日本でもハロウィンがイベントとして認知されるようになってきており、地域で仮装パレードが行われたり商業施設でハロウィンに合わせた飾り付けや特に関連のない便乗セールが実施されたりといった例も増えている。Oculus StoreやSteamなどでもハロウィンセールが実施されていたが、非ホラータイトルも多数値引きの対象となっていた。
こうしたイベントではかわいらしくデフォルメされたカボチャやコウモリ、あるいはゴーストやゾンビといったキャラクターが使われることが多いが、本来このイベントの主役は不気味で恐ろしいものたちだ。ホラーなコンテンツを味わうのに適した性質を持つVRと、ハロウィンは好相性である。
セカンドライフのLinden Labが運営するVRプラットフォームSansarでは、Sansarユーザが作成したホラーコンテンツのコンペティションが実施されていた。Linden Labはこのコンペティションの勝者と、いくつかの注目すべきVRコンテンツを紹介している。
Sansar
クリエイターのためのプラットフォーム
Sansarは、Linden Labが運営するVRプラットフォームだ。同社が手がけるセカンドライフと同様にユーザ同士が仮想世界を共有し、交流するというソーシャル要素があるだけでなく、ユーザ自身がVRの世界を創造できることが特徴となっている。
Sansarは、運営側が作ったコンテンツをプレイヤーが遊ぶというオンラインゲームのような一方通行の構造を持たない。一人のユーザが勝手にVRコンテンツを追加し、別のユーザがそれをダウンロードするという新たな遊び方が可能だ。
ユーザの作ったコンテンツ
ユーザによって追加可能なコンテンツは多岐に渡る。
まず思いつくのは、ユーザ同士がコミュニケーションを取るときに使えるモーションや、アバターをカスタマイズできるアクセサリだ。こうしたアイテムは無料公開するだけでなく、Sansar Storeで販売することも可能である。
Sansar内で通用する仮装通貨ではなくリアルマネーでの売買ができるため、このVRアプリを通して収入を得ることさえも可能となっている。
アプリ内で作れるのは、アバターをカスタマイズする小物だけではない。より大規模なシーン(3Dオブジェクトやその動作を組み合わせて作ったVRコンテンツ)をやり取りすることができるため、Sansarの中で別のVRゲームを組み立てて販売することができる。
新しいコンテンツを一から自分で作ることもできるが、再利用が許可されているものであればストアで購入したキャラクターや効果音といった素材を組み合わせてコンテンツを作るのも良いだろう。
質の高いコンテンツ
ユーザが制作した非公式コンテンツとなるとクオリティに疑問を感じるかもしれないが、Sansarには多くの高品質なVRコンテンツが揃っている。優秀なスタッフを集め、多額の資金を費やして開発された大型タイトルと比べても見劣りしないようなものもあるほどだ。
Sansarは現在クリエイターベータ段階にあり、特にモチベーションの高いクリエイターが参加していることがその理由だろう。しかし、VRコンテンツの制作に関する知識や技術を保有するクリエイターは多くないはずだ。
Linden LabはユーザがSansarでVRコンテンツを開発するときに利用できる豊富なツールや素材を提供している。何もないところからVRコンテンツを作るクリエイターは3DCGや立体音響に関して学びながらコンテンツを作っていくことになるが、Sansarでは要求される知識が少ないのだ。
コンテンツの豊富さには、ツールや素材の充実によってクリエイターの制作意欲を作品に繋げられる環境が整えられていることも関係していそうだ。
大規模VRコンテンツの欠点
高品質で大ボリュームなVRコンテンツはより良いVR体験をもたらしてくれるが、引き換えに犠牲になるものもある。
美しい映像を実現するためには多くのメモリ容量を必要とし、GPUへの負荷も高くなってしまう。コンテンツの再生に高性能なパソコンが必要になることに加え、ダウンロードや読み込みの時間が長くなってしまうのは仕方がない。
低スペックマシン用の品質設定が可能ならばコンテンツを動かすことは可能だが、クリエイターが意図した本来の品質で作品を楽しむことができなくなってしまう。
また、コンテンツの価格が高くなりがちなのも難点だ。大ボリュームのVRゲームには、それに応じた値札が付けられる。
