今回はDainさんのブログ『わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる』からご寄稿いただきました。
『財政破綻後』という奇貨居くべし(わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる)
問題は、いつ起きるかではないし、どう回避するかでもない。起きることは必然で、そのときどんな打ち手が「いま」準備できているかだ。
1. だれも財政破綻を気にしていない?
2. 財政破綻とは何か
3. 財政破綻の始まり
4. 財政破綻後の日本
5. 財政破綻後にやれること
6. 切りやすいところから切る
7. もしもゼロから作るなら
8. 生きかたを選ぶ=死にかたを選ぶ
9. 財政破綻という「奇貨」
1. だれも財政破綻を気にしていない?
興味深いことに、Googleトレンドを見る限り、「財政破綻」を検索している人は過去最低ラインとなっている。問題が消え去ったわけでもなく、債務は積みあがっているにもかかわらず、財政はまだ詰んでいない。
「財政破綻」『Google Trends』
https://trends.google.co.jp/trends/explore?date=all&geo=JP&q=%E8%B2%A1%E6%94%BF%E7%A0%B4%E7%B6%BB
大きく2つの波がある。リーマン・ショックを発端とした2007年の世界金融危機と、ギリシャ経済破綻が大きく報道された2010年のユーロ危機だ。順番からすると次は日本か中国か。中国がコケて日本が無償で済むはずがない。
そこで、財政破綻した「後」、日本がどうなっているか、どうすれば被害を最小限にできるのかを議論した、『財政破綻後』を読む。
「財政破綻後 危機のシナリオ分析」2018年4月19日『amazon.co.jp』
https://www.amazon.co.jp/%E8%B2%A1%E6%94%BF%E7%A0%B4%E7%B6%BB%E5%BE%8C-%E5%8D%B1%E6%A9%9F%E3%81%AE%E3%82%B7%E3%83%8A%E3%83%AA%E3%82%AA%E5%88%86%E6%9E%90-%E5%B0%8F%E6%9E%97-%E6%85%B6%E4%B8%80%E9%83%8E/dp/453235773X/ref=as_li_ss_il?ie=UTF8&qid=1538871848&sr=8-1&keywords=%E8%B2%A1%E6%94%BF%E7%A0%B4%E7%B6%BB%E5%BE%8C&linkCode=li3&tag=daincocologni-22&linkId=07c3915b948ff892b0c8438ca648006e&language=ja_JP
2. 財政破綻とは何か
本書が優れている点は、具体的なところ。
政治家や官僚やマスコミは、口をそろえて「国民一人当たりの借金ガー」という明後日の方向か、「破綻させないための議論だから起きたときのことは議論すべきではない」といった無謬性のロジックを捏ねる(で、起きたら「想定外ガー」と来る)。
だが本書は、政策立案者の観点から具体的に議論される。たとえば、「財政破綻とは何か」という定義から入る。
最初は、投資家が日本国債を買わなくなるという事態だという。そんなことがあるだろうか? 外貨建てだと国債の償還ができなくなる→債務不履行(デフォルト)に陥るが、日本の場合は円建てが主なので、(日本銀行が買い支える限り)いくらでも借り換えができる。
しかし、これは理論上の話であり、貨幣供給が過多となった状態で引き金(景気回復によるクラウディングアウト、首都直下型地震、他国の経済破綻による連鎖)によってインフレが止まらなくなった場合を想定する。インフレを抑えようと国債の買い入れを止めれば、国債価格が暴落(≒名目金利が高騰)することになる。
ここまで想定した上で、あらためて「財政破綻とは、インフレ率または名目金利が高騰する状態」と定義する。具体的には、「緩やかな(2%以下の)インフレ率のもとで正常な(4%以下の)名目金利を維持できない状態」になる。そしてこれは、日本国債への信頼が失われればいつでも発生しうるという。
3. 財政破綻の始まり
では、財政破綻の始まりは、どのように「見える」か?
