世の中のあらゆる業種・業態でDX(デジタルトランスフォーメーション/以下:DX)が進められています。
その中でも、特に効率的なユーザー対応を実現する施策として注目を集めているのがチャットボットです。
これまでも接客やカスタマーサポート、あるいは会社内の人事サポートなどあらゆる場面のユーザー対応を効率化するために活用されてきたチャットボットですが、近年はAIテクノロジーの進歩により、さらなる進化を見せ始めています。
そこで今回は、チャットボットの進化系となる「バーチャルなAI社員」を取り上げ、その活用方法について解説します。
接客のさらなる効率化をめざす経営者は、接客におけるDX推進施策の1つとして、チャットボットの運用を検討する参考としてください。
テクノロジーが生み出す新しい接客要員
店舗型ビジネスに代表される対面販売は、常に「人材不足」と「人件費の負担」という、2つの課題に直面しています。
人手不足を解消するには、給与を含めた待遇を上げることが効果的ですが、その分だけ人件費が重くのしかかってきます。
ECサイトなどの非対面販売の場合でも、リアル店舗の維持費などは削減できますが、顧客の満足度を高めるためにはカスタマーサポートの充実などは避けられません。
しかし、スムーズな顧客対応が行えるだけのオペレーターを配置するとなると人件費の負担が大きく膨らみ、生産性のある業務に回せるリソースが取れないといった悩みもあるでしょう。
つまり、形式はどうあれ販売をはじめとするカスタマサーサポートを行うには、「スムーズな顧客対応を実現するための人員確保」と「人件費の削減」という、相反する2つの命題を解決しなければなりません。
そのバランスを適切に維持するために、多くの経営者が頭を悩ませてきたのです。
こうした悩みを解消・改善し、ユーザー対応の効率化とそれに伴う他の業務への浮いたリソースの再分配を実現できるテクノロジーとして今注目を集めているのがチャットボットです。
DX時代に注目を集めるチャットボット接客
チャットボットとは、AI(人工知能)を活用した会話プログラムのことを指し、ユーザーからの問いかけに対して、あらかじめ設定された回答の中からAIが自動で最適なものを判断し、返す仕組みのデジタルツールです。
チャットボット自体は以前から存在していましたが、コロナ禍の影響による非対面販売の需要拡大やテレワークの加速を背景にDX推進が拡大する中、その施策の一部として大企業を中心にホームページなどへの導入が広まりました。
また、近年になってAIの性能自体も急速に進化を続けているため、チャットボットを利用する企業の数も大幅に増加したのです。
チャットボット接客の進化系バーチャル社員
チャットボットには、あらかじめ質問に対する回答を選択肢として設定しておく「シナリオ型」と、AIが質問と回答を学習し、統計的により正解に近い回答を導き出す「自動学習機能型」があります。
機械学習機能型のチャットボットは、AIが学習を続けて、AI自体が進化していくことにより、最終的には人間とやり取りをするのと同様の感覚が得られるようになることが期待できます。
更に、人と同様のやり取りができるチャットボットにキャラクター性を付与することで、より積極的なユーザーサポートのツールとして利用することもできるでしょう。
ソフトバンクロボティクス株式会社が発売する、「感情エンジン」と「クラウドAI」を搭載した感情認識ヒューマノイドロボット「Pepper(通称ペッパーくん)」は、その最たるものと言えます。
今後も更なる技術革新により、既存のチャットボットの域をはるかに凌駕したロボットテクノロジーが実現すれば、ユーザーコミュニケーションを人に代わって行えるようになるかもしれません。
また、物理的なロボットでなくとも、インターネット上にアバターなどでキャラクター性を付与した高性能なチャットボットを設定することで、これまででは考えられなかった企業の広告塔やサポート業務をこなす、まさにバーチャル(仮想的)な社員を誕生させることもできるようになるでしょう。
インターネット上でアバターなどを利用して、人間が顔出しをせずに接客をするシステムを「アバター店員」と呼んだりもしますが、バーチャルなAI社員(以下、区別のために「バーチャルなAI社員」と記載)はそれとは異なり、AIが自動で接客をするという全く新しい技術です。
バーチャルなAI社員が実現するDX例
バーチャルなAI社員は限定的にではありますが、既に一部では実用化されています。
ここでは、DXが実現した活躍するそんなバーチャルなAI社員の姿を、活用例と共にご紹介します。
24時間働く万能社員
AIチャットボットとキャラクター性が組み合わされたバーチャルなAI社員は、当然ながら24時間365日働くことができます。
しかも、その知識量(情報量)と作業性は、一般従業員の比ではありません。
高機能なバーチャル社員を導入・運用するためのコストは社員数人分に相当することも少なくありませんが、最終的な時間効率を考えればコストパフォーマンスが良い投資と言えるでしょう。
優秀な接客要員
人間が接客などのユーザー対応をオンラインで行う場合、納期や複雑なカスタマイズなどに関する質問に対しては、その都度マニュアルなどを参照しなければならず、回答までに時間がかかることも多いでしょう。
しかし、バーチャルなAI社員であればイチイチそんな作業工程を踏まずとも、即座に答えを導き出すことができます。
