NVIDIAは、同社公式ブログで、同社のSIGGRAPH 2017出品作品を解説した。
多方面で活躍するNVIDIAのGPU
世界最大のメディアアートとテクノロジーの祭典SIGGRAPH 2017に、コンピューター・グラフィック(CG)処理を実行するGPUの製造を基幹業務としたNVIDIA社が一台のロボットを出品した。
同イベントにロボットを出品したのが例えばロボット掃除機ルンバを製造するiRobot社ならば、とくに疑問はわかないだろう。しかし、NVIDIA社とロボットのつながりはiRobot社とルンバほどには分かり易くはない。
実のところ、NVIDIA社が製造しているGPUは、VRをはじめとしたCG以外の分野にも応用されていることを知ると、同社とロボットの関係も見えてくる。
GPUが活用されている分野には、CG以外にはAI、ロボット、そしてブロックチェーンがある。
今日のAIは大量のデータを学習することを通じて、囲碁の世界チャンピオンに勝利するといった偉業を成し遂げている。このAIの学習には、大量のデータから有益なパターンを抽出する高負荷な処理が発生する。この高負荷なAI学習(とくにディープ・ラーニングと言われる学習処理)にGPUが使われているのだ。
AIに囲碁の打ち手を発見するようなデータ処理だけで目的を達成できる仕事をさせるためには、データ処理を実行するPCがあれば事足りる。しかし、自動車工場で部品を組み立てるようなリアルなモノとのインタラクションが含まれる仕事をAIに実行させるためには、AIの手足となるデバイスが必要となる。それがロボットだ。ヒトの代わりに仕事をこなしつつロボットの発展の裏には、GPUで演算するAIの存在があるのだ。
そして、近年注目を集めているビットコインをはじめとする仮想通貨の存続にもGPUが関わっている。仮想通貨の価値は、この貨幣を使った取引の改ざんを困難にするマイニングという処理を実行することで維持されている。このマイニングでは、実はコンピュータに高負荷の処理を実行させているのだ。そして、このマイニングにもGPUが使われている。こうした事情から、最近の仮想通貨の高騰をうけてマイニングの需要が高くなったために、GPUが品薄になったことを本メディア2017年7月11日付の記事で報じた。
NVIDIA社は少し前に「謎の企業」としてネットをにぎわせたこともあったが、実は今日の最先端テクノロジーを支えている重要企業なのだ。
NVIDIAが取り組む先進的プロジェクト
以上のような多方面に影響力がある同社は、GPUの製造とはべつに以下のような先進的なプロジェクトに取り組んでいる。
Project Holodeck
「Project Holodeck」とは、高精細なVR空間を使って、リアルな空間で実行されている仕事を代替しようという試みである。簡単に言えば、今までリアルな世界でしていた仕事をバーチャル空間でやっていこう、ということだ。このプロジェクトに関しては、本メディア2017年5月11日付の記事で紹介した。
VR空間で仕事するメリットは、いつくか挙げることができる。そうしたメリットには、物理的に離れたヒトどうしの共同作業が可能となる、モノの設計のような業務においては、リアルなモデルが不要となるので工費を削減できる、といったことがあろう。
以上のようなプロジェクトは、VR空間が不可欠なのでNVIDIA社との関連性は分かり易いだろう。ちなみにプロジェクト名にある「Holodeck」という単語は、海外SFドラマ「スタートレック」に登場するVR環境「ホロデッキ」に由来していると思われる。
NVIDIA Isaac
「NVIDIA Isaac」とは、AIを実装したロボットにリアルな世界における何らかの行為を学習させ、ヒトと同じように実行させることを目指すプロジェクトである。先述した通り、AIとロボットの背後にはGPUの存在が不可欠なので、同社はロボットについても研究しているのだ。
同プロジェクトについては、ゲーム開発者の世界的カンファレンスGDC 2017においてプレゼンがあり、そのプレゼンでは実際にミニホッケーでゴールを決めたり、ゴルフのティーパットを学習するロボットのデモ動画が公開された。
このプロジェクトの名称に使われている「Isaac(イサク)」とは、旧約聖書に登場するアブラハムの子イサクだと思われる。イサクは、アブラハムが自らの信仰心を神に証明するために、生贄に捧げられたが、屠られる直前に神に止められ命が救われた。ロボット開発のプロジェクト名に「イサク」が使われるているのは、ロボットを生贄に捧げて、ヒトを労働から解放するという思いが込められているのだろうか。
VR空間がロボットの学び舎となる
SIGGRAPH 2017でNVIDIAのブームに出品された一台のロボットは、以上のふたつのプロジェクトの架け橋となる役目を担っていた。
ブースでは、来訪者はIsaacと名付けられたロボットとドミノ並べをプレイすることになる。ドミノを置く判断は、当然ながらロボットのAIが行っている。つぎに、来訪者はVRヘッドセットを装着するようにすすめられる。
VRヘッドセットを装着すると、VR空間にもドミノ並べをプレイする環境が用意され、バーチャルなIsaacもいる。このことが意味するのは、来訪者はVR空間内でもリアルな世界と同じようにIsaacとドミノ並べをプレイできる、ということだ。
それにしても、AIを実装したロボットとリアルとバーチャルの両方でドミノ並べができるデモを出品した同社の意図はどこにあるのか?公式ブログでは、その意図を以下のように説明している。
一度Isaacをバーチャルなラボで訓練すれば、Isaacが獲得したスキルはリアルとバーチャルというふたつの領域の垣根を越えて、この両方の世界で活用できるようになります。
「Project Holodeck」で研究しているようなリアルなVR空間で働くことができ、さらにはヒトと共同作業ができるロボットを開発すれば、ロボット研究者はより安全により早く、そしてより安くロボットを訓練して、リアルな世界に働かせることができるようになるのです。
同社が目指しているのは、高精細なVR空間でロボットに仕事を覚えさせ、リアルな世界に投入するなのだ。
このアイデアを実現するためには、リアルなVR空間と高性能なロボット、そしてロボットをリアルとバーチャルの両方で制御できることが求められる。こうした要件を満たせるのは、VR、AI、ロボットのすべてにおいて要となっているGPUを開発しているNVIDIAをおいて他にないだろう。
NVIDIA社を大手PCパーツメーカーと認識するのは、もはや明らかな誤解である。同社は、いわゆる「シンギュラリティ」に向かっているかも知れないテクノロジーの進化を担っている総合的なテクノロジー企業なのだ。
SIGGRAPH 2017出品作品を解説したNVIDIA公式ブログ記事
https://blogs.nvidia.com/blog/2017/07/31/dominoes-siggraph-isaac-vr-ai/
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