わたしたちの目に触れるのは、「国債の未達」のニュースになる。未達とは、国債が売れ残る状況であり、その分、政府は資金を確保できなくなる。結果、社会保障の給付、地方自治体への補助金が滞ることになる。
重要なのは、未達=財政破綻ではないこと。年金など特別会計にある積立金を充てることで当座はしのげるし、地方交付税の先送りで予算執行を抑制するといった手もあるという(ex : 2012.9閣議決定)。
ただし、未達のショックで国債価格が下落すると話は別だ。国債を大量に保管する金融機関のバランスシートが大きく毀損し、中小金融機関から経営破綻、取引企業が資金調達できずに連鎖倒産に至る未来が待っている。
4. 財政破綻後の日本
そして、社会保障の給付が滞ると、診療報酬・介護報酬の公費分が未収金となり、ほぼすべての病院が赤字となり、民間医療・介護団体を中心に倒産が続出するという(国公立病院は責任をとる制度が無いため、しばらくは赤字経営が続くが、時間の問題)。
そのとき何が起こるかは、旧ソ連やギリシャの現実から学ぶことが多い。財政破綻で最も深刻な影響を受けたのは医療分野だという。
ソ連が崩壊した際、透析医療がストップしたため2か月で人工透析患者のほとんどが死亡した。ギリシャでは国立病院の予算が半減し、医師、看護師、医療品が極端に不足し、まともな医療を受けるためには賄賂を使う必要が出ているという。
本書では「国民の25%にあたる250万人が失業、無保険者になる」と留めているが、治安の悪化も深刻化していることは想像に難くない。日本がそうなるかどうかは神のみぞ知るが、経済規模の大きい分、さらに大きなインパクトが生じるだろう。
未来予想図としては、2007年に人口1万3000人、380億円の借金を抱えて破綻した北海道夕張市が挙げられる。現在、国と北海道の管理の下、財政再建計画が実行されている。
そこでは、職員は半減・給与30%カットされ、市立病院や小中学校は縮小・削減し、所得税、固定資産税、住民税は増税(軽自動車税は他の1.5倍)という状況だ。見切りをつけて引っ越しする人もいる。国の財政破綻とは、究極的には国民自身の生活の破綻なのだ。
人口で見るなら、この1000倍が起きるのだ(ただし、引っ越し先は国外になる)。
5. 財政破綻後にやれること
時間的余裕がないなかで、政府の選択肢は限られる。
歳出の執行停止、先送りなど止血処置や、大幅な増税、大幅な歳出削減など、すでに何度も議論されており、未だ決着のつかない施策が挙げられる。本書は、対策を遅らせないよう、何を残し、何をカットするのかをあらかじめ決めておくこと(財政破綻のトリアージ)を提言する。
守るべきものとして、必要最小限の防衛費、治安維持のための警察費、災害救助費
医療では、救急、周産期医療、透析、未来への投資として、義務教育、保育園を挙げる。
そして、政府・議員がずっと目をそらし続けてきた、国家予算の30兆円を占める社会保障に手を付けざるを得なくなる。そのとき、何が起きるか?
6. 切りやすいところから切る
おそらく、ヒステリックになった国民(の一部?)が、公務員の給料を減らせと言いだすだろうが、全部あわせても5兆円。もちろん、公務員や議員の給与・歳費カットもあるだろうが、実際の貢献よりも、「政府は本気だ」というシグナルとしてあげられる。
そして、大増税と併せて「切りやすいところから切る」ロジックを予想する。すなわち、政治的弱者(若者、子育て世代)から切り捨てるロジックである。
たとえば、東日本大震災時は、「子ども手当」がバラマキであると見なされ、歳出削減の対象として槍玉に挙げられた。バラマキは子ども手当に限ったことではなく、国から地方への補助金、医療・介護を含む社会保障サービス、公共事業にも残っていたが、なぜ子ども手当が狙い撃ちされたのか?
本書では、純粋な政治力学が働いたという。子育て世代は(ニーズが分散するため)政治力が相対的に弱い。結果、医療や介護へのニーズに集約され票を多く持つ高齢者世代から見た、「切りやすいところ」になる。
反対に、高齢者世代にとって不利益になるような年金・医療・介護に手を付けようとすると、猛反発を食らうことは必至である(高齢者世代を顧客とする新聞とテレビが音頭取ってキャンペーンを張るだろう)。「民意(いま生きている有権者)」の多数は誰かと考えれば、シルバー民主主義がまかり通る。ここでも老人栄えて国滅ぶ未来が待っている。
7. もしもゼロから作るなら
これは、通常の民主主義で解決することができない。どうすればよいか?
