VRゲームをプレイしていて乗り物酔いのような吐き気や気持ち悪さに襲われてしまうことがあります。
いわゆる「VR酔い」です。
楽しいはずのVR体験も気分が悪くなってしまえば台無しです。
この記事では、快適なVR体験を実現するため、VR酔いのメカニズムおよび対策などをまとめました。
VR酔いの原因
VR酔いを引き起こす最大の要因は「脳と身体の認識のズレ」とされています。
これは三半規管の平衡感覚と目から入る視覚情報との間の不一致を指し、車や船などの乗り物酔いが起こるのと同じ原理です。
例えば、ジェットコースターのVRコンテンツを体験している場合を考えてみましょう。
目の前では猛スピードで動くコースターに合わせて景色がどんどん変わるため、目から見た情報では
”今ものすごいスピードで動いている”
と脳は認識します。
ところが、実際には椅子に座ったまま動かないので、身体の認識としては
”じっと座っている”
です。
この認識のズレによって脳が混乱してしまい、自律神経の働きが乱れてめまいや気分の悪さなど酔いの症状を感じてしまいます。
VR酔いになりやすい人
では、VR酔いと乗り物酔いのメカニズムが似ているというのであれば、乗り物酔いしやすい人がいるようにVR酔いしやすい人というのもあるのではないでしょうか?
このテーマについては日本バーチャルリアリティ学会など国内外で研究が行われ、やはりVR酔いの起こりやすさにも個人差があるということがわかっています。
研究によると
- ・2歳から12歳の間で最も酔いやすく、その後徐々に酔いにくくなる
- ・女性は男性よりもVR酔いになりやすい
- ・健康状態が悪い人はVR酔いになりやすい
といった結果が出ているようです。
VR酔いになりやすいコンテンツ
個人差のほかにVR酔いの引き起こしやすいVRコンテンツもあります。
VR酔いの訴えが多いのは視界の動きが激しいVRコンテンツです。
具体的には例をあげると、
『サイレントVR』
『ソード・オブ・ガルガンチュア』
などのようなアクションゲームや『エピック・ローラーコースター』のようなスピードの速い乗り物ゲームが挙げられます。
また、通常のゲームでも酔う人が多いFPSゲームもVR酔いしやすいゲームジャンルです。
これはキャラクターと実際の体格に差があるために脳が混乱しやすいためと言われています。
近年では
『ファイアウォール・ゼロ・アワー』
『オンワード』
『ポピュレーション:ワン』
などVRでもFPSゲームが増えていますが、VRに慣れていても酔って気分が悪くなるという人が多いので気をつけましょう。
もう一つ酔いやすいと言われているのが移動の自由度が高いゲームです。
VR空間では歩き回っているのに自分自身は椅子に座ったままという認識のズレが酔いを引き起こす典型的なパターンといえます。
例えば、
『スカイリムVR』
『ファーポイント』
などはキャラクターの移動時に酔ってしまったというレビューが多くみられました。
この点については映像作品でも同じです。
ドローン視点での空撮動画や街歩き動画など視点が動き回っている動画コンテンツを視聴していると気分の悪さを感じてしまう場合があるので注意しましょう。
VR酔い軽減技術も開発されている
VR酔いの問題はVRの普及にとって大きな障害となるために、VR開発を行う各企業はVR酔いを軽減するための技術に熱心に取り組んでいます。
VRゴーグルの進化によりVR酔いも軽減へ
特に熱心なのはHTCやOculusをはじめとするVRゴーグルのメーカーです。
VR酔いのないVRゴーグルの実現のために
- ・高解像度
- ・広い視野角
- ・高いリフレッシュレート
など自然に近い見え方になるような技術開発に取り組んでいます。
例えば、OculusQuestと次世代機OculusQuest2とを比較すると、視野角はともに110度ですが、
解像度は1,600×1,440から1832×1920に
リフレッシュレートは72Hzから90Hz
とグラフィック性能が大きく進化しています。
VR酔いしないコンテンツの開発
VRゴーグルメーカーと並んでVR酔い軽減に注力しているのがコンテンツ開発者です。
VRコンテンツプラットフォームを運営するOculusやSIEは開発者向けにVR酔い予防のためのコンテンツ開発ガイドラインを発表しています。
両者ともに強調しているのが脳と身体の認識のタイムラグの原因となる描画遅延です。
描画遅延を避けるために90Hz以上のフレームレートを維持することなどが求められています。
コントローラーなど周辺機器でもVR酔い対策
画像:Yaw社が開発したYaw2
そのほかに重要性が高まっているのがVR酔いを軽減するための周辺機器の開発です。
例えば、
- ・Omni社が開発した「Virtuix Omni」
- ・KATVR社の「KATWALK C」
はプレートやルームランナーの上を動き回ることでVR空間での移動ができるコントローラとなっています。
