DX推進が叫ばれる近年、顧客対応などを自動化するDX施策である「チャットボット」が注目を集めています。
前後編でお届けしている本記事の前編では、DX時代の今、チャットボットが注目を集める理由と特に中小企業が導入する際の課題について解説しました。
後編となる今回は、実際にチャットボットを導入する場合を想定し、チャットボットの活用シーンを業界別に7つ紹介します。
具体的な活用シーンをお読みいただき、実際に導入した際の効果をイメージしてみてください。
>>DX時代の今、注目を集めるチャットボット【前編/注目の理由と導入の課題】
DX時代のチャットボット業界別活用シーン7選
それでは、チャットボットの業界・業態別の活用シーンについてご紹介します。
なお、一部共通する部分もありますが、それはチャットボットの代表的かつ重要な施策の1つであるためです。そのため、繰り返しにはなりますがぜひ注意してお読みください。
小売業
慢性的な人手不足を緩和
小売業は、長時間立ち仕事が続くハードな業務内容である場合が多い業界です。一方で、比較的給与水準は低いこともあり、業界全体で見ると慢性的な人手不足に悩まされます。
店頭での顧客対応を重視しなければならない小売業。接客中に電話がなっても、スタッフの手が足りずに、対応できないことは少なくありません。
しかし、人手が足りずに電話に対応できなかった場合、商品の購入を希望していたユーザーを逃してしまうだけでなく、クレーム対応が遅れて店のイメージを下げてしまうリスクもあるのです。
こうした人手不足に起因する機会損失を最小限に抑えるためにも、チャットボットによる音声対応を導入することで、人手不足を補い、問い合わせ対応をすることが可能です。
また、スタッフが対応する必要があるクレームの場合は優先してベルを鳴らすことなどもできるため、トラブルには至急対応する体制を作ることも容易になるでしょう。
非対面型接客ツールとしての利用
チャットボットは、顧客からの質問に回答するなど、顧客対応の一部を担うことも可能です。
例えば、WEBサイトなどにチャットボットを導入して顧客が質問できるシステムを構築すれば、店舗を訪れるまでに疑問がある顧客は、来店までにある程度解決することが可能になり、こうしたシステムを導入すれば、店頭での接客対応の負担を軽減できます。
店頭でも商品や配送に関する簡単な疑問など、チャットボットの導入で顧客自身で解決できる内容もあるでしょう。
また、直接店員と会話を交わすのが苦手な顧客や、コロナ禍でできる限り店員との接触を避けたいという顧客のニーズにも応えることができます。
社内研修ツールとしての活用
チャットボットの活用方法は対顧客だけに限られません。例えば、業務の確認用にチャットボットを導入しておけば、いちいちマニュアルを開かずとも簡単にタスクを確認することができるようになります。
これを新人スタッフの研修ツールとして導入すれば、質問できる先輩スタッフが不在の場合でもチャットボットで確認することが可能です。
また、接客に対するOJT(On the Job Training=実践的職場内訓練)をチャットボットにシナリオとして設定しておくなど、社内研修ツールとしての利活用にも様々な方法が考えられるでしょう。
飲食業
予約対応やメニューカスタマイズに利用
飲食業界では大手チェーンだけに限らず、中小規模店でもオンラインでの予約受付が活用が広まってます。
飲食店向けの予約システムはグルメサイトなどが提供している場合もあり、店の検索から予約までスムーズに行えるなど、ユーザーにとっても利便性が高いサービスです。
予約システムにチャットボットを導入すれば、コースの内容やアレルギーへの対応などの細かいカスタマイズを、人の手を介さずにオンライン上で行うことができます。
また、誕生日のケーキの予約やプレートのメッセージの聞き取りなども、わざわざスタッフが予約時に時間を割いて確認することなく、スムーズに対応することが可能となるでしょう。
24時間対応で機会損失を防ぐ
店舗ごとに異なりますが、一般的に飲食店にはランチタイムやディナータイムにおけるピークタイムと言われる時間があります。
