Oculus RiftやHTC ViveといったメジャーなVRヘッドセットを開発する大手メーカーは世界展開を行っているが、中でも特に力を入れている国が存在する。
Oculusであれば韓国だ。韓国はOculusのパートナーでGear VRを開発するサムスンの本拠地であり、政府もVRやARに力を入れてIT強国を目指している。4月には、Facebookと政府が協力してスタートアップ企業の支援を行うことも発表された。
HTCが力を入れているのは、中国だ。HTCは中国でデベロッパー向けのVRカンファレンスを実施したり、教育機関向けのViveパッケージを販売したりと普及に向けて活動を続けている。
そんな中国におけるVRの現状と将来について、eMarketerが5つの考察ポイントを挙げている。考察の元となるレポートを発表したのは、コンサルティンググループのiResearchとVR市場の調査会社Grennlight Insightsだ。
中国におけるVRの未来
HTCは、中国で学生・生徒の教育にViveを利用することを提案している。2017年中に中国で数百~数千の学校と連携関係を結び、Viveを利用してもらうことを目指しているのだ。
HTCによる働きかけもあってか、中国のVR市場は急速に拡大を続けると予測されている。
市場規模の急速な拡大
2016年から2021年にかけて、中国VR市場からの利益は爆発的に拡大するとみられている。
2016年には582.6億円だが、2021年の予測は1.3兆円となっている。この5年間で20倍以上に成長する計算だ。
この収益には、VRヘッドセットの売上はもちろんVRコンテンツの売上、VRアーケードの利用料、VRカメラやハプティックデバイスといったVR関連アクセサリの売上も含まれている。
世界的にもVR市場が拡大するという予言が出されているが、中国は特に大きな伸びが見込まれている市場だ。
コンシューマ向けVRコンテンツの存在感が高まる
これまで、VR市場における売上の大部分を占めていたのがVRヘッドセット本体の売上だ。
2016年の中国ではVR市場での売上全体の59.2%がヘッドセットによるもので、コンシューマ向けのコンテンツからの収益は7.7%と小さかった。
しかし、VRヘッドセットを所有するユーザの増加やフルプライスで楽しめるVRコンテンツの増加によって仕込みは完了しつつある。
2021年には、VR市場の売上高の35.3%がコンシューマ向けコンテンツによるものになると予測されている。
その中でも最大の規模となるのがVRゲーム(1,624億円)だ。VRゲームの売上だけでも、2016年のVR市場全体の3倍近い規模である。
次いでVR映画(1,479億円)、さらにVR映像のストリーミング(752億円)などが続く。
企業でのVR活用が増加
当メディアでも、企業が従業員の研修や各種シミュレーションにVRを活用する事例を多数紹介してきた。企業におけるVRの活用はコストの削減・業務効率の向上をもたらすため、今後さらに増えるとみられる。
2016年の中国VR市場で、エンタープライズソリューションの売上(5,800万円)は全体の0.1%でしかない。しかし、2021年には1,479億円(11.1%を占める)まで成長することが予測されている。
まだ小さな分野ではあるが、最も成長スピードが速い分野の1つでもある。
中国HTCの代表、Alvin GraylinはVRがあらゆる産業分野で効率を高めることになると語った。
「VRは最終的に、私たちの生活の中で見られる全ての『スクリーン』を置き換える技術になるでしょう。そして、全ての産業の効率を向上させます。
おそらく世界中のほとんどのビジネスをリモートで可能なものにして、企業が人々の才能を有効に活用できるようにする技術となるでしょう」
遅れている分野
急速な成長が見込まれるVR市場だが、全ての分野ですぐにVRが主流になるというわけではない。
短期的には利用が拡大しないと考えられている分野もある。
マーケティングでの成長は遅い
VR映像やVRゲームを使った広告は消費者の印象に残りやすく、マーケティングの新しいツールとしてVRを使うのは効果的かもしれない。だが、それは多くの消費者がVRデバイスを所有するようになってからの話だ。
VRデバイスの所有者が少数派である限り、VRを使ったマーケティングがメジャーなものになることはないだろう。
2016年に中国でのVRマーケティングに使われた資金は5億円で、2021年には334億円に成長するとされている。成長率は高いが、2021年に中国のデジタル広告に使われる費用が10.8兆円と予測されていることを考えればまだ小さい。
VRを使った広告が大規模に展開されるのは、他の分野に比べて遅くなるとみられている。
低コストヘッドセットの人気
VRヘッドセットと一口に言っても、PCベースのハイエンドVRヘッドセットからスマートフォンとワンコインのゴーグルで完結する安価なものまで幅広い。
2016年の中国では963万台のVRデバイスが出荷されたが、その大部分がGoogle Cardboardのような安価なデバイスのようだ。VR技術自体が完成されたものではないので、価格の安さが消費者にとって大きな魅力となっている。
しかし、2021年までにはGear VRのような専用のモバイルVRヘッドセットがCardboardデバイスの出荷数を上回るとみられている。さらに、VRデバイス全体の出荷数は1億525万台まで成長する見込みだ。
政府が積極的にVRを採用している印象のある中国だが、売上で見ると中心となっているのはまだ個人の消費者によるVRデバイス本体の購入のようだ。しかし、デバイス本体の売上はデバイスが普及すれば頭打ちになる。
今後5年から10年をかけて、コンシューマ向けコンテンツやエンタープライズソリューションへとVR市場の中心は移っていく。この移行が上手く進めば、いっときのブームではなく身近にある技術としてVRが浸透していくだろう。
参照元サイト名:eMarketer
URL:https://www.emarketer.com/Article/Five-Insights-Chinas-Virtual-Reality-Sector/1016179
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