Sansarで一番怖いコンテンツ
Linden Labは、”Sansar Scariest”コンペティションの勝者と、複数の優秀作品を発表している。
The Diner
コンペティションの勝者となったのは、C3rb3rusが制作した『The Diner』だ。
日本ではあまり馴染みのないスタイルだが、車に乗ったまま巨大スクリーンで映画が見られるドライブイン形式の映画館がリアルに再現されている。この昔ながらの舞台は暗く、不気味な出会いを演出するための背景としてピッタリだ。
Sansarには多くの高品質なVRコンテンツが公開されているが、その中でも特に光の演出やオブジェクトの質感にこだわった作品と言えるだろう。映像がリアルなだけに、恐怖も増すことになる。
Paranormal Investigation
The Dinerに次ぐ注目作として取り上げられたのは、Abramelin Wolfeの『Paranormal Investigation』だ。
プレイヤーは超常現象を調査するゴーストキャッチャーの一員として、ホラーの定番である不気味な洋館の探索を楽しむことができる。屋敷には多くの部屋があり、ゴーストもたくさん住んでいるので様々な出会いがあるだろう。
テーマに新規性こそないが、ビジュアル・サウンドともにレベルが高い。本が書棚から飛び出して自分の周囲を飛び回るという物語の中に入り込んだような体験が可能なコンテンツだ。有料のコンテンツに匹敵するとも評されている。
Stasis Interrupted チャプター1
上位2作の他にも、複数の注目作品がピックアップされている。いずれも優れた点のある作品なので、Sansarを利用できる環境にあるならば体験してみる価値はあるだろう。クリエイターとしてSansarでVRコンテンツを制作していきたいなら、参考になるところもあるかもしれない。
Tyler Scarboroughの『Stasis Interrupted チャプター1』では、トラブルの起きた宇宙船が舞台となる。何らかの緊急事態に直面した宇宙船の中で、脱出ポッドを目指さなくてはならない。さもなくば、餌食になるだけだ。
VRというメディアを使うことで、閉鎖された船内の恐怖を表現した作品だ。他の作品も同様ではあるが、全体的に画面が暗いので迷子にならないようにするのが難しい。
Miner Difficulties
Through The WaterfallのJasmineとGalenによって作られた『Miner Difficulties』も、狭くて暗い場所をVRで再現したコンテンツだ。
しかし、この作品はVR空間をリアルに作ることだけにこだわっているわけではない。VRを使ったストーリーテリングの実験的作品と見ることもできるだろう。作中では、ある方法によってユーザを物語のゴールへと導く工夫がなされている。
Joyride
他の作品がリアルな世界で起きる恐怖を描いているのと比べると、Alexの『Joyride』は幻想的な作品だ。
暗い場所で迷うようなコンテンツではなく、道を進んでいくことでハロウィンに適した旅ができるものとなっている。次々と変わっていく風景を純粋に楽しめるコンテンツだ。
これからのSansar
Sansarは、今年の7月にクリエイターベータが開始したプラットフォームだ。それからの5ヶ月で、コンソールゲームと並べられるほどのVRコンテンツが作られるようになっている。
後発ながら資金力と既存ユーザが強みの『Facebook Spaces』、マイクロソフトによって救われた『Altspace』といったソーシャルVRプラットフォームのライバルも存在するが、Sansarはそれらと少し異なる特徴を持っている。クリエイターとして参加してくれるユーザに依存している部分はあるが、上手く収益化できれば他のサービスとも共存していけるのではないだろうか。
Linden LabのBjorn Laurinは、こうしたライバルの存在もVR業界全体にとっての後押しになると考えているようだ。
また、販売が開始されつつあるWindows Mixed Realityヘッドセットについてもテストを行っているという。将来的に、MRヘッドセットでもSansarを利用できるようにすることを目指している。
参照元サイト:VR Scout
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