予約受付にかかる時間は数分程度かもしれませんが、このピークタイムに電話応対に人手を取られてしまうのは営業的にも厳しいものです。
しかし、昼休みや仕事終わりでお客さんが増えるピークタイムは、必然的に予約やその他の問い合わせ電話が集中する時間帯でもあります。
また、営業時間外ではなく仕込み時間中であっても、店舗の規模や人員によっては電話に出られない状況になる場合も多いでしょう。
チャットボットを利用すれば、こうした人手不足による取り逃しがなくなるだけでなく、店の営業時間外も含めて24時間の対応が可能となりますので、機会損失を最小限に抑えることができます。
動画と合わせてスタッフトレーニングに活用
チャットボットをスタッフトレーニングに活用するアイデアについては、小売業の事例でもすでに紹介しました。
更に飲食店の場合は、メニューのレシピや調理手順、あるいは接客の流れなどを動画で撮影しておき、スタッフが必要に応じてチャットボットで質問できる仕組みを構築することも可能です。
気軽に必要な動画を視聴できるよう環境を整えれば、スマートフォンなどを利用したトレーニングマニュアルとして応用することもできます。
この方法を導入すれば、新人期間の研修や新メニューの作成手順の共有などを効率的に行うことができるでしょう。
また、動画の後に理解度合いを訊ねる質問を設定しておけば、必要に応じて反復視聴や次の動画の視聴を指示することも可能であり、チャットボットをスタッフそれぞれに最適なマニュアルとして活用することもできるのです。
転職サービスなど人材業
PUSH配信の活用でリアルタイムな人材獲得
チャットボットによっては、PUSH(プッシュ)通知機能が装備されているものがあります。
この機能が装備されているチャットボットでは、ユーザーが通知をオンにする事によって、必要な情報をタイムリーに受け取ることが可能です。
受け取る情報は、あらかじめ登録したデータに基づいて行われるため、ピンポイントに必要な情報だけを受け取ることができ、ユーザーにとっても利便性が高い機能です。
この希望を転職サービスなどで利用すれば、ユーザーが登録した条件にマッチする求人情報が更新された際に、対象者に瞬時に情報提供する仕組みを構築できるでしょう。
あるいは、契約の更新時や転職シーズンにPUSH通知を送ることで、転職を検討している可能性のある潜在的なユーザーを掘り起こし、自社のサービスの利用を促すことも可能です。
このような方法を活用し、PUSH通知などでより効果的にユーザーの掘り起こしを行えば、転職に関心があるかわからない層まで含めてマスに対する広告を打つ必要性は下がりますので、利用方法によっては広告費の削減にも繋がる施策となります。
漠然とした転職への想いをCVへ誘導
転職サイトを利用するユーザーは、必ずしもすぐに転職をしようと決意している人ばかりとは限りません。
むしろ、新しいことに挑戦してみたいという漠然とした思いや、仕事に対する漠然とした不満を抱えている人が、自分の市場価値を知りたいと問い合わせをする場合も多いでしょう。
こうした潜在的な転職希望者に対して、定期的にチャットボットを通してヒアリングを行うことで、ユーザー自身の現状と将来を整理するサポートが可能になります。
漠然とした転職への想いを、明確な転職機会へとCV(コンバージョン)することにより、転職サービスの「見込み客」である漠然とした思いを持つユーザーの転職を後押しし、マネタイズへ落とし込む戦略の一環としても利用できます。
データ活用でマッチング精度を向上
チャットボットでの問い合わせの利点として、ユーザーが気軽に利用できるといった点が上げられます。
特にデジタルネイティブ世代(インターネットが普及した1990年代から2000年代に生まれた世代)などは、電話による問い合わせはハードルが高くチャットボットの方が使いやすいと感じる事も多いでしょう。
ユーザーの心理的なハードルを下げた形でコミュニケーションが取れるチャットボットを活用し、アンケートなどを行ってデータを蓄積・分析すれば、新商品開発や事業展開の検討する際の重要な判断材料となります。
観光業
人件費を削減しながら利益率の向上
初めての場所に訪れる時、人は多かれ少なかれ不安に思うものです。不安を解消するために、その場所の詳細な情報を手に入れたいと思うのは当然の心理でしょう。