しかも、同時に複数人を相手にした個別の接客も可能です。
そういった観点から見ても、優秀な接客要員として活躍できるのがバーチャル社員なのです。
人材採用への貢献
バーチャルなAI社員が活躍するのは、顧客対応だけではありません。例えば、人材採用においてもその力を発揮します。
企業が優秀な人材を確保しようと考えた場合、履歴書の選定や面接といった採用業務が欠かせず、応募が集中する新規採用時期などは、採用担当者の負担は計りしれません。
しかし、バーチャルなAI社員を活用すれば、膨大な履歴書をあらかじめ定めた基準に従って仕分けたり、同時に多数の候補者と面接が行なえたりと、採用業務を飛躍的に効率化することができます。
これにより、採用担当者の業務負担を大幅に削減できるでしょう。
更に、候補者の適性診断なども即座に行えますし、候補者のデータはすべてデジタル処理され、合否の決定も基準に沿って自動で行うことができます。
採用担当者の好みや相性といった属人性も排除され、公平性が担保されるため候補者としても安心です。
バーチャルなAI社員を活用し、例えば1次・2次面接など候補者が多い段階はバーチャルなAI社員に肩代わりさせ、基準を満たした候補者の面接のみを採用担当者や役員などが行えば、効率的かつ迅速に採用を行うこともできるでしょう。
社員学習補助
企業の社員研修といえば、これまでは1ヶ所に対象者を集めて行う集団研修が当たり前でした。
しかし、コロナ禍を境にテレワークが大幅に拡大したことも手伝い、近年は研修自体をオンライン化する企業も増えてきました。
オンラインで社員研修を実施する場合、主にリアルタイムに講師と対象者が参加する形式と、あらかじめ撮影した動画などを利用した研修が考えられます。
オンラインである利便性は言うまでもありませんが、一方でどちらの形式で行う場合にもデメリットは存在します。
例えば、講師側としてはリアルタイムに受講者の反応を感じることが難しく、受講者側も質問などがしにくいでしょう。
講師1人対複数人で行うオンライン研修では、取りこぼしが生まれやすくなるのは否めませんし、動画研修ではそもそもリアルタイムで質問することができません。
しかし、バーチャルAIシステムを利用した社員を社員の学習補助として活用すれば、複数の受講生相手でも1対1で講習を行うことができます。
そのため、受講生それぞれの進度に沿った研修を行うことが可能となるのです。
また、受講者の質問にもその場でAIが対応できます。バーチャルなAI社員は、オンラインの社員研修のデメリットを克服し、より効果的な学びの場を提供できる可能性がある技術でもあるのです。
メンタルケア
バーチャルなAI社員は、従業員のメンタルケアに利用するのもおすすめです。
例えば、株式会社ティファナ・ドットコムが提供する「メンタルヘルスさくらさん」は、「みんなの健康管理室」監修のもと科学的なデータに基づき社員のメンタルヘルスを守るサービスです。
メンタルヘルスを健康に保つためには、メンタルに深刻な不調をきたす前段階で誰かに悩みを相談することが重要です。
しかし、メンタルに不調をきたしやすい社員に限って、「会社の上司や同僚に打ち明けられず、専門医の診療を受けるのも心理的なハードルが高い」といった場合も少なくありません。
こんな時、話しかけやすいキャラクター性を持ったバーチャルなAI社員を相手に相談ができる環境があれば、従業員も気軽に悩みを打ち明けやすいでしょう。
AIは相談の聞き役になるだけでなく、相談者の状況をメンタル不調者の傾向に沿って分析した上で、カウンセリングプランを提案したり、必要に応じて専門医の受診を進めたりと、相談者の心に寄り添ったメンタルケアを提供します。
しかも、365日24時間相談可能なため、悩んだら「すぐに、どこからでも」相談可能という点もバーチャルなAI社員を活用したメンタルケアの優れた点です。
まとめ~小規模事業者は簡易なチャットボットから始めよう
AIの急速な進化に伴って注目されている、チャットボットの進化版とも言える、キャラクター性を付与したバーチャルなAI社員の活用法について解説しました。
バーチャルなAI社員は単なるチャットボットと違い、顧客や従業員に対してより効率的かつ広範囲な対応を行うことが期待できます。
今後、技術の更なる発展と伴に、活躍の機会が広がっていくことは間違いないでしょう。
とはいえ、現時点でそうした大規模なツールやシステムを導入できるのは、どうしても予算に余裕があり、ITやDXに関する知識とスキルを持った一部の企業に限られてしまうかもしれません。
だからと言って、チャットボットの導入を諦めてしまう必要はありません。
予算や人材に限りのある小規模事業者の場合は、もう少しコンパクトにパッケージ化されたチャットボットの導入から始め、必要に応じて徐々に利用の幅を広げていく方法もあります。
予算的にもスキル的にも手に出しやすいチャットボットをまずは導入し、実際にその利便性を体験してみることで、こうした技術をより有効に活用する方法が見つかるはずです。
貴社の事業規模や運用方法に合わせた適切なチャットボット選びを行い、接客を始めとするユーザー対応を最大限効率化してください。
The post 【接客DXの進化系】AIチャットボット<バーチャルなAI社員>は接客の未来を変えるか? first appeared on DXportal.