとに、過去の発表作に大幅な書き下ろしを加えた待望の処女作。「日本一おっさんについての文章を書いている」筆者が満を持して世に放つ、おっさんの生と死、そして再生の物語。
―― 表現する人、つくる人応援メディア 『ガジェット通信(GetNews)』