しかし、こうした顧客からの問い合わせ対応は、観光業においては大きな負担となっています。
いくら顧客からの問い合わせとはいえ、電話やメールで個別に寄せられた質問に対応したところで、対応自体は直接売上に直結しません。
一方で、顧客の満足度を高めるためには、こうした問い合わせにスムーズに回答することが不可欠です。
チャットボットは、こうした観光業が抱えるジレンマを一気に解決できる可能性を秘めています。
実際のところ、顧客から個別に寄せられる問い合わせ内容は重複していることも多く、回答をテンプレ化できる質問も少なくありません。
こうした多くの顧客が気になる内容については、チャットボットで回答を自動化することで人件費を削減し、効率的な利益率の向上に繋がります。
チャットボットでは対応しきれない質問があった場合のみ、担当者が引き継ぐような体制に設定しておくことで、サポートの質を下げずに効率的な顧客対応が可能となります。
多言語化でインバウンド需要に対応
一時はコロナ禍で激減したとはいえ、観光業にとっては海外からのインバウンド需要はいまだに欠かすことのできない集客ポイントとして期待できます。
外国人観光客に対して、現場で日本語を交えて対応することも日本らしさを演出する1つのテクニックです。
とはいえ、トラブル時を始めとする問い合わせ対応の場合は、できる限りスムーズなコミュニケーションが望まれます。
そのような万が一の場合に備えることを考えると、可能な限り多言語に対応できる仕組みの構築が求められるでしょう。
多言語対応できるチャットボットでよくある質問をテンプレ化しておけば、簡易なコンシェルジュとして利用するなど、海外からの観光客のサポートを効率化することも期待できます。
海外からの問い合わせにも24時間体制で対応
外国人観光客が増えれば増えるほど、海外からの問い合わせ時における時差の影響による対応の遅れが問題になってきます。
インバウンド需要に答えていくためには、日本時間に限らず対応できる体制づくりが必要です。
とはいえ、24時間体制で英語を始めとする外国語での問い合わせに対応できる人材を確保することは、現実的ではありません。
このような場合でもチャットボットを利用した自動対応であれば、24時間体制で機械が対応してくれますので、予約の機会損失や顧客満足度の低下を避けることができます。
運輸物流業
運転中や休憩中でも自動対応
これまでは電話で受け付けていた荷物の配達に関するリクエスト(日時指定や再配達指定など)を、チャットボットに変更すれば、従業員の負担を圧倒的に減らせます。
配達員が電話で対応していた再配達については、運転中や休憩時間などに電話に出る必要もなくなるだけでなく、チャットボットならテキストとして記録にも残るため、聞き間違いなどによる人為的なミスを減らすことにも繋がるでしょう。
PUSH配信で不在配達のリスクを軽減
配達先に事前に配達時間をPUSH通知で知らせることで、配達時に顧客が不在であるリスクを減らすことができます。
万が一、顧客が配達を忘れて在宅していない時でも、配達前にPUSH通信を送ることで帰宅を促すこともできるでしょう。
また、顧客がすぐには帰宅できない場所にいる場合は、チャットボットの画面上で配達時間の変更(再配達依頼)を受け付けられますので、ドライバーの再配達に関する負担も軽減できるのです。
キャラクター利用で身近な親しみやすさを演出
チャットボットの中には、キャラクターを設定できるシステムなどもあります。
自社のマスコットとなるキャラクターをチャットボットに設定すれば、アイコンや会話の内容などをキャラクターに寄せて、親しみやすさを演出することができます。
そうした親しみやすさの演出によってチャットボットへの登録者数を増やせれば、将来的な顧客の新規獲得にも繋がるでしょう。
ECサイト
Web接客でCV率アップを狙う
ECサイトにおける接客性のポイントは、問い合わせに対していかにタイムリーかつ的確に回答できるかにかかっています。
ネット上の画像や説明文書でしか分からない商品やサービスを販売するためには、顧客が詳細を知りたいと考えた情報をすぐに提供できる環境整備が不可欠です。