実際に移動している感覚を得ることで高い没入感を得られることに加え、身体と脳の移動の認識のズレを最小限にしてVR酔いの予防にもつなげることが可能です。
似たようなものにハンガリーのYaw社が開発した「Yaw2」が挙げられます。
これはVR空間での動きに合わせて椅子が傾くというVR専用チェアです。
この「Yaw2」も没入感を高めるだけでなく、VR空間での体の傾きを再現することでVR酔いのリスクを軽減することが期待されています。
このほかVRゴーグルに付属させるVR酔い軽減デバイス「Seenetic VR」が、乗り物酔い対策メガネで知られるフランスのBording Ring社から開発されました。
Seenetic VRはVRゴーグルのディスプレイのすぐ横に取り付け、周辺視野に光信号を送ることで感覚を同期させるシステムです。
VR酔いの対策
以上のようにVR酔いを予防・軽減するための技術の開発は様々な面で進んでいますが、自分たちでもできる対策もあります。
まず1番はVRに慣れることです。
VRを数多く体験すれば酔わないような立ち回り方を知ることができ、酔いを感じにくくなります。
とはいえ慣れるまでに時間がかかるので、慣れること以外の対策ももちろんあります。
ここで紹介するのは
- ・激しく動かない
- ・酔い止めを飲む
- ・疲れたらやめる
という3つの方法です。
1.激しく動かない
「激しく動かない」という方法には2つの意味があります。
まずは、「頭を激しく動かさない」という意味です
頭を急激に動かすと画面の変化と頭の動きとの間にタイムラグが生じます。
このタイムラグはVR酔いの原因となるので、できるだけ視線を画面の中央に据えたままにするようにしましょう。
もう一つの意味としては
「画面の動きが激しいコンテンツを避ける」
というものです。
画面が激しく動けば動くほど脳の認識と体の認識のズレも大きくなります。
VR初心者のうちは動きが緩やかなコンテンツや視点移動が少ないコンテンツを中心に体験するのがおすすめです。
2.酔い止めを飲む
VR酔いが起こるメカニズムは乗り物酔いと非常に似通っており、VR酔いにも酔い止めの薬は効果的です。
とはいえ根本的な対策というわけではなく、VRに慣れるまでの裏技的な処置と考える方がよいでしょう。
また、VR酔いの対策として吐き気止めを利用するのは注意が必要です。
酔い止めは脳の嘔吐中枢と興奮した自律神経に作用するのに対し、吐き気止めは消化管に作用します。
そのため、脳の混乱によって引き起こされるVR酔いには吐き気止めは効果を発揮しません。
3.疲れたらやめる
長時間VRを利用していると疲労が溜まり感覚のズレが生じやすくなってしまいます。
その分、VR酔いの危険性が高くなりがちです。
疲れを感じたらVRの利用をやめるようにしましょう。
また、VRに慣れていないうちは長時間にわたるコンテンツではなく、数分程度の短いコンテンツ体験するようにするのもおすすめです。
もしVR酔いになったときは?
とはいえ、事前にどんなに対策していてもVR酔いになることはあります。
では、実際にVR酔いになってしまった場合はどうすれば良いのでしょうか?
3つの対処法をご紹介します。
1.すぐにVRをやめて目を休ませる
混乱した脳が落ち着きを取り戻すために時間が必要になります。
そのため、VR酔いしてしまったときにはVRをやめて休息を取ることが最も効果的です。
気分の悪さを感じたらすぐにVRゴーグルを外してゆっくりと目を休めましょう。
2.遠くの景色を見る
乗り物酔いの場合の遠くの景色を見るという対処法は、VR酔いにも効果があるとされています。
動きは激しい画面を見続けることで自律神経が乱れてしまうのがVR酔いの原因です。
そこで、遠くの空など変化のない景色をじっと見続けることで混乱してしまった自律神経を徐々に落ち着かせましょう。
動きのない風景を見ることで不快感の軽減にもつながります。
3.氷水を飲む
VR酔いを起こしたら、うまく働いていない自律神経の状態を元に戻すのも良い方法です。
乗り物酔いのときに氷水を飲んだり氷を口に含むと良いと聞いたことはないでしょうか?
実はこの方法はVR酔いでも効果的な方法といわれています。
というのも、氷の冷たい刺激が自律神経の働きを整えてくれるからです。
すぐにできる対処法として知っておくと良いでしょう。
まとめ
だんだんとVRが普及するにつれてVRの楽しさや魅力に気づく人が増えています。
その分、VR酔いの不快感というマイナス面も体験することになりがちです。
そこでVR酔い軽減のためにハードとソフトの両面から技術開発が進んでいます。
ただ、技術の進歩を待つ前に自分でできる簡単な対策や対処法もあるので、まずはこれらを頭に入れておくと良いでしょう。
「酔っても大丈夫」とリラックスすることも対策になります。
体調を整えて快適なVRライフをぜひ楽しんでください。
Copyright ©2021 VR Inside All Rights Reserved.