本書では、仮想的な未来世代を代弁する組織をつくり、将来生まれてくる日本人の利益を代表する提言をしている。本書にはないが、一人一票ではなく、子どもの数だけ親が投票できる制度も検討されるべきだろう。ただし、これらもシルバー民主主義の「民意」に圧殺されることが予想される。
そして、日本経済が焼け野原になった後、制度設計をゼロスタートするならばという前提で、それに向けた準備を提言する。これまで改革を阻んできた既得権益者たちが消えたという世界である。
具体的にはこうだ。
1. 医療・介護サービスの配給制
2. 企業の組合健保を解散して都道府県単位で協会健保、国保と合併
3. 患者負担割合を年齢に関係なく原則3割
4. 国公立病院、大学附属病院を広域単位で強制合併
そして、公的医療制度の二階建てを提言する。すなわち、有効性が認められた医療すべてを保険の給付対象とするのではなく、費用対効果を精査し、基本分(皆保障)+オプション化することで、給付と負担のバランスを段階的にするのだ。その上で、国民自身に「生き方(裏返せば死に方)」を選んでもらうのである。
8. 生きかたを選ぶ=死にかたを選ぶ
つまりこうだ。ある年齢に達した時に、延命医療のレベルをどうするか、国民一人ひとりに選択させて、その後支払う保険料に差を設けるのである。
死ぬ間際の数週間を、(どういう状態かは想像したくないが)最低限心臓だけを動かしている状態にするために行われる「医療」行為を、まだ元気なうちにするかしないか、選んでもらうのである。
現在では、アリバイ作りのように湯水のごとく医療費が注ぎ込まれている(延命医療に生涯医療費の3割を注ぎ込んでいる例もあるという)。本書では医療費に焦点が当てられているが、[敬老の日なので、長生きについて考えて欲しい*1 ]を読むと、「長生き」とは単に長く生きることなのか? と疑問が湧き上がる。
*1:「敬老の日なので、長生きについて考えて欲しい」2018年09月17日 『はてな匿名ダイアリー』
https://anond.hatelabo.jp/20180917203123
生きるのがままならないなら、せめて、死ぬときくらいは選ばせてほしい。マスコミにより、「安楽死」が酷く叩かれた時期があったが、死を選ぶというよりも、自分で生きるのが困難になったなら―――その基準は人によるだろう―――むりやり生かすのではなく、自然に任せてほしい。生あるものはみな死ぬのに、死ぬのがこれほど困難な時代にいる。これが変わるために、社会保障制度を焼け野原にしなくてもいいのでは、と思えてくる。
9. 財政破綻という「奇貨」
ただし、完全なガラガラポンは難しいと考える。社会保障制度は、一部が崩れ、一部は形を変えたり輸血で生き残るのではないだろうか。
つまりこうだ、年金基金などプールから汲みだしているものは、積立金を取り崩して生き永らえるだろうが、診療報酬・介護報酬のようなサイクルの中で回しているものは、破綻は輸血停止を意味し、民間医療・介護事業体は壊死する。
そのため、完全な崩壊から大ナタを振るう形ではなく、弥縫的に(泥縄的に?)あっちを立てたり、こっちを変えたりツギハギしながら立ち上がろうとするだろう(前述の透析医療関連への保障は、最速で立法化が求められる)。
そして、本書で提言されている制度の再建が達成されるとするなら、いま多数を占めている高齢者がいなくなる2050年頃となるだろう。いまの高齢者を変えるのは難しいが、これから高齢者になる人たちは、いまの高齢者を見ている。そこから学ぶのか、真似るのか、選ぶことができる。
いつ起きるか・どう回避するかではなく、必ず起きる財政破綻を奇貨と居けるかどうかは、「いま」に懸かっている。
執筆: この記事はDainさんのブログ『わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる』からご寄稿いただきました。
「『財政破綻後』という奇貨居くべし」『わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる』
http://dain.cocolog-nifty.com/myblog/2018/10/post-7f7d.html
寄稿いただいた記事は2018年10月10日時点のものです。
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