そのためには、「よくある質問」や「Q&A」などのページを作っておく事も大切ですが、チャットボットをWEB接客の担当者として設置しておくことで、顧客のニーズを最大限拾い上げる事ができ、CV率アップにも繋がるでしょう。
24時間対応で顧客行動の多様化に対応
テレワークの広がりに伴い、人々の生活パターンも多様化しました。更に市場のグローバル化は急速に進んでおり、ECサイトに関する問い合わせが来る時間帯も早朝から深夜まで様々です。
これまでは、詳細な問い合わせに関しては電話対応スタッフを置くことが最善策でしたが、24時間対応とすればそれだけの人件費が発生します。
一方で、人件費を抑えようとすれば対応できる時間も限られてしまうというジレンマがありました。
しかし、チャットボットを導入すれば24時間の対応が可能となりますので、カスタマーサポートの費用を最低限に抑えつつ、多様化する顧客行動に応えることが可能となります。
ビッグデータアナリティクスとの連動で効率的なマーケティング
チャットボットを通じて得た顧客の問い合わせ内容は、特別な処理をせずともデータとして蓄積できます。
データの蓄積によってAIの回答精度は徐々に上がっていきますので、顧客の満足度はますます向上するでしょう。
更に、チャットボットによって蓄積されたビッグデータを分析して、効率的なマーケティング戦略を立てる際のヒントを得ることもできます。
この利点を活かすことができれば、単なる業務効率化や人件費の削減に留まらない、新たな価値を生み出すDX推進の一環としてチャットボットを活用できたといえるでしょう。
コールセンター
ヘルプデスクスタッフのメンタルケア
ヘルプデスクは、扱う商品による違いはあるものの、必然的にユーザーからのクレーム対応が業務の中心となります。
クレーム対応は、時間と手間がかかるだけでなく、対応するスタッフのメンタルも相当に削られます。
そうした対応の一部をチャットボットに変更することで、スタッフが対応する案件を絞ることができれば、業務効率が圧倒的に向上することはもちろん、スタッフのメンタルケアも同時に行えるでしょう。
社内ヘルプデスクで生産性を向上
企業の管理部やシステム開発部など、社内の従業員でもなかなか理解しづらい業務に関しての社内ヘルプデスクの役割をチャットボットに置き換えれば、簡単な問い合わせを自動化して業務の効率化が図れます。
それだけでなく、空いたリソースをより生産性のある仕事や人材育成などの、未来を創る業務へと振り替えていくこともできるのです。
365日24時間稼働で顧客満足度アップ
ここまで様々な事例でご紹介したように、チャットボット最大の利点はユーザーへの対応を365日24時間休みなく行える事です。
電話が繋がらないストレスは、誰しも一度は経験したことがあるでしょう。
電話が込み合っている際に待たされることや、夜中に不便を感じても問い合わせ時間外であるため対応してもらえないことへの不満は、商品やサービス自体に対するユーザーの不満を高めてしまう危険があります。
こうした対応の遅れによって生じるリスクを最小限に抑えられる点は、顧客満足度のアップに繋がり、企業イメージの底上げになることは間違いありません。
まとめ
DX時代の今、改めて注目を集めるチャットボットの効果について、前後編の2回に渡って解説してまいりました。
前編で解説したチャットボットの効果と導入に際しての課題、後編で紹介した業界別の活用シーンなどは、自社でチャットボットを導入する際のイメージづくりの参考となるはずです。
現状は主に大手企業でしか活用されていないチャットボットですが、DXを推進していく中での顧客満足度を上げる施策としては、非常に重要な施策の1つと言えるでしょう。
小規模事業者にとっては少々ハードルが高く思えるチャットボットですが、人も予算も限られる小規模事業者こそ、うまく活用すれば絶大な効果をもたらしてくれます。
自社の運用イメージや規模感、予算に合わせて適切なチャットサービスを選び、ぜひとも戦略的なDX推進施策の一助としてください。
The post DX時代の今、注目を集めるチャットボット【後編/業界別活用シーン7選】 first appeared on DXportal.